神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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神機兵のパイロット、マリー・ドレイク。
彼女の登場により、カズキとフィアの物語は変化を見せる。

―――その時が、少しずつ近づいていた。


第3部捕喰125 ~広がっていく確執~

――ボルグ・カムランの巨体が、地面に沈む

 

しかしアラガミを倒したのは神機使いではなく……漆黒の装甲に包まれた巨人であった。

巨人――神機兵はカムランから大剣を抜き取り、刀身に付着した血を振るい落とす。

 

『マリー、今日の実戦テストは以上だ』

「うん、わかった」

 

神機兵のコックピット内。

その中に居るのはまだ年端もいかぬ少女、マリー。

彼女はモニター越しに父であるルークと会話しつつ、そっと緊張の糸を切った。

……慣れたつもりだったが、まだ戦いは彼女の身体に大きな負担を残すようだ。

 

『……マリー、神機兵の実戦データを得られるのは助かるけど、あまり無理は』

「大丈夫だよお父さん。……これはわたしの役目なんだから」

『マリー、ぼくは君に無理してほしくないんだ、本来ならこんな事はだって』

「お父さん。お父さんはお父さんの夢を追い続けて、わたしはそれが一番幸せだから」

『…………気をつけて、帰ってきなさい』

 

モニターが消える。

父の優しさに微笑みながら、マリーは神機兵を動かし始めた。

 

「……凄いもんだな」

「そうだねー、神機兵ってあんなに強いんだ」

 

神機兵の護衛の任に就いていたギルとナナは、その戦闘力の高さに驚いていた。

これが量産されれば、アラガミとの戦いは本当に楽になるだろう。

一方、神機兵の戦闘力を見て……ジュリウスとロミオはなんともいえない表情を浮かべていた。

ジュリウスはどこか不満が含まれており、ロミオは……何故か焦りの色が見え隠れしている。

 

『ブラッドの皆さんも、帰還してください』

「―――了解だ」

 

フランの通信に短く返事を返し、ジュリウス達ブラッドも神機兵と共に帰還した―――

 

 

…………。

 

 

「――なーんか、神機兵の話題ばっかりだね」

「仕方ないさ。あれは人類にとって夢の到達点の1つとも言えるものだからさ」

 

アナグラのラウンジ内で会話をしつつ、お茶を楽しむローザとエリック。

周囲から聞こえる神機兵に対する話題を耳に入れ、ローザは少し呆れるように肩を竦めていた。

だがそれも仕方ないだろう、何故なら。

 

「――神機兵ってホントに凄いらしいね!」

「ブラッドも極東に来ちまったし……もしかして俺ら、お役御免ってやつか?」

「えー、それは困るー」

「せっかく稼げるのになー」

 

といった内容なので、ローザが呆れるのも無理はないだろう。

とはいえ、この会話の内容が理解できないわけではないのだが。

 

「エリックはさ、神機兵が量産されたら焦る?」

「焦りはしないさ、神機兵が数多く配置されればそれだけ殉職率も下がる。良い事だと思うけどね」

「それはそうだけど、神機使いとしてやっていけなくなったらどうしようとか、考えない?」

「考えない、わけではないけど……そうなったらそうなったで、別の分野の仕事を見つけるさ。

 こう見えても僕は、結構色々な分野で活躍できる知識は持っているんだよ?」

「そっかー、じゃあ……ローザが神機使いとして働けなくなったら、養ってくれる?」

「えっ!?」

 

ガタンと椅子を倒しそうになりながらも、どうにかエリックはそれを阻止しつつローザに視線を送った。

ちょっと待て、それは一体どういう意味だ?

驚きとほんの少しの気恥ずかしさを覚えつつも、混乱するエリックは言葉が出てこず口を開いたり閉じたりを繰り返していた。

一方、ローザは自分が放った言葉の意味をいまいち理解していないのか、混乱しているエリックを見て不思議そうに首を傾げている。

 

「エリック、顔赤いよ?」

「や、その、えっと……ローザ?」

「なに?」

「い、今のは一体…ど、どういう意味なのかな?」

「今のって?」

「………なんでもない」

 

落ち着け、自分にそう言い聞かせエリックは平常心を取り戻していく。

今の反応で分かった、彼女は別に特別な意味で上記の言葉を放ったわけではないと。

いわば彼女なりのジョークだったのだろう、少しほっとしつつも……エリックは残念がっている自分に気づく。

 

――何故、自分は残念がっているのだろうか?

 

頭を捻って考えてみるが……答えは出ない。

と―――ローザに声を掛けられ、エリックは現実へと帰還したのだが。

 

「……なんだか、空気が不穏なものに変わっているような気がするのは、僕の気のせいかな?」

「残念ながら気のせいじゃないみたいだよ。―――ほら」

 

ある一角を指差すローザ、エリックがそちらへと視線を向けると。

 

「……………」

「……………」

 

ラウンジの奥の席にて、睨み合っているシエルとマリーの姿があった。

シエルは後ろ姿で顔は見えなかったものの、マリーのシエルを見る視線が厳しいものだったので、睨み合っているのだろうと推測できた。

既に周りの者達は退避しており、安全な場所に逃げながら睨み合う2人に視線を向けている。

……睨み合う事暫し、先に口を開いたのは―――マリーだった。

 

「――何か用があるのか?」

「……フィアさんに、謝罪はしましたか?」

「謝罪? ……あれは事実を言っただけだと、言わなかったか?」

「っ、ふざけないでください!!!」

 

普段の彼女からは考えられない、激情の怒声が響く。

 

「フィアさんは怪物なんかじゃありません、それなのにあなたは………!」

「あれは人間じゃない、何も分からないお前に言った所で無駄だろうけどな」

「………何も分からない、ですって?」

 

呆れを含んだマリーの言葉は、シエルの怒りを呼ぶのに充分過ぎた。

彼を怪物だと言った事に対する謝罪もなく、反省もない。

――それに、何より。

 

「何も分からないのは……分かっていないのは、そっちじゃありませんか!!」

「…………?」

「フィアさんの事を何も知らないくせに、彼を傷つけるのは絶対に許しません!!」

「ちょ、シエルお姉ちゃん落ち着いて!!」

 

シエルが右の拳をマリーに向かって振り上げるのを見て、ローザは慌てて彼女達の間に割って入った。

ローザの登場によりシエルに僅かな冷静さが戻るが、その瞳にはありありと怒りの色が込められている。

 

「シエルお姉ちゃん、気持ちはわからないでもないけど一旦落ち着いて、ね?」

「……ローザ、さん」

「ローザの言う通りだよ、問題を起こしてしまえば色々と面倒な事になる。それはわかるだろう?」

 

エリックも仲裁に入り、シエルは振り上げていた拳を静かに下ろす。

だがシエルはマリーの事を許す事はできず、同時に許せるわけにはいかないのは道理であった。

彼は人間だ、あの世界で間違った誓いを建ててしまっているが、彼はれっきとした人間なのだ。

それを否定する者は誰であっても許せるわけがない、だからシエルは射抜くようにマリーを睨み続ける。

 

「……そっちも、馬鹿の一つ覚えみたいに暴言を吐いたりして、学習できないの?」

「何だと……?」

「君がフィア君に対して何故そこまで厳しい態度を見せるのかはわからないが、自ら敵を作るようなその態度は……子供としか言いようがないな」

「っ、貴様等………!」

 

立ち上がり、ローザとエリックを睨むマリー。

しかし2人はそんなマリーを睨み返し、その瞳がフィアに謝罪しろと訴えていた。

 

「――――チッ」

 

大きく舌打ちをしてから、マリーはラウンジを後にする。

それを無言で見送ってから……ローザとエリックは大きく息を吐き出した。

 

「もー……嫌な空気だなー」

「シエル君、大丈夫かい?」

「………はい、お騒がせして申し訳ありませんでした」

 

深々と2人に対し頭を下げてから、シエルも逃げるようにラウンジを後にした。

問題を起こしそうになった事を悔やんでいるのだろうか、真面目な彼女らしい。

尤も――それだけではないようだが。

 

「しかし、彼女のフィア君に対する態度はブラッドだけじゃなく極東支部にも悪影響を及ぼしかねないぞ」

「………それだけなら、まだいいんだけどね」

「? ローザ、それは一体どういう……」

「……なんでもないよエリック、もう少し休んだらミッションに行こう?」

「あ、ああ……」

 

いつもと変わらない、可憐な笑み。

それを見て、エリックはこれ以上ローザに対し何か訊ねようとは思わなかった。

……それに、これは今まで彼女と多く行動を共にしてきたからからなのか、何となくわかるのだ。

今の呟きに対し、深くは訊かないでと彼女が訴えている事に……。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「―――隣、いいかな?」

「………いいよ、別に」

 

舞台は変わって、フライアの庭園エリア。

そこで読書をしていたフィアに、1人の男性が話しかけてきた。

顔を上げ声の主を見て、フィアは僅かに驚いたものの、彼の願いを聞き入れる。

ありがとう、フィアに感謝の言葉を送りつつ男性――ルークは彼の隣に座り込む。

しかし、ルークは何かするわけではなく、ぼうっと庭園エリアを眺めていた。

 

「……研究は、いいの?」

「ん? ああ、確かにそうだが…これだけの美しい場所で、ゆっくり過ごさないのは勿体ないだろう?」

「そうだね。その意見には同意するよ」

「ありがとう。……読書が好きなのかい?」

「別に、でもジュリウスが薦めてくれたから読んでるだけで、特別好きってわけじゃない」

「そうか……」

 

……それっきり、会話は途切れてしまった。

だがフィアにはとってはどうでもいいので、構わず読書を続ける事に。

一方、ルークはチラチラとフィアへ視線を何度か送り、口を開いては閉じを繰り返していた。

 

「………何か言いたい事があるなら、はっきり言えばいいのに」

「えっ!? あ、ああ……すまない。そういうわけでは……ない、とは言えないかな」

 

ははは、と苦笑を浮かべるルーク。

やはり自分に対して彼は何か言いたいようだ、本に栞を挟んで閉じ、フィアはルークへと視線を向ける。

話を聞く体勢になったと気がついたルークは、暫し言いよどんだものの……口を開いた。

 

「……ぼくの娘が、色々と君に不快な思いをさせているようで、謝りたかったんだ」

「別にいいよ。だってマリーが言っているのは事実だから」

「………それは、グリードの研究と関係しているのかい?」

「―――――」

 

何故それを、言葉ではなく視線でそう訴えるフィア。

 

「ぼくと彼は同期でね、とはいえ……ぼくの方がずっと年下だったのだけれど」

「……あの男を、知っているの?」

「知っているさ。かつて彼の事は科学者として尊敬し同時に嫉妬していたからね。

 ――だけど、彼は決して歩んではいけない道を歩んでしまった。許されない業を背負ってしまった」

「……………」

「けど彼に息子が居たなんて話は初めて聞いたよ、尤も彼は自分の事を殆ど話していなかったからね」

「……正直、僕はアレを父親だなんて思いたくはない」

 

今でも鮮明に思い出すのは、あの男の罪と……自分自身の罪の証だ。

思い出したくもない、けれど決して忘れてはならない罪……それを思い知らされるから、フィアはグリードを父親とは思いたくなかった。

 

「――君は、彼に何をされたんだい?」

「色々と弄くられた、その過程で人間ではなくなった。だからマリーが僕を怪物だというのは間違いじゃないんだ」

「――――――」

 

あっけらかんと、それこそ朝の挨拶を交わすような気軽さで、フィアは言った。

それのなんと空恐ろしい事か、フィアの異常性を見てルークはぶるりと身体を奮わせる。

 

「――だけどね。僕は自分自身に悲観しているわけじゃないんだ、こんな僕でも認めてくれる人達が……仲間が、友達が居てくれるんだ。

 僕にはまだよくわからないけど、僕の事を心から心配してくれる人が居る限りは、どんな事があっても死んではいけないと、思っているから」

「……君は人間なんだ。誰がなんと言おうと……その事実は変わらない」

「ありがとうルーク。……マリーも、今の言葉を聞いたら喜ぶと思うよ?」

「っ、まさか君は……」

「わかるよ。()()()()()わかるんだ。

 あとはカズキにアリサ、ローザにラウエルもマリーの内側にあるものを気づいてると思う」

「……………」

「……僕はルークを信じたいけど、これだけは答えてくれる?

 今のマリーができあがったのは……ルークが無理矢理彼女に望んだの?」

「それは違う。だけど……止めなかった以上、ぼくだって同罪さ」

 

悔やむように、自らを責めるようにルークはフィアの問いに答えを返す。

……それが訊ければ充分だ、そう思ったフィアはそれ以上の問いを彼に向ける事はなかった。

 

「マリーは幸せだよ。優しいお父さんが傍に居て自分を支えようとしてくれているんだから、僕も欲しかったよ……ルークみたいなお父さんが」

「フィア………」

「研究、頑張ってね?」

 

そう言い残し、フィアは立ち上がり庭園を去っていく。

だが、1人庭園に残されたルークは、酷く無機質な色を瞳に宿し。

 

 

「――――ぼくはねフィア、そんな立派な大人じゃない。実の娘を守れず……義理の娘すら、利用している最低の父親なんだ」

 

自分自身に言い聞かすように、呟きを零した―――

 

 

 

 

 

 

To.Be.Continued...




あのイベントまでもう数話ほどかけようと思います。
もう少しマリーとルークの出番を増やしキャラクターを掘り下げたいと思っていますので。
ただシリアスばかりは嫌なので、次回はちょっとバカやろうかと思っています。

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