神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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未来がどうなるのか、どうなってしまうのか、それは誰にもわからない。
だがまだこの世界で生きていたい、その願いを叶えるためにブラッド達は最後の戦いへと赴く………。

果たして、世界の未来は………、


第3部捕喰169 ~交差する終末捕喰~

――フライアの通路を、無言のまま歩くフィア達。

 

彼等の傍には誰もおらず、靴音だけが静寂を掻き消していた。

神機を持ちながら歩を進める彼等の表情は、緊張と不安…そして隠しきれぬ恐怖の色が。

各々が浮かべそうになる最悪の未来を振り払いながら、ただひたすら歩を進めていく。

向かう先は神機保管庫であった空間、既にそこは多くの樹のようなアラガミ細胞の塊に支配されており、その中心には彼等が救いたいと願った青年が待っている。

誰も口を開かずに足を進め……遂に目的の場所へと辿り着いた。

 

金属製の巨大な門が、音を立てながら開く。

先に広がる光景はあの時と同じ、部屋全体をあの樹のようなものが纏わりついている。

だがそれらが動く事はなく、フィア達は更に歩を進め中央へ。

「………?」

中央のフロアに辿り着いた瞬間、フィア達はある違和感に気づく。

 

――ジュリウスの姿が、見当たらない。

 

あの時確かに見た、樹の中央で磔にされているジュリウスの姿を。

しかしその場所に彼はおらず、代わりに――フィアはある気配を感じ取る。

 

『聞こえるかいブラッドのみんな、すぐに終末捕喰の準備を――』

「待ってくださいサカキ博士、ジュリウスの姿が――」

「―――来る」

「えっ―――」

 

フィアの呟きを他のブラッド達が耳に入れた瞬間、()()は上空から姿を現した。

現れたのは、巨人を思わせる謎の生物。

背中には剣状の物体が浮かびその生物の周りを囲むように浮いている。

見た事のない生物、しかしフィア達はそれがアラガミの一種だとすぐさま理解した。

そして――その巨体の中央には、あの時と同じように磔にされたジュリウスの姿があった。

 

「ジュリウス……!?」

「…………」

 

明確な殺気、それが目の前の生物から放たれている。

それを理解したフィアは、一歩前に出て変わり果てたジュリウスに声を掛けた。

 

「……少し痛いかもしれないけど、我慢してねジュリウス」

「フィアさん……」

「強引に足止めをするしかない。僕達の役目はユノの援護と……ジュリウスを止める事だ、多少手荒になるけど……やるしかない」

 

アスガルズを両手で持ち替え身構えるフィア。

一方、他のブラッド達は変わり果てたジュリウスを前に躊躇いが生まれてしまっていた。

フィアの言い分はわかる、だがもし目の前の相手を倒してしまったら……ジュリウスがどうなるのかわからない。

もしかしたら彼の命を奪う結果になるかもしれない――そんな考えが頭に浮かび、誰もが躊躇う中で。

 

「――やり過ぎんなよ、フィア」

最初に動いたのは、ロミオであった。

 

「ロミオ先輩……」

「ここで何もしないわけにはいかねえだろ。ここで何もしなかったら……全部無くなっちまうんだ。

 オレ達の世界も、未来も、ジュリウスの想いだって全部。だったらやれるだけの事は全部やってやる……ジュリウスをボコボコにしてでも止めてやらあっ!!!」

 

ロミオの瞳に映る、強い決意と覚悟の色。

その瞳と言葉を受けて、他のブラッド達も己が武器を構え始めた。

皆の戦う決意に感謝しつつ、フィアはインカムでユノへと連絡をとった。

 

「ユノ、こっちはどうにか足止めをするから。すぐにそっちの準備をお願い」

『うん、わかった!!』

「――フィア、来るぞ!!」

「っ」

 

ギルの声に反応し、即座にフィアは横に跳んだ。

刹那、先程まで彼等が立っていた地面に、ジュリウスの背中に浮かんでいる剣が降り注ぎ大穴が開いた。

向けられていた殺気が遂に攻撃を開始した、だからフィア達もすぐに動きを見せる。

 

「ジュリウス……必ず君を、連れて帰る!!」

 

放たれるは願いの言葉、フィア達はジュリウスを倒すのではなく連れ戻す事だけを願っている。

その願いを叶えるために、そしてこの世界で生き続けるために、彼等は最後の戦いへと赴く。

誰一人欠けずに、未来を生きていくために―――

 

 

 

 

 

「――うおおおおおっ!!!」

「――おらああああっ!!!」

 

最後の戦いが、始まった。

初撃はギルとロミオ、真っ直ぐ小細工無しでジュリウスへと向かっていく。

繰り出される大振りの斬撃と神速の突き、風を切り裂きながら放たれたそれらの一撃は迷う事無くジュリウスの身体へと直撃した。

 

『っ!!?』

 

固い感触と驚愕が、2人に襲い掛かった。

ギルとロミオの一撃は確かに直撃した、しかしその一撃はジュリウスの肉体を傷つける事はできず、弾かれてしまう。

そんな馬鹿な、いくら強靭な肉体を持とうとも神機の一撃を受けて弾くなど悪い夢だ。

一部の例外があるものの、それはあくまで例外であり、2人がおもわずその場で動きを止めてしまうのは致し方ないと言えよう。

けれどそれはあまりにも愚かな行為、隙を見せる2人にジュリウスは浮かんでいる剣を全て撃ち放った。

弾丸もかくやといった速度で放たれたそれは、容易く2人の身体に風穴を開ける威力を持っている、が。

 

「させません!!!」

「どりゃあっ!!」

 

2人の前に出たナナがハンマーで迫る大部分の剣を弾き飛ばし。

遠距離から銃撃を放ったシエルが、残りの剣を対処しジュリウスに隙を作った。

見事な援護だ、それに感謝しつつフィアが動いた。

一息で数メートルもの間合いをゼロにし、アスガルズによる横薙ぎの一撃を叩き込む。

避けられる、フィアの重く鋭い一撃にも反応したジュリウスにさすがだと呟きつつ、フィアは追撃に入った。

 

巨大なヴァリアントサイズの刀身をまるでショートタイプのように振るうフィア、繰り出される三連撃は並のアラガミであるならば避ける事もできずに絶命するだろう。

それでもジュリウスには届かない、未来予知じみた反応で悉くを回避していく。

あれだけの巨体でありながら反応速度と運動性能はまさしく化け物じみている、それだけでも厄介だというのにシエルとナナの懇親の一撃を受けた剣達も再びジュリウスを守るように展開されてしまった。

フィアは一度後退…はせずにさらに踏み込んだ。

今度は上段からの一撃、威力を優先し速度を度外視した一撃だ。

当然先程よりも遅い攻撃が当たる筈も無く、容易く避けるジュリウス、だったが。

完全に避けた筈のジュリウスの肉体に一条の傷が深々と刻まれ、鮮血が舞った。

先程の大振りの一撃はフェイク、フィアの本当の狙いは大振りの一撃を放った際に発生した“飛ぶ斬撃”による攻撃だった。

 

初めてダメージを与え、一瞬とはいえジュリウスの動きが止まった。

ここでフィアは一度後方へ後退、すると同時に光の速さで撃ち込まれた銃撃がジュリウスの肉体を貫く。

ブラッドバレッド“フルーグル”の追撃により更にジュリウスの動きが止まり、その一撃が命中した時には既にギルとロミオが間合いを詰めていた。

「これなら――」

「――どうだあああああああああっ!!!」

裂帛の気合を込めて放たれた2人の必殺の一撃。

チャージグライドの力を乗せた突きは、見事ジュリウスの身体を貫き。

跳び上がりながら放たれたチャージクラッシュの一撃で、肉体の中央部分にあるコアを一閃、今までで一番大きなダメージを与える事に成功する。

 

「オォォォォォォォッ………」

「…………」

 

唸り声のようなものを上げるジュリウス。

かなり効いているようだ、だが……フィアは何か違和感を覚えていた。

確かに今のギルとロミオの一撃は強力だった、効いていないわけではないのも事実だろう。

それに対しての疑いはない、ただ、あまりにも呆気ないとフィアは思った。

アラガミ化を果たしているからこそわかる、特異点として進化したジュリウスのオラクル細胞は他のアラガミとは比べ物にならないほどに凄まじい進化を果たしている。

その事実はそのまま今のジュリウスの戦闘能力に直結する、あれだけの進化を果たした状態だというのに、こうもあっさり押し返せるなどありえるだろうか。

 

否、ありえないとフィアはすぐさま自らの疑問を否定する。

ならば何故?新たに浮かんだ疑問はしかし、ジュリウスの反撃によって中断させられた。

放たれるのは先程と同じ、彼の周りに浮かぶ剣状の物体。

単調な軌道だが、その威力はただ凄まじく掠っただけでも致命傷に陥る破壊力を持っている。

それが全部で八つ、その全てが出鱈目な軌道に撃ち放たれ続けブラッド達はたまらず後退した。

幸いにもブラッド達クラスのゴッドイーターならば回避は比較的容易だ、しかし回避はできても反撃に移る余裕は無い。

 

「く、っそ……なんだよあの攻撃、これじゃあ近づけねえぞ!!」

「……あれだけの濃い密度の攻撃を放たれ続けてしまえば、銃撃も届きませんね」

「よし、ロミオ先輩。先輩が囮になってる間に私達で叩けば……」

「おいコラ、さりげなくオレに貧乏くじを引かせるな!!」

「ロミオさん、お願いします」

「えっ、ちょ、シエルさん!?」

「―――援護、お願い!!」

「っ、フィアさん!?」

 

大きく踏み込み、乱れ舞う剣達を掻い潜りながらジュリウスとの間合いを詰めていくフィア。

しかし如何に彼とて無傷というわけにはいかない、秒を待たずに彼の身体の至る所に裂傷が刻まれ鮮血が舞う。

襲い掛かる激痛を猛りで蓋をしつつ、彼は遂にジュリウスとの間合いを詰め切った。

「――おおあっ!!!」

右腕のみで放たれるアスガルズによる一撃。

相手を両断する勢いで放たれたそれは、ジュリウスの強靭な肉体を容易く貫通させた。

すかさずフィアは次の一手へ、アスガルズから手を離し柄に収めていたニーヴェルン・クレイグを抜き取る。

 

(これで……止まってくれ!!!)

 

大きすぎるダメージは、ジュリウスの身体に大きな負担を強いる事になる。

彼を絶対に連れ戻すと決めた以上、次の一撃で止めなくては叶えられない。

上記の願いを込め、フィアは懇親の力でニーヴェルン・クレイグの刃を振り下ろし――空を切った。

 

「くっ………!」

 

避けられた、しかし懇親の一撃だったために次の一撃に入る動作が間に合わず、距離を取られてしまう。

だがアスガルズの一撃が効いていたのか、目に見えてジュリウスの動きが鈍っていた。

もう少しだ、己にそう言い聞かせてもう一度踏み込もうとして―――()()()が遂に訪れてしまう。

 

『偏食場の乱れが発生!!』

「っ、来るのか………!?」

 

フランの通信を耳に入れた瞬間、フィアはすぐさま後退しブラッド達の元へ。

……来てしまったのだ、その時が。

終末捕喰が発生する、世界の終わりと始まりの儀式が……開始される!!

 

「ユノ!!」

後方へと叫ぶフィア、そこには既に美しいドレスに身を包んだ歌姫、ユノが居た。

フィアの声に頷きを返すユノ、そして――彼女は歌い始める。

未来を、世界を、そして自身の大切な人を守るために、彼女は己が魂の総てを込めて歌い始めた。

 

「僕達はユノの護衛だ!!」

『了解!!』

ユノの歌声に反応したのか、それまでおとなしかった樹が突然激しく動き始める。

それらの一部はユノへと這うように向かっていき、しかし彼女の到達する前にブラッド達が止めていく。

――だが。

 

 

(……恐い、こわ、い……)

 

歌いながら、ユノは今にも自分の心が折れそうになってしまっていた。

覚悟はしてきた、決意だってある、だがそれでも……恐怖と不安は消えてくれない。

如何に歌姫と呼ばれている彼女とて、まだ少女の域を超えていない。

口には出さないが恐くて恐くて堪らないのだ、できる事ならば今すぐこのまま恥も外見を投げ捨てて逃げてしまいたい。

声が震える、口の中はとっくにカラカラ、我慢しているが瞳には涙すら溜まっている。

なんという情けない姿か、自分と同じくらい、もしくは年下であるブラッド達が命を懸けているというのに、この体たらくは一体なんだ?

そう自分に言い聞かせても、一向に恐怖心がユノの中から消える事はなかった。

そしてそれは、そのまま彼女の発生させている偏食場にすら影響を与えていく。

 

『ブラッド側の偏食場、弱まっていきます!!』

「ユノさん!?」

(っ、ダメなの……? 私なんかじゃ、もう………)

「ユノ!!」

「あ………」

 

左手を、フィアに強く掴まれた。

おもわず視線を彼に向けるユノ、自分を見つめていたフィアの顔は厳しいものだった。

 

「諦めるな、まだ終わったわけじゃない!!」

「………でも、恐いの。ここまで来てこんな事を言うのはおかしいかもしれないけど……恐くて、声が震えて……」

「……わかってる。本来ならユノをこんな危険な場所に連れてくるべきじゃないって事は、恐いのだって当たり前だってわかってる。でもこのままじゃ全て終わってしまうんだ、何もかも全部」

「…………」

 

ああ、本当に情けない。

こんな状況だというのに奮い立てない自分が、歌えない自分がもどかしい。

こうしている間にもジュリウスの偏食場は強くなる一方、このままでは自分達は消えてしまう。

その恐怖心が、ますますユノの心を追い詰めていく。

自分が歌わなければ世界が終わる、その事実を突きつけられて少女である彼女がどうして立ち上がれるというのか。

誰も彼女を責める事などできはしない、こうして―――世界は結局終わりを迎え。

 

『――ユノ、聞こえる? 聞こえるなら耳を澄ませてみて!!』

 

サツキの通信が、彼女の耳に入り。

それと同時に、聞き覚えのある……自分の持ち歌である『光のアリア』が聞こえてきた。

無論、この歌声は自分のものではない。

それも1人や2人ではなく、数え切れない人々の声が聞こえてくる。

 

『世界中の人達が歌っているのよ、わかるでしょう!?』

「ぁ………」

 

ああ、わかるとも、これだけの人々の声を聞けばサツキの言葉をよく理解できる。

……そこで漸く、ユノはこの恐怖心や不安と戦っているのは自分だけではないと気がつけた。

みんな恐くて不安で逃げ出したい、でも勇気を振り絞って前を向いて歌ってくれている。

ブラッドを、極東支部を、そして自分を信じているから。

きっと終末捕喰を止めてくれると信じ願っているから、みんな歌ってくれているのだ。

ああ、それのなんて力強い事か。

 

心が満たされる、右手はとっくに握り拳になっていた。

大きく深呼吸を繰り返し、自分のリズムをゆっくりと取り戻していく。

人の想いは小さく儚く、それでもこんなにも綺麗で輝く事ができる。

この尊いものを失いたくない、失うわけにはいかない、だから。

 

(私は、私のできる事を、望む事を……最後まで貫く!!)

 

満たされた心、決意に満ちた瞳には既に恐怖と不安の色は微塵も無い。

彼女は再び歌い始める、人々の想いを乗せて、そして自らの願いを叶えるために。

その歌声はただひたすらに澄みきったものであり、おもわずブラッド達は戦いの最中だというのに見惚れてしまっていた。

葦原ユノという少女の全て、そして世界中の人々の想いが込められた歌は、暖かく強大な偏食場を一瞬で形成。

ジュリウスの偏食場とぶつかり合い、絡み合い、拮抗していく。

 

(……みんなの想いが、フライアに集まっていく)

 

それを、フィアも感じ取っていた。

暖かくて安心を覚える人の想い、それが際限なく集まるこの現象は美しかった。

だがいつまでもそれに感動している場合ではない、自分にはやる事があるのだと、フィアは『血の力』を解放する。

人々の意志の力を一箇所に集め、『喚起』の力で増幅しユノの力に変えていかなくては。

 

(――マリア、ケイト、君達の“想い”も貸してくれ!!)

 

―――うん、わかったよフィア!!

―――頑張れ少年少女達、なーんてね!!

 

 

 

 

――光が、広がっていく。

 

ジュリウスとユノの偏食場が、完全に混ざり合った瞬間、全てを真白に染め上げる光が溢れ出した。

ブラッド達全員はおもわず腕で目を覆い、フィアとユノはその光を一身に受け止めて………。

 

 

 

 

To.Be.Continued...




……次回、エピローグです。
かなり展開が速いかもしれませんが、私の実力ではダラダラと戦いが長引くだけだったのでこうなりました、ご了承ください。

それでは次回、第3部ラストをお楽しみに!!!

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