本部の組織という事があり、不安と心配が残りつつも彼等は前へ進んでいく。
さて、今回の物語は……。
「――オレ、あの情報管理局の子にめっちゃ嫌われてるみたいなんだけど」
「…………えっ?」
上記の言葉を言い放ったのは、ブラッド隊のロミオ・レオーニだった。
彼の言葉を聞いて、共に休憩していたフィア達ブラッドメンバーは怪訝な表情を浮かべる。
「情報管理局のというと…リヴィ・コレットさんの事ですよね? ロミオさん、何故そう思うのですか?」
「だってさ、事ある毎にオレの事を睨んでくるし……オレ、何かあの子に恨まれるような事したのか……?」
「ロミオ先輩……いくら可愛い容姿の女の子だからって、まだ会って早々なのに手を出したの?」
「ちげーよ!! ってかナナ、手を出すとか人聞きの悪いこと言うな! オレをなんだと思ってんだよ!!」
「違うのか?」
「ギルまで!? チクショー!! フィア、お前はそう思ってないよな!?」
「…………」
「あからさまに目を逸らされた!?」
あんまりな他のメンバーの態度に、ロミオは泣きたくなった、というか泣いた。
そのウザい…もとい可哀想な姿を見て、さすがに弄りすぎたと反省するブラッドメンバー達。
なので真面目に話を聞いてあげようと、改めて詳細を訊く事にした。
「睨んでくるって言ってるけど、ロミオ先輩の気のせいとかは?」
「最初はオレだってそう思ってたけどさ、同じような事が何回もあったしこの間なんか廊下ですれ違う時に睨まれたんだぜ?」
「……ロミオ先輩、やっぱり何かしたんじゃ」
「してねーっての!!」
「でも確かにあのリヴィって子、ロミオを睨んでいる時があるよ、僕も見た事がある」
しかし、あれは睨んでいるというより…何かを伝えたがっているようにも見える。
だがもしそうならばちゃんと口にする筈だ、あのリヴィという子とは会って間もないがそういう事を躊躇うような性格ではないだろう。
だとするとそうする理由がわからず、そもそもこの予測自体が合っているともわからない。
「ねえロミオ、やっぱりマグノリア・コンパスに居た時にあの子と会ってるんじゃないかな?」
「えっ、フィアそれってどういうこと?」
「あのリヴィって子が初対面の相手にあんな睨みつけるような態度を見せるとは思えないんだ、だからもしかしたらと思って」
「確かに、まだリヴィさんの事をよく知らないとはいえ、そのような事をするような人には私も思えません」
「俺もそう思うが、だとしたら何故そんな態度をロミオに向ける?」
うーんと考えに耽るブラッドメンバー達。
しかしいくら考えても答えが出ず、結局。
「結局、ロミオ先輩の自業自得って事で良いよね?」
『異議なし』
そういう結論に達してしまったのだった。
「意義あるよ、めっちゃ異議申し立てるよ!!」
「そうは言うけど、ロミオ先輩の日頃の行いを見ると……」
「日頃の行い!?」
あんまりといえばあんまりなナナの言葉であるが、他の者も否定する事はできなかった。
確かに彼は神機使いとしては優秀だし、ムードメーカーでチームの清涼剤といっても過言ではない。
この極東でも彼は大いに信頼されているし、誰とでも仲良くなれる社交性の高さはそうそう真似できるものでもない、が……。
だが、ハルオミやコウタと一緒にバカエロス談義に耽っている姿があまりに印象強いせいか、こう思われても致し方ないのかもしれない。
「ところで話は変わるけどさ……なんか最近、アナグラの雰囲気が重苦しいと思わない?」
「えっ、もうオレの悩み相談終わりなの?」
「現状ではどうしようもないという結論に達しましたので」
「あれ、なんだろうシエルがとっても冷たいんですけど」
「原因はアレしかないだろう? ったく、本部の連中っていうのはどいつもこいつもいけ好かない奴らだ」
「…………」
無視された、そして呆気なく話題を変えられてしまった。
薄情者ー、声には出さず心の中で嘆くロミオは隅っこでいじけ始めてしまう。
そんな彼は完全に放っておかれ、話題を情報管理局についてに変えていくブラッドメンバー達なのであった。
「リッカ達技術班の連中も、あいつらの横暴な態度に愚痴を零していたな」
「……ラウエルさんやシオさん、大丈夫でしょうか?」
アラガミでありながら、この極東で暮らしているラウエルとシオ。
そんな2人を、本部の組織である情報管理局が放っておくとは思えない。
今はまだ明確なアクションを起こしてはいないが、強引に拉致して実験体に…という最悪な光景が頭に浮かんでしまう。
彼女達は本当に希少な存在だ、そしてあの抗神夫妻とその義妹であるローザもまた本部の連中からすれば喉から手が出るほどの逸材である。
強硬な手段を用いてきた時、この極東は一体どんな選択を選ぶのだろうか……。
「――もしも、本部…もしくは情報管理局がカズキ達に何か不利益な事を強いてくるのなら、僕は絶対に許さない」
「フィアさん……」
「カズキ達は戦えない人達の為に命を懸けて生きている、そして同時に幸せに生きているんだ。その幸せを奪おうとするのなら……僕はその全てを叩き潰す」
強い決意を込めた言葉に、他の者達は同意するように力強く頷きを返した。
自分達もフィアと同じ気持ちだ、彼にそう伝えるように。
仲間の心中を理解し、フィアはありがとうと感謝の言葉を返した。
「ですがフィアさん、それはあなたにも言える事ですよ?」
「えっ?」
「フィアさんに何かしようとするのなら……私は全力でそれを阻止します」
そう言ってシエルは、そっとフィアの手を包むように握りしめた。
彼に幸せになってほしい、生きてほしいという彼女の願いがフィアの心に流れ込んでくる。
「……ありがとう、シエル」
「はい……フィアさん」
「こらーシエルちゃん、さりげなく好感度を上げようとするなんて姑息だよー?」
「えっ、あ、いえ……私はそんな……」
「しかもさりげなく手を握るなんて、シエルちゃんも結構大胆になってきたね」
「あぅ……」
ナナの指摘に、顔を赤らめるシエルだが決して握った手は離さなかった。
まだ羞恥心は彼女の中に強く浮かび上がるが、もう自分の想いに嘘を吐くような事はしたくない。
そんな彼女を見て、ナナは嬉しさ半分焦り半分といった表情で見つめていた。
「あ、そろそろ行かないと」
そう言って立ち上がるフィア、そのまま彼はいまだにいじけているロミオの元へ。
「ほらロミオ、任務の時間だよ?」
「うーっす」
気だるげな返事をしながらも、すぐさま表情を引き締めるロミオ。
なんだかんだ言いつつも彼は神機使いの業務に関しては真面目なのだ、そして2人は他のメンバーと別れエントランスへと向かう。
そこには既に共に任務に赴くメンバーであるリヴィと……カズキの姿があった。
「今回は、カズキも一緒に行くんだ」
「抗神大尉の戦力も確認しておきたい。抗神大尉、お忙しい中こちらの事情に合わせてくれて感謝します」
「別に気にする事はないさ。それよりリヴィちゃん、僕の事は「抗神大尉」なんて堅苦しい呼び方じゃなくて、カズキでいいから」
「……ではカズキさんと、そう呼ばせてもらいます」
そう言いながらも、リヴィの言葉の中には確かな距離感が存在している。
どうやらまだ信用されてはいないようだ、それがわかりカズキは内心苦笑した。
だが信頼というのはすぐに生まれるものではない、この極東で共に戦いながら育んでいけばいいだけだ。
それよりも……カズキは気になる事があった。
それはリヴィの腕輪、他の者とは違い彼女の腕輪は白い包帯で何重にも巻かれている。
技術班のリッカも気にしていたし、あれは彼女なりのファッションか何かなのだろうか?
そんな事を考えているカズキをよそに、ロミオはいい機会だからと思い切ってリヴィに話しかける事にした。
「が、頑張ろうな?」
ちょっと上擦った声で話しかけてしまったのはご愛嬌。
少々引き攣った笑みを浮かべながらも、なるべく好意的な態度を見せるロミオであったが。
「…………」
「うっ……」
返ってきたリヴィの反応は、カッと目を見開き睨みつけてくるというあんまりなものであった。
しかも無言のまま見つめてくるものだから、余計に精神的ダメージが大きい。
余程自分は彼女に嫌われるような事をしたのだろうか、それともとくに理由もなく嫌われているのだろうか。
後者だったら絶対嫌だなあと思いながら、ロミオは内心号泣していると……結局リヴィは何も言わずに先行して歩き出してしまう。
「……ロミオ、リヴィちゃんに何かしたの?」
「カズキさんまで……どうしてオレが何かしたのを前提に訊いてくるんですか?」
「だって、日頃の行いがあるし……」
「オレの日頃の行いってそこまで悪いの!?」
(……フェルドマン局長、ロミオから話しかけてくれたのに何も返事ができませんでした。私は駄目な子です……)
「――ロミオ、無事に帰ってこれたか?」
あ。
っという間にアラガミを全滅させたフィア達、あまりにも呆気ないので戦闘シーンは全カットで。
そしてアナグラへと戻ってきた彼等の前に、マリーが現れロミオに声を掛けてきた。
「無事にって……お前、信用してないなー」
「当たり前だ、お前はいつも爪が甘いしそそっかしい部分もある。心配しないわけがないだろう?」
「ぐっ……相変わらずズケズケものを言うよな……」
悪態を吐くロミオであったが、正論ではあるので否定はしなかった。
それにマリーのようにこうしてはっきりとした物言いは好感が持てる、前の自分ならばコンプレックスと相まって受け入れなかっただろうが……今は違う。
「………うん、良し。どこも怪我をしていないな、偉いぞロミオ」
「お、おい! なんで撫でるんだよ!!」
「褒めているんだ。ただアラガミを倒すのではなく、怪我をせずに戻ってきているからな」
そう言って、マリーは優しく微笑みロミオの頭を撫で回す。
反抗したいロミオであったが、170はある彼女の身長では必然的にロミオを見上げる形になっており上手く抵抗できない。
だが後ろでフィア達が見ているというのにこんな事をされては、恥ずかしくて仕方ないではないか。
羞恥心からロミオの顔が赤くなっていくが……すぐにその羞恥心は緊張感へと変わっていった。
「…………」
「…………」
「えっ……」
自分を挟むように…正確には、マリーとリヴィから重苦しい空気が感じられた。
一体どうしたというのか、チラリと視線を後ろに向けると……リヴィは何故かマリーを厳しい表情で睨みつけていた。
対するマリーも気が強いせいか、そんなリヴィを睨み返す始末。
場の空気がどんどん冷たいものになっていき、男性陣達は困惑するだけで何もできない。
そんな中――睨んでいただけのマリーが、口を開く。
「……わたしに何か言いたい事があるのなら、はっきり言ったらどうだ? それとも……“これ”が気に入らないのか?」
「…………いや、すまない。まだ戦闘の緊張が解けていなかったようだ、このような事はしないように心がける」
「戦闘の緊張、か……そういう事にしておいてやる」
「ブラッド隊長、カズキさん、本日はありがとうございました」
言うやいなや、足早にその場を去っていくリヴィ。
「……ロミオ、あれは一体何なんだ?」
「いや、オレにもさっぱりで…っていうか、いつまで撫でてるんだよ!!」
「ああすまん、お前の髪を撫でているが気持ち良くてだな……もう少しいいか?」
「や、やめろって!!」
(青春だなー)
(これが青春か……)
「おと……フェルドマン局長、ロミオの傍に仲の良い少女が居ました。どうしましょう?」
「ふむ、お前の場合はまずちゃんと話せるようになる事を優先せねばな。それより今何を言いかけた?」
「…………何でもありません。ですがそうですね、まずは会話をしなければ……」
(頑張れ、リヴィ特務少尉)
(ロミオ上等兵、爆発しろ)
(というかコレット特務少尉、今局長の事おとうさんって言いかけなかったか?)
(ちくしょおおおおおっ、俺達の天使があんなのにぃぃぃぃぃぃっ!!!
To.Be.Continued...
次回はもう少し物語を進めます。
うちのリヴィさんのキャラがこんな感じで不快に思ったのならすみません。