今更ですがこの作品はかなりオリジナル要素が強いと思われます。
特にこれからは原作沿いに進みつつもゲームにはない展開がかなり含まれますので、苦手な方は何卒何もせずにブラウザバックを宜しくお願い致します。
――嵐が、訓練室に吹き荒れる。
その中心に居るのは、両手にそれぞれ神機を持った1人の少年。
本部の精鋭部隊である「ブラッド」隊長である、フィア・エグフィードであった。
彼の新たな力であるブラッドレイジの訓練の為、今日も彼は訓練場に赴いている。
「ブラッドレイジ、正常に発動中。出力は……凄いっすね、これ」
モニター越しにフィアの姿を確認しつつ計器の数値を見て、技術班の1人が驚愕が込められた呟きを零す。
しかしこれは彼だけではなく、リッカを含む技術班全員の総意でもあった。
それだけの力がブラッドレイジには秘められている、回を増す毎にその力は増大しており、底が全く見えない。
今の彼はあのカズキすら上回っているかもしれないと、誰もがそう思っていた。
「――フィア、もういいよ。ありがと」
リッカが訓練場のフィアにそう告げると、フィアはすぐさまブラッドレイジを解除。
発生していた嵐のような突風が消え、フィアはモニター越しでもわかるほどに……息を乱していた。
ブラッドレイジの開放だけで、彼の体力は確実に消耗している。
やはり強大な反面反動も並外れて大きいようだ、使用した後に暫く動けなくなるという欠点は無くなったとはいえ、多用できる能力ではないのは相変わらずであった。
(肉体的疲労は大きいけど予想範囲内の数値に留まってる……ブラッドレイジ解除後の戦闘行動は一応可能なレベルみたいだね。
ただ一度の任務にブラッドレイジの連続使用は不可能、それと一度使用したら丸一日分の休息を挟まないと使用は禁止にしておかないと……)
コンソールを操作しつつ、リッカはブラッドレイジに対するデータを纏めていく。
これはただ彼のパワーアップに繋がるだけでなく、いずれこの技術を応用して一般の神機使いでも神機のリミッターを安全に解除し出力を上げる技術へと昇華させる狙いもあった。
とはいえ道のりはただただ遠い、だからまずはこのブラッドレイジをフィアの身体に極力負担を強いられないような運用方法を確立させなくては。
「失礼します」
と、部屋にフィア…だけでなくシエルも一緒に入ってきた。
どうやら訓練場からこちらに来る途中に鉢合わせたらしい、どうしたのかと問おうとして…リッカは、シエルの表情を見て顔を強張らせる。
普段の彼女とは違う、緊迫とほんの少しの不安を混ぜたような神妙な表情。
……何かがあったようだ、そう思うリッカの耳にシエルの声が響く。
「ブラッドレイジの訓練は終わったとフィアさんから聞きましたが…このまま彼を連れていっても大丈夫でしょうか?」
「うん、それは大丈夫だけど……何かあったの?」
性急なシエルらしからぬ言葉に疑問を抱き、リッカは問う。
すると、シエルは更に表情を険しくさせ――非常事態に見舞われた事を彼女に告げた。
「正体不明のアラガミが「螺旋の樹」周辺に現われたらしく、フェルドマン局長がブラッド隊を至急集合させよと」
「―――来たか。早速だが本題に入るぞ」
シエルに連れられ、会議室へと赴いたフィア。
そこには既にブラッドメンバーと、情報管理局の面々、そしてカズキとサカキの姿があった。
ブラッドメンバーの隣に立つフィアとシエル、それを確認してからフェルドマンはすぐさま話を切り出した。
「諸君等の協力もあって、「螺旋の樹」外縁部分に観測機と制御装置を設置する事ができた。まずは迅速な動きに感謝する。
しかし……ここで1つ問題が起こった、制御装置周囲には警護として極東およびクレイドルの神機使いを配置させてもらっていたのだが……六号機周辺を警護していた神機使い達から突如として連絡が途絶えてしまった」
「………それって」
「間違いなくアラガミによって捕喰されたと見ていいだろう、しかし……相手がどんなアラガミなのかを、確認する事ができなかった」
「えっ?」
フェルドマンの言葉に、ブラッドメンバー達は怪訝な表情を浮かべる。
制御装置および観測機周辺は二十四時間体制でモニタリングされている、だというのに確認する事ができなかったというのは一体……。
「一瞬だった」
「えっ?」
「神機使い達が捕喰された瞬間は確かにモニターに映っていたが、たった一瞬でその姿が消え……何も確認できなかったのだ」
「そんな………」
「……ヴァルキリーやオーディンクラスのアラガミが、現われたって事?」
「いや、もしかしたらもっと性質の悪い存在かもしれない」
そう言ったのは、険しい表情を浮かべたカズキであった。
彼から感じる憤怒の感情、事実彼は部下である神機使いを無残に捕喰され怒りに満ち溢れていた。
「モニターの映像を最大まで拡大しても姿が見えなかった、ヴァルキリーやオーディンよりも更に素早い動きをしなければそんな芸当は不可能だ」
「………じゃあ、まさか」
フィアの脳裏に浮かぶのは――アンノウン。
かつてカズキによって倒された、人の思考を持ちながらアラガミとしての捕喰欲求に従う悪魔。
それがまた現われたのだろうか……だとすると、事態は思っている以上に深刻という事になる。
「とにかくこの問題を一刻も早く究明しなくてはならない、しかし「螺旋の樹」の調査に遅れを出す事は許されない。
この極東にてあの樹を「聖域」として認定する演説を行う、その前にこの問題を解決しなければ……」
「しかし局長、演説は午後からだ。そんな短い期間の間に今回のアラガミの正体を掴み、且つ倒すというのはあまりにも厳しいと思うのだけれどねえ?」
「それは重々承知していますよ支部長、だがやらねばならないのだ。開催するセレモニーの目的は「螺旋の樹」を「聖域」と認定する事を住民に知らせるというのもあるが……同時に、住民の不安を取り除くという目的も含まれている」
だというのに、この問題によってセレモニーが延期となれば当然住民の中に根付く不安は増大するのは必至。
故にフェルドマンはすぐに調査に乗り出そうとしている、無論極東の面々もそんな彼の心中は察しているし彼が正論を言っている事もわかってはいる。
だが彼の出した提案は……到底受け入れられるものではなかった。
「――ブラッド隊長、君には“単独”でそのアラガミの調査を行ってもらいたい」
「えっ……」
「なっ!?」
「なんだと!?」
「……フェルドマン局長、ご説明願います」
「そうだよ! フィア1人でその正体不明のアラガミを調査しろだなんて、どうしてそんな!!」
「樹の調査には六台の制御装置および観測機が設置されている、それを警護するにはどうしても人手が足りない。
君達によって外縁部分のアラガミはほぼ駆逐できたがまた他のアラガミが寄り付いている以上、戦力を分ける他無い。よってこの中で実力者であるブラッド隊長単独での調査をお願いしたい」
「ですがフェルドマン局長、フィアはブラッド隊を纏め指揮する隊長という立場があります。でしたらクレイドル内で独自に動ける僕が行く方が得策だと思うのですが?」
「抗神大尉とてクレイドルの指揮があるだろう? 君の右腕であるアリサ少尉や雨宮大尉は現在サテライト居住区の警護の為に極東を離れている、君以外にクレイドルの指揮を任せられる人材はおるまい?」
「それは……ですが」
「―――わかった。すぐに出発の準備を整える」
「フィアさん!?」
「ちょっと、フィア!?」
彼の承諾の言葉に、当然他のブラッドメンバー達は納得せず彼に詰め寄る。
そんな事は認められない、確かに彼の実力はブラッドの誰よりも高いが、だからといって単独調査など認めるわけにはいかなかった。
「フェルドマンの言う通り人手が足りないんだ、制御装置も観測機も一つだって失うことができない以上、戦力を割かなければならないのは当然だよ」
「それは確かにそうですが、だからといってフィアさん1人で調査するなど認められません。そのアラガミがどんな存在なのか一切情報はないのですよ!?」
「そうだよ! 危険すぎる! せめて私達の誰かを一緒に……」
「ブラッドのみんなはこの極東周囲とセレモニーの警護をお願い、一般人が多くこのアナグラに集まる以上……よくない事を考える輩も当然紛れ込む筈だ。
シエル、君には僕の代わりにブラッドの指揮を一時的だけどお願いするよ。まあいつも君が指揮を執っているようなものだけど」
「フィア!!」
「ダメだってフィア! オレは認めないからな!!」
口々に彼を止めようとするブラッドメンバーだが、彼は無言で首を横に振ってそれを拒否。
「十五分後に出発する」
「……頼む、だが危険だと思えばすぐに撤退するように」
「よく言う。撤退しない方がそっちにとって都合が良いんじゃないか?」
「…………」
フェルドマンの視線が鋭くなる。
それを軽くいなして、彼はそのまま会議室を出て行ってしまった。
「フィアさん!!」
「フィア!!」
すぐさまその後を追うブラッドメンバー達。
「フィアさん、待ってください。いくらなんでも納得できません」
「納得できないも何もこれは命令だ、シエル達ならそれぐらいわかるだろう?」
「それは……ですが、今度の命令はあまりにも」
「フェルドマンの言っていた事がわかるならどうしようもないさ。――大丈夫だよみんな、僕は絶対に死なない。みんなに支えられて生きているこの命を二度と無駄にしないって誓っているから」
「………フィア」
決意に満ち溢れた優しくも力強い瞳。
それを見て、誰もそれ以上は何も言えなくなってしまった。
彼は存外に頑固者だ、それに誰もがフェルドマンの言葉に一理あるとも思ってしまっている。
現状では確かに余計な戦力を割く余裕はない、かといってその正体不明のアラガミを放っておけば二次災害を引き起こす。
だからブラッド隊の隊長であり神機使いでも世界最強クラスであるフィアが単独で調査するというのも、一見すれば理に適っている。
――尤も、理由はそれだけではないだろうが。
「……フィアさん、どうか無理だけはしないでくださいね?」
「わかってるよ、シエル」
「約束だよ? ちゃんと無理せずに帰ってきてね?」
「わかったよ、ナナ」
心配そうに自分を見つめる2人に、フィアは務めて明るく答えを返す。
けれど2人の表情は変わらず、心配性だなあと思う反面、2人に心配を掛けてしまっている事を申し訳なく思うフィアなのであった。
「――なあ、ギル」
「なんだ?」
「目の前でイチャイチャを見せられるって、辛いな……」
(……お前には言われたくないぞ)
「螺旋の樹」周辺は、今では失われて久しい自然溢れる世界へと変貌を遂げている。
しかし同時にアスファルトの地面や標識の残骸なども散らばっており、自然と人工物が複雑に混ざり合った珍妙な光景が広がっていた。
その中を、フィアは1人ゆっくりと歩を進めている。
右手にはアスガルズを持ち、背中にはニーヴェルン・クレイグを背負いながら、彼は油断せずに周囲を見渡しつつ「螺旋の樹」の外縁部分を歩いていた。
『周囲にアラガミの反応はありません。このエリアにはその正体不明のアラガミは居ないものと思われます』
通信機から響くのは、オペレーターであるフランの声。
彼女は現在フィアをサポートする為、フライアからオペレート業務に務めている。
当初、フィアはフランに自分よりも他のチームのオペレートを頼むと言ったのだが。
『――フィアさんは、もう少し周りを頼った方がよろしいと思います。お1人で頑張るのは…悲しい事ですよ?』
そう返され、その言葉に甘える事にした。
フランの優しさに感謝しつつ、フィアはこのエリアから離れる事に。
「そういえばフラン、そっちはどう? もうすぐフェルドマンの演説が始まりそう?」
『フライアからはモニター越しでしか見えませんが、既に沢山の人が出店を回って楽しんでいるようですよ』
「そっか……フランも行けばよかったのに」
『あまり人の沢山居る場所は好きではありませんし、1人で回っても味気ないです』
「一緒に回る恋人とかは居ないの?」
『……フィアさん、もう少しその歯に衣着せぬ物言いは正した方がよろしいかと』
「そう……」
なんだかフランの語気に若干の怒りを感じ取り、フィアはこの話題を切る事にした。
その後もフィアは外縁部分を探索するが……問題のアラガミはおろか、通常のアラガミとも出くわさない。
そう簡単に見つかるとは思っていないが、こうも何も変化が訪れないと少しずつ警戒心が薄れていってしまう。
『それはそうとフィアさん、シエルさんとナナさん……どちらを選ぶのか決めたのですか?』
「………それは、さっきのお返し?」
『いえ、純粋な好奇心です。それでどうなのですか?』
「…………正直、わからないんだ」
シエルとナナから好意の言葉を告げられてから、フィアは自分なりに2人の事を意識するようになった。
色恋沙汰はさっぱり理解できないが、2人が客観的に見ても魅力的な異性であるという事は、フィアにだってわかっている。
明るく活発で、ちょっと子供っぽくて悪戯好きだけど、包容力と優しさを持つナナ。
生真面目で少し頭の固い部分もあるけれど、一生懸命で心配性で…強い心を持つシエル。
そんな2人が自分を好きで居てくれるというのは、とても尊い事だと思っている。
だからこそ中途半端な答えは出したくない、しっかりと考えて考え抜いて…その先に出るであろう答えを、2人に送りたい。
……しかし、同時に不安もあった。
果たして、こんな自分が異性の想いに応える事ができるのかという不安が。
ずっと地下に幽閉され、およそ人間らしい生き方など今までした事なかった自分が色恋など本当にできるのか。
それにだ、自分は人間だと思っているが……心のどこかでは同時に自分は化物だと思っている部分もある。
そんな自分がたとえ2人のうちどちらかを選んだとして、本当に選んだほうを幸せにする事ができるのだろうか?
選んだとしても、どちらか片方は確実に悲しませてしまう事になるとわかっているのに、本当に選べるのだろうか?
考えれば考えるほど疑問と不安が生まれていき、いつもいつも彼は答えを得る事ができない。
(僕は、どうすればいい? どうする事が……正しいんだ?)
悩みは彼を苦しめる、だが……その苦しみすら、今の彼には幸せだ。
この苦しみも、悩みも、人間である証になるのだから。
自分はただの化物じゃないと、ちゃんと人間なのだと確認できるから、フィアにとってこの悩みは…幸せだった。
自然と彼の口元には笑みが浮かび、フィアはほんの少しだけ警戒心を完全に解き。
――自分の目の前にアラガミが現われた事に、気づくのが遅れてしまった。
「――――!!?」
気づかなかった、自分の未熟さを叱咤しながらフィアは後方に跳躍し相手から距離を離す。
しかし相手は何も仕掛けては来ず、腕を組み不動を保っていた。
(なんだ、こいつは………)
現われたのは、ヴァルキリーやオーディンと同じ人型のアラガミであった。
身長は180近い長身、筋骨隆々の身体は赤黒く染まっており、白目の無い黒一色の瞳と鋭く尖った口が昆虫を思わせる。
頭には左右二本の棘のような角が生え、白髪の長い髪のようなものを靡かせているそのアラガミは、ただじっとフィアを見つめていた。
その眼光のなんと力強く恐ろしい事か、ヴァルキリーやオーディンとは違う“凄み”を感じられ、フィアは本能的に目の前の存在が捜していた正体不明のアラガミだと悟る。
『フィアさん、どうかなさいました?』
「……フラン、目の前におそらく捜していたアラガミが現われた」
『えっ……で、ですがモニターにはそれらしき反応はありませんが……』
「なんだって……?」
馬鹿な、では目の前に立つソレはアラガミではないという事か。
否、それはありえないとフィアは断言する、同じアラガミだからこそ目の前の存在が異形の怪物だと理解できている。
どういうカラクリかはわからないが、日々進化するアラガミならばそのような芸当も可能なのかもしれないと自己完結。
今は思考を巡らせるよりも……今にも飛び掛ってきそうな目の前の相手を倒す事だけを考えなくては。
「…………」
初めて、そのアラガミが反応を見せた。
口元に浮かべる邪悪な笑み、フィアを小馬鹿にするような…餌を見つけたような、純粋さすら感じられる不気味な笑み。
それを浮かべながら組んでいた腕を解き、アラガミは右手を天に翳した。
刹那、肉の裂ける嫌な音が右手から発せられ――アラガミの掌から、何かが飛び出してくる。
だんだんと形付けられながら現われたそれは……巨大な戦斧。
長い柄を持つ両刃の超重武器、それを右手から生み出したのだから不気味の一言に尽きる。
どうやら相手はやる気満々らしく、生み出した戦斧を両手で持ち構え深く腰を落とした。
「――フラン、戦闘を開始する」
『ま、待ってくださいフィアさん!』
「待てない。それに……相手は待ってくれなそうだ!!」
できる事ならば撤退したい所だが、相手は許してはくれないだろう。
ならばここで戦い倒すしかない、だからフィアはフランに向かって叫ぶと同時に地を蹴った。
初めから全力、加減なしに突っ込み一息で間合いを詰める。
既に攻撃の構えに入っている、フィアは一撃で決めようと右上段から構えたアスガルズを容赦なく相手へと叩き込み――固い衝撃に襲われた。
「ぐっ………!」
アスガルズの刀身は相手に届かず、戦斧の刃に真っ向から受け止められていた。
ギチギチという音を響かせながら、フィアは更に力を込め押し切ろうと試みる。
しかし刀身は戦斧に受け止められたまま少しも動かず、寧ろ少しずつ押し返されてしまっていた。
「ぐ……おおあっ!!」
押し切られる、そう判断したフィアは自ら後退し再び相手との距離を離す。
凄まじい剛力だ、それに今の一撃だけで相手がヴァルキリーやオーディン並の力を持っているとわかり、フィアの頬に冷たい汗が伝う。
だが負けられない、フィアはもう一度アスガルズを右上段に構え。
「――皆殺しにしてやるよ」
ドスの効いた声が、目の前のアラガミから放たれた―――
To.Be.Continued...
当初は原作をそのままなぞろうかと思ったのですが、どうせならオリジナル展開を入れたいと思いました、ご理解の程をお願い致します。