神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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ジュリウスを連れ戻すため、終末捕喰を止めるために戦うフィア達。
そして、遂に2つの終末捕喰が混ざり合い……彼等はずっと望んでいた人物との再会を果たす。


第3部エピローグ ~戦いは続く~

「―――フィア、起きてフィア!!」

「フィアさん!!」

「………んっ………」

 

聞き慣れた声を耳に入れ、フィアは閉じていた瞼をゆっくりと開いた。

最初に映ったのは自分を見てほっとしているシエルとナナの2人、周囲を見渡すとギルとロミオ、そしてユノも同様の表情を浮かべていた。

……どうやら気を失っていたらしい、先程まで何をしていたのか思い出しながらフィアは身体を起こし、自分達が見知らぬ場所に居る事に気がついた。

辺りは殺風景な景色だけが広がり、けれど自分達の周りだけ花畑が広がっている。

当然ここは先程まで自分達が居たフライアではない、そして同時に……ここは現実でもなかった。

 

「……ここ、一体なんだよ」

「わかりません。先程までフライアに居たのに……」

「…………」

 

見知らぬ土地、見慣れぬ光景。

その2つを目の当たりにしても、フィアは不思議と落ち着いていた。

そして、ここが一体何なのかを当たり前のように理解して……口を開く。

 

「――ここは、ジュリウスと僕達の意識が混濁した世界。正確にはジュリウスとユノの終末捕喰が混ざり合った際に発生した精神世界、とでも言えばいいのかな?」

「…………えっと、ごめんフィア。ちょっとよくわからない」

 

いきなりそんな事を言われても、ナナでなくても困惑してしまう。

けれどフィアとしてもそんな説明しかできないのだ、この現象は起こせるべくして起こせるものではない。

もう少し噛み砕いた説明をしようと考え始めるフィアだったが……彼は突然顔を上げ、前方へと視線を向ける。

それにつられ他の者達も同じ場所へと視線を向け、会いたかった来訪者を迎え入れた。

 

「ジュリウス!!!」

「…………」

 

こちらに向かって歩いてきたのは、いつもの服装に身を包み愛用の神機を持った青年、ジュリウス。

久しぶりに会えた、けれどまったく変わっていない彼の外見に全員の表情が綻ぶ。

おもわず駆け寄ろうとして――見えない壁のようなものに阻まれてしまった。

まるでジュリウスの元へは絶対に行かせないと言わんばかりの壁に、ブラッド達が驚愕する中、ジュリウスは口を開く。

 

「……まずは謝らせてほしい。すまないみんな、謝って済む問題ではないが……本当にすまなかった」

「そ、そんな事どうだっていいよ! ジュリウス、一緒に帰ろう?」

 

壁に阻まれ、彼の元へと駆け寄れないもどかしさに歯噛みしつつ、ナナは自分達の願いを口にする。

しかし、ジュリウスはその願いに嬉しそうな笑みを浮かべつつも……やんわりと拒否の意を示す。

 

「それはできない。ここで特異点であるオレが残らなければ終末捕喰が発生してしまう……そうなればどうなるのか、わかるな?」

「だ、ダメだ!! お前をここに残すなんて絶対に認めないからな!!」

「ロミオ……」

「オレは、オレ達はお前を連れ戻すためにここまで来たんだ。それなのにこんな……こんな結末、認められるかよ!!」

 

そうだ、認められるわけがないのは道理であった。

ロミオの言葉に肯定するように、他の者達も同意するように頷きを見せる。

……だが、現実は都合の良い夢物語ではないのだ。

 

「ありがとうみんな、だがみんなとてわかっているだろう? それ以外に起こってしまった終末捕喰を防ぐ方法は無いと」

『…………』

 

その問いに、誰も反論を返す事はできなかった。

自分達の願いは既に単なる我儘に成り下がっている、たとえここで強引にジュリウスをこちら側に連れ戻したとしても……世界は終わりを迎えてしまう。

わかっている、誰もが口にしないがこうなるのは彼に会った瞬間に理解してしまった。

だがそれでも、それでもだ――認めたくなどなかった。

 

「な、なあフィア。本当にこれ以外の方法は無いのかよ!? ジュリウスを救い出して終末捕喰も止める方法は、無いのかよ!?」

「…………」

「お前ならなんとかできないか!? 沢山の奇跡を起こしてオレ達を救ってくれたお前なら、なんとかできないのかよ!?」

 

縋るような声で、ロミオはフィアに詰め寄っていく。

この行為は無意味なもの、寧ろフィアの迷惑になるだけのガキみたいな醜悪な行為だ。

それでもロミオは問いたかった、無駄な希望に縋りたかった。

そしてそれは他の者達も同じであり、またフィアも……そんなありもしない希望に縋りたかった。

このような結末なんか認めたくない、彼を連れ戻してまたブラッドとしてアラガミと戦い続けていく。

そんな未来が欲しいと願った、それなのに現実はあまりにも残酷で……自分達の無力さを思い知らせていくだけ。

 

「―――フィア」

「っ、ジュリウス……」

 

自分に向かって手を翳すジュリウスを見て、フィアも同じように手を伸ばしていく。

見えない壁に阻まれながらも、フィアとジュリウスは互いに手を合わせる。

瞬間、ジュリウスの想いが、不器用で優しい彼の強い想いがフィアの中に流れ込んできた。

後を頼むと、俺はこっちで頑張るからお前達はそっちで頑張ってほしいと。

そんな願いが流れ込んできて、フィアは気がついたらその瞳から涙を流しながらジュリウスを見つめていた。

 

「……お前は本当に優しい子だな。ずっと守ってやらねばならない弟のように思えてきたが……本当にそうだったらと、本気で思いたくなった」

「ジュリウス………!」

「これからも戦いは続くだろう。だから……お前は仲間達と共に力を合わせて、力無き人達の為にその力を振るってほしい」

「…………」

「お前達も、これからもフィアを支え守ってほしい。これは命令ではなく……俺の願いだ」

「あ、ああ………っ」

 

耐え切れず、涙を流し嗚咽を漏らしながらしゃがみ込んでしまうシエル。

そんなシエルを支えながらも、ナナの瞳からは大粒の涙が零れ落ちていた。

ギルは視線を逸らし、けれどその肩は大きく震えている。

そしてロミオは……まるで小さな子供のように泣きながらも、懸命に表情を保とうしていた。

ブラッド達の優しい心を感じ取りながら、ジュリウスはユノへと視線を向ける。

互いに見つめ合う2人、お互いに何を話せばいいのか、何を告げればいいのかわからず無言のまま時が過ぎていく。

 

「………ユノ」

先に沈黙を破ったのは、ジュリウス。

 

「………なに? ジュリウス」

「前に、君に対して酷い物言いをしてしまった時があったが……許してほしい」

「……ううん。気にしてないよ、だってジュリウスは本当に不器用で…優しい人だってわかってたから」

「ユノ……」

「…………っ」

 

堪えていた涙が、ユノの瞳からも零れ落ちる。

流れてはダメ、自分のこんな顔を見たら彼はきっと悲しむ。

そう自分に言い聞かせても、ユノは流れ出る涙を止める事ができなかった。

……離れたくない、こんな別れ方なんてしたくない。

まだユノは彼に伝えていない事がある、それなのにこんな別れ方をしなければならないなど……。

 

「――ありがとう、ユノ」

「…………」

「君に会えてよかった、こんな俺にまで君の優しさを向けてくれて……本当に感謝している。本当に……ありがとう」

「ジュリウス!!」

 

感情を爆発させ、ユノはジュリウスに迫った。

だが見えない壁がそれを許さない、悔しそうにその壁を両手で叩きながらユノは涙を流し続けた。

――どれくらい、そうしていただろうか。

気がつくと、ジュリウス側の空間にモノクロのアラガミが多数現れていた。

それらに視線を向けて、ジュリウスは神機を持っていた手に力を込める。

 

「今日から俺の戦う場所はここだ……みんなも自分の持ち場へ、自分のやるべき事、成すべき事を…果たしてほしい」

「…………」

 

止められない。

今の彼を止める事は許されないと、全員が当たり前のように理解した。

彼の決意は変えられない、変える事はもうできない。

 

だから――フィアは新たな願いをジュリウスに告げる。

 

「―――僕は、僕達は絶対に諦めないから」

「フィア……?」

「今の僕達じゃジュリウスをここから連れ戻す事はできない。だから……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「―――――」

「それまでは、辛い道のりだけど……待っていてほしい」

 

それは、フィアの、ブラッド達の新たな願いと決意の言葉。

あまりにも険しく、到達するには困難な道。

それでも、今度こそ諦めたくなかった。

いつになるかはわからない、もしかしたら一生辿り着けない道かもしれない。

だけど必ず辿り着いてみせる、大切な仲間と…もう一度歩むために。

 

「……………ああ、待っている。それまでは…こっちの事は任せてくれ」

「……うん」

 

ジュリウスから背を向け、自分達の帰るべき世界へと向かって歩き始めるフィア。

もう振り返らない、振り返る事などしない。

今この瞬間から、彼とジュリウスの歩む道は違えた。

だからもう一度道が交わるまでは……決して振り返る事など許されない。

……涙が溢れても、振り返る事はせず。

 

 

「――また会おうフィア、ユノ、そして……俺を信じてくれた、大切な仲間達」

 

 

ジュリウスの、そんな言葉を聞いた瞬間。

フィア達はこの世界から旅立ち、帰るべき場所へと戻っていく。

新たな決意、新たな願いを、叶えるために―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――そうか、そんな事があったんだ」

「……信じるんだ。そんなにあっさりと」

「似たような体験をした事があるからね、僕とアリサは」

そう言って、カズキは笑う。

ここはアナグラの医務室、個室を与えられたカズキの部屋の中で、フィアはフライアでの出来事を彼に話していた。

 

 

 

――あの戦いから、一週間という時が流れていた。

 

 

 

ジュリウスとの別れを遂げ、現実の世界へと戻ってきた彼等を待っていたのは、“螺旋の樹”と命名された巨大な塔のような物質であった。

特異点となったジュリウスとブラッドとユノ、そして世界中の人達が起動させた終末捕喰が喰らい合いを続け、あのようなものができあがったらしい。

あの中では終末捕喰が続いており、この先世界にどのような影響を及ぼすのか、それは誰にもわからない。

サカキを始めとした研究者達が調査を始めているようだが、解析はまったくと言っていいほど進んではいない。

だが世界を一時的とはいえ終末捕喰から守る事は成功できた、この均衡がいつ崩れるかはわからないが、今は自分たちのできる事をすればいいとはサカキの弁である。

なのでフィア達は今も極東支部にてアラガミとの戦いを続けている、それが今の自分達にできる最善の事だと信じて。

 

あれだけのものができてもアラガミの脅威は変わらず続いている、だが解決した脅威も存在していた。

黒蛛病、そしてそれを齎す赤い雨が螺旋の樹が発生した後に観測される事は無くなってくれた、おそらくジュリウスという特異点がまだこの世界に存在しているからだろう。

それによりユノを初めとした黒蛛病患者は、既にその殆どが日常生活に戻る事を許されている。

……ユノは病気が治るやいなやアナグラを離れ、今まで以上に精力的な活動を続けていた。

鬼気迫る勢いだったと前にサツキから聞いたが、同時に前とは違う活力を得たとも言っていたので心配する事はないだろう。

 

「――あ、そろそろ行かないと。任務の時間だ」

「フィア、無理したらダメだよ?」

「うん。――僕は1人で生きてるわけじゃない、僕を必要としてくれる人が居る限り…僕に生きていてほしいと願う人が居る限り、僕はもう自分の命を疎かにしないよ」

「………それがわかっているなら、もう大丈夫だね」

 

そう言って微笑むカズキにフィアも微笑みを返し、医務室を後にする。

……彼もあの戦いが終わった後、変わったなとカズキは思った。

まだ少し無理をする所はあるけれど、前のように自分を蔑ろにする面は無くなり、歳相応の態度を見せるようにもなってくれた。

良い意味で成長を遂げ、そしてその成長はまだ続いていく事あろう。

自分もうかうかしていられないな、カズキはそう思いながら再生を続けている左腕と右足に視線を向けた。

 

(戦いはまだ終わらない、いつまたアンノウンのような存在が現れるとも限らない……)

 

だからこそ、今よりも更に力を磨かなければならない。

早く治ってくれよ、己のレトロオラクル細胞にそう告げながら、カズキはベッドに横たわったのだった。

 

 

 

 

「…………」

 

夕焼けが、フィアの身体を照らしていく。

彼の周りには多数のアラガミの亡骸が倒れ伏しており、少しずつ霧散を始めている。

既にコアを抜き取ったアラガミに視線を向ける必要は無く、フィアはある一点のみを見つめていた。

彼の視界にあるのは、夕日に照らされた“螺旋の樹”。

あの中では、今でもジュリウスが戦いを続け終末捕喰を抑えてくれているだろう。

……あれだけのものが世界に現れても、アラガミの脅威は消えず世界は変わらず危ういバランスの元どうにか保っている。

 

(ジュリウス……)

 

先の見えぬ世界、安心できる未来が本当に訪れるのかは誰にもわからない。

だからこそフィアはこれからも戦い続ける、それが自分のできる事だから。

 

『フィアー、そっちは任務終わったー?』

「ナナ? 終わったよ、そっちは?」

『こっちも終わってシエルちゃんと帰る所だよー、帰ったら一緒に晩御飯食べよー?』

『フィアさん、お待ちしていますので』

「うん、わかったよ」

 

通信を切る、するとヘリの音が聞こえてきた。

周囲の安全を確認してから高度を下げるヘリ、それに乗り込みフィアはアナグラへと帰還する。

もう一度“螺旋の樹”へと視線を向けるフィア、暫く見つめ続け……フィアは目を閉じヘリの扉を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

――世界は、今も変わらず存在している。

 

――けれど人々に対する脅威は消えず、これからもフィア達の戦いは続いていく。

 

――物語はまだ終わらない、終わりを見せない。

 

――彼等の未来、そして彼等が生きる未来がどんな結末を迎えるのか。

 

――それはまだ、誰にもわからず。

 

――けれど、そう遠くない未来で新たな戦いが始まるのだが。

 

――それに気づく者は、まだ誰も居ない。

 

 

 

 

Next.New.Stage...?




最後まで読んでくださってありがとうございました。
このような作品でも、楽しんでいただけたのなら嬉しく思います。

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