ご了承ください、いや本当にご了承を程を宜しくお願い致します。
「――女の子の事、教えてほしいんだ」
『………はい?』
ある日のアナグラ。
とある理由によりひっじょーーーーに疲れていたカズキとエリック。
その疲れを癒す為に、2人はたまには男同士の友好を築こうとラウンジで飲んでいたら……いきなりフィアが、上記の言葉を口に出してきた。
当然2人はキョトンとしてしまい、対するフィアの表情は真剣そのものだった。
「……フィア、とりあえず詳しく説明してくれる?」
「僕、恋とか女の子とかよくわからないんだ。でもいつまでもわからないままじゃ僕を好きだと言ってくれたシエルとナナに失礼だと思って」
「ああ、成る程……」
健気なものである、こういう真摯な態度は見習ってほしいものである、誰にとは言わないが。
とはいえ、彼の頼みはなかなかに難しい類のものだ。
女の子の事を教えろなどと、傍から聞くと誤解を招きかねないものであるし、そもそも男に女の子の事を教えろとはどういう了見なのか。
「ねえフィア、どうして僕達にそんな事を聞くの?」
「だって、カズキは結婚してるしエリックはいつもローザとくっ付いてるから、女の子の事はよくわかってるでしょ?」
「ぶはっ!? ちょ、ちょっとフィアくん、誤解を招くような事を言わないでくれないか!?」
「…………」
「あ、あの……カズキくん……?」
ヤバイ、今の話を聞いてお兄さん無言になっちゃった。
しかし弁明はできない、何せフィアの証言は決して間違いなのではないのだから。
ローザはアリサの影響のせいか男女間の距離をやたらと縮めたがる、もちろん物理的な意味で。
周りに人が居るというのに抱きつかれた事などしょっちゅうだし、なんだかんだ言いつつも結局エリックも男……内心では喜んでいたので突き放す事もできず。
だが彼には、ローザの兄であるカズキにその事実を聞かれるのは非常に拙かった。
殺られる、割と本気で命の危機を察知したエリックであったが……カズキは悲痛な表情で、エリックの肩を優しくぽんぽんと叩き。
「―――お互いに、苦労しますね」
哀愁感漂う慰めの言葉を、口にした。
「……カズキくん、ありがとう」
なんていうかもう、共通の悩みを持っている者として今の言葉だけで理解できてしまった。
要するに2人は恋人ないし妻の過剰なスキンシップに、嬉しくも疲れてしまっているのだ。
因みに余談であるが、先程のとある理由というのもこれが原因だったりする。
贅沢な悩みだと非モテ男達からは言われそうだが、それはそれ、これはこれなわけで。
「2人とも、大丈夫?」
なんだか元気の無くなった2人に声を掛けるフィアであったが、返ってきたのは全然大丈夫そうではない「大丈夫」だった。
……そっとしておいた方がいいのかもしれない、そう思ったフィアは2人に声を掛けようとして――そいつ等は現われてしまった。
『話は聞かせてもらったぞ!!!』
「…………」
「リーダー、目標が凄まじく冷たい目を向けてくるであります!!」
「あんな冷たくて残酷な目、見たことないぜ……」
フィアの前に現れたのは、3人の男。
真壁ハルオミ、藤木コウタ、そしてロミオ・レオーニ。
彼等は通称「極東の三馬鹿トリオ」という不名誉な二つ名を持っており、フィアはよく彼等のバカエロス談義に付き合わされるので、死んだ魚のような目になってしまうのも無理からぬ事であった。
視線で「帰れ」と告げるフィアであったが、悲しきかなこのおバカさん達は気付かない、というか気付いても帰らない。
「フィア、オレ達はこの日をずっと待っていた……お前が、女の全てを知りたいと言う日をな!!」
「別に全てを知りたいなんて言ってない……」
「おっとみなまで言うな、わかってる。全てオレ達に任せておけばお前は女体の全てを知る事ができる!!」
「あのさ、人の話聞いてる?」
「だが焦って知るというのは厳禁だ、まずは足元から固めていくように……自分の好みの身体を知る所から始めないとな!!」
「…………」
ああ、これは“また”ダメなヤツだ。
悲しい事に何度もこのアホ達に巻き込まれているからか、もうフィアはこいつらが人の話を聞いてくれないのがわかってしまった。
とはいえ、これはある意味好都合だ。
カズキとエリックはどういうわけか急に元気を無くしてしまった、これ以上女性の事を訊くのは2人の負担になる。
勿論心優しい2人はそんな事を気にせず真摯に接してくれるだろう、だがそれは申し訳ないというものだ。
だから、このバカエロス達の登場はある意味では良かったと思えたのだ、まあある意味なので本当は登場してほしくなかったのだが。
「よし、今からお前に女体の神秘を教えてやろう!!」
傍から見ればイケメンスマイルを見せながらも、最悪な言葉を放つハルオミ。
コウタもロミオも笑みだけならば充分にイケメンだというのに、内側から溢れ出さんとしているエロスのせいで台無しである。
ドナドナドーナ……とばかりに三馬鹿に連れて行かれるフィア、カズキとエリックは先程からのダメージのせいなのかそれに気付かない。
連れていかれた先は何故かフィアの自室、途中でハルオミとは別行動になり、現在フィアはコウタとロミオの3人で自室内で待機していた。
「ねえ、ハルオミは何処行ったの?」
『まあまあ、少し待ってればわかるって!!』
「…………」
めちゃくちゃいい笑顔を返された、それがなんとなくイラッと来たので…フィアは割と容赦なく2人の顔面にグーパンチを叩き込む。
ぐへぇっとひどい悲鳴を上げながら吹き飛んでいく2人を見て、フィアは自分の心がなんとなく晴れていくのを感じていた。
と、ここでハルオミが大きめのダンボールを持って部屋へとやってきた。
「待たせたな――って、どうしたお前等?」
「なんでもないよ、それよりハルオミ、それ…何?」
フィアの視線が、ハルオミの持っているダンボールへと向けられる。
すると彼は途端に不適な笑みを浮かべ、ダンボールを地面に下ろした。
瞬間、まるでハイエナの如き動きでダンボールへと群がるコウタとロミオ、その動きは戦場に居るカズキより速かったかもしれない。
なにやら興奮している2人を片手で宥めながら、ハルオミはダンボールを開く。
中に入っていたのは……本であった。
しかし本と言っても一般的なものよりもやや大きく、それに何より……薄かった。
『うおおおおおおおおおおっ!!!』
「……ハルオミ、この本は何? 表紙に女の子の絵が書いてるのしかないんだけど」
数冊手に取り拍子を見るが、どれもこれも少女や女性といった女の絵しか書かれていない。
しかも中には際どい服装や下着姿のものもあり、フィアは首を傾げた。
既にコウタとロミオは本の一冊を手に取り今までにない真剣な表情で見入っている、そんなに面白いものなのかとフィアは手に持っていた本を開こうとして、ハルオミに止められる。
「ちょっと待った、これを見る前に……フィア、お前はどんな裸体が好みだ?」
真顔でとんでもない質問をしてくるハルオミ、聞く人が聞けば間違いなくドン引きされ変態の烙印が押されるものだ。
しかし質問を受けたフィアは幸か不幸かそんな事はせず、けれど質問の意図がわからないのかキョトンとしている。
その反応はハルオミにとって予期できたもの、なので彼は予め用意していた言葉をフィアに放つ。
「お前は女を知りたいと言ったな? その方法として一番手っ取り早いのは……自分が見て興奮する女の裸体を見る事だ!!」
サムズアップをしながら、世の女性全てを敵に回す発言をするハルオミ。
だが彼の顔はこの上なく清々しく爽やかであり、まるで彼の言い分の方が正しいと思えてしまう程の純粋さを感じられた。
それに毒されてしまったのか、フィアはそんなハルオミの言葉に耳を傾け始めてしまう。
計画通り、内心ほくそ笑みながらハルオミは自分が厳選した薄い本をフィアに並べるようにして見せる。
「この中では、どうだ? お前の気に入る裸体はあるか?」
「えっと……」
「難しく考える事はない、お前の心が訴えるものを選べ。理屈っぽく考えれば考えるほどにわからなくなるからな」
「…………」
成る程、そういうものなのか。
既に毒されてしまったフィアは、すっかりハルオミの言葉に踊らされ薄い本に視線を泳がせていく。
小さな女の子、扇情的な下着を着けた女性、あどけなさを残しつつ女の表情を見せる少女。
一体自分の心が訴えるのはどんな女性なのだろう……思案に暮れるフィアを見て、ハルオミは自分の仲間が増える悦びに耽っていた。
そしてたっぷり数分間、フィアは悩みに悩み……ある一冊の本に手を伸ばし始める。
遂にフィアの好みの女がわかるのか、ここまで苦労したなとクッソくだらない感動を内側に秘めながら、ハルオミといつの間にか視線をこちらに向けていたコウタとロミオが固唾を見守り。
「――フィアー、チャイム鳴らしたのになんで反応しないのー?」
「フィアさん、何かあったのですか?」
あんまりと言えばあんまりなタイミングで、2人の少女が部屋へと入ってきた。
「あ、シエル、ナナ」
『――――』
フィアは変わらぬ態度で来訪者であるシエルとナナを歓迎するが、三馬鹿達は薄い本を持ったまま固まってしまった。
薄い本とフィアの反応に夢中になっていて、部屋のチャイムが鳴っている事に気付かないなど…後悔する三人だが、今更遅い。
今自分達がやらなければいけない事――それは一刻も早くこの場から逃げ出す事だ。
僅か二秒にも見たぬ間に目まぐるしく思考を巡らせた3人は、素早く本をダンボールに詰め挨拶もそこそこに部屋からの脱出を図ったが。
「――ちょっと」
「待っていただけますか?」
満面の笑みを浮かべたシエルとナナに掴まれ、逃げる事は叶わなかった。
「さっきチラッと見えたんだけど、その本……裸の女の子の絵が描いてなかった?」
「そ、そのような事があろうはずがございません」
「ハルオミさん、コウタさん、ロミオさん、スナイパーの視力を侮ってもらっては困りますよ? ――フィアさんに、一体何の本を見せていたのですか?」
「え、えっと……男としては避けては通れぬ道というか、フィアも年頃だし何よりコイツが女の子の事を教えてほしいって言うから……」
「……フィアさん、それは一体どういう事ですか?」
シエルとナナの視線が、フィアに向けられる。
それのなんと冷たいことか、アラガミに睨まれる方が何倍もマシだと思えてしまうほどに、2人の目力は凄まじいものだった。
背筋が凍りつくような恐怖心に駆られながらも、下手な言い訳をすれば命は無いと理解し包み隠さず2人の説明する事にした。
「……そっか、フィアが私達の気持ちに応えたいっていうのは素直に嬉しいけど……」
「だ、だからといってこのような破廉恥な本を読むというのは最善な策とは言えませんよ?」
「ごめん……」
「でもシエルちゃん、フィアぐらいの年頃の男の子ってそういうのに興味を持つっていうし、しょうがないんじゃない?」
「だ、ダメですよナナさん! そんなのフィアさんにはまだ早すぎます!!」
「うーん……じゃあ私達が水着姿とかになってきわどいポーズをした写真をフィアにあげればいいんじゃないかな? そうすれば少なくともフィアがそういう本を読まなくなるだろうし」
「は、はいぃっ!?」
とんでもない提案をするナナに、シエルは当然の如く素っ頓狂な声を上げた。
だがナナの目は本気であった、というかナナはそれでフィアが自分に興味を持ってくれたらいいなーっという打算的な考えがあったのだ。
もちろんちょっとは恥ずかしいと思っているが、普段から結構自分の格好はきわどいものだと半ば自覚しているナナにさほど抵抗感はない。
それに、もしフィアが喜んでくれたらそれはとっても嬉しいから……。
一方、シエルは顔を赤らめながらナナの発言に驚くと同時に、一考を巡らせていた。
(た、確かに私達のそういった写真があれば、フィアさんが他の女性の身体に興味を抱く可能性は低くなりますし、何より私の身体に興味を持ってくれる可能性も……って、私の身体に興味を持ってもらうってなんですか!?)
心の中でセルフツッコミをしつつ、うんうんと考えるシエル。
恥ずかしいという羞恥心と、自分に興味を持ってほしいという乙女心が、彼女の中で激しい戦いを繰り広げていく。
彼女は普段の服装からもあまり露出をするのを好まない、だというのに水着姿になってしかもそれを撮った写真をフィアに譲るなど彼女にとって大冒険に等しいわけで。
「フィア、水着はどんなデザインがいい? それとしてほしいポーズがあったら言ってね?」
「フィアさん、私にも要望があれば遠慮なく仰ってください!!」
結局、勝ったのは乙女心だった。
困惑するフィアに食いついていくシエルとナナ。
そんな光景を見て、すっかり忘れ去れていた三馬鹿達は、よく理解できない敗北感を味わっていたがどうでもいいので割愛する。
『――ちくしょおおおおおおおおっ、結局最後はモテ男が美味しい思いをするんだああああああああっ!!!!』
「フッ……フィア、羨ましいなあ……」
――その後、フィアが2人の少女から手作りの写真集を貰ったのは、また別の話。
To.Be.Continued...
……こういう話だと割と早く書けてしまうのは、一体何故なのだろうか。
きっと作者が色々と末期だからだろう、悪い意味で。
導入編は次回で終わりその次からはレイジバースト編に入ります。
最後まで読んでくださりありがとうございました、楽しんでいただけたのならば幸いに思います。