神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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ゴッドイーター、抗神カズキとフィア・エグフィードの物語は続いていく。

さて、今回の物語は………。


第3部捕喰124 ~新たな来訪者~

「――マリー・ドレイクだ」

「マリー、きちんと挨拶しなさい。

 申し訳ない、ぼくはルーク・ドレイク。マリーの父でありレア博士と同じく有人型神機兵の研究を行っている技術者だ」

『……………』

 

――フライア内、ラケルの研究室

 

ブラッド達は全員ラケルとレアに呼ばれ、この場所に赴き――1人の男性と少女に出会う。

その人物達を見て、ナナとフィアは驚き、シエルは僅かに表情を強張らせた。

それも当然だ、何せその人物達はつい先日アナグラのラウンジで一悶着あった人物達だったのだから。

 

「……シエル、どうかしたのですか?」

「いえ……なんでもありません」

 

ラケルの問いに返事を返すシエルだが、その表情は先程と変わらず強張っている。

いや、強張っているというより…マリーに対して敵意のようなものを向けていた。

当のマリーもそれに気づいているようだが、気にする様子もなく軽々とシエルの視線を受け流している。

 

「マリーは有人型神機兵のテストパイロットをしているの。

 だからブラッド隊と合同でアラガミ討伐の任に就く場合もあるわ、仲良くしてね?」

「へえ……結構美人だな」

「お前はそれしか見ないんだな」

「なんだよー、別にいいじゃんかー」

「――ブラッド隊の隊長である、ジュリウス・ヴィスコンティです」

 

ロミオとギルの言い争いを聞き流しつつ、ジュリウスは一歩前に出てマリーに向けて右手を差し出す。

それを見て、マリーも同じく右手を前に出しジュリウスと握手を交わした。

無愛想ながらも、少なくとも彼女はこちらに対して一応の友好の意志は見せているようだ。

―――だが

 

「……1つ訊きたい」

「なんですか?」

「何故、怪物を野放しにしているんだ?」

「っ、あなたはまたそんな事を………!」

 

一気に表情を険しいものに変え、シエルはマリーに近づき睨みつける。

 

「シエル、どうしたんだ?」

「……ジュリウス、彼女は先日フィアさんの事を怪物呼ばわりして罵ったんです」

「何………?」

「マリー、よさないか!」

「お父さん、わたしは事実を言っているだけだよ」

「マリー!!!」

「……………」

 

ルークに怒鳴られ、さすがに押し黙るマリー。

しかし場の空気はとうの昔に悪くなっており、ルークはすぐさまブラッド達に向かって頭を下げた。

 

「本当にすまない、うちの娘がとんだ失礼を……」

「別にいいよ。前にも言ったけどボクは気にしないから」

 

そう言ったのは、マリーに怪物呼ばわりされたフィアであった。

だが、彼が気にしなくていいと言ったとしても、他のブラッド達は納得などできるわけがない。

 

「……何故、フィアにそのような暴言を?」

「事実を言っているだけだと言った筈だ。

 コイツはわたしと同じ、精一杯人間のフリをしている……怪物だ」

「それは、どういう―――」

 

「――あまり、フィアをいじめないでくださいな」

 

ジュリウスの言葉を遮るように、ラケルの声が場に響く。

静かに、けれどどこか重みのある声によって、場の全員がおもわず口を噤んでしまう。

その中で、マリーはラケルに視線を向け……僅かに眉を潜めた。

 

「アンタ……」

「……なんでしょうか?」

「…………いや、なんでもない」

 

ラケルから視線を逸らすマリー、まるで彼女と目を合わせたくないかのように……。

 

「みんな、彼女と共にアラガミの討伐任務に出る事もあるだろうから、あまり険悪な関係にはならないでね?」

「ですがラケル博士、彼女がフィアさんに対して放った暴言を私は許すわけにはいきません」

「そうだよ。フィアを怪物だなんて……」

「シエル、ナナ、ボクは別に気にしてないから……」

「たとえお前がそう言ったとしても、仲間を侮辱されて黙っているわけにはいかねえんだ」

「ギル……」

「そうだぜフィア、俺……この子とはあんまり仲良くなれそうもない」

「ロミオまで……」

 

困った、これでは任務に支障を来してしまうとフィアは内心危惧してしまう。

仲間が自分の事を大切に想ってくれるのは嬉しいが、本当に気にしていないのに気にされても困る。

……怪物だという彼女の言葉は、嘘偽りのない真実なのだから。

 

――結局、険悪な空気が変わる事はないまま、この場は解散となった

 

ブラッドの誰もがマリーが放った暴言に対し怒りの色を表情に宿し、重苦しい空気はアナグラに戻るまで続いてしまう。

そのまま言葉少なく解散となり、フィアはやっと開放されたと大きく溜め息を吐き出してから、ラウンジへと足を運んだ。

 

「――フィア、どうしたの?」

「………カズキ」

 

ラウンジに赴いたフィアに声を掛けたのは、休憩中のカズキであった。

なんでもない、そう返そうとして……フィアは一度言葉を切りカズキとカウンター席に座ってから、先程の事を話した。

 

「それはまた……癖のある子が来たみたいだね」

「これから一緒にアラガミ討伐、主に感応種討伐に赴く機会があるだろうけど……このままじゃみんなのコンディションが悪くなる一方だ」

「……まあ、それも仕方ないと思うけどね。大切な仲間に暴言を吐かれたら誰だって怒るさ。

 君だって、ブラッドのみんなに心無い言葉を吐き出されたら、許せないだろ?」

「うん、生まれてきた事を後悔させてやる」

「みんなだって同じ気持ちなんだよ。フィアがみんなを大切に想うのと同じくらい…ううん、もしかしたらそれ以上にみんなフィアを大切に想っているんだ」

「………そうなのかな?」

「そうだよ、見れば誰だってわかる。

 だからねフィア、1人で無茶をしてしまえばその気持ちを踏み躙る事に繋がるんだ。それを忘れてしまえば……君は誰も守れないまま死ぬ事になる」

 

だから、決して自分は1人で生きているだなんて思ってはいけないよ?

そう言って、カズキは優しくフィアの頭を撫でた。

おとなしく撫でられながら、フィアはカズキに言われた言葉を胸の中で反復させる。

……この身は、名も知らぬ誰かを守るために使わなければならない。

それがきっと自分の罪を拭ってくれると信じて、フィアは今まで戦ってきた。

 

――だけど

 

――だけど、それでも

 

「………ねえ、カズキ」

「何?」

「カズキは、自分を怪物だと思った事……ある?」

「えっ?」

 

どこか躊躇うようなフィアの問いかけに、カズキは驚きおもわず言葉を詰まらせた。

質問の内容もそうだが、問いかけを放ったフィアが……どこか自分の答えに期待のようなものを向けているように見え言葉を詰まらせてしまったのだ。

……生半可な答えでは、彼は納得しない。

だからカズキは一度目を閉じ、たっぷりと時間を掛けてから……フィアに、自分なりの答えを返した。

 

「そうだね……思った事は、あるよ」

「……………」

「フィアも知っている通り僕はアラガミ化を果たした、最初は捕喰欲求から逃れようと必死に我慢して…我慢できない時は、人知れずその欲求を満たしていた。

 恐かったよ。いつか仲間達に知られてしまうとわかっていたとしても、願わくばこのまま一生みんなには知られずに人として生きたいと思ってた」

 

人類の敵であるアラガミを食べるなど、およそ人間のする事ではない。

だからこそカズキは恐怖した、内側から溢れ出しそうな捕喰欲求を自覚する度に、自分は人間ではないと思い知らされた。

辛くて恐くて、でも人間として生きたかったから必死に誤魔化し続けた。

 

「今でも、人ではないこの力を使う時……自分は人間とはかけ離れた存在になってしまったと思う時もある。

 だけどね、もうあの時のように悲観する事も恐れる事もないんだ」

「………どうして?」

「この力で守れた者が居たから、助けられる命が増えたからだ。

 僕がこの力を得たのにはきっと意味があると思ってる、たとえ万人に怪物だと罵られ恐れられたとしても……自分が人間だと強く思い続ける事ができたなら、きっとそれは真実になる」

「……………」

「フィア、人は1人で生きているわけじゃないんだ。

 今の僕には幸せにしたい人が、一緒に幸せになりたいと思う人ができた」

「それって、アリサの事?」

「アリサもそうだけど、ローザやラウエル……そしてこの極東支部に住まう人達みんなも含まれる。

 ――君は自分を怪物だと思っているかもしれないけどそれは違う、君はれっきとした人間だよ」

「………ボクは、人間」

「いつか、君にとってかけがえのない存在ができると思う、そうすればきっと……君の心は変わってくれる筈だ。

 だからそれまでは自分の命と他人の命を同じ天秤に乗せて選択するなんて事はするな、君が仲間を大切に想うのなら……自らの命を他人の命を守るための道具にしたらダメだ」

「……………」

「……僕が言えるのはここまでだね、フィアがどう考えてどんな選択をするかはあくまでフィア自身が決める事だ。

 だけどできる事なら、今の言葉を忘れないでくれると助かるよ」

「………………ありがとう、カズキ」

 

席から立ち上がるフィア、その顔は……どこか前とは違った色を宿していた。

具体的にどこが変わったのかはわからない、だがカズキにはそう見えたのだ。

 

「フィアー!!!」

「? ナナ、シエル?」

 

ラウンジの入口付近で、ナナとシエルがこちらに向かって手を振っているのが見え、フィアはカズキに一言断ってから彼女達の元へと向かった。

 

「2人とも、どうしたの?」

「うん、あのさ……これからミッションなんだけど、付き合ってくれない?」

「もちろん、構わないよ」

「ありがとー、実はさ……さっきの鬱憤を晴らすためなんだ、ミッションを受けたの」

「さっきのって………ああ」

 

どうやら、まだナナもシエルも先程の事を気にしていたらしい。

気にしなくていいと言っているのに…そこまで思いかけて、フィアは考えを改める。

彼女達が怒っているのは、自分を大切に想ってくれているから。

それに対し疑問を抱いたり否定したりすれば、それは彼女達の想いを踏みにじる事になる。

カズキとの会話でそれを理解したフィアは、2人の気持ちに感謝の意を示した―――

 

「ナナ、シエル」

「なにー?」

「フィアさん、なんですか?」

「……ありがとう、ボクの為に怒ってくれて」

「えっ………」

「フィアさん……?」

 

思いがけない言葉がフィアの口から放たれ、ナナもシエルもキョトンとしてしまう。

だが…すぐさま嬉しそうに微笑んで。

 

「当たり前だよ、でも……どういたしまして!」

「さあフィアさん、いきましょう?」

「うん!」

 

強く頷きを返し、フィアは2人と共にラウンジを後にする。

その後ろ姿を見守りながら、カズキは安堵したようにそっと息を零してから、冷めてしまったコーヒーを口に含んだ。

 

(――後は、ブラッドのみんなが居れば、きっと大丈夫だ)

 

 

 

 

 

 

To.Be.Continued...




有人型の神機兵にはテストパイロットがいる。
そんな妄想が形になった結果、今回のオリキャラが出てきました。
因みにマリーはゴッドイーターではありません、F式制服を着ていますが腕輪は無いです。

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