神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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無事に助かったカズキは、再び戦いの中に身を投じる。

己の異常から、目を背けながら……。


捕喰16 ~感応現象~

「――本日付けで、原隊復帰になりました。また宜しくお願いします!」

 

 そう言って、カズキは第一部隊の面々に頭を下げる。

 カズキがアナグラに戻り一週間。

 傷や疲れも癒え、再びゴッドイーターとして戦う日がやってきたのだ。

 

「堅苦しいなぁお前は、もっと肩の力を抜きゃあいいのに」

「リンドウは、ちょっと抜き過ぎだけどね」

「うへ……そりゃあないぜサクヤ」

 

 厳しい一言にうなだれるリンドウ、おもわず笑ってしまった。

 

「コウタ、またよろしくね?」

「おぅ! ……でも本当によかったよ、カズキが無事で。

 ……不謹慎だけどさ、もうダメかと思ったから」

「………ごめん」

「あっ、別にお前が悪いわけじゃないって! それよかまた一緒に頑張っていこうな!!」

 

 ニカッと笑い、カズキの肩を叩くコウタ。

 それに笑みを返しつつ、相変わらず皆とは一歩距離を開けているソーマに視線を向けた。

 

「ソーマ、また迷惑掛けるかもしれないけど……宜しくね?」

「………ふん」

 

 カズキの言葉にも特に返す事はなく、近づくなとばかりに視線を逸らすソーマ。

 けれど、カズキはちっとも不快にはならなかった。

 何故なら――これはリンドウから聞いた話なのだが、彼がカズキの事を心配していたと知っているから。

 無愛想でぶっきらぼうな彼だが、誰よりも仲間思いだとリンドウは言った。

 今では、その言葉を理解できる。

 

「でも……アリサはまだ面会謝絶なんだよな」

「…………」

 

 もう二週間近くになるが、未だにアリサの状態は不安定だ。

 だが仕方ない、元々精神が不安定だった上にあのような事をしてしまったのだ、そう簡単に復帰するのは難しいだろう。

 ……尤も、あの不安定さもカズキにとっては疑問に残る事なのだが。

 

「アリサの事は主治医に任せとけば大丈夫だ、それよりアラガミ討伐のミッションが来てるぞ。

 今回は、平原エリアでクアドリガの討伐だ」

「クアドリガ?」

 

 首を傾げるコウタ、初めて聞くアラガミだからわからないのだろう。

 

「戦車を何倍も大きくした下半身と、骨のような上半身、更に背中と腹部にはミサイルを発射する機関がある大型のアラガミだよ」

「へぇ……カズキ、物知りだな」

「……コウタ、ちゃんとノルンでアラガミの情報を見ておいた方がいいよ。でないと、またツバキ教官に怒られるし」

「うっ……!」

 

 一気に顔色を悪くするコウタ、相変わらずツバキの鬼のような説教は苦手らしい。

 

「ははっ、姉上のカミナリは本当に恐ろしいからな、気をつけろよ?」

「………はい、気をつけます」

「よし、それでメンバーは俺とカズキ、サクヤとコウタで行くぞ。

 サクヤとコウタは遠距離からの支援、俺は陽動で……新型のお前は遊撃だ。

 病み上がりだから無理はするなよ?」

 

 そう言って、リンドウはカズキの肩にポンッと手を置く。

 それに対し、カズキはしっかりと頷きを返した。

 

「ソーマは留守番?」

「てめぇには関係ねえ」

「っ………」

 

 冷たく返され、おもわずソーマを睨むコウタ。

 

「喧嘩すんなよ。ソーマは別任務があるんだ、お前も気をつけろよ?」

「……その言葉、そっくり返してやるぜ」

 

 そう返し、ソーマは一足先にエントランスを後にした。

 

「何だよアイツ……相変わらずだよな」

「そうむくれんなよコウタ、あいつはちょっと不器用なんだ。許してやってくれ。

 よし、それじゃあ俺達も行くとするか」

 

 ポリポリと頭を掻き、これから命の奪い合いをするとは思えない程に軽い口調で仕事に向かうリンドウ。

 そんな彼にもすっかり慣れたなぁと思いつつ、カズキ達もその後に続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

「…………でっけぇ」

 

 平原エリアへとやってきたカズキ達。

 クアドリガは巨体なためすぐさま見つかったのだが……あまりの巨大さに、コウタはおもわず顔を引きつらせた。

 ヴァジュラすら超える巨体に、顔面の骨は否が応でも恐怖心を煽る外見だ。

 

「……さーて、お仕事しますかね」

 

 タバコを一服してから、地面に投げ捨て神機を構えるリンドウ。

 

「タバコのポイ捨てはやめなさいってば」

「いいじゃねえか、見逃してくれよ」

「―――行きます」

 

 新しい刀身パーツ――放電ブレードを構え、カズキはクアドリガに向かって走る。

 

「おい、無理すんなよカズキ!!」

(……確かめないと)

 

 クアドリガに接近、神機を持つ手に力を込めると、向こうも気づいたのか一気に臨戦態勢に入った。

 

「グォォォッ!!」

 

 クアドリガの背にあるミサイルポッドが開き、6つのミサイルがカズキ目掛けて放たれる。

 

「げっ!?」

 

 ヤバい、いくらなんでもあの数は危険だ。

 そう思い、コウタはカズキに迫るミサイルを撃ち落とそうと神機を構えるが。

 

「――――っ」

「いぃっ!?」

 

 カズキが剣を一閃させた瞬間、ミサイルの2つが爆発。

 爆風の中に呑まれるカズキだったが、すぐさま飛び出しクアドリガへと間合いを詰める。

 

「し―――!」

 

 下から上に振り上げるような剣戟。

 それはクアドリガの肉に食い込み、縦一文字の傷を負わせた。

 

(速いな……)

 

 ミサイルが接近していた時、カズキは瞬時に弾幕から抜け出せるルートを理解し、邪魔になるミサイルだけを斬りクアドリガの攻撃を完全に無効にした。

 並外れた胴体視力、神機の扱い方、どちらも一流の実力が無ければできない芸当だ。

 

(あいつ……いつの間にあそこまで成長してやがったんだ……)

 

 まだ半年も満たない期間で、カズキはリンドウやソーマといった隊長クラスの実力を身につけたという事になる。

 あまりにも早すぎる成長、確かに神機との相性はソーマ並みだとサカキ博士から聞いた事があるが……それにしても成長が早すぎる。

 

――カズキの中で、何か変化があったのか。

 

(…………まさか)

(……やっぱり、身体が異常に軽い)

 

 クアドリガのミサイルを避けながら、カズキは自分の身体の変化に気づき眉を潜めていた。

 ……身体能力が、向上している。

 ヴァジュラと戦ってから、さほど時間が経っていないのに、だ。

 だが――その理由も、既にカズキにはわかっていた。

 

(アラガミを、食べたからだ……)

 

 オラクル細胞は、進化する。

 アラガミがミサイルを食べ、クアドリガのような攻撃ができるようになるのと同じ。

 どうすれば速く動けるのか、どうすれば無駄のない動きができるのか。

 細胞は学習し、理解し、その上で成長を遂げる。

 カズキのこの強化も、アラガミを喰らったが故。

 しかし――ただアラガミを喰らっただけではこのような変化は訪れない。

 まだ、カズキの身体はカズキ自身も知らない変化を遂げたようだ。

 

「っ、く―――!?」

 

 装甲を展開し、ミサイルを防御する。

 ……とにかく、この変化について考えるのは後回しだ。

 アラガミを倒す、それだけに思考を向け戦闘に集中する。

 

「そこっ!!」

「当たれ!!」

 

 後方で、サクヤとコウタが上半身の骨に向かって砲撃を撃つ。

 

「グゥゥゥ……!」

 

 連べ打ちにされながらも、クアドリガは腹部の発射口を開き大型ミサイルを2人に。

 

「そうは問屋が卸さねえ、よ!!」

「グォォォッ!!?」

 

 発射する前に、リンドウの剣が発射口に突き刺さり――爆発を引き起こす。

 

「おわぁっ!?」

 

 その衝撃でクアドリガの発射口はひしゃげ、更にリンドウを神機ごと吹き飛ばしてしまった。

 だが、リンドウは無事に着地し――カズキが動く。

 

「いっけぇ!!」

 

 カズキが走ると同時に、コウタの砲撃がクアドリガのキャタピラ状の脚を撃ち砕いた。

そして、カズキは力を込めて跳躍し、剣を振り上げる。

 

「終わりだ―――!」

 

 銀光の斬撃が走る。

 それは迷う事なくクアドリガの上半身を切り裂き、それに飽きたらず刀身は下半身にまで食い込んでいき……。

 クアドリガは、静かな唸り声を上げ地に沈んだ。

 

(………今回は、欲求が出なかった)

 

 クアドリガに対して、この間のような「食したい」という欲求は生まれなかった。

 たまたまなのか、それとも何か理由があるのか、それはわからないが。

 

「よっしゃ、オレ達の勝ちだ!!」

 

 静かに戦いの終わりを迎えたカズキとは違い、コウタはうるさいくらいに喜びの表情を浮かべている。

 

「おぉーいカズキ、コア抜いてくれー」

「はいはい……」

 

 苦笑しつつ、捕喰形態でクアドリガのコアを抜き取るカズキ。

 途端にクアドリガの身体が霧散し、ミッションは完全に終了した。

 

「戻りましょう」

「ちょっと待て、終わりの一服を……」

「ダーメ、吸うのはもうやめなさい」

 

 タバコに火を着けようとしたリンドウだったが、サクヤによってタバコごと没収される。

 

「おいおいサクヤ、そりゃあないぜ」

「ダメよ。リンドウだってもう若くないんだから」

「まだ26だぜ、俺は」

「さっきは自分の事をオッサンって言ってたのに、調子いいんだから……」

 

 呆れるサクヤと、苦笑するリンドウ。

 ……端から見てると、夫婦にしか見えない。

 

「……行こっか?」

「だな……」

 

 好きなだけやらせておこうとカズキとコウタはお互いに顔を見合わせ、その場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 任務を終え、カズキは神機をリッカに預けすぐさまある場所へと向かう。

 その場所とは、医務室。

 ……未だに復帰できないアリサが心配で、いてもたってもいられなくなったのだ。

 医務室に辿り着く、面会謝絶の札は……掛けられてはいなかった。

 なので、カズキは一瞬躊躇いながらも中へと入る、すると……。

 

「ん? ……ああ、君か」

 

 中には、様々な医療機器を取り付けられ眠っているアリサと。

 そんな彼女の傍に居る、オオグルマの姿が。

 

「オオグルマ……先生」

「やあ、もしかしてアリサの見舞いに来てくれたのかい?」

「え、ええ……もしかして、入っちゃダメでしたか?」

「そういうわけじゃないさ、ただ……今眠ったばかりだからね。

 強い鎮静剤が届いたから、暫くは目を醒まさないよ」

「…………」

 

 人の良さそうな笑み。

 オオグルマという人物は、端から見ると……いや、実際本当に人が良いのかもしれない。

 だが……カズキには、どうしてもこの男を信用する事ができない。

 この笑みの裏に、何かどす黒いものが見え隠れしているような気がしてならないのだ。

 無論、失礼極まりない事を考えているとカズキもわかっている、だから心中だけで決して口には出そうとしないが。

 

「そういえば、君のおかげでリンドウ君も助かったようだね」

 

 アリサが眠っているベッドのすぐ傍に椅子を出し座ったカズキに、オオグルマは突然そんな事を言ってきた。

 

「いえ、別に僕のおかげじゃないですよ」

「謙遜しなくてもいいさ、さすが新型と言える程の活躍をしているそうじゃないか。

 新型を多少なりとも知っている私としては、君のその能力は非常に興味深いものだね」

「…………」

 

 何が、言いたいのか。

 必死にオオグルマを睨みつけようという衝動を抑えながら、アリサに視線を向けた。

 

(………可哀想に)

 

 すっかり弱り切ってしまっているアリサを見て、カズキは胸に痛みを走らせる。

 やはり、妹に似ているからか……それとも別の理由か、どうしても彼女が気になってしまう。

 

(早く、良くなってねアリサちゃん)

 

 彼女の回復を望みながら、カズキはおもむろにアリサの左手を右手で握りしめ―――

 

「えっ―――」

 

 突如として、頭の中に見たことがない映像がノイズ混じりで浮かび上がってきた。

 まるで、写真のスライドショーを高速で見ているかのように、映像が浮かんでは消えていく。

 

「―――――」

 

 映像が消え、気が付くと医務室に戻っていた。

 

(……今の、は)

 

 夢や幻……ではない。

 あまりにもリアル過ぎる映像だった、一体今のは何だったのか……。

 

「……んっ……」

「アリサちゃん……?」

「……あれ、私……」

「なっ――い、意識が回復しただと……!?」

 

 後ろから、オオグルマの驚愕に満ちた声が聞こえるが、そんな事はどうだっていい。

 

「アリサちゃん……」

 

 彼女の意識が戻ってくれた事が、カズキには嬉しかった。

 

「……抗神、さん……」

 

 カズキに視線を向けるアリサ、しかし……すぐさま瞳を閉じ意識を失ってしまった。

 

「し、失礼する!!」

 

 ひどく慌てた様子で医務室を出て行くオオグルマ。

 ……それを不思議に思い、カズキは気づかれないように医務室の扉を少しだけ開く。

 

「……はい、はい、ええ……まさか意識を取り戻すとは……」

 

 見ると、オオグルマはまるで隠れるように身を屈めながら誰かと通話をしていた。

 

(誰と話しているんだ……?)

 

 近づいてみたいが、これ以上近づけば気づかれる恐れがある。

 息を殺し、耳を傾けるカズキ。

 

「詳しくはわかりませんが……おそらく、新型同士の感応現象かと思われます」

(感応現象……?)

 

 聞いた事がない単語だ。

 

「どうしましょう……隔離しますか?」

(っ、隔離……!?)

 

 普通は決して飛び出さない単語を耳に入れ、カズキは目を見開く。

 一体、あの男は何を言っているのだろう……。

 

「……このままで宜しいのですか!? はい、はい……わかりました。

 それでは、私はこれで」

 

 通信を切るオオグルマ、カズキも素早く医務室の扉を閉じ椅子に座る。

 

「…………」

 

 気配が遠ざかっていく、どうやら医務室に戻ってくる気はないらしい。

 

(あの人……一体アリサちゃんに何をしているんだ……?)

 

 あの会話で、一気にオオグルマに対する疑念を増したカズキ。

 何か、このアナグラ内で不穏な動きがある。

 それは理解できたが……今の状態では何も事情がわからない。

 

(暫く、アリサちゃんから目を離さないようにしないと……)

 

 先程よりも幾分か顔色が良くなったアリサの頭を優しく撫で、カズキも医務室を後にする。

 

 

―――道が、枝分かれしていく。

 

 先に待つもの、それが何なのかわからぬまま。

 カズキは、自分の成すべき事を模索していくのだった……。

 

 

 

 

To.Be.Continued...


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