神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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――現実は時に、無常な結果を齎す

その時は確実に迫っておりそして……種は撒かれてしまった。
ただ平和に生きたいというささやかな願いすら踏み躙りながら、“それら”はゆっくりと動きを見せる。


第3部捕喰133 ~絶望への序曲~

「――随分、避難してきた人達が増えてきたね」

「ああ、“赤い雨”が降ると予想されている日まであと1日を切っている。少し急ぎたいくらいだ」

 

アナグラにある、ジュリウスの自室。

そこには現在部屋の主であるジュリウスと……遊びに来たユノが会話を楽しんでいた。

紅茶を楽しみつつ談笑を続け、今の話題は明日に来るであろう“赤い雨”についてだった。

今までにない規模の赤い雨が降る――その為極東支部は集落に住まう者達をサテライト居住区やこのアナグラへと避難させている。

急ぎその作業は進めているものの、まだ全ての人間の避難は終わってはいなかった。

人数が多いというのもあるが……やはりフェンリルの庇護を受けたくないと思う者達もおり、難航していた。

 

「でも大丈夫よジュリウス、極東のみんなが頑張っているし……それにアラガミが現れても、投入された神機兵が居るでしょ?」

「………そうだな」

 

既に無人型の神機兵は実戦に投入されている。

開発に手間取っていた制御装置をクジョウ博士が2日前に完成させ、今では極東の守りに就いていた。

その戦闘能力は更に磨きがかかっており、投入されてからの神機使いの死亡率はなんと脅威の0という数字を叩き出している。

もちろんその事実に誰もが喜ぶが……同時に神機使い達にとって自分達の存在の危うさを見せ付けられる結果となったのは言うまでもない。

現に一部の神機使いは任務に出る事が無くなり、神機兵に対する確執は少しずつではあるが増えてきていた。

……尤も、自らの身勝手な嫉妬心による任務放棄をした神機使い達に対して、一片の同情もできないが。

 

「そういえばさ、フィア……元気?」

「ああ、相変わらず頼りになるよ。というよりユノは最近極東に居るのだからよく会っているんじゃないか?」

「そうだけど、同じ戦場で戦う仲間じゃないとわからない事だってあるでしょ?」

「問題はないさ。ブラッドの仲間達はもちろん極東の人達とも打ち解けている、俺以上にな」

「あははっ、それは確かに!」

冗談めかした口調で言うジュリウスに、ユノはつい笑ってしまう。

……だがよかった、フィアが元気だと自分も嬉しい。

あの子はどうも気になってしまうのだ、自分より年下でありながら当たり前のように死地に赴いている。

その上あのような自己犠牲の心を持っているのだ、心配もしたくなるのは当然であった。

 

「無理、してない?」

「無理はしているだろうな。アイツはまだ他人に甘える事ができていない、だがシエルやナナが特に気に掛けているし……俺も気にしている。

 あいつらと違って俺は器用ではないが、フィアの事は……俺が守るさ」

ジュリウスにとって、フィアは弟のような存在だ。

優しくて無理ばかりする目が離せない弟、そう思っているから放ってはおけない。

決して器用とは言えないが、自分なりに彼を気に掛け守っていこうと、ジュリウスは改めて心に誓う。

 

「シエルちゃんにナナちゃんかあ……ねえねえジュリウス、もしかしてその2人ってフィアの事好きなのかな?」

「? 嫌いではないと思うぞ、特にシエルは常日頃からフィアの事を見ているしな」

「常日頃から? ほうほう……」

「???」

 

今の言葉の何処が楽しかったのか、口元に笑みを浮かべるユノにジュリウスは怪訝な表情を向ける。

一方、ユノは今のジュリウスの話を聞いてあらぬ想像を膨らませていた。

(そういえば、確かにシエルちゃんっていつもフィアの傍に居るというか……世話を焼いているわね。

 シエルちゃんって年下が好みだったんだ……あ、でもナナちゃんもかな?)

(……変な事を考えているな、まったく)

ユノを見て、心の中で呆れながらそっと溜め息を吐き出すジュリウス。

 

――だが、平和だ

 

相も変わらずアラガミと戦う日々ではあるが、神機兵のおかげでその頻度も減ってきている。

神機使いとしての存在意義が危うくなる可能性もあるが、それ以上に…誰も犠牲にならない未来が来るかもしれないという期待感の方が、ジュリウスにとっては大事なものだ。

戦わないで済むならそれが一番良い、平穏な時代の到来は誰もが望むものなのだから。

人間は確実に平和への道を歩んでいる筈だ、たとえ何があっても……いつかは、きっと自由に生きる未来を掴める。

 

―――そう、願っているのに

 

―――現実はただ、そんな儚き願望すら打ち砕く

 

「っ!?」

「えっ……何……?」

突如として鳴り響く警報音。

ジュリウスにはそれが非常事態宣言を意味する警報だという事を瞬時に理解して。

『――緊急連絡。極東支部周辺に突如として多数のアラガミの反応が現れました、神機使いは至急出撃をお願いします!!!』

焦りを含んだヒバリの放送を耳に入れ、目を見開いて驚愕した。

 

「アラガミ、だと……?」

「ジュリウス……」

「……ユノ、お前は念の為に避難しておくんだ。いいな?」

「え、ええ……」

飲んでいた紅茶はそのままに、ジュリウスは飛び出すように部屋を出て行く。

まずはブラッドを集めなければと、通信を開き……すぐさま返答が返ってきた。

 

『ジュリウス、今の聞いたか?』

「ギルか。ああ聞いた、お前達は今どこに居る?」

『俺は神機保管庫に居る。シエルとナナはもう他の神機使いと一緒に出撃したようだ、俺も準備が出来次第極東の神機使いとチームを組んで出撃する』

「頼む。……フィアとロミオはどうした?」

『あの2人は別の任務で既に出撃してる。ヒバリが2人に連絡を送っているから問題ない』

「……了解だ。俺もすぐに出撃する、無茶はするな?」

わかっている、そう言ってギルからの通信が切れた。

……しかし解せないと、走りながらジュリウスは思考を巡らせる。

 

(何故、多数のアラガミの反応を今まで発見できなかった?)

極東支部のアラガミ探知装置は優れている、そうそう見逃す筈は無い。

だというのに極東支部の周囲までアラガミの存在に気づかなかったのだ、一体どういう事なのか……。

 

「ジュリウスさん!!」

「っ、アリサさん……」

こちらへと向かって駆けながら声を掛けてきたアリサに気づき、ジュリウスは一度歩を止めた。

「アリサさん、アラガミの気配は察知できなかったんですか?」

「それが……不思議なんです。今の今までアラガミが居なかった筈なのに、急にあちこちで反応が現れて……」

だから私も驚いているんですと、アリサは困惑した表情で言葉を返す。

……ますます不可解だ、アラガミの力を持つ彼女のアラガミ探査能力はフェンリルのどのセンサーよりも優れている。

だというのに気づけなかったと彼女は言った、これは普通ではない。

 

「とにかく出撃しましょう!!」

「そうですね……」

今は余計な事を考えている暇はない、まだ避難民の受け入れは終わっていないのだ。

アラガミに人命を奪われるわけにはいかない、自身に強くそう言い聞かせながら、ジュリウスはアリサと共に再び出撃するために神機保管庫へと目指す。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「――さてと、これで準備は整ったかなー?」

荒野の中、極東支部を見つめ続けている異形の存在が居た。

それは通称アンノウンと呼ばれる、極東支部……否、人類にとっての悪そのものと言える悪魔。

「おっ、もうあの玩具が出てるんだ……おーおー、玩具の癖に結構戦えてるー」

大型アラガミとも互角以上に戦っている神機兵を見ながら、アンノウンは少しだけ感心するような呟きを零す。

尤も、彼女にとって神機兵すら“玩具”でしかないが。

あんなものでは自分の飢えは満たせない、彼女の飢えを満たすのはあくまで人間達の絶望と……カズキとの戦いだけなのだから。

 

「……カズキはここには居ないのかー、まあ凄いスピードでこっちに来てるからもう少しかなー?」

しかし、それまで何もしないというのも退屈である。

そう思ったアンノウンは腕を組みながら暫し思考に深け……やがて、ニィッという邪悪な笑みを浮かべながら。

 

「―――人間達“で”、遊んでいようかなー♪」

ゆっくりと、人間達に絶望の種を撒くために……歩き出した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「―――おりゃあ!!!」

「ギィ………!?」

斬撃が、シユウの首を跳ね飛ばす。

 

「……ふぅ。フィア、そっちは――」

「――終わったよ、ロミオ」

「さすが」

周囲の地面や壁を汚す血溜まりの中、フィアとロミオはアラガミの掃討を終え一息つく。

だがあまりのんびりもしていられない、別の区画ではまだ戦闘が続いているのだ。

 

「………ひでえよ、こんなのって」

「……………」

燃える建物、それらは元々人が住んでいた場所だ。

アラガミによって生きる場所を追われ、それでも懸命に生きてきた証が……燃えている。

またしてもアラガミによって奪われてしまっている、それがロミオには悔しかった。

 

「……だけど、だからって悲観してるだけじゃ何も変わらないよな」

「ロミオ……」

「今の俺達にできる事を精一杯やる、それができなきゃ何も変わらないんだ」

「………うん!!」

「よし、じゃあ―――」

 

 

「だ、誰か、助け――ぎゃあああああああああっ!!?」

 

 

『――――!!?』

聞こえた。

ここからそう遠くない区画で、断末魔の叫びが響いたのを2人の耳はしっかりと聞き入れた。

それも1つではない、秒を待たずに1つ、また1つと増えていく。

 

「な、なんだ……?」

「っ」

「あ、おいフィア!!」

地を蹴り、すぐさま悲鳴の場所へと走るフィア。

それを慌ててロミオも追いかける、嫌な予感が身体を駆け巡っているがフィアを放っておくわけにはいかない。

……向かっている最中にも、別の悲鳴が聞こえてくる。

「―――――変だ」

「えっ、何がだよ!?」

「悲鳴が多すぎる、アラガミに襲われている筈なのに……」

アラガミに襲われているという事実は間違いないだろう、しかしその場合悲鳴を上げる暇なく捕喰される事が珍しくないというのに、この悲鳴の数は少々異常だ。

まるで、わざわざ周りに聞かせているような、そんな気さえしてくる。

しかしそう考えるとその意味は一体何だというのか?という疑問が浮かび、結局答えが出ないまま2人は問題の場所へと赴き。

 

――疑問の答えが、そこにはあった

 

「―――なんだ、来たのはフィア達か」

「―――――」

「お前………!」

 

……地獄が、広がっていた。

辺りに散らばるのは人であった者達の肉体、腕や足だけでなく臓器の類も無造作に転がっている。

かろうじて顔として認識できるものも、絶望と恐怖に埋め尽くされた冒涜的な表情のまま事切れていた。

そして、その地獄を作り上げていたのは………。

 

「―――アンノウン」

「そのうち誰か来るとは思ってたけど……がっかりだなあ、暇潰しにもなりはしない」

つまらなげに言い放ちながら、アンノウンは左手で貫いていた肉塊を壁へと叩きつける。

……無論、その肉塊も人間と呼ばれる存在である事は言うまでもない。

 

「うっ………」

吐き気を催し、ロミオは左手で自らの口を覆うように添えた。

だが無理もあるまい、周りに散らばる遺体達は見るも無残な姿に変わっているのだから。

常人ならば吐き気どころかその場で失神、発狂してもおかしくはない地獄の中で。

 

「…………許さない」

フィアは、自らを失わずにアンノウンと対峙していた。

 

「……………」

眼中にない、そう思いさっさと殺して別の場所に行こうと思っていたアンノウンであったが……改めてフィアを見て、動きを止めた。

取るに足らない、殺した所で微塵も楽しくない壊れた人形、アンノウンが抱いているフィアの印象はこうだ。

だが……アンノウンはその印象を改め、フィアへと向き直りつつ問いかける。

 

「ねえ、なんか……変わった?」

「………?」

「うーん……? 特別強くなったようには見えないのになあ、なんでこんな事思ったんだろ?」

おっかしーなー、異常な世界の中では似つかわしくないのんびりとした態度を見せるアンノウン。

それを見てロミオは一瞬でその瞳に強い憤怒の色を宿り――それ以上の怒りが、フィアの全身から湧き上がった。

 

「―――許さない!!!」

「―――っ」

吶喊、踏み込み、斬撃。

叫び、フィアは怒りを込めた神機の一撃をアンノウンへと叩き落とした。

僅か一秒にも満たぬ速攻の一撃はしかし、アンノウンの尻尾により防がれてしまう。

 

「……………」

だが、衝撃と驚愕を受けたのは……アンノウンの方であった。

 

――前よりも、ずっと重く強い一撃だ

 

三本で充分だと思った、事実フィアの一撃は三本の尻尾で防がれている。

しかし、その尻尾からは僅かな流血が見られ、それがアンノウンにとっては驚愕に値するものであった。

当たり前だ、前回はフィア相手に傷一つ付かない所か圧倒的なまでの実力差を見せつけたのだ。

だというのに傷つけられた、それは即ち――フィアの力が前とは比べものにならない程に増しているという証。

 

「―――ふーん」

これは予想外だ、実に面白いとアンノウンは愉しげな笑みを浮かべる。

そこらの人間で遊ぶよりよっぽど面白い、カズキが来るまでのいい退屈しのぎになりそうだ。

そう思いながらアンノウンは神機ごとフィアを尻尾で弾き飛ばし、距離を離す。

身構えなおすフィア、再び踏み込もうとしたが……アンノウンは後ろへと跳躍し、自ら彼との距離を広げ出した。

 

「逃がさない………!」

「あ、おいフィア!!」

すぐさま追いかけていくフィアを呼び止めようとするロミオだったが、その時には既に2人の姿は消えた後であった。

(あいつ、なんて無茶を………!)

相手は真の怪物アンノウン、たった1人で対抗できる存在ではない。

このままでは間違いなくフィアは殺される、そう思ったロミオはすぐさま後を追いかけようとして。

 

「――――」

空に、“赤い雲”が出来始めている事に、気がついた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「――チェックはどうだ?」

「ジュリウス、こっちは終わったぞ!!」

「こっちも終わったよ、隊長!!」

「全ての照合が完了しました、逃げ遅れた人は居ないようです!」

 

場所は変わり、極東支部の退避シェルター前。

そこには避難を終えた一般人と、ジュリウス達ブラッド隊の姿があり、避難民の最終チェックを終えようとしていた。

避難民のリストを照合し逃げ遅れた者が居ないのか確認し、誰一人として逃げ遅れた存在が居ない事がわかり一同は安堵の溜め息を零す。

……だが、まだ問題が解決したわけではない。

 

避難が終わったとしても、このアナグラに侵入してしまったアラガミの掃討が残っている。

既に極東支部の神機使い達や無人型の神機兵が戦っているのだ、こちらの仕事が終わった以上すぐに増援に向かわなければならない。

そう思ったブラッド達は、すぐさま戦いの場へと赴こうとして――緊急通信が入った。

 

「こちらジュリウスだ、どうした?」

『大変だ、ジュリウス、みんな!!』

「ロミオ? 一体どうしたんだ?」

 

焦りが含まれたロミオの声が通信機越しから聞こえ、ただならぬ事態に自然とジュリウスの身体に緊張が走る。

そして、彼の口から信じられない言葉が飛び出した。

 

『――アンノウンが現れた。しかもフィアのヤツがそいつを1人で追いかけていっちまったんだ!!』

 

「何だと……!?」

目を見開くジュリウス。

その言葉だけで状況がどれだけ最悪なものかを思い知らされ、同時に勝手な行動をとったフィアに苛立ちすら覚えた。

アンノウンの脅威は彼とて知っている筈だ、否、彼は自分達よりも明確にアンノウンに対する恐怖と脅威を感じ取っている。

 

……だからこそ、彼は1人でアンノウンに立ち向かっていったのかもしれない。

通常のアラガミを遥かに超える強大な力に、人間を道端の小石を蹴るかのような軽々しさで殺すまさしく悪魔と呼べる存在だと知っているからこそ、彼は誰も巻き込まぬようにたった1人で立ち向かっていってしまったのかもしれない。

とはいえ、彼の行動は褒められたものではないしこのままにもしておけない。

 

「――わかった。とにかく俺達も今から出撃を」

『それだけじゃないんだ! こっちじゃ……“赤い雲”が確認できる!!』

「―――――」

それを聞いて。

今度こそ、ジュリウスは言葉を失った。

 

「ジュリウス、ロミオさんから一体何の通信が?」

「……………なんて、事だ」

「ジュリウス……?」

「ロミオ、とにかく俺も出撃()る。お前は先に行ってフィアを援護してくれ!!」

『分かってる。頼む!!』

 

通信が切れる。

 

「おい、一体どうしたってんだ?」

「……もうすぐ、赤い雨が降る」

「えっ……!?」

「そんな……赤い雨が降るまではまだ猶予がある筈では!?」

「だがロミオが赤い雲を見たと言っていた、お前達はこの場から動かずに待機していろ!!」

 

指示を出しながら、ジュリウスは近くにあった防護服を三着分手に取る。

はっきり言って赤い雨対策としては不十分すぎるが、無いよりはマシだ。

……一刻も早くフィアとロミオの元へと辿り着き、アンノウンから逃げなくてはならない。

悠長に戦闘ができる状況ではなくなった、赤い雨に晒されれば……待っているのは“死”だけなのだから。

 

(フィア、ロミオ、頼む……俺が行くまで持ちこたえてくれ……!)

絶望が、すぐそこまで迫っている。

……そんな、中で。

 

『緊急連絡!! 無人型の神機兵が――突如として活動を停止しました!!』

「―――――な、に?」

まるで悲鳴のように放たれたヒバリの通信が、更なる絶望の到来を告げていた―――

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「――――ぐっ!?」

「ほらほらあ、どうしたのさ!!」

 

縦横無尽に放たれる、細腕による手刀。

しかしその破壊力はあらゆる名刀を霞ませる切れ味を誇り、まともに当たれば容易く身体を2つに分けるものだ。

その悪魔の攻撃を放つアンノウンは、必死に自分に食らいついているフィアを見て、歪んだ笑みを深めていく。

 

――両者の戦いは、アナグラの外で展開されていた。

 

荒野の駆け巡る2つの嵐は、互いの命を喰らおうと激しさを増していく。

だがそれもいつまで続くのか……既に両者は七十手近い攻防を繰り返し、圧されているのは――フィアの方だった。

アンノウンの手刀を神機で受ける度にその両手は悲鳴を上げ、だんだんと両腕の感覚が無くなっていく。

フィアの攻撃が許されたのは最初の一撃だけ、今では必死にアンノウンの攻撃を捌く事しかできないでいた。

 

……明確な実力差、たとえフィアが力を増し少しずつその心が変化を見せていたとしても、アンノウンは更に上をいっている。

少しずつフィアの“死”が近づいており、それがわかっていながら彼には何もできなかった。

今のフィアにできること、それはただアンノウンの攻撃をどうにか防ぎながら生き残る事だけ。

 

「っ、が―――!」

「あ」

 

衝撃と鈍痛が、フィアの思考を削る。

右脇腹に叩き込まれるアンノウンの蹴り、血反吐を吐きながらフィアは転がるように吹き飛んでいった。

 

「が、げ…ぇ………!」

大地を自らの血で赤く染めながら、苦悶の表情を浮かべうずくまるフィア。

たった一発の蹴りで、強靭な肉体を持つゴッドイーターの身体を戦闘不能に陥らせた。

混濁する意識をどうにか繋ぎ止めながら立ち上がろうとするフィアであったが、ダメージは大きく顔を上げる事しかできない。

 

「――ここまでかあ。少しは楽しめたけど……まあこんなものか」

「は――ぁ、ぐ……」

「そろそろ終わりにするよ。もうすぐメインディッシュが来る頃だし」

 

だが思いの外楽しめたと、アンノウンはフィアに対し感謝の意を示す。

だからせめて命を奪う時は一瞬で終わらせてあげるとしよう、そう思いアンノウンは九尾の尻尾を一斉に動かし始めた。

それで終わりだ、この尻尾でフィアの全身に風穴を開けて彼の命を奪う。

 

「じゃあね? 壊れた人形さん」

「くっ…………!!!」

 

死ねない、死ぬわけにはいかない。

そう思っているのに身体は動かず、フィアはそのまま自らの死を受け入れる事しかできずに………。

 

 

 

 

To.Be.Continued...




さあ次回は思わぬ展開に……なってくれればいいなあ。
シリアスはまだ続きますが、楽しんでいただければ何よりです。

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