とはいえ番外編とか入れるととっくの昔なんですが、細かい事は気にしない方向で。
これからも宜しくお願い致します!!!
「――終わり」
フィアが呟くと同時に、彼が切り裂いたアラガミが地面に沈む。
今日もアラガミを討伐する日々が続く、真の平和は……まだ遠い。
それはともかくさあ帰ろう、フィアは捕喰を終えてから戦場を後にしようとして……。
「…………?」
後ろに振り向き、続いて周囲を見回すフィア。
だが彼の視界には動く者はおらず、息絶えたアラガミも捕喰によって霧散している。
一体どうしたのか、しかしフィアは再び踵を返し今度こそ戦場を後にする。
(………今、誰かいた?)
「―――――――フフフ」
…………。
「フィア」
「あ、ジュリウス」
任務から戻り、ラウンジで休憩しているフィアへジュリウスがやってきた。
手にはコーヒーを持ち、隣に座っていいか訊いてからジュリウスはフィアの隣に座る。
「任務だったのか?」
「うん、ソロのだけど」
「……あまり無茶をするな。ここには優秀な神機使いが大勢いる」
「でも人手が足りてるわけじゃないでしょ?」
「ならばせめて誰かを同行させろ。ソロでの任務による死亡率の高さを知っているだろう?」
「大丈夫大丈夫。ボクはそう簡単に死ねないんだから」
「……………」
いつも通りのやりとり、こう返されるのも一体何度目か。
頑ななまでのフィアの返答に、溜め息を吐き出してしまうのも何度目になるのか。
だが最近では深く突っ込みを入れる事も無くなった、気にならないと言えば嘘になるが……どうせフィアは話したりはしないだろう。
「よっ、お二人さん」
「? あ、ハルオミ」
「こんにちは、ハルオミさん」
「おっす、隣いいか?」
2人は問いに頷きを返し、ハルオミはフィアの左隣に座る。
「ソロの任務に行ってきたんだって?」
「うん、でも何で知ってるの?」
「任務の帰りにヒバリちゃんがぼやいてたからな、「あの人はカズキさんみたいに無茶をする」って」
「むう……別に大丈夫なのに」
「そう言ってやるな。お前さんが無茶をしてるっていうのはみんな同じ意見なんだ。
……ギルが心配するのもわかるな、まあ…お前さんが無茶をするだけが理由じゃないんだが」
「……………」
黙っておくつもりだった。
そのまま聞き流して、会話を別のものにすればよかったかもしれない。
ただ、気になっていた事でもあったから……フィアは、ハルオミに問いかける。
「ねえ、ハルオミ」
「んー?」
「………ケイトって、どんな人だったの?」
「――――――」
それは、ハルオミにとって不意打ち過ぎる問いであった。
しかしすぐさまいつもの態度を戻し、あくまでハルオミは軽い口調で言葉を返した。
「お前さん、ケイトの事知ってるのか?」
「前にジュリウスから、ギルの事……グラスゴー支部での事を聞いたから」
「……そうかい」
「その際に、ギルは「上官殺し」の汚名を着せられる事になった…俺達が知っているのはここまでです」
「あー……そうか、ギルの事だから何も話してないと思ったが……あいつらしいや」
「………話せないなら、別にいいよ?」
「大丈夫だ、優しいなーお前は。ただ……ちょーっと重い話になるが、いいか?」
「ボクは構わない」
「俺も大丈夫です、ですが聞いてもいいのですか?」
「ああ、さて……どこから話したもんかな。
まず俺やギルがいたグラスゴー支部はな、ケイトを含めた3人でどうにか守ってきた支部なんだ。ここと違ってアラガミの脅威も少ないからどうにか捌いてきたんだが……」
そこまで言って、ハルオミの表情が曇る。
やはり話したくない内容なのか、そう思ったがフィアもジュリウスも黙って彼の言葉を待つ。
それから暫し経ち……ハルオミは決心したのか、再び話を続け出した。
「――その日もな、いつも通りの簡単な討伐任務だったはずなんだ。
実際俺の相手はオウガテイルみたいな小型アラガミだけだった、でも別行動だったケイトとギルの相手は……見た事のないようなアラガミだったんだ」
「新種、ですか?」
「ああ、名前は……“ルフス・カリギュラ”。カリギュラっていうアラガミと似た変異種でな。そいつがとんでもなく強くて……その時の戦いで、ケイトにある異常が起こっちまった」
「異常?」
「戦いの際に負ったダメージで、ケイトの腕輪がケイト自身を侵喰し始めちまったんだ。元々ケイトは前々から退役勧告が出されてた、無茶をして第一世代から第二世代の神機に変えた反動もあってな……」
そして、無理をし続けた結果があの悲劇に繋がった。
ケイトが退役しなかったのは、グラスゴー支部で自分たち3人しか神機使いがいなかったからだ。
ハルオミとギルの負担が増えるのを拒み、彼女は戦い続けた。
しかしハルオミは、もっと強く彼女の退役を望めばよかったと今更ながらに後悔してしまう事がある。
……そんな行いなど意味がないとわかっているのに。
「……結局そのアラガミはケイトの神機が刺さったまま逃げ出し、ケイトは……腕輪の侵喰によるアラガミ化を防ぐためにギルに介錯された。
そのせいで「上官殺し」だなんだと陰口を叩かれる事になっちまった、……あいつを責めることなんざ、誰にもできないのにな」
「……………」
「俺が駆けつけた時にはもう全部終わってたんだ、ケイトが着ていた服はギルの槍で瓦礫に縫い付けられて……あいつの腕輪は、ギルが大事そうに抱えてた。あいつはずっと泣き続けて…ケイトの死を悲しんでくれてた」
「……それが、その時の真実」
「まあ、な……ギルがお前に過保護になるのは、お前がケイトに瓜二つだからって理由もあると思う。
守れなかったとあいつはずっと自分を責め続けているから、せめて似ているお前を守ろうと躍起になってるんだろうな」
だが、それは“前を向いている”という事ではない。
過去に縛られ、後ろだけを見て、その場で立ち止まっているだけ。
尤もそれは……ハルオミも同じであった。
「……湿っぽい話をして悪かったな、だけどお前さん達は随分聞き上手だ……だからついぺらぺらと話しちまった。ギルはいい所に配属されたもんだ、お前さん達みたいな隊長と副隊長が居るんだからな」
そう言ってハルオミは笑う、だがその笑みには……どこか無理をしているように2人には見えた。
そして彼はふぅっと息を吐いてから、「今度は楽しく飲もう」と言ってラウンジを後にする。
その背中はただ悲しく、フィアもジュリウスも何も言う事ができず黙って彼の背中を見送った。
「……ねえ、ジュリウス」
「何だ?」
「どうして……誰かの為に生きようとしている人が、死ななければいけないのかな?」
「……………」
「ハルオミもギルも凄く傷ついてる、ずっとずっと傷の中で生き続けてる、これじゃあ……いつまで経っても何も変わらない」
「そうかもしれん。だが自分自身が立ち上がり前を向いて歩くには、他ならぬ自身の力でなければならないだろう。俺達では支える事ができたとしても、ギルがその傷に真っ向から立ち向かい乗り越えられるかは……あいつ次第だ」
それが歯痒いと、ジュリウスは思う。
隊長として、仲間として彼を支えたいと思っているのにそれがままならない。
「……………」
―――フィアは、強いね。
―――ねえフィア、誰かを守れるような男の子になってね?
―――どんなに悲しい現実の中でも、生き続けていれば幸せは来るよね?
遠い記憶が、フィアの脳裏に浮かぶ。
それを振り払いながら、フィアは席を立ち上がった。
「ジュリウス、ちょっとミッションに付き合ってくれる? 今凄く……アラガミを殺してやりたい」
「……わかった。だが無茶な行動は控えろ、いいな?」
「うん、じゃあジュリウスが手綱を握ってればいいんじゃないかな?」
「まったく………」
呆れつつも、ジュリウスはそれ以上何も言わなかった。
その後、ミッションにてフィアが完膚なきまでにアラガミを殲滅したのは余談である………。
――それから、数日後
「――ですから、調査隊の報告を待ってください!」
「そんなの待ってられるか!」
「…………?」
言い争う声が聞こえ、フィアはそちらへと足を運ぶ。
そこではオペレーターのヒバリが、ギルと何やら口論を繰り広げていた。
「殆ど交戦経験のないアラガミなのに、情報もなく戦うなんて危険です!」
「そんなの問題じゃない、いいからそのアラガミが現れたエリアを――」
「ギル、何やってるの?」
「っ、フィア………」
「何があったのか知らないけど、ヒバリが困ってるよ?」
「……………」
「駄目だよギル、どんな理由があってもそんな一方的に怒鳴りつけるなんかしちゃ」
「………そうだったな。すまない、頭に血が昇っていた」
「いえ、わかってくださったのなら結構です。とにかく今は調査隊の報告を待ってくださいますか?」
「ああ………」
力なく答え、ギルはそのまま行ってしまった。
その後ろ姿を暫し眺めてから、フィアはヒバリに何があったのかを訊いてみる事に。
「ギル、どうしたの?」
「それが……ルフス・カリギュラというアラガミが極東近辺で発見されたという報告を聞いた瞬間、いきなりそのアラガミが現れたエリアを教えろと言ってきまして……」
「………ルフス・カリギュラ」
そのアラガミの名を聞いた瞬間、フィアは理解する。
現れたのだ、ギルとハルオミにとって……仇とも呼べるアラガミが、この極東に。
「このアラガミは今まで様々な支部で目撃情報があったのですが、殆ど交戦経験が無い為に相手の情報が無く無闇に戦うのは危険だとギルさんにも仰ったのですが……」
「……ごめんね。ギルにはボクから言っておくから」
「いえ、お気になさらないでください」
そう言ってくれるヒバリにありがとうと返しつつ、フィアもその場を離れる。
「…………仇討ち、か」
ギルは今冷静さを失っている、だがそれは当然なのかもしれない。
しかしこのままでは彼は最悪の場合1人でそのアラガミに立ち向かっていくかもしれない。
それはダメだ、そんな事をしてしまえば彼は………。
「―――フィアさん?」
「………アリサ」
俯いていた顔を上げると、そこには自分を心配そうに見つめるアリサの姿があった。
どうかしたのかという彼女の問いにもなんでもないと返すフィアであったが、そんな返答で納得する彼女ではなく。
「ちょっとこちらへ」
「あ………」
少々強引に手を掴まれ、ラウンジへと連れ込まれた。
そのまま端の席へと強制的に座らされ、「少し待っていてください」と告げた後アリサはその場を離れる。
程なくして、自分とフィアの分の飲み物を持って戻ってきた。
「どうかしたんですか? なんだか元気が無い…というよりは、何か問題を抱えてるように見えましたよ?」
「……アリサって、エスパー?」
「そんなんじゃないです。ただ……カズキもそうやって今のフィアさんみたいな顔で悩んでた時がありましたから」
「………アリサはさ、仇討ちとかは否定する?」
「いいえ」
すぐさま、アリサは問いの答えを返す。
そのあまりの早さにフィアはおもわずキョトンとしてしまい、アリサはそんな彼を見て苦笑しつつ言葉を続ける。
「それが正しいかどうかの判断はできません、誰かの仇を討つために自分の命を投げ出すなんて事を考えてるなら否定しますし。
でも……私もかつて、両親を殺したアラガミを殺すためだけに生きていた事がありましたから、否定する事はできないですね」
「そう………」
「だけど、仇を討つためだけの目的で生きているのなら……それは、とても悲しい事です。
生きる意味というものは人それぞれですが、それだけが生きる目的だと…それを叶えた瞬間、その人の心は死んでしまいますから」
その生き方は、もしかしたらアリサの未来の1つだったかもしれない。
両親を殺したアラガミを殺し続けるだけの生き方、そんな事を続けていたら間違いなく心が死ぬ。
「フィアさんは、そんな生き方をしているのですか?」
「ううん。ボクは……ボクの生きる意味は………」
自分の生きる意味、フィアはもう一度それを思い返す。
……自分の命は誰かの為に、自分の力は他者の為だけに使われる。
そうだ、そうしなければ自分はどうして“あの場所”から生き残ったというのか―――
――全てを踏み躙って
――全てを見捨て尽くして
――全てを殺し尽くして
――そうやって自分は、生き残った
「………ありがとうアリサ、話を聞いてくれて」
「いえ、私でよければいつだって話し相手になりますし力になりますから」
「……ありがとう」
心からの感謝を込めて、フィアはもう一度お礼の言葉を口にする。
それに対しアリサは優しい笑みを返した。
……フィアが何故上記のような問いかけをしたのか、アリサは敢えて訊ねる事はしなかった。
質問の内容は確かに普通ではない、しかし訊ねても彼は答えようとはしないだろう。
だからアリサは問われた質問だけを答えるだけに留めた、それに彼なら大丈夫だという確信もあったから。
自分とカズキのように、周りには支えてくれる頼もしく優しい仲間が居る限り、彼はきっと大丈夫だと思えたのだ。
――そして、その2日後
「……………」
「? ギル……?」
真剣な表情で、ギルはある場所へと向かって行く。
そこは神機保管庫、しかし今の彼の様子は…どこかおかしい。
まるで死ぬ事を覚悟したかのような、そんな重苦しい空気が漂っている。
だからフィアは、彼の歩みを止めるように立ち塞がりつつ彼の名を呼んだ。
「………フィアか」
「どこへ行くの?」
「ミッションだ、それがどうかしたか?」
「討伐対象は?」
「…………お前には関係ない」
「……ルフス・カリギュラ」
「っ」
ビクッと、僅かにギルの肩が震えた。
その態度で彼はすぐさま理解する、つまり彼は……。
「――1人で行くなんて許さない、ボクも行くよギル」
彼にとって大切な人――ケイト・ロウリーの命を奪ったアラガミ。
ルフス・カリギュラの元へと、1人で行こうという事であった………。
To.Be.Continued...
さて次回はシリアス一直線!!
そして大事な分かれ道!!
それと補足説明、どうして既にルフス・カリギュラの名前が付けられているかについて。
この物語ではヒバリとの会話であったように、ルフス・カリギュラは様々な支部で目撃情報があり、多少とはいえ交戦経験もある…という設定です。
なので既にデータベースにはルフス・カリギュラの名前と簡単な生態についての記述があるというわけですね、だからハルオミも名前を知っていたというわけであります。