神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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強くなるために前へと進んでいくフィア。
そんな中、フライアから逃げるように極東支部へと保護を求める存在が現れる。

その存在とは……フライアの技術者の1人、レア・クラウディウスであった……。


第3部捕喰148 ~尋問~

「………失礼します」

「…………」

 

アナグラの医務室の扉をノックしてから、中に入るフィアとシエル。

そして彼等は、力のない瞳でこちらに視線を向けるレアの姿を捉えた。

普段の彼女とは違うあまりにも弱々しい姿に、シエルはおもわず息を呑む。

だがすぐさまここに来た理由を思い出し、シエルはフィアと共に彼女へと歩み寄った。

 

「シエル……それに、フィアも……」

「レア先生……」

「シエル、私はもう「先生」なんて呼ばれる資格なんてないの。

 いえ、そもそも初めから私にはそんな資格なんてなかった……全ては、私のせいだから……」

「…………」

 

今のレアは、まるで泣く一歩手前の子供のようにシエルには見えてしまった。

まるで世界の罪全てが自分の責任だと言わんばかりに、彼女は自身を責め続けている。

 

「……ジュリウスやラケル、それにルークはどうしているの?」

「フィアさん、今は……」

「いいえ、大丈夫よシエル。それにあなた達はフライアの現状を訊く為にここへ来たのでしょう?」

「…………」

「ジュリウスと神機兵の活躍は、聞いているわよね?」

 

レアの言葉に、頷きを返す2人。

ジュリウスの血の力によって、無人型の神機兵は凄まじいスピードで成長し、既に実戦投入を終えている。

その戦果は目覚しいものであり、大型アラガミに分類される強力な力を持ったアラガミとも互角以上に戦えていた。

 

「そしてそれを可能としたラケル……フライアは、もう彼等のものなのよ。

 ルーク博士はラケルの思惑を知らずに助手をしているけど、きっといずれそれに気づくと思うわ」

「…………」

「私は逃げ出した所で、誰も追いかけて来なかった……」

「……その話だと、まるでジュリウスとラケル博士がフライアを私物化しているような印象ですが」

「悪い事ではないわ、現に神機兵によってアラガミの掃討は行われている。

 でも私は…私の神機兵にもアクセスできず、研究棟にも入れなくなっていた……。

 パージされたのよ、研究者としても…姉としても………!」

 

両手で顔を覆い、僅かに嗚咽を漏らすレア。

どうしてこんな事に、彼女の悲しみの声はそう訴えていた。

……つまりラケルは、姉である筈のレアを切り捨てたという事だ。

家族であるレアを、こうも簡単に見捨てたという事実にシエルはショックを受け、フィアは……何処か納得していた。

 

「……ラケルは、初めからこうする為にレアを利用したってこと?」

「フィアさん………!」

「いいのシエル。……そんな筈はないわ、ラケルは昔から良い子で…こうなってしまったのは、私のせい……」

「こうなった? それはもしかして……ラケルが普通の人間じゃない(・・・・・・・・・)事と何か関係があるの?」

「えっ―――」

 

フィアの言葉に、レアは目を見開きながら顔を上げる。

何故それをと彼女の瞳がそう訴えていたので、フィアは己の正体を彼女に明かした。

「――僕もアラガミだから、ラケルと同じ…人間からアラガミになった化物だから、わかるんだ」と。

 

「………あなた」

「フィアさん……」

「僕だけじゃない。カズキもきっと気づいているし、多分ソーマって人も気づいていると思う」

「…………」

「僕はグリードの実験によって今の状態になった。ラケルは……どうして体内にアラガミを宿す事になったの?」

「…………」

 

顔を伏せるレア、何かを思い出そうとしているようだが…その表情は辛そうだ。

だがフィアもシエルも決して止めようとはしない、可哀想だが……彼女には話してもらわねばならぬ義務がある。

でも急かしたりもせず、医務室の中に沈黙が流れていく。

 

「……………昔の、話よ」

どれだけの時間が経ったのか。

ぽつりぽつりと、まるで自らの罪を語るようにレアは話し始めた。

 

――それは、レアが昨今まで自らの中だけに溜め込んでいた罪の始まり。

 

――そして同時に、悪魔の誕生の始まりでもあった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

レアとラケル、2人の姉妹は幼き頃に母親と死に別れた姉妹だ。

しかし彼の父でありフェンリルの幹部である【ジェフサ・クラウディウス】から惜しみない愛情を受け、順調に育っていった。

本部所属の研究者という高い地位を持ちながらも、ジェフサ博士はそれに決して驕る事無く当時の「神機兵」開発プロジェクトの最高責任者を務め、更に娘達と過ごす時間を決して忘れない研究者としても父親としても素晴らしい人物であった。

そんな偉大な父の元で育ったレアであったが…当時は相当なお転婆で我が侭な少女であったという。

そして対するラケルは、対照的に寡黙な…いや、寡黙すぎる少女であった。

何を考えているのかわからず、自己主張もしないラケルを、レアは当時疎ましく思い時折であったものの手を上げる事もあり、姉妹仲は決して良いものではなかった。

 

そして運命の日、レアが11歳の日に――“それ”は起こってしまった。

その日もレアはラケルに怒鳴り散らしていた、彼女が大切にしていた人形をラケルが勝手に持ち出したのが原因だ。

しかし怒鳴られているのにも関わらず、ラケルはレアに謝罪の言葉を言わないばかりか……薄く笑みを浮かべるだけだった。

それが馬鹿にされていると思ったレアは一気に感情的になり、怒りを暴力という形で晴らそうと両手でラケルの身体をおもいっきり突き飛ばしてしまった。

だが、彼女達が争っていた場所は、一階へと続く階段の傍であり。

レアに突き飛ばされたラケルは、そのまま重力に逆らう事無く階段を転げ落ちて……。

 

「……脳死状態、つまり植物人間と同じ状態になってしまったの」

「ラケル博士が……」

「でも、父の知り合いの医者が【P73偏食因子】をラケルに投与する提案をしてきて……」

「P73偏食因子……?」

「僕達の【P66】や一般の神機使いが投与する【P53】より前に開発された、謂わば偏食因子の雛形といえるものだよ」

「ええ。……よく、知っているわね」

「………グリードが、知っていただけだ」

 

吐き捨てるように言い放つフィアに、レアはそれ以上何も訊けず己の話を続ける事にした。

 

「それは他の偏食因子よりも人体の細胞をオラクル細胞へと変異させる作用が強くて、でもその代わり驚異的な回復力を得る事ができると言われて……」

「……それで、ラケル博士にその偏食因子を投与した、と?」

「父には選択の余地なんて、初めから存在しなかった。――あの子が倒れて一ヶ月ぐらい経って、ラケルは目を醒ましてくれたの。

 脊髄の損傷は回復しなかったから、車椅子生活を余儀なくされたけど……それでも、私はあの子が目を醒ましてくれた事が嬉しかった」

「…………」

「でも私は、あの子が倒れてからずっと…自分を責め続け、あの子を傷つけてしまった罪の意識で縛られ続けて………うっ、ぐ………!」

「レア先生!?」

 

胸を押さえ、激しく呼吸を繰り返すレア。

過呼吸を引き起こしてしまったかもしれない、瞬時にそう察知したシエルは尋問を中断し看護師を呼ぶ事にした。

フィアもこれ以上の尋問は不可能だと判断し、看護師達に後を任せシエルと共に医務室を後にする。

エントランスロビーに向かって動いていくエレベーターの中で、2人は何も話さずに先程のレアの話を思い返していた。

 

(ラケル博士の体内に、アラガミにきわめて近い偏食因子が存在していたなんて……)

だがその理由は、至極まともなものだ。

脳死状態であった愛娘を救うため……ジェフサの行った事は正しいとシエルは心からそう思っている。

でも、その結果……。

 

「――フィア、シエルちゃん!!」

「あ、ナナ……」

「それに皆さんも……」

 

エレベーターがエントランスに到着し、降りてすぐに2人はブラッドメンバーに囲まれた。

全員の目には、レアから聞いた話を聞かせろという訴えが見え隠れしている。

それを悟ったフィアは「場所を変えよう」と告げ、全員をロビーにあるソファーへと移動させた。

そして、フィアとシエルは先程自分達がレアから聞いた内容全てを、ブラッド達へ話す。

結果、当然と言うべきか全員の表情が驚愕のものへと変化した。

 

「ラケル博士が……アラガミ!?」

「完全に、というわけじゃないと思う。あれはきっと僕と同じ状態だ」

「同じ状態?」

「……人間とアラガミの中間点とも言える状態、どっち(・・・)になるのかはわからない」

『…………』

「……とにかく今の話は後程サカキ支部長にも報告しなければなりませんね」

「それはシエルに任せるよ」

 

そう言って、席を立つフィア。

 

「フィア、ミッション?」

「サイズの調整に行く。……まだまだ全開には程遠いから」

「ですがフィアさん、データでは既に約86%もサイズの力を引き出しているのでは……」

「たったそれだけだ。100%にはまだまだ遠いさ」

 

そう、あまりにも遠すぎる。

一般の神機使い以上の力は持っているという自負はあるが……戦わねばならない相手の力を考えると、まるで足りない。

相手は文字通りの怪物、こちらも怪物と呼ばれる程の力を得なければ勝負にならない。

だからフィアは決して立ち止まらない、ただひたすらに前へ進もうと歩みを進めていき。

 

「――待てよフィア、オレも手伝う」

けれど、歩みを進めていくのは彼だけではない。

 

「ギル……」

「ギルだけじゃねえぞ、オレだって手伝ってやる!」

「ロミオ先輩、恩着せがましいー!」

「うっさいの!」

「…………」

 

フィアの口元に、自然と笑みが零れていく。

優しい仲間達が、人間ではない自分の為に何かしようとしてくれる。

その事実が、その想いが、ただ嬉しくて……フィアの心を優しく包んでくれた。

だからこそ――守りたい。

人間ではない僕だけど、大好きなみんなの為に―――フィアは再び決意を固めていく。

 

「――ちょ、ちょっとマリーさん!?」

 

「………?」

下、つまりミッションを受注する受付がある場所から聞き慣れた声、ヒバリの驚きが込められた声が聞こえてきた。

一体なんだろうと、下を覗き込むブラッド達。

そして彼等の視界に、全速力で外に向かって駆け出していくマリーの後ろ姿が映った。

 

「あ、ブラッドの皆さん!!」

「ヒバリさん、マリーのヤツどうしたんですか? 具合が悪い…ってわけじゃなさそうだけど」

「………何か、様子が変でしたね」

「うん、慌ててたみたいだけど……」

 

しかし問題は、一体何故慌てた様子で飛び出していったのかという事だ。

マリーはオペレーターの制服を着ていた、つまり勤務中だ。

そんな彼女が業務を放り投げて飛び出していくなど、相当の理由ではあるのは間違いないだろう。

そして――次にヒバリから放たれた言葉で、その予測は確信へと変わった。

 

「じ、実は……ルーク・ドレイク博士がこの極東支部に、救難信号を発したんです!!」

 

「――――っっっ」

刹那、2つの影が動きを見せる。

1つはフィア、そしてもう1人は――ロミオ。

ヒバリの言葉を聞いた瞬間、2人は弾丸のような勢いで飛び出しマリーの後を追った。

 

「ったくあのバカ………! 気持ちはわかるけどさ、だからってアラガミが居る場所に飛び出すか!?」

「…………」

「? なんだよフィア、オレの顔に何かついてんのか?」

「いや……やっぱりマリーの事になると、ロミオの動きがいつも以上に良くなるなあって」

「っ、バッ、何言ってんだよ!!」

 

一瞬で顔を真っ赤に染めるロミオ、しかし走るスピードは微塵も衰えてはいないのは流石と言うべきか。

 

「と、とにかくまずは神機を持ち出してマリーの所にいくぞ!!」

「うん。――ヒバリ聞こえる? ルークが救難信号を出した地点を腕輪に送って」

『わ、わかりました!!』

 

程なくして、腕輪にデータが送られてきた。

それと同時に、2人は神機保管庫へと到着、飛び込むように中へと入り自分の神機へと駆け寄った。

神機を固定しているアームを外し、自分の神機を掴むロミオ。

フィアも自分の神機である【トゥーリア・レーガ】を掴み……その隣にある、まだ完全に調整が終わっていないサイズも掴み上げた。

 

「ってフィア、お前それも持っていくのか……?」

「………少し嫌な予感がする。武器は多い方が良い」

「嫌な予感って……いや、とにかく急ごうぜ!!」

「…………」

 

そうだ、急がねばならない。

マリーは冷静さを失っている、義理とはいえ本当の親以上の親愛を向けているルークが救難信号を出したのだから、当然だろう。

だが今の彼女には戦う術はない、アラガミに見つかれば……生き残れない。

だから急がなければならない、ならないが何よりも。

(なんだこの胸騒ぎは……いや、気のせいの筈だ)

今は自分がすべき事だけを考えろと己に言い聞かせ、フィアはロミオと共に神機保管庫を飛び出した。

 

 

――だが、その胸騒ぎは決して気のせいではなく。

 

 

「――えっ、この反応は?」

「ヒバリさん、どうしたんですか?」

「おいシエル、オレ達もあいつらをさっさと追うぞ!!」

「この反応って……まさか………!」

 

 

――大きな脅威として、フィア達のすぐそばまで迫っていた。

 

 

 

 

To.Be.Continued...




原作通りに進みながらも、このようにオリジナル展開も入れていこうと思います。
なので原作よりも進みが遅い時もありますが、ご了承ください。

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