神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

203 / 250
今回からRB編に向けての導入編を開始します。
導入編といってもゲームでいう「キュウビ編」と小話をいくつか投稿するといった内容ですが。

楽しんでいただければ幸いです。


第4部導入編 ~終わらない戦いへ~
第4部導入編捕喰170 ~ソーマ博士とシオ~


『――討伐対象、沈黙しました。素晴らしい戦果ですね』

「ううん。ヒバリもお疲れ様」

 

荒野が広がる、外の世界。

既に荒廃したビル群が広がる中で、1人の少年が化物の死骸に囲まれたまま通信越しに会話を進めていた。

少年の名はフィア・エグフィード、そして化物の名は八百万の神々の名からとったアラガミ。

彼は神を喰らうものと呼ばれるゴッドイーターであり、今日も力無き人々を守るために神機と呼ばれる武器を持って戦っていた。

 

『あっ……』

「? ヒバリ、どうしたの?」

『その……第003サテライト拠点付近に感応種が出現しまして、現場には感応種と戦えない神機使いしか……』

「了解。そのまま現場に急行するよ、ヘリには第003サテライト拠点付近に移動を開始してって伝えてくれる?」

『わかりました、無理はしないでください!!』

 

ヒバリの言葉にわかってると短く返しながら、フィアは全速力で地を蹴った。

通常のゴッドイーターを上回る身体能力をフルに発揮し、疾風の如き速さで彼は現場へと向かう。

その途中、走りながらフィアはある方向へと視線を向けた。

そこにあるのは、強大な塔のような樹――“螺旋の樹”と呼ばれるものだった。

……あの中では、未だに“終末捕喰”が行われ続け、フィア達にとって大切な仲間であり彼にとっては兄のような存在が戦い続けている。

彼はこちら側を任せたと言った、故に彼の意志を継ぐために戦い続けなければ。

胸に新たな決意を抱きながら、フィアは今日も戦場を駆け抜ける。

 

――あの戦いから、既に一ヶ月。

 

――アラガミとの戦いは、依然終わりを見せていない。

 

 

 

 

 

 

「………ん?」

 

アナグラへと帰還し、報告書を提出したフィアは……ある違和感を覚えた。

……アラガミの気配がする、それもラウエルやタマモとは違う気配だ。

まさかアラガミが極東支部に侵入したのか、そう思ったがもしそうならばとうの昔に騒ぎになっているだろう。

では何だというのか、首を傾げるフィアの前に、その気配の正体が近づいてきた。

 

「よっ!!」

「…………」

 

右手を挙げ、にこやかな笑顔で挨拶をしてきたのは……見慣れぬ少女であった。

やや病的とも思える白い肌、その身に纏うのは純白のドレスのような衣服。

雪のように白い髪は後ろでポニーテールにし、浮かべている笑みはまるで小動物のように可愛らしく無邪気なものだった。

美少女と認識される容姿を持つ少女だが、それよりもフィアは気になる事があった。

 

「……君も、アラガミ?」

「そうだよー。わたしは“シオ”っていうの、カズキやアリサから聞いた事ないかー?」

「シオ……」

 

その名を聞いて、フィアは驚きを見せる。 

シオ、その少女の名はカズキから聞いていた。

アラガミの少女であり、かつてカズキと同じく“特異点”であった少女。

今はカズキの友人であり彼女の保護者のような青年と共にこの極東を離れていたと聞いていたが……。

 

「ねえねえフィア、今時間あるー?」

「えっ、うん、あるけど……」

「よし、じゃあついてきて!!」

 

言うやいなや、シオはフィアの右手を掴み歩き始めてしまう。

そのままエレベーターへと乗り込み、向かった先は……サカキの研究室。

ノックはおろかインターホンすら鳴らさずに扉を開くシオ、中にはこの部屋の主であるサカキ…ではなく、褐色の肌を持つ青年がめまぐるしくコンソールを操作していた。

扉が開いても青年からの反応は返って来ない、どうやらよほど集中しているようだ。

だというのに、シオは構わず青年へと無駄に大きな声で話しかけてしまった。

 

「ソーマー!! つれてきたぞー!!!」

「………ん? ああ、シオ……悪かったな、いつ来てた?」

「今だよー、もー……ソーマはすぐそうやって周りが見えなくなるんだからー」

「悪かったと言った………お前も来ていたのか」

「うん。えっと、ソーマ・シックザール……だったっけ?」

 

名前を聞くが、うろ覚えになっているためにその口調は自信がなさそうなものだった。

何せ彼とは一度しか出会わず、少しも話していないからだ。

名前だって前にカズキから聞いていたのを、どうにか思い出した程度の認識でしかない。

しかし合っていたのか、そうだと短く返され再びソーマはコンソールを操作し始める。

 

「少し待っていてくれ、もう少しで終わる。――シオ、コイツに何か飲み物でも用意してやってくれ」

「了解ー。フィア、コーヒーでいい?」

「うん、砂糖とミルクは入れてほしい」

「わかったー、ソーマはブラックでいいー?」

「ああ、頼む」

 

近くにあったサイフォンを操作し、3人分のコーヒーを用意するシオ。

フィアとシオはミルクと砂糖がたっぷり入ったコーヒー、ソーマのはブラックだ。

暫くしてソーマも席を離れ、立ちながらコーヒーを飲み始めた。

3人の間に会話はなく、暫く沈黙が続いたが……ふと、ソーマが口を開く。

 

「……お前達が大変な時に手伝ってやれなくてすまなかったな」

「………ううん。大丈夫」

「そうか……」

「でも、シオとは違う“特異点”が生まれて……その“特異点”は、フィアの友達だったんだよね?」

「…………」

 

ズキリと、フィアの胸に小さな痛みが走る。

起きた事は戻せない、それはわかっているが……改めて思った。

もっと上手くやれば、今の結末は回避できたのではないかと。

無意味は自問だ、それがわかっても尚問いかけずにはいられない。

 

「フィア、一ついいか?」

「何?」

「お前は今、何を成し遂げようと思っている? もしよかったら訊かせてくれないか?」

「何を……」

 

コーヒーを一口飲み込んでから、フィアは心の中で今の問いを反復させた。

何を成し遂げようとしているのか、自分は何をしようとしているのか。

目を閉じ考える、が……答えは出ず、フィアは無言で首を横に振ってソーマの問いに答えを返した。

勿論ただアラガミを倒すために日々を過ごしているわけではない、けれど……この願いはまだ叶える事はできない。

だから答えは出なかった、するとソーマは一気にコーヒーを飲み干してから神機の準備をするようにフィアへと言ってきた。

 

「少し、俺の仕事に付き合ってくれるか?」

「それはいいけど……何をするの?」

「詳しい話は現地で話す。――すぐにいけるか?」

「うん……」

「わたしもわたしもー、シオもいくー!!」

「ああ、だが邪魔するなよ?」

 

わかってるよーと軽い返事を返すシオに、ソーマは小さく溜め息をつく。

そんなこんなで、フィアはソーマとシオと共にある場所へと赴いた。

そこは――かつて人類の理想郷となる筈であった人工島、“エイジス”であった。

 

「ここが……エイジス」

「ああ、かつて人類全員を収容するシェルターとして作られていたが……今は“集合フェロモン”というものを使って特定のアラガミをここにおびき寄せる、まあ巨大なトラップとして利用させてもらっている」

「それも、ソーマの研究の一環なの?」

「ああ、とはいってもまだまだだがな」

「――ソーマ、来るよ」

 

先程とは違う、無邪気さの欠片もないシオの声。 

まるで歌声のように澄みながらも、否応なしに空気を張り詰める迫力があった。

子供そのものだった彼女しか知らなかったフィアは、彼女の変化にまたしても驚いてしまう。

しかしソーマはわかったと短く返し、バスタータイプの神機“イーブルワン”を担ぎ戦闘態勢へ。

シオも神機……ではなく自身の右腕を変形させた神機のような剣を生み出し彼の後を追った。

フィアもそれに続き、中心部へと足を踏み入れた瞬間――コンゴウが三体、彼等の前に姿を現した。

 

「よし、とりあえずは成功か。――後は黙らせるだけだ」

「了解、仕掛ける………!」

 

瞬間、フィアは地を蹴りコンゴウ達へと間合いを詰めた。

聴力に優れるコンゴウ達もフィア達の姿を認識できたようだが、もう遅い。

“ニーヴェルン・クレイグ”の刀身を、真横からフルスイングで振るい放つフィア。

空気を切り裂きながら放たれたその斬撃は、コンゴウの一体の顔面を真横一文字に切り裂く。

顔の半分以上を斬られ、鮮血を撒き散らしながらコンゴウの一体は断末魔のような叫び声を上げた。

すかさず別のコンゴウへと攻撃を仕掛けようとしたフィアであったが、その時には既に他の二体のコンゴウが彼に向かって攻撃を仕掛けていた。

丸太のように太く逞しい豪腕から繰り出される拳の一撃、まともに受ければ致命傷は必至。

だが全力の一撃を放ったフィアに回避する余裕は存在しない、なので彼は敢えてこの場で立ち止まり装甲を展開。

 

「っ」

 

シールドにコンゴウ二体の拳が叩き込まれ、凄まじい衝撃がフィアの身体を襲う。

顔をしかめつつ歯を食いしばり、フィアはしっかりとその一撃を受け、その隙にソーマが動いた。

 

「くたばれ………!」

 

無慈悲な言葉を放ちながら、上段から神機の刀身を振り下ろすソーマ。

巨大な刀身がコンゴウの身体に深々と突き刺さり、刃の半分以上が相手の身体に食い込んでしまった。

凄まじい一撃だ、パワーだけならば先程の自分以上はあるとフィアは瞬時に理解する。

第一世代、旧型と呼ばれる神機使いとは思えない破壊力だ、さすがかつてカズキと肩を並べ最前線で戦っていたというだけはある。

しかしソーマの一撃を受けてもコンゴウは死に至っておらず、そればかりか反撃しようと背中のパイプ器官から風の塊を彼に向かって撃ち込もうとして――その器官に雷属性の銃撃が叩き込まれた。

見るとシオの右腕が神機の銃形態のように変形していた、どうやら彼女は第二世代と同じように剣と銃の二つの能力を自由に扱えるらしい。

 

「ゴオオオオオオオッ!!!」

 

三体目のコンゴウがシオに迫る。

けれどシオは慌てず騒がず、右腕を剣に変え――口元に笑みを浮かべた。

可憐で純粋な、けれど見ていると身体が震えてしまうような冷たさも孕んでいる笑み。

その笑みを浮かべたまま、シオは右腕を振るった。

 

「ッ、ギャギャ………ッ!?」

 

コンゴウの口から、悲鳴のような声が放たれる。

だが無理もあるまい、目の前の小柄な少女によってコンゴウの身体には一息で五つの傷が刻まれたのだから。

ショートタイプに似た刀身故か、シオの斬撃は速かった。

しかしただ速いだけではない、破壊力も速度もフィアの想像を遥かに超えた凄まじいものだった。

 

(……この2人、本当に強い)

 

比較的討伐が簡単と言われるコンゴウとはいえ、こうもあっさり圧倒するなど並の神機使いでは不可能だ。

頼もしい存在が帰ってきてくれた、その事実にフィアは口元に笑みを浮かべつつ――勝負を決めるために口を開く。

 

「ソーマ、シオ、コンゴウ達を一箇所に集めた後後退して!!」

「おー? 了解だぞー!!」

「ああ、任せろ」

 

フィアの指示を聞き、ソーマとシオはコンゴウ達を一箇所に集めてから後方へと移動する。

その隙にフィアは神機を銃形態に変え、砲身をコンゴウ達へと向け“ブラッドバレッド”を放った。

放たれたのは光の球、それがコンゴウの一体に触れた瞬間――爆発が起こった。

しかも一発だけではない、まるで連鎖するかのように爆発は複数回起こり、更に他のコンゴウ達の肉体からも爆発が巻き起こり始める。

――ブラッドバレッド【エクスプロージョン・ノヴァ】。

一発のOP消費量は大きいものの、広範囲に高威力の爆発を連鎖的に起こす威力重視のブラッドバレッドだ。

そして爆発が終わった時には、コンゴウの肉体は跡形もなく消滅してしまった。

が、コアまで消滅してしまった事はあきらかにやり過ぎだと、フィアは反省する。

 

「あらら……コアも吹っ飛んじゃった」

「……凄いもんだな、それがブラッドバレッドか?」

「うん、けどやり過ぎちゃったな……ごめん」

「気にするな、別にコンゴウのコアを集めているわけじゃない。――もしも時間があるのなら、今後も俺の研究を手伝ってくれると助かる」

「うん、僕で役に立つなら」

「助かる、ありがとな」

「ソーマー、そろそろ帰ろー? お腹空いてきたー」

「わかったわかった。だから引っ付くな」

 

とは言いながらも、腕に抱きついてきたシオを引き剥がそうとはせず、そのまま歩き始めるソーマ。

それを見て、フィアはある問いかけをして。

 

「ソーマとシオって、恋人同士なの?」

「…………」

「いてっ……」

 

無言でソーマに軽く拳骨を頭に受けてしまったのだった。

 

 

 

 

To.Be.Continued...




シオちゃんも成長しているので、一人称が変わってたり口調が大人っぽくなってたりします。
そこら辺の変更は皆様のひろーい心で許していただければ幸いかと。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。