神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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戦いばかりが神機使いの日常ではない。

今日はそんなちょっとした一時を紹介しよう……。


第4部捕喰200 ~極東支部のとある一時~3

《コウタ君の憂鬱……?》

 

 

「――ハルオミさん、世の中不公平だと思いませんか?」

「……どうした? いきなり」

 

 ラウンジ内のとある席にて、凄まじく陰気なオーラを放つ者が居た。

 名を藤木コウタ、極東支部第一部隊の隊長であり明るく気さくな性格と豊富な戦闘経験による確かな実力を持つ神機使いである。

 しかし、今の彼は普段のちょっと鬱陶しいぐらいの明るさは微塵も見られず、近づくだけで気分が滅入るようなオーラを醸し出していた。

 そんな彼と向かい合うように座りながらウィスキーを嗜んでいるのは、極東支部一のエロバカ……もとい、ムーブメントを探す男である真壁ハルオミであった。

 コウタの陰湿なオーラを真っ向から受けても彼はいつもの飄々とした態度を崩さず、気さくな先輩として彼の態度の理由を訊いてみる事に。

 

「この極東支部……カップル率高すぎるんですよ!!」

 

 バンッとテーブルを叩きながら激昂するコウタ。

 ……実にくだらない悩みである、とは言ってあげないでいただきたい。

 彼の言う通り、確かにこの極東の神機使いもしくは職員同士のカップル率は高いのだから。

 

「第一部隊でもローザとエリックさんが所構わずイチャイチャするし……あいつら、任務中に次のデートの話をしてるんですよ!?」

「ほうほう、エリックのヤツ……弾けたんだな」

 

 厨二病という少々恥ずかしい病を患わせていたエリックだが、根は生真面目なので任務中にそのような話をする事はなかった。

 前にもローザが次のデートは何処に行こうかというのを同じ任務に赴いていた際に聞いたが、その時は赤面しながらやんわりと任務に集中するようにと釘を刺していたというのに……。

 一皮剥けたなエリック、よくわからん感動に浸っているハルオミをよそに、コウタは尚も自身の嫉妬もとい鬱憤を晴らそうと口を開く。

 

「あのソーマだって、キュウビを追いかけに極東を離れる前まではシオに対してツンデレな態度を見せていたっていうのに、あいつ等研究室でキスをかましてたんスよ!?」

「ほほぅ、あのソーマ博士がねえ……」

 

 想像して、ハルオミはおもわず噴き出してしまった。

 というかこの目で見たくなった、今度カメラを用意してからソーマ達をこっそり観察してみようと彼はくだらない野望を心に秘める。

 

「なんか最近ギルのヤツもリッカといい感じになってるし、“あの”ヒバリちゃんだって最近じゃタツミさんと一緒に食事したって話じゃないですか!!」

「そうかそうか……タツミのヤツ、漸く一歩前進したようだなあ……」

 

 しみじみと呟くハルオミ、おもわず涙腺が緩んでしまいそうになった。

 だってそうだろう? タツミはずっとずっとヒバリに対してアプローチを仕掛けては玉砕され、めげずにアプローチしては玉砕され……一体今まで、何度悲しみの渦に沈んでいったのかわからない。

 そんな彼のしつこさ……もとい誠意が少しだけ実ったのだ、密かに応援していたハルオミが感極まるのはある意味当然と言えた。

 

「なにより許せんのは……アレですよ、アレ!!」

 

 そう言って、コウタはある一角を指差す。

 コウタが指差した場所へと視線を向けるハルオミ、そこに居たのは……ロミオとマリーとリヴィであった。

 どうやら休憩中のようだ、ぐてっとだらしなく椅子に座るロミオにマリーが苦言を放っている。

 そんな彼女にロミオは不機嫌そうに反論し、少し離れた場所でリヴィがどうやって会話に入ろうか少しわたわたしていた。

 

――敢えて言おう、両手に華であると。

 

「なんだよアイツ、いつの間にかあんなリア充になりやがってよおおおおおっ!!」

「青春だねえ……」

 

 見ているこっちが甘酸っぱい気分になるほどに青春である、自然とハルオミの口元には笑みが浮かんだ。

 一方のコウタはというと、血涙を流す勢いでダンダンとテーブルを両手の拳で何度も何度も叩くという無様な姿を見せ付けていた。

 言うまでもなく彼は羨ましいのである、特に自分と同じだと思っていたロミオのリア充っぷりは彼の心に限界までオラクルリザーブしてから放つブラスト並のダメージを与えているのは想像に難くない。

 

「ハルさん、やっぱり男は顔なんですか!?」

「何を言うのかねコウタ君、男は顔が全てであるのならコウタ君だってリア充の仲間入りを果たしているではないか!」

 

 これは決して慰めではなく、ハルオミの本心から出る言葉であった。

 コウタの容姿は悪くない、というよりも整っている部類に入るのは明白であった。

 おまけに性格だって周囲に好印象を与えるものだ、では何故彼に春が訪れないのか?

 まあハルオミのようにスケベ根性全開の思春期モードを全面に出す時があるというのもあるが、何よりも……。

 

「…………そういう星の元に生まれてきたって事さ。まあ要するに来世に期待しろって事だ」

「何その夢も希望もないバッドエンド!?」

 

 あんまりなハルオミの言葉を聞いて、コウタは今度こそ泣いた。

 しかもガチ泣きである、170越えの男が嗚咽を漏らしながらガチ泣きする姿は中々に堪える光景であった。

 この反応にさすがのハルオミも配慮が足りなかったかと反省しつつも、かといって他に慰めの言葉が見つからなかった。

 

「コウター………………なんで泣いてるの?」

 

 そんなコウタに声を掛ける1人のアラガミ少女――ラウエルは、未だにガチ泣きしている彼を見て首を傾げた。

 

「ひっぐ……うっぐ……」

「……ハルオミー、コウタどうしたの?」

「あー……まあちょっと現実の非情さを思い知らされたんだよ」

「? よくわかんないけどコウタ、泣き止んで?」

 

 よしよしと、右手でコウタの頭を優しく撫でるラウエル。

 小さいながらもまるで聖母のような彼女に、ハルオミは「あと三年経てば……アリだな」と謎の呟きを零したがそれはさておき。

 ラウエルに頭を撫でられたからか、漸くコウタもガチ泣きを止め乱暴に涙を拭いラウエルへと視線を向けた。

 

「……ごめんなラウエル、変なとこ見せてさ」

「別にいいよコウタ、それより悲しい事があったなら溜め込んだりしないで吐き出した方がいいよ? ラウエルが受け止めてあげるから!」

 

 そう言ってニコッと微笑みを浮かべるラウエルに、コウタは凄まじい罪悪感に襲われた。

 まさか自分に春が来ないからってガチ泣きしてましたなどと言える筈もなく、曖昧に笑う事しか今の彼にはできなかった。

 と、コウタとハルオミの視線がラウエルの左手……正確には、彼女が左手で持っているバスケットへと視線を向ける。

 

「ん? ああ、これ? 今日はママとタマモと一緒にお菓子を作ったんだ、それでコウタに食べてもらおうと思って」

「オ、オレに!?」

 

 おもわず目を見開いて驚きの声を上げてしまうコウタ。

 そんなコウタの反応にキョトンとしながらも、ラウエルはテーブルにバスケットを置き中を開く。

 入っていたのは……少々焦げ目の入ったクッキーであった。

 

「コウタは隊長さんとして頑張りすぎてて疲れてるだろうから、甘いものを食べて元気になってほしかったの!」

「ラ、ラウエル~……」

 

 藤木コウタ18歳、初めて妹と母以外の異性から手作りの菓子を貰った瞬間であった。

 ……カノンの事を完全に忘れているようだ、まあ尤も彼女は定期的に同姓異性関係なく配っているので彼の中にはカウントされないのかもしれない。

 それはそれで彼女の隠れファンにボコボコにされそうだがそれはさておき、コウタは感動しつつ早速とばかりにラウエル特製のクッキーを一気に頬張った……が。

 

「がばあっ!!?」

「うおっ!?」

「ひゃっ!?」

 

 謎の叫びと共に、口に入れたクッキーを勢いよく吐き出してしまった。

 どうにか反応できたハルオミは退避する事ができ、一体どうしたんだとコウタに問いかけようとして……彼が机に突っ伏したまま動かなくなっている事に気がついた。

 よく見ると全身が痙攣しているし、口元からは泡を吐いている。

 明らかに異常事態だ、だが原因がどう見てもラウエルが持ってきたクッキーにあるというのがわかり、ハルオミはラウエルへと詰め寄った。

 

「ラウエルちゃん、一体どんなクッキーを作ったんだい……?」

「えっと……滋養増強作用のある栄養ドリンクを片っ端から混ぜ込んで、あと美味しかったから初恋ジュースも混ぜた」

「…………そうか」

「コウタ、どうしたのかな?」

「ラウエルちゃんのクッキーがあまりに美味し過ぎて気絶しちまったのさ……とりあえずラウエルちゃん、そのクッキーはカズキ達と食べるといい」

「? うん、わかった。じゃあね!!」

 

 褒められて嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべてラウエルはバスケットを持ち立ち去っていった。

 その後ろ姿を暫し眺めてから……ハルオミは飲みかけのウィスキーを一気に飲み干してから。

 

「……食わなくてよかったぜ」

 

 心の底からの言葉を、そっと呟いたのであった……。

 

 

《コウタ君の憂鬱……?》完。

 

 

 

 

《ラグナロク》

 

 

「――フィア、出来たよ!!」

「これが……」

 

 神機保管庫にある、パーツ製造室。

 リッカに呼ばれそこに赴いたフィアは、彼女から自分用に開発してくれた新たな刀身パーツを見せてもらう事に。

 要望通りのショートブレードタイプの刀身パーツ、他のショートブレードと違いその見た目はあまりに無骨なものであった。

 装飾の類は一切見られず、漆黒の刀身は短いながらも充分な厚みがありまさしく“剣”という機能のみに特化した武器に仕上がっている。

 

「アスガルズの刀身よりも遥かに短いから、従来のショートブレードよりもかなり刀身が厚くなっちゃったんだ。でもさすがオーディンの素材だね……重量は従来のものと殆ど変わらなかったよ」

 

 ただやはり加工は難しいものだったと、リッカは語る。

 従来ヴァリアントサイズだったパーツをショートブレードに加工するというのは実行した事がなかったのだ。

 そのような事をせずとも従来のアラガミのものならば比較的素材を手に入れられたのだが……このパーツに使われている素材はあのオーディンのものである。

 元々素材自体が集まらないので、新たにショートブレードを作る余裕もなく、なので今回はこのような加工方法を試したのだ。

 

「……でも加工してて楽しかったよ。みんな技術者としての腕と誇りを思う存分振るう事ができたから」

「ありがとう。僕のこんな我儘に応えてくれて」

「そんな事ないよ、私達は技術班として神機使いの支えになる事が生き甲斐で存在意義だと思ってる。だからフィアは感謝の言葉じゃなくて私達のこの技術の結晶で結果を出してくれればそれだけで充分なんだから」

「もちろん、無駄にはしないさ」

 

 そう言って、フィアはアームに固定されている自分の新たな相棒を手に取る。

 彼女の言った通り、厚みたっぷりの刀身ながらもその重さは従来のものと変わらず、寧ろ使い易いと思えるほどだ。

 

「早速試してみたいんだけど、いいかな?」

「もちろん、微調整も終わってるからすぐにミッションに出られるよ?」

 

 用意のいいリッカに感謝しつつ、フィアは早速ミッションカウンターに向かった。

 そこでヒバリから手頃なミッションを一つ受注する、内容はボルグ・カムラン一体の討伐だ。

 とはいえさすがに作成したばかりの武装を持ってのソロミッションは危険を伴う……そう判断したフィアは、ちょうど任務に出ていなかったナナに手伝いを申し込んだ。

 当然二つ返事で同行をOKしたナナと共に、フィアは旧市街地へと赴く。

 

「それがフィアの新しい武器かあー……ところで、名前は何ていうの?」

「そういえば訊いてなかったけど……アスガルズでいいんじゃないかな?」

「えー、でもそれってサイズの時の名前でしょ? だったら別の名前にした方がいいと思うけどなあ」

「……別に僕はなんだっていいけど」

 

 特にこだわりがないフィアは、この武器の新たな名前などにさほど興味はなかった。

 

「そういえばさ、どうしてニーヴェルン・クレイグまで持ってきたの?」

 

 ナナの視線が、フィアの右手に握られているニーヴェルン・クレイグへと向けられる。

 そう、彼は新しいショートブレードだけでなく、愛用のニーヴェルン・クレイグまでミッションに持ってきたのだ。

 このミッションはあくまで新しい刀身パーツの運用の為だった筈なので、ナナは首を傾げた。

 

「少し試したい戦い方があるんだ」

「試したい戦い方?」

『――お2人とも、大型アラガミの反応を探知。そちらに向かっていますよ!』

 

 ヒバリの通信が入り、フィアとナナは身構える。

 すると、廃ビルからボルグ・カムランが姿を現し、フィア達を見つめ金切り声のような雄叫びを上げた。

 後方へと移動するナナ、あくまで今回の自分はフィアのサポート役だ、前衛は彼に任せなくては。

 一方のフィアは……その場から動かない。

 

「フィア、どうしたの!?」

 

 ナナが呼ぶが、フィアは不動のままカムランと対峙している。

 その隙にカムランがフィアに接近し、彼の身体を貫こうと尾針による突きを放った。

 横に跳んで回避するフィア、すかさずカムランは幾度となく尾針による突きの連発を放つが、彼には届かない。

 暫く回避に集中していたフィアであったが、カムランの攻撃が大振りなものになった瞬間、地を蹴り踏み込んだ。

 

 まずはニーヴェルン・クレイグによる上段からの振り下ろし。

 その一撃はカムランの前左脚を深々と抉り、鮮血を撒き散らした。

 すかさずフィアは左に持つ新型の剣を横薙ぎに振るい、カムランの盾に横一文字の傷を刻む。

 大きく仰け反り苦しげな声を上げるカムラン、対するフィアは今の攻撃に確かな手応えを感じていた。

 

(よし、二刀流として充分に運用できる……!)

「ギイィイィィィィィッ!!」

 

 怒りによる叫びが、カムランはがむしゃらに尾針を動かしていくが、フィアにとってその行動は新たな隙を作るだけである。

 次で決める、神機を持つ両手に力を込め、彼は一気にカムランの眼前へと踏み込んで。

 

「は――――っ!!」

 

 裂帛の気合を込め、フィアは両手の剣を交差させるようにカムランの顔面へと叩き込んだ。

 X型の裂傷を刻ませ、再びカムランの口から奇声が上がる。

 更にフィアはカムランの真下に潜り込み、そのまま剣を下腹部に突き刺し皮膚を抉り抜く!!

 

「ギ、ギギ……!?」

 

 それが致命傷になったのか、カムランから放たれる声が弱々しくなっていった。

 だが敵対するアラガミに向ける慈悲はない、フィアは駄目押しとばかりに二刀を振るい尾針を斬り飛ばし。

 トドメとばかりに、大きく跳躍したナナがカムランの顔面にハンマーを叩き込み――グシャリという生々しい音を響かせながら頭部を破壊されたカムランは、完全に生命活動を停止させたのであった。

 

 

 

 

「――成る程ね。二刀流での戦闘スタイルに変えたと」

「うん。カズキの戦い方の一つを真似てみたんだけど……しっくり来たんだ」

 

 ミッションを終え、アナグラへと戻ってきたフィアとナナ。

 2人はそのまま神機保管庫へと赴き、リッカへと神機を預けながら先程の戦闘内容について説明した。

 

「それでどうだった? 新しい武装は」

「凄く使いやすかったよ」

「それはよかった。後は今の戦闘データを元に更に調整を行えばもっと馴染むと思うよ」

「ところでリッカさん、この武器に名前ってないんですか?」

「……ナナ、まだその事が気になってたの?」

 

 だって気になるんだもんと返しつつ、ナナは「どうなんですか?」と改めてリッカへと問いかけた。

 

「勿論あるよ。この武器の名前はね……“ラグナロク”っていうの」

『ラグナロク?』

「かつて神話の物語の中で起きた戦いの名前だよ。その戦いにはオーディンっていう神様が関係してたっていうから、オーディンって名前のアラガミの素材を使った武器の名前としては縁があるんじゃない?」

「ラグナロク、かあ……凄くカッコいい名前だね、フィア!!」

「うん……」

 

 確かにとは思う、ただ少し仰々しい名前だなあともフィアは思った。

 とはいえせっかくリッカが考えてくれた名前だ、この武器の名前はラグナロクという名前に決定させる事に。

 もう一度リッカに感謝の言葉を送ってから、フィアとナナは神機保管庫を後にする。

 

「ねえフィア、これからどうする?」

「……とりあえず、何か食べる」

「じゃあ、外部居住区にある美味しいお店に行こうよ!!」

 

 言うやいなや、ナナはフィアの腕を掴み歩き出してしまった。

 お腹が空いていたフィアは特に抵抗する事無く、彼女と2人っきりで外部居住区へと向かうのであった……が。

 

「ちょっと待ってください!!」

「げっ、シエルちゃん……」

「げっ、とはなんですかナナさん。前回私に対して抜け駆けするなと言わんばかりの視線と態度を向けてきたというのに、今度は自分がそれを破るのですか!?」

「い、いいじゃん別に。元はと言えば先に抜け駆けしたのはシエルちゃんなんだからね!!」

「うぐぅ……それを言われると返す言葉もありませんが、それとこれとは話が別です!!」

「ぬぬぬ、シエルちゃんにしては食い下がるね……」

 

 わーわぎゃーぎゃーと騒ぎ出すシエルとナナ。

 一方、その間に挟まれたフィアはというと。

 

(…………お腹すいた)

 

 食欲に完全敗北を喫していたのだった。

 尚、例の如く美少女2人に取り合いされているフィアを見て、非モテ男達が密かに傷ついていたがどうでもいいので割愛する事にします。

 

 

《ラグナロク》完。

 

 

 

 

To.Be.Continued...




武器が変わりましたが、こちらの方が個人的に好きなので変えてみました、ご了承ください。

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