神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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――周りが頼りになるからこそ、生まれるものがある

自分を信じられないからこそ、芽生えてしまうものがある。

そしてそれは時に、自分自身と仲間への確執へと繋がってしまう事もあるのだ―――


第3部捕喰128 ~ロミオの焦り~

「――ロミオ、大丈夫か?」

「えっ……な、何がだよジュリウス」

 

廃墟にて、アラガミの討伐を行ったジュリウスとロミオ。

任務自体は問題なく終わりを迎え、後は回収班を待つだけだ。

しかし……ジュリウスはロミオの様子がおかしい事に気がつき、ぼーっとしている彼に声を掛ける。

 

「どこか上の空だったぞ、任務中にそのような態度では……」

「あー……悪い悪い、けど任務は無事に終わったからいいだろ?」

「……………」

 

やはり変だ。

ロミオは確かにお調子者な部分がある、しかし今のような不謹慎な言葉を容易に放つ事はない。

……この頃の彼は、明らかに様子がおかしい。

今回の任務とて動きに精彩を欠き、ジュリウスのフォローが無ければ危うい場面もあった。

ロミオ自身もそれに気づいている筈だ、いつもの彼なら自分の非を認め任務が終わればきちんと謝罪するというのに……。

 

「いやー、それにしてもブラッドは敵なしだよな! この分なら極東最強の第一部隊も抜かしちまうかも!!」

「……………」

「なんだよジュリウスー、相変わらずノリが悪いなー」

「……ああ、すまない」

 

いつものように……笑っているつもりなのだろうか。

ジュリウスでもわかる程に、今のロミオの笑みはぎこちなく無理をしているものだ。

一体彼に何があったのか、問い質したいジュリウスであったが……結局何も言えず、そのままアナグラへと帰還したのだった―――

 

 

…………。

 

 

「――ロミオの様子がおかしい?」

「ああ」

 

このままにはしておけない。

しかし自分1人で解決する事は困難だと判断したジュリウスは、アナグラに戻ってすぐに副隊長であるフィアに相談する事にした。

 

「そういえば、なんだか最近空元気だよね」

「……お前も察していたか」

「ロミオに訊いてみたんだけど、「なんでもない」の一点張りで相談してくれなかったよ」

「――だがあいつが何か悩みを抱えているのは間違いないだろうな」

 

とはいえ、こちらから訊いた所で素直に話してはくれないだろう。

だからといってこのままというわけにもいかない、何かいい案はないものか……。

……とりあえず立ち話もなんだという事で、2人はラウンジへと足を運ぶ事に。

ムツミの淹れてくれた紅茶を飲みつつ対策を考えよう、そう思った2人であったが……ラウンジへと入った瞬間、不穏な空気を感じ取った。

 

「……何をやってるんだ、あの2人は」

その正体はすぐに判明した。

ラウンジの一角、そこでシエルとマリーが睨み合っていたからだ。

フィアとの一件であの2人は不仲である、それはわかっていたがあの状態はいただけない。

なのでジュリウスは溜め息を吐きながらも彼女達の元へと向かい、仲裁に入る事に。

 

「お前達、何をしているんだ」

「ジュリウス……フィアさん……」

「……ブラッドの隊長さんか、それと……」

 

マリーの視線が、ジュリウスの隣に居るフィアへと向けられる。

相変わらず彼女の視線には敵意が込められているが……それがほんの少しだけ前より和らいでいるようにフィアは思えた。

それを敏感に感じ取ったのか、険しい表情だったシエルの顔が更に険しくなる。

 

「――マリーさん、そんな目でフィアさんを睨むのはやめてください」

「睨んでるわけじゃない。元々顔付きが悪いんでな」

「そんな子供だましの言い訳が、通用するとでも?」

「シエル、落ち着いて?」

「フィアさん……ですが」

「マリーが睨んでないって言ってるんだから、ね?」

「……………」

 

不満げな顔を隠そうともしないシエルであったが、他ならぬフィアに言われそれ以上は何も言わなかった。

場の空気がやや和らぎ、ちょうどいいとフィアはシエルにロミオの件を相談しようとして……マリーに声を掛けられる。

 

「フィア」

「? マリー、どうかしたの?」

「……わたしは、お前が好きではない。その原因がお前にあるわけではないとわかっているが……それでも、わたしはお前に好意的な感情を向ける事はできない」

「…………」

「だが……今までの態度は悪かったと思ってる、大人気なかったな。すまない」

 

あくまで無愛想に、けれど確かな謝罪の意を込めてマリーは告げた。

今までの事は申し訳ないと思っている、彼女の伝えたい事がフィアの耳に届き、彼は驚きつつも穏やかな笑みを返す。

 

「別に気にしてないよ。それより……これから宜しくね?」

「…………………ああ」

 

握手を交わすフィアとマリー。

どういう心境の変化なのかはわからなかったが、これから彼女とはそれなりに仲良くやっていけるかもしれない。

そう思ったフィアであったが、握手を交わす2人を見ていたシエルの表情は……納得いかないと告げるものになっていた。

 

「シエル、フィアが彼女の事を許したんだ。それでいいだろう?」

「そうかもしれません。ですが……私はやっぱり、彼女の事は許せません」

(やれやれ……過保護なものだ……)

 

シエルはフィアに対して過保護な一面をよく見せる。

彼を嫌うものは許さないと、傷つける者は容赦しないと、その瞳が告げているのだ。

尤も――彼に対して過保護なのは彼女だけではない。

自分やギルもそうかもしれないなと、ジュリウスは心の中で苦笑した。

 

「あ、そうだ、マリーにも力を貸してもらいたいんだけど」

「……そこまで仲良くなったつもりはないんだがな」

「いいじゃん別に、実はね……」

(――コイツ、強いな)

 

マイペースなフィアにマリーは苦笑し、それに気づかないフィアはマリーとシエルにロミオの事を話した。

 

「……確かに、最近のロミオさんの様子はおかしいですね」

「先程俺と一緒にミッションに行った時もどこか様子がおかしかった、シエルは何か心当たりは無いか?」

「……申し訳ありません。私には」

「やっぱりロミオに直接訊くしかないのかな?」

「だがそれはお前がやって無駄に終わっただろう? だがこのままでは……」

 

このままでは、最悪な未来が訪れるかもしれない。

そこまで考え、ジュリウスはすぐさまそれを消し去った。

冗談ではない、そんな未来など決して認めないし訪れさせるつもりもない。

 

「マリーは、どう思う?」

「フィアさん、この人に訊いても意味無いと思いますよ」

「またシエルは……」

「……………」

 

マリーは何も答えず、フィア達に背中を向けラウンジを後にしようとする。

その前に―――

「――あのロミオとかいうヤツは、精鋭揃いのブラッドの中では、強くないな」

ぽつりと呟くように、辛辣な言葉を口にした。

 

「っ、ロミオさんを馬鹿にするんですか?」

「そういうわけじゃない、わたしはただ事実を口にしただけだ。

 あの男は『血の力』とやらに目覚めてはいないし、単純な戦闘力でもお前達の誰よりも劣っている。それは決して誤魔化しようのない事実じゃないのか?」

「―――――っ」

 

マリーを睨むシエルだが、彼女の口から否定の言葉が出てくることはなかった。

フィアとジュリウスも何も言わず、それがマリーの言葉が真実だと認めてる証でもあった。

 

「――それが、理由かもな」

「えっ……?」

「………これ以上お前達の話を聞く義理はない、自分達の隊の問題に他人を巻き込むな」

 

そう言って、今度こそマリーはラウンジを後にした。

「……今のは、どういう意味なのかな?」

「適当な事を言っただけだと思いますけどね」

(シエル……本当にマリーの事嫌いなんだ)

「……………」

「? ジュリウス、何かわかったの?」

「いや、そういうわけではないが……今の言葉で、ある予測が生まれたんだ」

「本当ですか?」

「ああ、だがもしその予測が当たっていたとしたら……俺達には何も出来ないな」

「えっ……?」

「それは、どういう事ですか?」

「とにかく今はロミオの事を気に掛けてやろう、それぐらいしか今の俺達にはできないからな。

 ――俺がもう少しマシな隊長なら、このような問題もすぐさま解決できるんだろうが」

 

自分の力量不足に、ジュリウスは情けなさすら覚える。

だが、そんな彼の言葉を否定するようにフィアは首を横に振った。

 

「そんな事無いよジュリウス、ジュリウスはみんなの事を一生懸命考えてくれる優しくて頼りになる隊長だ。

 僕もみんなも、ジュリウスが隊長で良かったって本当に思ってるから」

「……フィア」

「フィアさんの言う通りですよジュリウス、ですから御自分を責めないでください」

「シエル………そうだな、そうだった」

 

自分の情けなさを嘆くのならば、前を向いて進まなければ。

ありがとう、そう言って優しく微笑むジュリウスに、フィアとシエルも同じように微笑みを返した。

 

 

…………。

 

 

――だが、彼等の危惧は現実のものとなってしまった。

 

――上記のやりとりから一週間が経ち、ロミオ、ギル、ナナ、フィアの4人で行ったミッションの終了後、それは訪れる。

 

 

「――いやー、もう楽勝だねホント!」

『……………』

 

無事生還した事を誇るように、陽気な声でロミオは言う。

一方、他の3人は沈黙しており……場の空気は、お世辞にも良いものとは言えなかった。

 

「あれ? なんでみんなそんなにテンション低いのさ?」

「……ねえロミオ先輩、なんだか最近変だよ?」

「変? 何言ってんだよナナー、オレが変とかそんなわけないだろー?

 隊長であるジュリウスが居なくても生還率100%、そんなブラッドの隊員であるオレが変とかないっしょ?」

「おいロミオ、お前……さっきのなっちゃいねえ動きはなんだ?」

 

先程のミッションで、ロミオの動きは今まで以上に精彩を欠いていた。

だというのにこの態度だ、これにはギルの口調も自然と怒りの色を宿してしまう。

 

「そんなに怒るなよギル、頼りになる後輩が居るんだからもっと余裕持ったっていいだろー?」

「余裕と油断は違うだろ。その後輩に抜かれまくって助けてもらってやる気が無くなったのか? だとするなら、いっその事やめちまえよ」

「―――――」

「ちょっとギル、言い過ぎだ」

「フィア、さっきのミッションでコイツがお前に何回助けられたと思ってる?

 確かに協力し合うのは仲間として当然だ、だがコイツにはやる気ってモンが感じられねえ。そんなのに居られたら迷惑なんだよ」

 

 

 

「―――――ギル、取り消せよ」

 

 

 

「何だ――ぐあっ!!?」

バキッという打撃音が、周囲に響く。

それと同時に吹き飛び地面に倒れるギル、ロミオに頬を殴られてしまったらしく、彼はすぐさま顔に怒りの表情を浮かべ起き上がった。

 

「テメエ……何しやがる!!」

「――お前なんかに、何がわかるんだよ!!!」

「………なんだと?」

 

殴り返そうとしたギルの身体が、その場で止まる。

何故なら、自分を殴ったロミオの顔が――今にも泣きそうな子供のように、弱々しく映ったからだ。

 

「オレだって必死なんだよ!! 自分にできる事は無いかって……ブラッドの隊員として恥ずかしくないように、どうすればいいのかって考えてんだよ!!」

「………ロミオ先輩」

「後輩に抜かれまくってる? そんな事オレが一番よく知ってるさ!! だけど……だけどオレには、お前やシエルみたいな経験はないんだ!!

 ナナみたいに強くないし……コイツみたいに、すぐに血の力に目覚めてあっという間に副隊長になって、滅茶苦茶強いジュリウスと肩を並べるような才能なんかないんだよ!!!」

「……………」

「役立たずなんて、オレが一番わかってるんだ!!

 だから必死にみんなと同じような戦い方をしたりして、でも結果が全然追いつかなくて……みんなに迷惑掛けてばっかりで」

「――違うよロミオ、ボクもみんなもロミオの事は仲間だって思ってるし、役立たずだなんて」

「っ、お前みたいな才能溢れるヤツに、オレの何がわかるんだよ!?」

「――――――」

「お前はいいよな!? そうやってどんどん強くなってみんなからも頼られて、オレに無いモンを沢山持ってて……そんなお前が何を言ったって、オレを馬鹿にしている様にしか聞こえないんだよ!!」

「ロミオ先輩、それは言い過ぎだよ!!」

 

今の言葉はさすがに許容できない、そう思ったナナはおもわず怒鳴り声を上げてしまう。

ギルもロミオに対する憤怒の色を濃くし、今度こそ殴りかかろうと右手で拳を作ったが。

 

「――ボクが戦う力を持つのは当然だよ。だってボクは……人間じゃないんだから」

 

フィアの言葉が、全員を固まらせた。

「!? あ、いや……」

「ボクの身体には化物が――()()()()()()()()()()

 だから戦えるのは当然なんだ、だからロミオが……人間であるロミオが、人間じゃないボクに対して劣等感を抱く必要なんか、どこにもないんだ」

「ちが、オレは、別にそういう意味で……」

 

失言だった、そう思ったロミオであるがもう遅い。

淡々と、けれど少し寂しそうにそう告げるフィアの顔をこれ以上見てられなくて――ロミオは、逃げるようにその場から走り去る。

 

「ロミオ先輩!!」

「ナナ、ほっとけ!!」

「でもギル―――」

「あんなヤツほっとけ、仲間を侮辱するヤツなんか放っておけばいい!!」

「……………」

 

今追っても、ロミオはこちらの話を聞いてはくれないだろう。

そう思ったからこそ、フィアもナナも追おうとはせず……ロミオの後ろ姿を眺める事しかできなかった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

――どれくらい、走ったのか

ロミオは廃ビルが溢れる不毛の大地を、彷徨うように走っていた。

「はぁ…はぁ…はぁ………」

しかしさすがに体力の限界か、激しく息を切らし歩き始める。

 

――これから、どうすればいいんだろう

 

後悔と不安がロミオを襲うが、今は何も考えたくなかった。

ただ無心のまま歩くしか今の彼にはできず、それが何の解決策にもならないと自覚しながらも、彼は歩みを止める事も出来ず。

 

「………こんな所で、何をしているんだ?」

「えっ…………?」

 

いきなり声を掛けられ、間の抜けた声を出してしまうロミオ。

まさか自分以外の人が居るとは思えず、呆けた表情のままロミオは声の聞こえた方向へと視線を向けると、そこに居たのは――意外な人物であった。

 

「――――マリー」

「……気安く名前を呼ばれる筋合いはないのだがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To.Be.Continued...




この辺、原作ではまったくジュリウスの出番が無かったですよね。
なのでちゃんと仲間の事を考えてますよアピールが欲しかった、個人的にはですが。

次回もシリアスになります、原作とは微妙に違うやりとりになりそうです。

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