神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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ケイトの仇――ルフス・カリギュラの情報を得て、ギルは1人で戦場に向かう。

しかしそんな彼を、フィアが行かせるはずもなく彼の前に立ち塞がった………。


第3部捕喰101 ~ルフス・カリギュラ~

「―――お前には、関係のない事だ」

 

ボクも行く。

その言葉を聞いた瞬間、ギルはすぐさま上記の言葉を返した。

冗談ではない、無関係なフィアを巻き込むわけにはいかないのだ。

これは自分の問題であり我侭でしかない、だというのにフィアを巻き込んでは……。

 

「関係なくない、ボクはブラッドの副隊長だ。

 隊員の戦いに無関係で居るわけにはいかない」

「っ、それは大きなお節介って言うんだ………!」

「無視しても別に構わないよ。勝手についていくし勝手に戦うだけだ」

「フィア………!」

 

おもわず、ギルはフィアを強く睨む。

しかし彼は微塵も動じる事はない、意見を曲げるつもりはないようだ。

そんな中――彼等の会話に割って入る存在が現れる。

 

「――ならば、俺達も一緒に行こう」

「ギルー、これはお前だけの問題じゃねえだろー?」

 

「ハルさん………!?」

「ジュリウス……?」

 

現れたのはジュリウスとハルオミ。

2人は彼等の前に現れ、彼等だけでは行かせぬと道を塞ぐように対峙する。

 

「ギル、これは俺の問題でもあるんだ。お前だって俺だけで行こうとしたら同行するだろう?」

「………それ、は」

「ギル、フィア、お前達はブラッドの隊員であり俺の大切な仲間だ。

 そんなお前達をみすみす放っておくわけにはいかない、隊長として…お前達の戦いをサポートする事ぐらいはできる筈だ」

「サポートなんてとんでもない、ジュリウスが来てくれるなら安心して戦えるよ」

「……ありがとう、フィア」

「いい隊長さんと副隊長さんじゃねえの。おいギル、大切な仲間にここまで言われてんのにまだ肩肘張って1人で行く…なんて事はしねえよな?」

「……………」

 

お人好しにも程がある、ギルは心の中でそう呟く。

ハルオミはともかくとして、フィアもジュリウスも…今回の問題に直接の関係はない。

だというのに自分の我侭を認め協力しようとしている、これがお人好しでなければ何と言うのか。

 

「……すみませんハルさん、1人で突っ走る所でした」

「いいっていいって、俺だってお前と同じ事をしようとしてたしな。

 けどお前さん達は本当にいいのか? 今回の事は……完全に私情が入っちまってるぜ?」

「アラガミを倒すのが俺達の仕事です。それに……仲間を支えるのが隊長の勤めと思っていますので」

「ギルはボクの大切な友達だよ、それ以外で協力する理由がいるの?」

「……ホント、いい上司を持ったなお前」

 

本気の口調で、ハルオミはそう口にする。

彼は幸せ者だと、断言できる程に仲間に恵まれた。

 

「だがフィア、無理だけは―――」

「今回だけはギルに言われたくない。――命を捨てるような真似は、しないでね?」

「―――――」

 

その言葉には、様々な感情が込められているとギルは感じ取っていた。

純粋で、大きく、そして重い願い。

初めて見せる強い懇願が込められたフィアの言葉に、ギルは無言で頷きを返す事しかできなかった。

 

「よっしゃ、んじゃまあ……行くとしますか?」

 

ハルオミの声に頷きを返し、フィア達は歩き出す。

――前を向いて、歩くために

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「――――居た」

 

空母エリア。

アラガミによって変わり果てたこの場所に、フィア達は赴いていた。

そして全員の視線が――見た事のないアラガミへと向けられる。

否、ギルにとっては……1日たりとも忘れた事のない、因縁の相手。

自然と顔は険しくなり、確かな憎しみと殺意の炎が内側から溢れ出し……。

 

「ギル」

「っ」

 

澄んだフィアの声が、ギルを現実へと引き戻す。

溢れ出した負の感情が、少しずつ彼の内側に戻っていく。

……そうだ、冷静にならなければ負ける。

相手は強い、そんな事自分が一番よくわかっているではないか。

だが今度は逃がさない、決して逃がすわけにはいかないと決意を抱くギル。

 

「ギルは前衛、俺は後衛、ハルオミさんとフィアは遊撃……これでいいですか?」

「OKOK、上出来なポジションだ。ギル……気負うなよ?」

「……はい、ハルさん」

「ジュリウス、ボクが後退したら前衛に行ってくれる?」

「わかった。ならば俺が交代したら再び遊撃に戻ってくれ」

「了解」

 

互いに行動を決めつつ、フィア達はアラガミへと向かっていく。

……周囲に他のアラガミの姿はない、だが肉片や血の跡は多量に残っている。

全て喰らったのだろう、あのアラガミ……ルフス・カリギュラが。

全員が神機を持つ手に力を込める、ギルに至っては握り潰さんばかりの力が込められていた。

ルフス・カリギュラはまだフィア達に気づかない、しかしこの広く見通しの良い戦場では奇襲は望めない。

だから真っ向から戦い勝利する、全員の意見が一致した瞬間。

 

「――――GO!!」

 

ハルオミの声が響き、全員がルフス・カリギュラへと向かって駆け出した―――

 

 

…………。

 

 

走る走る走る………!

やっと現れた、やっと見つけた仇を前にしてギルはどうしても冷静さを完全に取り戻す事はできなかった。

しかしそれは当たり前かもしれない、失った痛みに比例して憎しみは強くなる。

絶殺の意志を込めて、ギルはスピアをチャージ状態に移行しながら駆け抜けていった。

 

――ルフス・カリギュラがこちらに気づく

 

身体をギル達に向け、彼は……アラガミの頭部辺りに刺さる神機を見て今度こそ冷静さを失った。

相手に刺さっている神機、それは間違いなくケイト・ロウリーが使っていた神機。

 

「うおおおおおおおっ!!!」

 

チャージグライド、スピアの特殊技である攻撃を繰り出すギル。

チャージによって込められた力を解放させ、自身の身体ごと弾丸のように突っ込ませていく。

先制攻撃、タイミングも威力も申し分ない一撃は。

 

「っ、何………!?」

 

あの時と同じように、上空に跳躍され避けれてしまう。

すぐさまルフス・カリギュラはギルに向かって右腕のブレードを叩き込もうとして――身体に衝撃と痛みが走る。

意識をギルにのみ向けていたため、ジュリウスとハルオミが放った銃撃をまともに受けてしまった。

ルフス・カリギュラの動きが鈍り、その隙にフィアも跳躍する。

そして、相手が地面に着地する前に彼は神機の刀身を相手の頭部に向けて振り下ろす―――!

 

「っ、ギガアアアアアアアッ!!!」

(浅い………!)

 

バスタータイプによる強靭で重い一撃。

それはルフス・カリギュラの顔に縦一文字の傷を刻ませたが、フィアは感じた手応えで今の一撃が殆ど通じて居ない事を悟る。

……通常のカリギュラよりも硬い、今の一撃でフィアは理解する。

そのまま地面に着地…する前に両足でルフス・カリギュラの頭部を蹴って相手から離れるフィア。

出し惜しみはできない、すぐさまそう考えフィアはブラッドアーツを発動。

刀身が紫のオーラに包まれ、それがそのまま彼の刀身へと変化する。

ブラッドアーツ“CC・アマルティア”、一撃の破壊力を向上させフィアは再び間合いを詰めた。

 

「ギィィィィィィィィィッ!!!」

 

対するルフス・カリギュラは耳障りな声を上げつつ右腕のブレードを展開。

複雑に分かれた刀身が姿を現し、ルフス・カリギュラはそのまま向かってくるフィアに対して横薙ぎに振るった。

それと同時にフィアも刀身を迫るブレードへと振るい―――吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。

 

「ぐ………っ!!」

「フィア!!」

「チィ―――!」

 

ズルズルと壁に背を預けながら座り込むフィア。

それを見た瞬間、ジュリウスは神機を剣形態へと可変させながらルフス・カリギュラへと向かった。

同時に彼は“血の力”を開放、それにより周囲3人が“バースト状態”へと移行した。

下段からの振り上げによる一撃、風切り音を響かせながら刀身がルフス・カリギュラを襲う。

 

「っ」

 

ガッという鈍い音と衝撃が、ジュリウスの神機から両手に向かって襲い掛かる。

ジュリウスが放った一撃は、なんとルフス・カリギュラの左手によって文字通り掴まれてしまっていた。

 

(こいつの装甲は………!)

 

通常のアラガミとは比べものにならないほどの強固な防御力に戦慄するジュリウス。

その一瞬の隙を狙い、ルフス・カリギュラは口から青白い炎を吐き出そうとして――背中に衝撃が走る。

続いて横からの衝撃、それはハルオミが放った銃撃だと理解したが……。

 

「……てめえだけは、ここで倒す!!」

 

背中の衝撃は、ギルが放った渾身の一撃によるものであった。

スピアの刀身が根元付近まで突き刺さり、抜き出した瞬間ルフス・カリギュラの身体から赤い液体が噴出する。

さすがに効いたのか、断末魔に近い雄叫びを上げるルフス・カリギュラ。

……だが、まだ彼等の連撃は終わっていない。

 

「ジュリウス!!!」

「っ」

 

響くフィアの声、上空を見ると……ブラッドアーツの刀身を振り上げたフィアが落ちてくる姿を捉える。

そのまま彼は神機を勢いよく振り下ろし、ジュリウスの神機を掴んでいるルフス・カリギュラの左手を深々と切り裂いた。

再び噴出する鮮血と悲鳴、その隙にジュリウスは神機を銃形態にしつつ後退し同時に銃撃を浴びせていく。

更にフィアも同様に神機を銃形態へと移行させつつ――新たなブラッドバレットを用意した。

今回のブラッドバレットはアサルトタイプのもの、利点である連射能力を極限まで高められた銃弾である。

 

「ハルオミ、チャージクラッシュの準備!!」

「応よ!!」

 

フィアの指示と同時に剣形態へと神機を変えながらアラガミの懐に飛び込んでいくハルオミ。

そしてフィアがブラッドバレットを発射した瞬間―――けたたましい発射音と共に、銃弾が飛び出していった。

その銃撃はまさしく銃弾の雨と呼ぶべきものであり、どのバレットも軽々と上回る連射力と破壊力を秘めていた。

発射された時間は僅か三秒にも満たないものであったが、それだけの短い時間で百発近いバレットが撃ち出された。

銃撃の嵐をまともに浴び、ルフス・カリギュラは悲鳴を上げながら硬直する。

絶対的な隙、それを逃すハルオミ達ではない。

 

「ギル!!」

「はい!!」

 

チャージクラッシュの準備と共に、ハルオミはギルを呼ぶ。

そしてギルもそれに答え、チャージグライドの体勢に入り。

 

「これで―――」

「―――くたばれ!!!」

 

ハルオミの一撃がルフス・カリギュラのブレード部分を完全に破壊し。

ギルの一撃が、ルフス・カリギュラの頭部の一部を抉り貫いた―――

 

「カ、ッ……ッ………」

 

全身を震わせながら、ルフス・カリギュラは地面に沈む。

静寂が、戦場に訪れ少しずつ支配していく……。

 

(やった、のか………?)

 

声には出さず、警戒を解かぬままギルは心の中でそう呟き。―――その刹那。

 

「―――ギィイイイイイイアアァァァァァァッ!!!!」

「っ、マジかよ………」

 

ルフス・カリギュラは、起き上がった。

あれだけの攻撃を受けて尚、目の前のアラガミはまだ生きていたのだ。

戦慄するほどの生命力、だが呑気にそれを眺めている余裕は無い。

 

「く………!?」

「ギル!!」

 

最初に狙われたのは、ギル。

しかし彼は咄嗟に動く事ができなかった。

先程のチャージグライドによる一撃により、一時的にスタミナを著しく消耗してしまったのだ。

 

――ルフス・カリギュラの無事である左腕のブレードが彼に迫る

 

まともに受ければ、人間の身体など綺麗に真っ二つになってしまうだろう。

駆け寄ろうとするハルオミとジュリウス、けれど間に合う事はできずにギルの身体は―――

 

「っ、ぐあ………っ!?」

「ぐう………!?」

 

だが、ギルは五体満足のまま吹き飛ばされ壁に激突するだけに留まった。

一体何が起きたのか、痛む背中を無視しながらギルは視線を前へと向けて……思考を停止させた。

 

「ぐ、うぁ……」

「………フィア?」

 

自分にのしかかるように、フィアが倒れている。

ぬるりと、彼の額からはおびただしい量の血が流れ…ギルの衣服を赤く染め上げていた。

その光景に、ギルは一体何が起きたのかを理解できずに固まってしまい……他ならぬフィアの声で我に返った。

 

「――生きる事を、諦めたらそこで全部終わるんだ」

「―――――」

「ボクは、絶対に死ねない……死ぬわけには、いかない。

 この身は誰かの為に、戦えぬ者達の為に捧げると誓った……だから、っ、ボクは……生きる事を諦めない!!」

「…………フィア」

 

満身創痍の身でありながら、フィアは立ち上がる。

その幼く小さな身体のどこにそんな力があるのか、けれど彼は確かに立ち上がったのだ。

死ねないと、死ぬわけにはいかないと逃げずに立ち向かっている。

 

(俺は……あの時から、変わってないのか?)

 

助けられなかった、守れなかった。

自分の先輩であるハルオミの妻であり、姉のように接してくれたケイトを守ることができなかった。

そして今、自分はこうやって無様に倒れているだけで何もできないというのか?

自分より年下で、身体だってずっと小さいフィアが立ち向かおうとしているのに、自分は一体何をしている?

 

(そうだ、俺は………)

 

変わっていない、わけじゃない。

変わることを願った、そして……変われたと信じている。

……もう、“守れなかった”で終わらせるわけにはいかないのだ。

自分を支えてくれた、この小さな少年のためにも。

今度こそ守るのだ、変われた自分の為にも……そして何よりも。

 

 

―――私達が頑張れば、助かる人だってずっと増えていくもんね

 

 

そう言って笑ってくれた、ケイトの為にも。

今こうして、自分と共に戦ってくれる仲間達のためにも―――!

 

 

 

「ここで諦めるわけには………いかねえんだよおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 

 

 

To.Be.Continued...




次回、決着!!!

この場面は私の中でもお気に入りなので、結構力が入りました。

入りすぎて変になってないよね……?

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