神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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ギル、そしてハルオミの過去を清算したフィア。

新たな絆と受け継がれた遺志を得て、彼はまだ歩みを止めない……。


第3部捕喰103 ~帰ってきた青年~

「―――よし、調整もこれで完了だね」

「ありがとうリッカ、ごめんね無理言って」

「気にしない気にしない、私は私のやるべき事をしただけなんだから」

 

そう言って、整備班であるリッカは隣に居るフィアに笑いかける。

もう一度ありがとうと告げてから、フィアは改めてアームに固定された神機――ケイト・ロウリーの神機に視線を向けた。

ルフス・カリギュラとの戦いが終わった後、フィアはリッカにケイトの神機を渡し整備するよう頼んだ。

この神機はまだ生きている、ケイト・ロウリーという人物の意志が宿っているのだ。

だからまた使用できるように整備を頼み、リッカもそれを承諾して整備パーツを整え……5日かけて整備を終えた。

 

「でも刀身パーツは大丈夫だったけど、銃身と装甲パーツは完全にオシャカになってたよ。……本当に変えなくていいの?」

「うん、こっちは刀身しか使わないから」

「けど神機を二刀流する神機使いなんてフィアぐらいじゃないかな? まあやろうと思えばできる人は居ると言えば居るけど」

「この神機にはギルとハルオミにとって大切な存在であるケイトの神機だから、きっと戦う力になる事を願っていると思うんだ」

「そっか……ところで、この刀身に名前はあるの?」

「【アビークレイグ】っていうらしいよ、ケイトが命名したんだって」

「……うん、良い名前だね」

 

建前ではない、本心から来る賞賛の言葉を放つリッカ。

ボクもそう思うよと返しながら、フィアは小さな笑みを浮かべる。

 

「じゃあ、早速実戦で試してみるよ。それで違和感があったら微調整してくれる?」

「勿論。すぐ使えるように準備しておくから」

 

宜しく、そう告げながらフィアはエレベーターに乗り込んだ。

向かう先はエントランスロビー、手頃なミッションを受注するためである。

程なくしてエントランスロビーへと辿り着き、フィアはそのままカウンターに居るヒバリの元へ。

 

「ヒバリ、ミッションを受けたいんだけど」

「こんにちはフィアさん、現在受注できるミッションはこちらになります」

 

そう言って、ミッション内容が記載されたデータを提供するヒバリ。

さてどのミッションにしようか、暫し眺めていたフィアであったが……ふと、背後へと振り向く。

そこには誰もいない、しかし彼の視線の先にある出入口の扉から何かが近づいてくる事を感じ取った。

……人間ではない、だがアラガミでもない存在だ。

静かに身構えるフィア、そして扉が開かれ……現れたのは、長身の青年。

 

「あ、カズキさん!」

(カズキ……?)

「ただいまヒバリさん、お疲れ様です」

 

少し驚きを含んだヒバリに笑みを返し、青年――抗神カズキは極東支部へと帰還した。

そしてすぐさまフィアの存在に気づき、視線を合わせると…彼は声を掛けた。

 

「こんにちは。君は……」

「……フィア・エグフィード、ブラッドの副隊長だよ」

「ブラッド……そうか、君がアリサの言ってた凄い神機使いだね。

 僕は抗神カズキ、フェンリル極東支部独立支援部隊“クレイドル”のメンバーだ」

「知ってるよ。……あなたも、アリサと“同じ”なんだ」

「………君もそうみたいだね。でも君自身は人間だ、見ればすぐにわかる」

「……………」

 

その言葉に、フィアはなんともいえない表情を浮かべる。

初めて見る抗神カズキという人物は、第一印象では穏やかで優しそうな青年に見えた。

しかし内側から溢れ出す生命力はただ凄まじく、最強のゴッドイーターと謳われるのも理解できる。

 

「極東に戻るのも久しぶりだなあ」

「本当ですよ。クレイドルの任務はそんなに忙しいんですか? アリサさんは時折帰ってきてるのに……」

「まあ仕方ないさ。けどサテライト居住区の候補地はまた新たに見つかったし、成果が無かったわけじゃない。それじゃあフィア…だったよね? 僕はこれからサカキ博士にクレイドルの報告書を届けないといけないから、また後でね?」

 

そう言って、その場から離れていくカズキ。

 

「……あの人が、抗神カズキか」

「フィアさん達はまだ会った事がないんでしたよね。とても頼りになる人ですよ」

「うん。凄く強いっていうのは見ればわかる、それに……優しそうだ」

「優しすぎる時がありますけどね」

 

苦笑するヒバリ、その態度からして余程のお人好しなのだと推測した。

そんな事を考えつつ、フィアは今度こそミッションを受注しようと視線をデータへと移したのだった。

 

 

…………。

 

 

「―――――あ」

「………?」

「ねえ、ちょっと……」

 

ミッションから帰ってきたフィアに、1人の少女が話しかけてきた。

少女の名はエリナ、同じ第一部隊のエリックの妹である神機使いだ。

声を掛けられたフィアは、とりあえずエリナの元へと近づいていく。

 

「何?」

「………今、暇かな?」

「暇と言えば暇だよ、それがどうかした?」

「あ、うん……その」

 

何だか歯切れの悪いエリナの様子に、フィアは首を傾げた。

とりあえず彼女の言葉を待っていると……第三者が現れる。

 

「エリナちゃん、こんにちは」

「えっ!? あ……カズキ、先輩」

「フィアも一緒だったんだ。こんにちは」

「こんにちは、カズキ」

「……………」

 

カズキの出現で、エリナの表情にあからさまな緊張の色が見え始めた。

どうやらカズキに対して緊張しているようだ、比較的新兵であるエリナなら仕方ない反応かもしれない。

そんな彼女の心中など知らないカズキは、気にした様子もなく言葉を続ける。

 

「2人とも、今時間あるかな?」

「え、あ、はい……」

「ボクは別に大丈夫だけど、どうかした?」

「……ちょっと君の実力を見せてもらいたいんだ、エリナちゃんは付き添いになるけど…実戦経験が増えていいと思うんだ」

「はい。それにわたしも……ブラッドの副隊長さんの実力、見てみたいと思ってましたから」

「構わないかな?」

「いいよ。それにまだケイトの神機だって調整したいと思っていたから」

「決まりだね」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「――は…はっ…はぁ………」

 

息を乱しながら、エリナは戦場を駆け抜ける。

カズキとフィアと共にミッションへと向かったエリナであったが……今の彼女には少々荷が重いミッションであった。

既にヴァジュラ、セクメト、グボロ・グボロ、ガルム……様々な大型アラガミの骸が転がっている。

因みにエリナが仕留めたアラガミはオウガテイル等の小型アラガミのみであり、他の大型アラガミは…今尚複数のアラガミと戦っているカズキとフィアが討伐した。

 

(カズキ先輩は知ってるけど……副隊長も、強いなあ)

 

神機使いの中でも唯一と言える二刀流、更にブラッドアーツやブラッドバレットといった特殊能力。

凄まじいまでの強さを誇るフィアに、エリナは驚くばかり。

そしてそれは、カズキも同じであった。

 

(……強いな。さすがというべきだろうか)

 

動きに無駄がなく、確実にアラガミの弱い部分を突いて攻撃している。

聞いた話によると彼は神機使いになってまだ日が浅い、それでここまでなのだから驚くのも当然だ。

それに「血の力」と呼ばれるブラッド特有の力もある、頼もしい存在がこの極東に来たとカズキは思った。

 

(これが最強のゴッドイーター……成る程、確かに強い)

 

フィアもまた、カズキの強さに驚いていた。

最強のゴッドイーターの名は伊達ではない、パワーもスピードも自分やジュリウスを上回っている。

こうして見ると、カズキの相手をしているアラガミに同情すら送りたくなった。

……尤も、カズキが普通の神機使いではないという事がわかっている以上、驚きもさほど大きいものではない。

 

 

――やがて、周囲のアラガミ全てが掃討された

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ………」

「エリナちゃん、大丈夫?」

「は、はい……大丈夫、です……」

 

肩で大きく息をしながらも、強がるエリナにカズキは苦笑を浮かべる。

意地を張っている今の彼女は、昔のアリサを彷彿とさせたからだ。

 

「お疲れ様フィア、やっぱり強いね君は」

「カズキも強いね、最強のゴッドイーターって言われるだけはある」

「ははは……でも、守れない人は守れない情けない男には変わりないけどね」

 

そう言って、カズキは悲しそうに笑う。

……彼もまた、この世界で悲しみを背負って生きている。

戦って、戦って、戦い抜いて……それでも、前を向いて生きていかなければならない。

どこか自分と似ているかもしれないと、フィアはふとそう思った。

 

「さあ、帰ろうか?」

「あ、はい……そうですね」

「ねえエリナちゃん、第一部隊にはもう慣れた?」

「慣れたと言えば慣れましたけど……エミールが鬱陶しいです」

「はは、でも彼だって悪い人間じゃないよ?」

「それはわかってますけど……コウタ隊長も、わたしとエミールが言い争っててもなあなあで済ませようとするし……」

(コウタ、苦労してるなあ……)

 

親友の苦労人気質は、昔とまるで変わってないようだ。

彼に同情を送りつつ……カズキは、フィアから視線を感じそちらへと向いた。

 

「フィア、どうかした?」

「……ううん、なんでもない」

「そう。ところでフィア、君が強いのは今回のミッションでよくわかったけど、無茶をしていい道理にはならない。だから、あまり無茶をしてみんなを心配させたり困らせたりしたらダメだよ?」

「カズキ先輩には一番言われたくないと思いますよ」

「うぐ……」

「……でも、思ってたよりずっとやるじゃん。あなたの事…正直なめてた」

「エリナも思ってたよりずっと強いね」

「むっ……なーんか引っかかる言い方」

「ごめん、わざと」

「ちょっと………!」

 

ジト目で睨むエリナに、涼しい顔を返すフィア。

その反応を見て、エリナはますます不機嫌そうに表情を歪ませた。

そんな2人のやりとりを、カズキは保護者のような気分を味わいながら見守っていたのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「――ジュリウス・ヴィスコンティです。お噂はかねがね」

「はじめましてジュリウス大尉、抗神カズキです」

「ジュリウスで結構ですよ」

「じゃあ僕もカズキでいいよ、ジュリウス」

 

アナグラのラウンジにて、挨拶と握手を交わすカズキとジュリウス。

その後、他のブラッドとの挨拶も交わし、その際にロミオが興奮していたがどうでもいいので割愛する。

 

「あの人が最強のゴッドイーターかあ……ねえねえフィア、一緒に戦ってみてどうだった?」

「強いよ、遠距離も近距離もまるで無駄がないし周りの指示出しも的確だし、流石としか言いようがない」

「抗神大尉に戦術面でのアドバイスを受ければ、ブラッド内での運用効率も上がるかもしれませんね」

「シエル、抗神大尉なんて堅苦しい呼び方したら、またほっぺた引っ張るよ?」

「ええっ!? ど、どうしてですか!?」

「だって、シエルのほっぺた引っ張ると面白いんだもん」

「そ、それってフィアさんが引っ張りたいだけじゃないですか!!」

「………ほいっ」

「ひゃい!?」

 

何故かナナがシエルの頬を引っ張り始める。

 

「おお……シエルちゃんのほっぺた柔らかい、これはフィアが引っ張りたくなるのも判る気がする」

「でしょう?」

「ひゃ、ひゃなしてくだしゃい~!」

「何やってんだよお前らは……」

「……………」

「そしてロミオ、なんで若干羨ましそうに見てんだ?」

「み、見てねーし!!」

 

「…………申し訳ない、騒がしい隊員達で」

「そんな事ないよ、極東支部の人達だってあんな風に賑やかなんだから。

 アラガミと戦っているからって軍人みたいに規律正しいだけだったら、きっと心が疲弊するよ。それじゃあ人間として生きているとは言えないと思うし」

「そうですね。俺も……最近ではそう思うようになりました」

「ところで……フィアとあの2人の女の子って仲良しだよね? もしかして……どちらかと付き合ってるとか?」

「いえ、そのような事は聞いていませんが……そう見えますか?」

「ああごめん、アリサがそういった話が大好きだから自然とそういう目で見るようになってるみたいだ」

 

あはは、とカズキは苦笑を浮かべる。

そんな中――ラウンジの入口が開かれ、1人の少女が猛スピードでカズキ達の元へと駆け寄ってきて……。

 

「カーーーーーーーズーーーーーーキーーーーーーーー!!!」

「えっ―――ぐはあっ!!?」

 

そのまま、カズキの身体に猛烈なタックルを叩き込んだ。

否、彼女からすれば抱きついただけなのだがあまりにも勢いがあったのでそうとしか見えなかった。

そのまま吹っ飛ばされ、背中を強打しながら倒れ込むカズキ。

一体何事かと、ブラッド達は視線をそちらへと向けると。

 

「はぁ、はぁ……カズキ、やっと帰ってきてくれましたね……」

「ちょ、ちょっとアリサ……」

「クンカクンカ……ああ、約五十二日振りのカズキの匂いです……」

「な、なんで嗅ぐの? まだ今日はお風呂に入ってないから汚いよ!!」

「じゃあ私と一緒に入りましょう、今すぐに!!」

「お、落ち着いてアリサ! 引っ張らないでーーーーーーーーっ!!!」

 

恍惚に満ちた笑みを浮かべながら、カズキに抱きついた少女――アリサは速攻でカズキの手を引っ張りラウンジを後にする。

遅れて聞こえたカズキの声が哀愁に溢れ、それを見ていたフィア達はというと。

 

『……………』

 

まあ当然の如く、全員がポカンとしたまま立ち尽くしていた。

いつものアリサとはまるで違う姿に、面食らってしまうのも無理はない。

 

「………何だ、あれ」

「アリサさん……ですよね?」

「カズキの前だと、あんな感じになるんだ……」

「ラ、ラブラブ……だね」

「アリサさんとお風呂…………いいなあ」

「ロミオ、今の発言は聴かなかった事にしてやる」

 

まだ面食らっているブラッド達とは違い、他の神機使い達はいつも通りに過ごしていた。

何故か?そんなの決まっている、いつもの事だからだ。

それにあのバカップルにちょっかいを出せばこっちに飛び火してくるのは明白なので、やり過ごすのが一番いい。

触らぬ神に祟りなし、あの2人にはこの言葉がよく当て嵌まる。

 

 

 

「さあカズキ、早く服を脱いでください。それとも……脱がしましょうか?」

「……一緒に入るのは前提なんだ」

「当たり前です、そしてお風呂の中で……ふふふふ」

(あ、これは拙いパターンだ。後で栄養ドリンク飲まないと………)

 

 

 

 

 

 

 

To.Be.Continued...




やっと前回の主人公であるカズキが出せた……。

補足説明、ケイトさんの神機は無事使えるようになってますが……銃身と装甲パーツは使用不可状態になっています。

正確には使用できるのですが、劇中でもフィアが言っていたように刀身のみ運用するのでこれからも使えるようになる事はないでしょう。

刀身の二刀流はできても、銃を2つ同時に使用するのは不可能だと思いまして、ご了承ください。

あ、それとケイトさんの神機は「ロングパーツ」という認識です、ゲームで見た限りそう見えたので。

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