たとえどんなに馬鹿げた事でも、彼等は本気で取り組んでいく。
そんな彼等のちょっと日常を見てみよう……。
「――耳掻きって、いいよなあ」
『耳掻き?』
突然のハルオミの言葉に、彼の傍で休憩していたコウタとロミオとエリックの3人は、首を傾げた。
いきなり何を言い出すのだろうこの人は、そう思いつつ3人は耳掻きに対するそれぞれの感想を口にする。
「小さい頃、まだ自分でできなかった時は母さんにやられてたけど……痛かったなあ」
「そうそう、子供心に恐いと思ったもんだよ。情けない話だけど、ボクは終わった後涙目になってエリナにからかわれたっけ……」
「わかりますわかります。アレって結構恐いですよね」
懐かしさを感じつつ、3人は談笑を続けていく。
「――駄目だお前達は!!」
『ファッ!?』
しかし、そんな感想を求めていたわけではないハルオミの奇声によって、3人は素っ頓狂な声を出してしまった。
「情けない……お前ら、それでも男か!?」
「……いきなりなんですか?」
「耳掻きと聞いてそんな話しかできないとは……おじさん、泣けてくる!」
よよよと泣き真似をするハルオミ、それを見て3人はイラッとしたがそれはさておき。
「じゃあハルさんは、耳掻きと聞いて一体どんな話をするんです?」
「フッ、決まってるだろ? 耳掻きはな……男にとって浪漫の一つなんだよ」
『…………』
何言ってんだこのオッサンは、3人は同時にそう思った。
そんな3人にわざとらしく肩を竦めてから、ハルオミは話を続けた。
「本当にわかってねえなあ。よく考えてみろ、可愛い女の子に耳掻きをされたら……お前ら、どうする?」
「どうするって、仰っている意味が」
「そ、そうか……」
「そういう事だったのか………!」
「君達はわかったのかい?」
キョトンとするエリックとは違い、コウタとロミオはその言葉の真意を察しショックを受けている。
まるで自分達が本当に愚かだったと悔やむように、拳を握りしめ悔しそうに視線を俯かせていた。
もしかして、自分は何もわからない愚か者だったのだろうか、2人を見てエリックはそう思うが…すぐに違うとハルオミが次に放った言葉で理解する。
「そうだ。可愛い女の子に耳掻きされる……それは、合法的に女の子にいろいろな事ができるって事だ!!」
「…………」
本当に駄目だこのオッサンは、改めてエリックはそう思った。
「お、おおおお………!」
「さ、流石ハルさん。オレ達が気づかない事に気づけるなんて………!」
しかしコウタとロミオは何故か感動しており、ハルオミに向かって尊敬の眼差しを向ける始末。
この2人も駄目だと、エリックが3人に冷たい視線を向けたのは言うまでもない。
「まずは耳掻きをするために、女の子の柔らかい太股に頭を乗せるだろ? まずはその感触を楽しめる、さらに女の子は耳掻きをするのに集中するから無防備になる。
その時に横目で女の子の胸を凝視する事ができる、普段そんな事をすればセクハラ扱いされるだろうが、耳掻きというすばらしいイベントが隠れ蓑になるって寸法よ!」
「た、確かにそうだ………!」
「肌で楽しみ、目で楽しむ…こんな素晴らしいイベントの事を知らなかったなんて、オレ達はなんて無知だったんだ……」
「恥じる事はない、何故ならお前達は耳掻きの本質を理解することができた。それが成長に繋がるのさ」
「…………」
最悪である、なんだか良い感じの話をしているような雰囲気だが、堂々とセクハラできると言っているだけだ。
これ以上このエロ会話を聞いているとこっちまで莫迦になる、そう思ったエリックはさっさと退散しようと席を立った。
「エリック、わかってるなお前」
「はい……?」
「俺の話を聞いて、早速女の子に耳掻きをされに行こうとしているな?」
「そんなわけないでしょ――」
「エリックさん、流石です!!」
「……は?」
「よっしゃ、オレ達は運命共同体ですよエリックさん!!」
「えっ、あの、ちょっと……?」
ガシッと両腕をコウタとロミオに掴まれるエリック。
「ハルさん、オレ達……男を上げてきます!!」
「ちょ、ボクをこれ以上巻き込まないでくれえぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
エリックの悲しい悲鳴が、だんだんと小さくなっていく。
そんな憐れな犠牲者とアホ2人の姿を見送りつつ、ハルオミは「面白くなってきた」と言わんばかりの笑みを浮かべていた。
……やはりこのオッサン、色々な意味で駄目だったようだ。
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「――よし、じゃあ早速試してみるか」
(帰りたい……)
場所は変わり、アナグラのエントランスロビー。
コウタとロミオに連れてこられたエリックは、とにかく帰りたかった。
しかしだ、このまま自分が帰ってしまえば2人はどんな暴走行為を働くかわかったものじゃない。
御人好しで苦労人なエリックは、結局この場から去る事はできないわけで。
「おっ、ちょうどいい所にジーナさんが居るぜ!」
コウタの視線が、ロビーにあるソファーに座っているジーナへと向けられる。
休憩中なのか、彼女は黙々と読書に勤しんでいた。
「成る程、ジーナさんだったら耳掻きしてくれそうですね」
ミステリアスであり、そしてちょっと不思議な考えを持つジーナ。
だが本質は心優しい女性であり、大抵の頼まれ事は引き受けてくれる。
ロミオもそう思っているからこそ、彼女ならばこの素敵なイベントに協力してくれるだろうと思ったのだが……。
「……いや、やっぱやめとこう」
他ならぬコウタが、自ら実行を放棄してしまった。
「えっ、なんでですか? ジーナさんだったらやってくれそうですけど……」
「いや、オレもそう思ってんだけどさあ……なあ?」
「…………ああ、成る程」
2人の視線が、ジーナのある部位へと向けられる。
……見事な絶壁である、何がとは彼女の名誉の為に詳しく説明しないが絶壁である。
「しかもさ、太股もちょっと固そうじゃね?」
「あー……それは確かにあるかもしれませんね」
「どうせならもっと胸が大きな人の方がいいって絶対!」
(なんて失礼な……)
聞こえないからと、好き勝手言い出す2人にドン引きするエリック。
流石に言い過ぎだと注意しようとして……彼は何も言わず、さりげなく2人から離れた。
何故か?それは勿論……。
「――楽しそうな会話を、しているわね?」
ニッコリと、美しくそれでいて残酷な笑みを浮かべているジーナが、2人の前に現れたからである。
『――――』
2人の表情が固まる。
それと同時に流れ出すのは、冷や汗。
「太股が固いというのは否定できないけど、胸の大きな…というのは、どういう意味なのかしらね?」
「あ、いや、えっと……」
「そ、そのですね……あの……」
冷や汗を凄まじい勢いで流しながら、言い訳の言葉を必死に探す2人。
だが、ジーナはそんな滑稽な2人を見てますます笑みを深めながら。
「おぶふっ!?」
「ぼへえっ!?」
とんでもなくスナップのきいたビンタを、2人にお見舞いした。
「……そういう事をしていると、女性に愛想を尽かされてしまうから気をつけなさい?」
尤もな正論を告げてから、ジーナはその場を去っていく。
だが、今の2人は悶絶する事しかできず、ジーナの忠告を耳に入れている余裕は存在していなかった。
「…………はぁ」
そしてそんな光景を見て、エリックは深々と溜め息を吐いたのであった。
「――うん、やっぱりそう簡単にはいかないよな!」
「そうですよ。やっぱり難易度が高いイベントですねこれは!」
(懲りないなあ……)
数分後、漸く復帰した2人であったが、その頬には見事な紅葉が刻まれていた。
「コウタさん、カノンさんとかどうでしょうか?」
「むっ、確かにあのカノンちゃんならば快く引き受けてくれそうだ。あっ……でも、耳掻きを“誤射”されたらと思うと……」
「うっ………!」
「いや、彼女の誤射率が酷かったのは昔の話だと思うけど……」
確かにカノンは、この極東支部だけでなく全支部の中でダントツの誤射率を誇っていた神機使いだ。
しかし、カズキやアリサの最恐(誤字ではない)夫婦のおかげで、三年前とは比べものにならないほどに誤射が減ってくれた。
彼女の一番の被害者であったタツミが、「これで
まあ、それでも誤射が多いのは確かだし、性格が変わる所も直っていないからそう思うのも仕方のない事かもしれないが。
「――お兄ちゃん達、何してるの?」
そんな3人に声を掛けたのは、ローザとマリーと一緒に歩いていたエリナだった。
「……よし、こうなったら選り好みをしている場合じゃないな」
「は? ちょっと隊長、何の話を」
「エリナ、オレに膝枕…じゃなかった、耳掻きしてくれない?」
「はあ!? 嫌に決まってるじゃないですか!!」
「即答!?」
返事が返ってくるのに一秒も掛からなかった、エリナの返事にショックを受けるコウタ。
しかし、彼の不幸はこれで終わらない。
「コウタ君、なにエリナで妥協しようとかふざけた事をしているのかなあ?」
「いだだだだだだっ!? エリックさん、関節はそっちに曲がらないって!?」
シスコンであるエリックにとって、今の発言は当然ながら許せるものではなかった。
凄まじい形相でコウタの腕をあらぬ方向へと曲げようとするエリックに、ローザ達女性陣はポカンとしてしまう。
「ロミオ、一体何をしているんだ?」
「えっ、あー……その、ちょっとな」
適当に誤魔化そうとしたロミオであったが、今度は迫力を込めて「何をしているんだ?」とマリーに問われ、洗いざらい説明する事に。
「成る程。……お前も男だからかもしれないが、そういう事をしていると女性陣から嫌われるぞ?」
「うっ……」
「そんなに耳掻きをしてほしいのなら、わたしがしてあげるが?」
「えっ!?」
まさかの提案に驚きつつも、ロミオの口元には隠しきれない笑みが浮かんだ。
その現金な態度に苦笑しながらも、同時になんだか可愛く見えたマリーはロミオの手を掴みその場を後にしようとする。
「お父さんにやっているから痛くは無い筈だ。わかってると思うが…あまり厭らしい目で見るなよ?」
「お、おう……」
そんな会話をしつつ、その場を後にする2人。
大胆な行動に出たマリーに、ローザは感心しエリナは頬を僅かに赤らめた。
(……エリックも、耳掻きしてあげたら嬉しいのかな?)
喜んでいるロミオを見ると、ローザはそう思ってしまう。
それに彼の兄であるカズキも、時折アリサに耳掻きをしてもらっているし、その時の彼の表情はとても安らいだものだったという記憶を思い出す。
……まあ、それ以上の展開に持っていこうとした事もあるようだが、それは思い出す必要の無いものだ。
閲覧制限になりそうな回想を振り払い、ローザは未だにコウタの腕を曲げようとしているエリックに声を掛けた。
「ねえ、エリック」
「…………ん? なんだい?」
「ぐぅぅ……た、助かった……」
ローザの声でエリックの拘束が解かれ、捻じ曲げられそうだった右腕を庇いつつ彼から距離をとるコウタ。
「……耳掻き、ローザにしてもらったら嬉しい?」
「えっ!? あ、その……」
エリックの顔に赤みが帯びていく。
突然の質問に羞恥心が芽生えてしまう、だが……エリックは、自分でも驚くぐらいすんなりと自らの思いを口にした。
「――うん、嬉しいよ」
「…………」
「ボクは最初2人がこれ以上変な事をしないように見張ってただけなんだけど、君が良いのなら……やってほしいかな?」
なんて恥ずかしい事を言っているのだろうか。
そう思いつつも、エリックは今の自分の心に嘘を吐きたくないと思っていた。
そしてそれは彼だけではなく……。
「――じゃあ、ローザの部屋に行こうか?」
彼だけではなく、ローザも同じだったようだ。
「ああ、頼むよ」
「うん!」
互いにニッコリと微笑み合ってから、2人はエリナとコウタに一言告げてからその場を後にしていく。
「…………」
(ふーん……お兄ちゃんも隅に置けないなあ……)
その光景を、コウタは呆然と眺め、エリナはまるで新しい玩具を手に入れた子供のような微笑みを浮かべていた。
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「――それで、どうだったんだ?」
「…………良かったです」
「そうかそうか。そんでエリックの方は?」
「えっ、あー……まあ、悔しいですが認めざるおえないですね」
「はっはっは、そうだろそうだろ!」
後日、ラウンジにて4人は再び集まっていた。
ロミオとエリックの感想を聞いて、満足げに頷きを繰り返すハルオミ。
なんだか彼の思惑通りになってしまったが、結局耳掻きは良いものだと思ってしまったエリックは、否定する事ができなかった。
ロミオの方も、思わぬ形でこのイベントを成功してしまったが、マリーの優しい手使いや彼女の意外に豊かだった胸を思い出し顔を赤らめる。
かくして、男達の野望は珍しく成功した……かに思われたが。
「……どうしてオレばっかりこんな目に遭うんだ」
ただ1人、このイベントを失敗したコウタだけは、凄まじい程にテンションがガタ落ちしていたのは言うまでもない。
頑張れコウタ、負けるなコウタ!!
いずれ君にも春が……来るといいね。
To.Be.Continued...
難産だ!!
失礼、本当にお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
そして久しぶりの投稿がこんな内容……私、疲れているのでしょうか。
少しでも楽しんでいただければ嬉しく思います。