神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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フライア内部へと潜入捜査を行ったフィア達。
その中で彼等が見たのは、カプセルに入れられた黒蛛病患者であった。

ジュリウスによって繰り出される神機兵と、現れたアンノウン。
果たして、フィア達は勝利する事ができるのだろうか……。


第3部捕喰153 ~フライアでの激闘~

――激闘が、激しさを増していく。

 

「んん……?」

「――はあああああああああっ!!!」

 

まるで閃光のように繰り出されるフィアの斬撃。

それを、アンノウンは両手で弾き、いなし、或いは九尾の尻尾で防ぐ。

両者がぶつかり合う度に周囲の地面は削れ、砕かれ、秒単位で崩壊していく。

まさしく激闘、今の両者の間に割って入れる者はおらず、入ろうとすれば――彼等の周囲に転がっている神機兵だったガラクタと同じ末路を辿るだろう。

 

「フィア……」

「……くそっ、援護もできねえな。あれじゃあ」

他のブラッドメンバー達は、フィアとアンノウンの戦いを見守る事しかできないで居た。

既に周囲の神機兵は倒しきり、残る敵はアンノウンのみとなった。

だが、フィアと死闘を繰り広げている中を入る事はできないと、見るだけで思い知らされてしまった。

「シエルちゃん、どうにか銃撃でアンノウンだけを狙えない!?」

「……今の状態では無理です。速すぎて目で追えません」

高い射撃能力を誇るシエルでも、アンノウンだけを狙う事はできないで居た。

下手に援護をすればフィアに誤射してしまう可能性がある、もしそうなれば……アンノウンに容易く命を狩られてしまうだろう。

故に誰もが援護に入れず、ただ黙ってフィアの勝利を願う事しかできなかった。

 

「はは、はははははははっ!!」」

「っ、何が可笑しい―――!」

「面白いからに決まってるじゃないか! まさかお前がここまで強くなるとは思わなかったからね!!

 愉しい玩具が増えてくれれば、面白くて笑いたくもなる!!」

「――なら、その玩具に命を奪われても、文句は無いな!!!」

 

上段からの斬撃。

それをアンノウンは右腕で弾く――事はできず、大砲のような衝撃をその身に受けながら吹き飛ばされる。

フィアの姿が消え、彼は瞬時に吹き飛んだアンノウンの後方へと移動。

自身に向かって吹き飛んでくるアンノウンに、渾身の斬撃と叩き込んだ―――!

 

「ぎっ―――!?」

悲鳴を上げながら、アンノウンは地面へと沈む。

その衝撃によって金属片と土煙がフィア達を包み、すぐさまフィアだけがその場から飛び出してきた。

「フィア、やったな!!」

「……まだだよロミオ、こんな程度で倒せる相手じゃない」

「――よくわかってらっしゃる!!」

土煙が吹き飛ばされ、その中心からアンノウンが飛び出す。

だが予期していたフィアは追撃に移り、向かってくるアンノウンに叩き潰さんとばかりの斬撃を繰り出して。

 

「っ、か………っ!?」

彼の剣は空を切り。

同時に脇腹に衝撃と激痛が走り、フィアは吹き飛ばされながら吐血した。

「ぐ、くぁ………!」

体勢を立て直しながら、フィアは衝撃を殺し地面に着地。

「遅いよ」

「――は、ぐぅ………!?」

だがその時既に眼前にはアンノウンが迫っており、その無防備な身体に彼女の尾が三尾突き刺さった。

「ぐ――ああああっ!!」

「おお……っ!?」

そのままフィアの肉体を貫こうとしたアンノウンであったが、激昂したフィアは力任せに突き刺さっている尾を神機で弾いた。

それにより尾は彼の身体から抜かれ、すかさずフィアは間合いを詰めて横薙ぎの一撃を振るう。

「っ、ぐがが………っ!!?」

アンノウンの苦しげな声が響く。

フィアの一撃は見事アンノウンの腹部辺りを横一文字に切り裂き、鮮血を待ち散らせながら吹き飛ばした。

「はぁ…はぁ…はぁ……」

しかし、フィアの身体にも多数の傷が刻まれ、ダメージは大きい。

 

「――フィアさん、黒蛛病患者の収容が完了しました!!!」

「みんなはユノ達の援護を! 殿を務めて神機兵の追撃が来たら守るんだ!!」

「なっ!? 何を言っているのですか!?」

「フィアも撤退しないと!!」

「僕はこいつを黙らせてから行く、いいから急げ!!

 戦えないユノ達に神機兵が向かったらどうなるかわかるだろう!?」

 

まだ撤退はできない、少なくともアンノウンを戦闘不能にしなければ。

それを告げ、フィアの視線は再びこちらに向かって笑い声を上げているアンノウンへと向けられた。

「……ふーん、お前が強くなったのもあるけど、その武器も随分パワーアップしてるみたいだね」

(くっ……本当に化物だ………!)

先程からフルパワーで攻撃しているというのに、ダメージはあれど致命傷にはまだまだ遠い。

呆れ返るというよりも恐怖すら覚えるアンノウンの頑強さに、おもわずフィアの心が挫けそうになってしまった。

 

「行って、早く!!」

「フィアさん、ですが―――」

「隊長命令だ。いいからいけええええええええっ!!!」

「――――っ」

フィアの激情が込められた声を聞き、シエルはギリと歯を鳴らしながらその場を離脱した。

 

「シエルちゃん!?」

「おい、フィアは――」

「私は私の成すべき事を果たします。フィアさんなら……きっと戻ってきてくれると、私は信じます!!」

「………シエルちゃん」

強い口調でそう告げるシエル、そこにはフィアに対する強い信頼が込められていた。

それを聞いて、ナナは少しだけ……ほんの少しだけ、敗北感を覚えた。

 

「――いいの? 仲間に助けてもらわなくても?」

「お前には関係ない!!」

「まあ、確かにね。それにワタシとしてもあんな雑魚達にうろうろされても困るもん」

「僕の仲間を愚弄するな!!」

「事実を言っただけだよ。まあいいや、今は続きをしようよ!!!」

 

再びフィアに向かっていくアンノウン。

傷だらけになりながらも、必ず倒すという気概を保ったまま、フィアは向かってくるアンノウンを迎え撃とうとして。

 

――閃光が奔り、アンノウンの肉体に深い裂傷を叩き込んだ。

 

「っ、ギィ………―――!!?」

「えっ………!?」

突如として、フィアとアンノウンの前に現れた第三者。

聖剣と呼べるほどに美しい剣が組み込まれた神機を手に持ち、まだ青年ながらも溢れんばかりの覇気を内側に持つ歴戦の戦士。

「―――カズキ」

「――遅くなって、ごめん」

抗神カズキが、戦場に姿を現した。

 

「ぐ、うぅ……カズキィィィィ………!」

「…………」

「……凄い一撃だねえ、まともに当たってたら本当に死んでたよ」

「フィア、すぐに撤退するぞ」

「えっ……でも、まだあいつが………!」

「まだ、その時じゃない(・・・・・・・)。あいつはまだ何かを隠し持ってる」

 

無論カズキとて、このまま追撃を仕掛けてアンノウンを倒しておきたいと思っている。

だがこのまま神機兵の追撃が来ないとも限らないし、何よりも――カズキには、まだアンノウンが別の手を隠しているように見えたのだ。

確証は無い、しかしカズキの中にあるアラガミが警鐘を鳴らしている。

その本能に抗っては駄目だと、自らが訴えていたのだ。

 

「撤退する!!」

「っ、わかった!!」

瞬間、フィアは【ニーヴェルン・クレイグ】を鞘に収めつつ、地面に刺さっている【アスガルズ】を持って出口へと走り出した。

カズキもすぐさま動きを見せ、バックパックからスタングレネードを取り出し地面に叩きつける。

眩い閃光が周囲を包み、その光が消えた時には。

「………そんな急いで逃げなくてもよかったのに」

カズキとフィアの姿は消え、場にはアンノウンだけが残された。

 

「……派手にやられちゃったなあ、まさか九尾状態でも圧倒されるとは思わなかった」

自分の傷の深さを見て、珍しくアンノウンは驚きを含んだ呟きを零す。

だが、口元には隠し切れない歓喜の笑みが同時に浮かんでいた。

「―――次に戦う時は、“あれ”を使わないとね」

ああ、本当に楽しみだ。

その時が来る事を切に願いながら、アンノウンはその場から消え。

周囲には、残骸となった神機兵だけが遺された―――

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「――ユノ、入っても大丈夫?」

「フィア? いいけど、静かに入ってきてくれる?」

ユノにそう言われ、フィアはなるべく音を立てないように――病室へと入室した。

そして彼はとあるベットへと向かい、静かな寝息を立てている黒蛛病患者の少女アスナと、そんな彼女を慈しみの表情で見つめているユノへと歩み寄った。

 

「ごめんね。今眠ったばかりだったから」

「ううん。気にしなくていい」

「みんなは大丈夫だった?」

「大丈夫だよ。……それより、そっちこそ大丈夫なの?」

「ふふっ、ありがとう、大丈夫だよ」

 

ニコッと笑みを浮かべるユノ。

だが、フィアは彼女に同じような笑みを浮かべることはできなかった。

何故なら――今のユノの左肩には、黒蛛病の証である痣が見えているからだ。

 

――神機保管庫で、ユノは黒蛛病に感染してしまった。

 

襲い掛かってきた神機兵からアスナを守る為に彼女の身体に触れてしまい、感染してしまったそうだ。

もっと早く撤退できていれば…そう思わずにはいられない。

だがそんな事を考えても無意味だ、過ぎた事を気にした所でユノが感染したという事実は決して消えはしないのだから。

それでも、フィアは自分の無力さを嘆かずには居られなかった。

 

「……もう、責任感が強すぎるのも考えものね」

「えっ……?」

「私が感染したのは誰のせいでもない、それにフィア達が頑張ってくれたから黒蛛病患者をあそこから救い出すことができたんだよ?

 だからもっと胸を張って? フィア達は凄く頑張って結果を出してくれたんだから」

「…………」

 

優しく、暖かな言葉。

聞く者を安心させるその言葉は、フィアの中にあった自責の念を消し去ってくれた。

……黒蛛病に感染したというのに、ユノの瞳には一片の曇りも恐れも存在しては居なかった。

強い心を持っているからこそ、彼女は自身の状態にも負けずに前を見据えている。

本当に強いと、フィアは改めてユノに尊敬の念を送っていた。

 

「………ごめん。私もちょっと疲れちゃった」

「あ、うん。じゃあ……また」

「うん。ありがとう」

また来るという約束を告げ、フィアは病室の扉に向かう。

そして、扉を開け、閉じようとした瞬間。

「………ジュリウス………」

ユノの、そんな呟きを耳に入れたような気がした。

 

………。

 

「あっ、フィア! ちょっと来て!!」

「………?」

休憩がてらにラウンジへと赴いたフィアに、ナナの声が響く。

一体どうしたのかとナナの元へと向かってみると、そこにはブラッドのメンバーやコウタ、それにカズキにアリサの姿があった。

全員の視線がテレビに向けられ、そこではフライアに対する緊急ニュースが報道されていた。

「これは……?」

フィアが改めてニュースを見ようとした時には、既にニュースは別のものに変わってしまっていた。

 

「ねえ、今のニュースの内容はなんて言ってたの?」

「……ジュリウスのバカ野郎が、フライアでクーデターを起こしたんだとよ!!」

「…………」

「人質の一部を解放して、黒蛛病患者を明け渡すようにという声明をフェンリルの各施設に出したそうです……」

「……助けられる大を生かして、助けられない小を切り捨てる。それがジュリウスの目指す道か……」

「でもさ、ジュリウス達に協力しようとしてる奴等、結構居るみたいだよ?」

「黒蛛病患者を受け入れるだけでなく、強化していく神機兵の防衛能力を得られますからね。そういった考えを持つ人が現れてもおかしくはありません……」

 

だが、それが間違いだとは……その場に居る誰もが明確に口にできないでいた。

確かに非人道的な行いだ、しかし神機兵という死者が出ないアラガミに対抗できる戦力が、治療法が見つからず接触しただけで感染してしまう危険性を持つ黒蛛病患者を渡すだけで得られる。

そうなれば、ジュリウス達に協力するのが賢い判断と言えるかもしれない。

………全てを救う事はできない、どんなに頑張っても零れ落ちる命は出てきてしまう。

ならばいっその事、最初から零れ落ちる事が決まっている命を切り捨てれば、より多くの命を救う事ができる。

それは正しい、決して間違いでも愚かでもない考えだ。

――だが、それでも。

 

「――それでも、僕は認められない」

フィアには、その行いを認める事はできなかった。

 

「うん。ジュリウスは間違ってる、友達が間違っている事をしてるなら……正さないと!!」

「フィアさん、ナナさん……」

「ああ、オレもそう思うぜ! ジュリウスのヤツを殴ってでも止めねえと!!」

「……ジュリウスを力ずくでもフライアに連れ戻しましょう、皆さん!!」

決意を新たに、皆の結束が強まっていく。

「…………」

「? カズキ、どうかしましたか?」

ただ、その中でカズキだけが何処か厳しい表情を浮かべている事に気づき、アリサが声を掛けた。

 

「……いや、なんでもないよアリサ」

「なんでもないのなら、そのような顔にならないでください。本当に嘘が下手なんですから」

「…………まいったね」

察しのいい妻に苦笑しつつも、カズキはふと生まれた不安を口にした。

「アンノウンの事さ。――また、力が増してたからね」

「…………」

「でも大丈夫。無理はしないさ」

「だといいんですけどね」

(全然信用してませんね………)

ことこういう事に関して、アリサはまったくと言っていいほど信用してくれない。

さりげなくそれに対してショックを受けつつ、宥める意味を込めてアリサの頭を撫でるカズキ。

 

「……子ども扱いはやめてください」

結果、アリサはジト目でカズキを睨み出した。

しかしカズキは知っている、頭を撫でられると子ども扱いするなと言いつつ、嬉しがっている事に。

現にアリサの口元には、隠し切れない笑みが浮かんでいる。

(可愛いなあ……)

だからカズキは決してその手を止めたりしない、大変和むからである。

 

『…………』

しかし忘れてはならない、カズキ達の周りにはフィア達が居るのだ。

急にいちゃつき出したバカップルならぬバカ夫婦に、全員がげんなりしたのは言うまでもない……。

 

 

 

「…………」

「シエルちゃん、羨ましそうに見てない?」

「み、見てないです!!」

「ふーん……ねえフィア、頭ナデナデしてくれる?」

「えっ?」

「あっ、だ、駄目ですそんなの!!」

 

 

 

 

To.Be.Continued...




少しストップして、日常話を組み込んでいこうと思います。

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