神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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抗神カズキとフィア・エグフィード、2人の物語は続いていく。

そして、再び物語に変化を齎す存在が……現れる事になる。


第3部捕喰123 ~ロミオの焦りと現れる少女~

――アラガミの雄叫びと悲鳴が、戦場に響き渡る

 

その中心に居るのは1人の美しき少女、名は抗神アリサ。

自らの獲物であるアヴェンジャーを振り回しアラガミと戦うその姿は、美しくも力強い。

少女の細腕とは思えぬ剛力を以て、アリサはまた一体自分に向かってきた大型アラガミを両断する。

 

“――――すげえ”

 

彼女の高すぎる戦闘能力を目の当たりにして、彼女と同じく戦っているロミオは、おもわず見入ってしまう。

だが戦場でその行為は愚行でしかない、動きを止めたロミオに向かってボルグ・カムランが迫る―――!

 

「ロミオ!!!」

「えっ―――おわあっ!!?」

 

間一髪、共に戦っているギルの怒声を耳に入れ、ロミオはどうにか装甲を展開。

刹那、カムランの尾針が放たれ装甲とぶつかり合い――耐え切れず、ロミオは地面を転がるように吹き飛ばされる。

数メートル転がり、どうにか立ち上がるロミオであったが、既にカムランは次の一手を繰り出す準備を終えていた。

 

「くっ―――!?」

装甲を展開している余裕はない。

転がるように横へ回避するロミオ、その一瞬後にカムランの尾針がロミオが居た場所に突き刺さった。

……逃げるのがあと一瞬遅ければ、串刺しにされていた。

その事実がロミオの身体を硬直させ、そんな彼に再びカムランの尾針が―――

 

「―――はあああああっ!!!」

爆撃めいた音が、ロミオのすぐ傍で響く。

 

カムランの尾針は確かにロミオを捉えていた。

だがそれは彼に届かず、逆にアリサの横薙ぎの一撃によって完全に破壊されてしまう。

鮮血を断末魔の叫びを発しながら、大きく仰け反るカムラン。

その絶対的な隙を逃さず、アリサは神機を銃形態に変形させながらカムランの真下へと潜り込む。

そして無防備なカムランの下腹に八発の銃撃を叩き込み、すかさず神機を剣形態へ。

 

「し―――………!」

掬い上げるような一撃。

風切り音を響かせるそれは、迷う事無くカムランの肉体を容易に引き裂く。

それで終わり、致命的な一撃を叩き込まれたカムランは、身体を痙攣させながら地面に倒れこみ…二度と動かなくなった。

 

「ロミオさん、大丈夫ですか!?」

「あ………は、はい!!」

「ならまだ戦えますね。来ますよ!!」

「―――――っ」

 

 

…………。

 

 

「―――おい、ロミオ」

 

戦いが終わり、回収班を待っている中。

座り込み待機しているロミオに、ギルが声を掛けてきた。

しかしその口調には不満や怒りの色が見え、ロミオは面倒そうに立ち上がりギルと視線を合わせる。

 

「こんな事は言いたかないが……最近のお前はどうもたるんでやがる」

「へえー、さすが歴戦の戦士であるギルバートさんは言うことが違うね」

「おい、ふざけてんのか……?」

「そんなんじゃねえよ。気をつけるって」

「…………ロミオ、これだけは言っておくぞ。

 俺達ブラッドはチームだ、協調性の足りない俺が言うのもなんだが……勝手な行動はするな。

 自分のできること以上の事をすれば、自分だけじゃなく仲間を危険に晒す事になる。それを忘れんなよ?」

「……わかってるっての」

「……………」

 

何か言いかけようとして、ギルはそのまま何も言わずロミオから離れていく。

その後ろ姿を何となく見つめながら……。

 

「………俺だって、ブラッドなんだからな」

ぽつりと、自分に言い聞かせるように呟きを零した―――

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

―――アナグラ、ラウンジ内

 

「もぐもぐ………」

「フィア、美味しい?」

「ほいひい」

「ああもう、口にものを入れたまま喋っちゃだめだよ、それに口にソース付いてる」

 

美味しそうに自分の作った料理を食べるフィアを、甲斐甲斐しく世話をするナナ。

傍から見るとまるで姉弟のようだ、そんな微笑ましい様子の彼等の耳に、小さな悲鳴が聞こえてきた。

 

「痛………っ」

「? あれ、シエルちゃん?」

「シエル、どうしたの?」

 

右手で左手を押さえるシエルの姿を見て、2人は疑問に思い彼女に近寄っていく。

よく見ると彼女の右手の中指から血が出ている、更に噛み跡……それを見て2人は視線をある場所へと向けた。

そこに居るのは、カピバラの『カルビ』。

……どうやらまた噛まれてしまったようだ、どうもカルビはシエルには懐いていないらしい。

 

「シエルちゃん、大丈夫?」

「は、はい。ちょっと噛まれただけなので……」

「……血が出てる」

「大丈夫ですよフィアさん、たいした傷じゃ………」

「はむっ」

「ひゃあ!?」

「あっ」

 

シエルの口から、素っ頓狂な声が飛び出す。

まあそれはそうだろう、何故なら……シエルの指をフィアが銜えたからだ。

彼としては血を止めるつもりだったのだが、やられたシエルにしては不意打ちもいい所である。

結果、彼女はその顔を真っ赤に染め……そのまま動かなくなった。

 

「ちゅぱ……シエル、血は止まった?」

「……………」

「? シエル、どうしたの?」

 

再度フィアが問いかけるが、彼女からの返答はない。

一体どうしたのか、首を傾げるフィアにナナは苦笑混じりに説明した。

 

「フィア、いきなりあんな事されたら吃驚しちゃうよー」

「あんな事って?」

「今みたいなのだよ。男の子にいきなり指を銜えられたら、吃驚するのも当たり前なの」

「………?」

 

よくわからない、といった表情を浮かべるフィア。

この子は……彼の反応を見て、ナナは苦笑を浮かべてしまう。

尚、その間もシエルは固まったままで反応無しなのは言うまでもない。

 

「まったくもう……シエルちゃーん、おーい?」

「……………」

「ダメだこりゃ……」

 

呼んでも反応を返さないシエルに、ナナは肩を竦めてしまう。

さてどうしようか……そう思っていたナナであったが、ふとフィアへと視線を向け…ある事に気づく。

てっきりシエルの反応に怪訝な表情を浮かべているとばかり思っていたが、今の彼は彼女ではなく別の場所を見つめていた。

しかも、その表情は少しばかり険しい。

 

「フィア、どうしたの?」

「……あれ」

 

ある一点を指差すフィア。

ナナは視線をそちらへと向け、そこでようやく…自分達を遠くから見ている存在が居た事に気がついた。

 

「………誰かな?」

フィアが指差した先には、1人の少女がジッとこちらを見つめていた。

歳は自分やシエルくらいだろうか、色素の薄いオレンジ色の髪を後ろで1つに束ねながら下ろしており、瞳の色も薄いオレンジ色だ。

F式制服に身を包んだその少女はフェンリル関係者なのだろう、しかし腕輪が無いので神機使いではないようだ。

だがナナはそんな事よりも、少女の目つきに驚いた。

 

――何故、こっちを見ている少女は自分達を睨むように見ているのだろうか?

 

どこか敵意すら込められた視線を、少女は自分達に向けている。

いや、正確には自分ではなく……フィアに対して向けていると、ナナにはそう思えた。

だが少女とは面識がない筈だ、少なくともナナにとっては初対面である。

……どちらにせよ、そんな視線を向けられているのはあまりいい気分ではない。

自然とナナの表情も強張っていき、そんな中――少女がこちらに向かって歩み寄ってきた。

 

「……………」

「…………?」

 

少女は真っ直ぐこちらへと向かってきて、迷う事無くフィアの前で立ち止まる。

相変わらず厳しい視線で、少女はフィアを見つめていた。

それだけでも迫力があるというのに、170近い長身がその迫力に拍車を掛けている。

場の空気は秒単位で緊迫していき、やがて……少女はフィアに対し、重苦しい声で口を開いた。

 

「――何故、お前のような存在がここに居る?」

「えっ?」

「お前のような()()が、何故人間と共に居るのか…そう訊いたんだ」

「なっ!?」

 

少女の迫力に呑まれかけていたナナであったが、今の一言で自分を取り戻した。

怪物、少女はフィアに対して確かにそう言った。

その言葉を許容する事など到底できない、気がついたらナナはフィアを庇うようにしながら少女を睨みつけていた。

 

「いきなり何ですか、あなたは!!」

「……その黒い腕輪、ブラッドか」

「質問に答えてください!! どうしてフィアを……」

「そのままの意味だ。コイツは普通の神機使いじゃない、内側に……わたしと同じ怪物を飼っている」

「えっ………」

「生きるな、などという偉そうな事を言うつもりはない。だが内側にそんなものを抱えて生きているのなら……兵器として生きる方が賢明だ」

「……………」

「本当はお前とてわかってるのだろう? だが仲間という甘い毒にやられ抜け出せないだけ―――」

 

 

「―――――黙って、いただけませんか?」

 

 

空気が、変わった。

緊迫した空気は、今の一言で完全に凍りつき、3人の視線が声の主へと向けられる。

そこには……少女を冷たい目で睨む、シエルの姿があった。

……人はここまで冷たい瞳になる事ができるのか、そう思えるほどに今のシエルの目は恐ろしく映った。

それを直接受けていないナナですら、今のシエルの瞳を直視する事ができない。

だが、それを真っ向から受けているというのに、少女は不動のままシエルへと視線を向けた。

 

「取り消してください、今の言葉は……フィアさんを傷つけました」

「事実を言っただけだ。それにコイツもわたしの言葉が正論だとわかっている」

「それは違います。フィアさんは人間です」

「………そうかもしれないな。だが今のコイツは怪物になっている、その事実は変わらない」

「何故、そんな事があなたにわかるのですか?」

()()()()()()()()()()

「――それは、どういう」

「―――マリー、何をしているんだ?」

 

突如響いた男の声が、場の空気を霧散させた。

現れたのは、中年と呼べる見た目の少し汚れた白衣を身につけた男性。

ダークブラウンの髪を短く切り揃え、瞳の色は黒。

彫りの深い顔立ちに長身ながら痩せ細ったその身体は、どこか苦労性を匂わせる。

だがその瞳の色は柔らかく、どこか好感の持てる男性だと3人は思えた。

 

「…………お父さん」

「マリー、勝手に動き回ってはダメだ。心配するだろう?」

「……それは、わたしが兵器だから?」

「マリー!!」

「っ」

 

男性の怒声に、マリーと呼ばれた少女はビクリと身体を震わせた。

 

「……大きな声を出してすまない。だがもう二度と自分をそんな風に思ってはいけないと言った筈だよ?」

「………ごめんなさい。お父さん」

 

蚊の鳴くような声で、謝罪の言葉を告げるマリーの頭を、男性はあやすように優しく撫でる。

そして、男性は視線をフィア達に向け頭を下げた。

 

「すまない。どうもこの子が君達に不快な思いをさせてしまったようだね……」

「ボクは別にいいよ。気にしてないから」

「フィアさん、そういう問題ではありません。……そちらの女性が、彼の事を怪物だと罵りました。到底それは許容できるものではありません」

「……マリー、どうしてそんな酷いことを」

「事実を言っただけだよお父さん。コイツはわたしと同じ、内側が人間じゃないんだ」

「っ、いい加減に………!」

「なんだって? マリー、それは確かなのか?」

「間違いないよ、お父さん」

「…………だがだとしても君の言動で傷ついたのも事実だ、きちんと謝りなさい」

「……………」

 

謝る気など毛頭ない、そんな態度のままマリーはフィアに向かって無言で頭を軽く下げる。

しかし当然シエルもナナも納得できるわけがない、そんな態度で謝罪だと言える訳がないからだ。

抗議しようとして…フィアに止められてしまった2人は、不満を隠そうとしなかったがそれ以上は何も言わなかった。

 

「本当にすまない。謝って許してもらえないかもしれないが……」

「別にいいってば、それより……()()()()()()()()?」

「……ああ、そうだよ。だがマリーはぼくの大切な娘であり立派な人間だ、もちろん……君だって立派な人間だよ?」

「…………ありがとう」

 

決して同情ではない、本心からの言葉だとわかり、フィアは優しく微笑んで男性に礼を述べた。

男性もフィアに微笑みを返し、そのままラウンジから立ち去ってしまう。

 

「………あの人達、一体何なんだろうね」

「わかりません。でも……お友達にはなりたくないです、絶対に」

「あはは………」

 

やはりシエルは怒らせると恐い、ナナは改めてそう思った。

一方、フィアはジッと先程の人物――マリーの後ろ姿を眺め続けていた。

 

 

 

 

 

 

To.Be.Continued...




謎の少女とそのお父さん、登場です。
そしてもうすぐあのイベント……すみませんが、暫くシリアスが続いてくと思いますのでご了承ください。

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