神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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神機使い、フィア・エグフィードの物語は続く。

さて、今回の物語は………。


第3部捕喰98 ~ギルとハルオミ~

「――まあ飲めよ、ここは俺の奢りだ」

「すみません。いただきます」

 

極東支部のラウンジ、そこのカウンター席で再会の乾杯を交わすギルとハルオミ。

久しぶりに会った2人は、再会を喜び酒を飲む事に。

 

「ギルと飲むのも、久しぶりだなー」

「そうですね、本当に久しぶりです」

「えっと、ブラッドだったな。新しい部隊はどうだ?」

「………悪くはないっすよ、年下ばかりですけど」

「ははは。お前もそんな事を言うようになったかあ」

 

楽しげに笑うハルオミ、相変わらずの彼にギルも自然と笑みを浮かべる。

 

「あー……あのよ、ちょっと訊きたい事があるんだが」

「………フィアの事っすか?」

「まあ、な……驚いたもんだ、世の中には同じ顔が3人いるって話があるが…まるで小さくなったケイトだ」

「……………」

「それに中身もあいつによく似てるみたいだしな、そうなんだろ?」

「……ええ。だからでしょうかね、何度か説教じみた事を言ったりしたんです」

「無駄無駄。ケイトだって全然人の忠告を受け取らなかっただろ?」

 

昔を思い出し、からからと笑うハルオミ。

……だがギルには、彼の笑みがどこか無理をしているように見えてしまった。

無論ハルオミは無理して笑っているわけではない、ギルがそう見えてしまったのは……。

 

「まあ、何だ。見た目も中身もケイトに似ちまってるなら……ちゃんと見ていてやれよ?

 ああいうタイプはな、自分よりも他人を優先して…自分自身を勘定に入れずに行動するんだ」

「……ええ、その通りです」

「そしてそれは直るものじゃない、だからこそ周りがしっかり支えてやらないと駄目だ。まだ13……人生これからってヤツが、理不尽な死に方をするわけにはいかねえもんなあ」

 

ハルオミは笑う、いつもの笑みではなく大人としての慈愛と優しさを込めた笑みを浮かべる。

本当にこの人は変わらない、飄々としていて掴み所が無いけれど…内側に宿るものはとても優しい。

こんな人だからこそ、自分は尊敬し…そして、“あの人”だってそうだった。

 

「………ハルさん」

「――言うなよギル」

「……………」

「あれはお前のせいじゃない、お前のせいじゃないんだ」

 

優しく、本当に優しくハルオミはギルの言葉を制する。

だがその優しさは、今のギルの心境からすれば少しだけ辛い。

 

 

―――わかってるよね、ギル?

 

―――自分には、できません!!

 

―――私、ギルを襲いたくないんだ……ごめんね?

 

 

「―――――っ」

「………ギル。湿っぽいのはここまでにしようや? ケイトに「前を向いて歩いていこう」って、笑われちまうぞ?」

「…………………はい」

 

結局、ギルは短くそう返事を返すことしかできなかった。

そのまま彼は無言で席を立ち、ラウンジを後にする姿を見送りつつ……ハルオミは呟きを零す。

 

 

 

「―――ケイト、俺だけじゃなく…ギルもまだ、前を向けてないみたいだ」

 

 

……………。

 

 

「あ………」

「? あ、こんにちは。確かギルさんでしたよね?」

 

ラウンジを出て廊下を歩いていると、自販機の前で休憩していたある人物と出会うギル。

その人物とはアリサ、この極東支部でエース級の力を持った神機使いである。

何度か面識はあるギルであったが、年下にも関わらず感じ取れる雰囲気におもわず肩肘を張ってしまった。

 

「ギルさんも休憩ですか? お疲れ様です」

「あ、いえ。アリサさんも……休憩ですか?」

「アリサで結構ですよ、それに私の方が年下なんですから敬語もいらないです。

 それと質問の答えですが休憩ですよ、とりあえず至急の仕事は終わりましたから」

 

そう告げるアリサの表情は、若干の疲れの色が見える。

サテライト居住区の警護と候補地の探索、更に極東支部のミッションや感応種の迎撃。

他にも挙げればキリが無いが……彼女が通常の神機使いとは比べ物にならない激務の中を奔走しているのは、ギルも前にコウタから聞いていた。

 

「……大分、疲れてるみたいですね」

「ええ。まあ……サテライト居住区の建設が軌道に乗ったとはいえ、それによって発生する新たな問題だってあります。

 でもそれに関しての専門的な人は居ませんからね、クレイドルである私達がどうにかしないと」

「でも、倒れたら元も子もないですよ?」

「こう見えて頑丈ですから大丈夫ですよ、それに……カズキは私以上に頑張っているんです、私が頑張らないわけにはいきません」

「……………」

 

強い意志と覚悟が、アリサの瞳から見えている。

真に心からアリサは誰かの助けになろうと決意している、それがギルにはただ眩しく映った。

素晴らしい、というよりはもはや凄まじいといった方が正しいかもしれない。

……その姿がどことなくケイトに似ていると思ってしまったから、ギルはつい余計な口を挟んでしまった。

 

「あの、余計なお世話かもしれないですけど……もう少し、カズキさんとの時間を大切にした方がいいですよ?」

「あはは、ありがとうございますギルさん」

「あ……すみません、こんな事俺が口出す権利なんか無いのに」

「そんな事ないですよ、ギルさんはただ純粋に私達の事を心配してくれただけなんですから、感謝こそすれ余計なお世話だなんて微塵も思いませんから」

「……………」

 

やはり眩しい人だと、ギルは心からそう思った。

 

「……でも、確かに最近カズキとの時間が減ってるのは事実……これはちょっと拙いんですよ」

「まあ、夫婦ですからね」

「そうじゃないんです。こうしている間にも……カズキを狙う女狐達が虎視眈々と行動していると思うと、いてもたってもいられなくなるんです!」

「えっ、いや、でもカズキさんは既婚者……」

「たとえそうだとしても言い寄ってくる女の人は居るんです! 私にはそれが心配で心配で……」

「……………」

 

うーうーと唸るアリサ、先程の眩しい彼女とはある意味別人である。

そんな中――エレベーターから降りてくる人物達が。

 

「あれー? ギルってば何してるの?」

「お、お前まさか……アリサさんに言い寄ってるんじゃないだろうな!?」

「……お前にだけは絶対に言われたくなかったぜ」

 

降りてきたのは、ジュリウスとフィア以外のブラッドのメンバー達。

皆アリサに挨拶しつつ、こちらへとやってきた。

 

「ロミオ先輩じゃないけど、何の話をしてたんですか?」

「別にたいした話じゃ……」

「あ、そうです。実は前々からナナさんとシエルさんに訊きたい事があったんでした!」

「私達に、訊きたい事ですか?」

 

アリサの言葉に、ナナとシエルは首を傾げる。

一体何を訊きたいのだろうと思いつつ、アリサの言葉を待っていると……。

 

 

「――シエルさんとナナさんのどちらかは、フィアさんとお付き合いなされているのですか?」

 

 

――場が凍る

単純な好奇心から来る問いかけであったが、全員が言葉を失った。

それから十数秒後……ようやくナナとシエルが我に返る。

 

「えっ、あ、あの……いきなり何を!?」

 

最初に声を出したのはシエル、話の内容のせいか顔がほんのりと紅潮している。

ギルは変わらずキョトンとしており、ロミオに至って口を開けたまま呆けていた。

 

「いえ、前々から気になっていまして……」

「お付き合いって……私かシエルちゃんのどちらかが、フィアと恋人同士かどうかって事ですか?」

「はい、それで……どうなんですか?」

 

興味津々といった様子のアリサ、しかし返ってきた言葉は彼女の予想とは違っていた。

 

「私もシエルちゃんも別にフィアと付き合ってなんかないですよ、ねえシエルちゃん?」

「そ、そうですよ……」

「シエルちゃん、どうしてそんなに顔を赤くしてるの?」

「あ、当たり前です。いきなりあんな事言われたら……」

「……意外とシエルちゃんって、こういう事に免疫がないんだね」

「意外とはなんですか!!」

「ご、ごめん……別に変な意味じゃないよ」

「そうですか……」

 

残念そうに呟くアリサに、ナナは逆に問いかけた。

 

「でも、どうして私かシエルちゃんがフィアと付き合ってるって思ったんですか?」

「だってとても仲が良いじゃないですか、傍から見ているとお付き合いしているように見えますよ?」

「………そうかなあ?」

「……………」

 

シエルは無言で俯き、ナナはますます首を傾げる。

と、ようやく我に返ったロミオが口を挟んできた。

 

「で、でもどうしてフィア限定だったんですか?」

「えっ、だってギルさんはそういった事に興味はなさそうですしジュリウスさんだってそう見えますから」

「じゃあ俺は?」

「……元々選択肢に入ってなかったというか」

「えーーーーーーーーーっ!!?」

 

思いがけないアリサの辛辣な言葉に、ロミオ撃沈。

失言だったと気がつくアリサであったが、時既に遅く。

 

「同じ部隊の男女が交際するって珍しい事でもないですから、ちょっと気になったんです」

「なるほどー、でもフィアとかあ………」

 

自分とフィアは、傍から見ると恋人同士に見えるらしい。

……うん、悪くはないなーとナナは思った。

一方、シエルは俯き無言になりながら先程のアリサの言葉を思い返す。

 

(フィアさんと交際………傍から見ると、交際しているように見えるのでしょうか?)

 

自分が誰かと交際するなど、今まで考えた事がなかった。

けどシエルとて16歳の少女、如何に軍事教育を施されていたとはいえそういった事にまったく興味が無いと言えば嘘になる。

だが……想像すると予想以上に恥ずかしいと彼女は思った、しかも知り合いのフィアと自分がそう見えると言われれば余計に恥ずかしい。

なんだか妙な雰囲気に包まれる中、再び第三者が現れる。

 

「あーーーーーーりーーーーーーさーーーーーーー!!」

「えっ―――ぐぼっ!!?」

 

元気な声が聞こえ、そちらへと身体を向けたアリサへと飛び込む第三者。

勢いのあるタックルを腹部に受け、アリサはおもわずおかしな呻き声を上げながらも両足に力を込めて倒れる事を防ぐ。

そして、自分に向かって飛び込んできた者の名を呼びつつ苦笑した。

 

「――ラウエル、嬉しいのはわかったからタックルはしないでって前に言わなかった?」

「だってー、アリサが帰ってくるの久しぶりなんだもん!」

 

アリサに飛び込んだのはラウエル、相変わらずの彼女にアリサは苦笑から優しい笑みへと変えた。

そんな和やかな光景の中、ナナを除くブラッドメンバーは僅かに表情をなんともいえないものに変えていた。

 

――ラウエルは、アラガミである

 

初めて聞いた時、全員が言葉の意味を理解できなかった。

そしてその言葉の意味を理解した時、当然ながら疑問と驚愕が浮かんだのは当然である。

元々はサリエルであった彼女が、色々あって人間として生きる事になった…ややおおまか過ぎる説明を受けたが、すぐに受け入れる事はできなかった。

当然だ、人類の敵であるアラガミと暮らしているなど理解できるわけがない。

しかも――カズキとアリサ、そしてローザまでアラガミだというのだから余計に驚いた。

尤も彼等の場合の事情はわかったのと、元は人間だったからか割とすぐに受け入れたが……ラウエルと、現在極東を離れているシオに関しては話が別だ。

フィアにジュリウス、ナナは既に受け入れたようだが……他のメンバーは、まだ受け入れたとはいい難い。

だからラウエルに対して警戒にも似た感情を抱くのは、無理からぬ話である。

 

「こんにちはー!」

「こんにちは、ラウエル!」

「あ……こ、こんにちは」

「……………」

 

ナナはいつも通り、シエルはぎこちないながらもラウエルの挨拶に返事を返す。

だがロミオとギルは無言のまま、ラウエルから視線を逸らしてしまった。

しかしラウエルもアリサも何も言わない、彼等の気持ちをしっかりと理解しているからである。

 

「ねえアリサー、カズキはー?」

「それが、さっき連絡があって今日は帰れないって」

「えー……しょうがないなカズキはー」

「仕方ないよ。その代わり今日は私が一緒に遊んであげるから」

「ホント!? やったー!!」

 

ぴょんぴょん跳ねるラウエル、よほど嬉しかったのだろう。

ここまで喜んでくれる彼女に感謝しつつ、アリサはブラッド達に一礼してその場を離れていった。

 

「ラウエルって、可愛いね」

「……けど、アレってアラガミなんだろ?」

「もー、ロミオ先輩ってば警戒し過ぎだって」

「ロミオの反応が普通なんだ、ナナは少し警戒心が無さ過ぎる」

「私もあのような彼女を疑いたくはありませんが、やはり元がアラガミだというのは……」

「シエルちゃんまで……そりゃあ気持ちはわかるけどさー」

 

文句を言おうとしたナナだったが、メンバーの心中を察しそれ以上は何も言わなかった。

……しかし内心では、仲良くすればいいのにと思うナナなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

To.Be.Continued...




あー……カズキを出すタイミングが来ない。

もう少しかかりそうですね、やっぱり極東支部の人達の出番ももっと増やしたいので。

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