神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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――選択が迫る

カズキにとって、決して逃れられぬ選択が。

人が神になるのか、その見極めの時が……すぐそこまで迫っていた。


捕喰12 ~蒼穹の月~

「カズキ君、待ってたよ」

 

 場所は神機保管庫、カズキは整備班のリッカに呼ばれここに足を運んだ。

 カズキの姿を確認すると、リッカはオイルが付いた顔で笑みを作りつつ、ある一角へと手招きした。

 そこにあるのは、神機の刀身パーツや装甲。

 この一角はカズキ専用の武器保管庫、彼はアラガミに応じて弱点となる武器を付け替えるので、いつしかこのような場所ができあがったのだ。

 

「リッカちゃん、できたの?」

 

 カズキの問いに頷きを返し、リッカはある一点を指差す。

 そこにあったのは、ある刀身パーツ。

 白い刀身に、蒼い線状の紋様が描かれているそれは、カズキがリッカに依頼をした新たな刀身パーツだ。

 

「『宝剣・西施』……これは神属性を持つショートタイプの剣だよ。

 これがあれば、あのアラガミとも互角に戦えるんじゃないかな……?」

「あのアラガミって?」

「ヴァジュラ」

「…………」

 

 少し楽しそうな口調で言うリッカに、カズキはなんともいえない表情を返す。

 ……あの時の恐怖は、まだ忘れられない。

 あの時、手も足も出なかったが……今は、どうだろうか。

 

 カズキがゴッドイーターになって4ヶ月、あの時よりは強くなった。

 今なら、あの怪物に勝つ事ができるだろうか……。

 そんな中、カズキの胸ポケットにある通信機が鳴り響く。

 ちょっとごめんとリッカに告げてから、出てみると。

 

『カズキ、今どこにいるんだ?』

 

 相手はコウタだった、どうしたのかと尋ねてみると。

 

『ミッションだよ、しかも……討伐アラガミはあのヴァジュラだぜ!!』

「――――」

 

 おもわず、息を詰まらせた。

 ヴァジュラ、あのアラガミと戦う時が遂に来たのだ。

 

「……わかった、すぐに行くよ」

 通信機を切り、ゆっくりと息を吐く。

 

「どうしたの……?」

「……討伐ミッションが来たんだ、ヴァジュラの」

「………そう。じゃあ、早速この剣を試す時が来たみたいだね。

 しっかり整備は終わってるから、頑張ってねカズキ君」

 

 にこりと微笑むリッカ、カズキも頷きを返しその場を後にする。

 

(……ヴァジュラと、戦うのか……)

 

 緊張が、歩みを進める度に増していく。

 表情を強張らせながら、カズキはエントランスロビーへと足を運んだ。

 

「カズキー!」

 

 無心のまま歩いているといつの間にかエントランスロビーに辿り着き、コウタに声を掛けられた。

 

「今日はお前とオレ、サクヤさんとソーマの4人で行くってさ」

「……リンドウさんとアリサちゃんは?」

「あの2人は別ミッションだってさ、もしかしてアリサと一緒がよかったとか?」

「………いや、そういうわけじゃないよ」

 

 コウタのからかうような言葉にも、いつもの調子で返せない。

 ……やはり、恐がっているようだ。

 あの時手も足も出なかった、今でも通用するか自信がない。

 そう思うと……どんどん気持ちが沈んでいく。

 

「新入り、そう固くなるんじゃねえよ」

「わっ。……リンドウさん」

 

 いきなり後ろからリンドウに腕を回され、驚くカズキ。

 

「緊張するのはわかるぞ、お前さん前にボコボコにされたからな。

 だが今回は頼れる仲間が居るんだ、だからいつも通り適当に頑張ればいいさ」

「適当にって……」

「変に緊張すると実力を発揮できないぞ? お前なら大丈夫だ、俺が保証してやる」

「…………」

 

 いつもの軽い口調で、緊張をほぐすリンドウ。

 そのおかげもあってか、少しだけカズキの中で緊張が消えてくれた。

 

「ありがとうございます、リンドウさん」

「ん、よし、じゃあ行ってこい」

 

 死ぬなよ、そう言ってカズキを送り出すリンドウ。

 そんな彼に、彼もしっかりと頷きを返し、戦場へと足を運んだのだった。

 

 

 

 

 

 

「―――いねぇなー」

 

 旧市街地エリアを探索しつつ、コウタは呟きを漏らす。

 ここに赴いて既に数十分、しかしヴァジュラの姿は見当たらなかった。

 このエリアは全体的に広い為に仕方ないとはいえ、体長五メートル近い巨体のヴァジュラが見当たらないというのは、些かおかしな話だ。

 

「…………」

「……まだ、緊張してる?」

 

 先程から沈黙を貫いているカズキに、サクヤは優しく話し掛けた。

 

「いえ……そういうわけじゃ……なくないです」

 

 途中で言い直すカズキに、サクヤは苦笑。

 彼は少し素直すぎる、まあそれが魅力なのかもしれないが。

 

「大丈夫よ。リンドウも言ってたけど、貴方は1人じゃないんだから」

「………はい」

 

 ギュッと表情を引き締め、カズキは神機を持つ手に力を込める。

 

「…………」

 と、我関せずとばかりに歩んでいたソーマが、足を止めた。

 

「? ソーマ、どうしたんだよ?」

「――――来る」

 

 短くそう呟き、神機を構えるソーマ。

 コウタは何の事かわからず首を傾げるが、カズキはソーマのその態度に違和感を覚え。

 

「コウ――」

 コウタの名を呼ぼうとした瞬間――廃墟と化した家屋が爆音と共に粉々に破壊された。

 

「なっ―――!?」

「チッ――」

「ぐぇっ!!」

 

 突然の事態に対処が遅れたコウタを、舌打ちしながらおもいっきり蹴り飛ばすソーマ。

 壁に叩きつけられるコウタだが、その瞬間先程まで彼が居た場所に鋭い爪が一閃した。

 

「――――っ」

 

 場に緊張が走る。

 ……ヴァジュラが、遂に現れたのだ。

 あの時と同じ、圧倒的な威圧感と恐怖をカズキ達に撒き散らしながら。

 

「……は、あ」

 

 息を整え、逃げ腰になりそうな身体を叱咤する。

 逃げるわけにはいかない、ここでこのアラガミは倒さねばならないのだ。

 

「グルァァァァッ!!」

 

 雄叫びを上げ、巨大な右前脚を振り上げるヴァジュラ。

 それはカズキを押し潰そうと迫り――彼は素早く右に跳躍、着地と同時に大きく踏み込み斬撃を与える。

 剣の一撃はヴァジュラの左前脚に命中、それなりに深く斬ったのだが、ヴァジュラは気にした様子もなく今度は雷球を撃ち出してきた。

 

「ぅ、く―――!」

 

 素早く装甲を展開して防御、しかしそれでも衝撃を殺しきれず吹き飛ばされ、背中を瓦礫に強打してしまった。

 

「カズキ!!」

「この―――っ!!」

 

 コウタは左、サクヤは右に回り込み同時に銃撃の雨をヴァジュラに浴びせていく。

 その隙にソーマは正面からヴァジュラに接近し。

 

「――――死ね」

 

 跳躍して、ヴァジュラの顔面に漆黒の刀身を持つ巨大な剣――イーブルワンを容赦なく叩きつけた。

 グジャリ、という鈍い音と共に、切り裂かれ抉られ鮮血が舞うヴァジュラの頭部。

 

「グギィィアァァッ!!」

 

 ソーマの一撃が堪えたのか、ヴァジュラの口から聞くに耐えない断末魔が絞り出された。

 

「く、この―――っ!」

 

 ズキズキと背中に走る痛みに耐えつつ、カズキはもう一度ヴァジュラに向かって踏み込む。

 

「グルル……!」

 身体を少し屈めるヴァジュラ。

 

「っ、離れろ馬鹿!!」

「―――っ」

 

 ソーマの怒声を聞き、足を止め後ろに跳躍するカズキ。

 瞬間、ヴァジュラの周りに凄まじい電撃が駆け巡った。

 

(っ、ソーマの声が無かったら……)

 

 まともにあの電撃を浴びる羽目になっていた。

 内心冷や汗をかきつつ、カズキは神機を補喰形態へ。

 ヴァジュラは今銃撃を放つコウタとサクヤに標的を変えている、その隙に接近し――左後脚を補喰する。

 溢れてくる力、オラクル細胞が活性化しすかさず銃形態へ移行。

 

「コウタ、サクヤさん!!」

 

 ヴァジュラから離れながら、銃を2人に向け放つ。

 無論通常の銃撃ではない、アラガミバレッドを2人に向けて発射したのだ。

 

「よっしゃ!!」

「いくわよ………!」

 

 2人もカズキと同じく活性化する、その前にカズキとソーマはヴァジュラから離れた。

 そして、2人は銃口を標的に向け。

 

「覚悟して!!」

「くらぇぇぇっ!!」

 まったくの同時に、アラガミバレッド――大雷弾を撃ち放った。

 

「グギャッ!?」

 

 巨大な雷の塊はヴァジュラの尻尾と前脚を粉砕、巨体が倒れ込み僅かに地面を揺らす。

 

「ソーマ!!」

 

 声を掛け、同時に駆け出すカズキとソーマ。

 力一杯神機を握りしめ、跳躍。

 

「はぁぁぁぁっ!!!」

「消えろ………!」

 

 そのまま、ソーマの剣はヴァジュラの胴体を。

 カズキの剣は顔面に深々と突き刺さり。

 

「ガ………ッ」

 ビクンと二、三度痙攣を起こしてから……ヴァジュラは動かなくなった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 ズブリと神機をヴァジュラから抜き取る。

 ………勝った。

 それを理解するのに数秒、それを理解した後。

 

「……ふぅぅぅ」

 力を抜くために、大きく息を吐き出した。

 

「やったぜ!!」

「ふん……」

 

 コウタ達も、それぞれ喜んだりいつも通りだったりと……高ぶった緊張を解していく。

 コアを採取し、カズキ達は警戒心を抱きつつもその場から離れる。

 

「やったなカズキ、リベンジ果たしたじゃん!!」

「うん……」

 

 倒せた。

 あの巨大な存在を、倒す事ができた。

 前は手も足も出なかった存在を、仲間と力を合わせて立ち向かえた。

 

(……仲間が居るから、戦えたんだ)

 

 こうして自分を守り、支えてくれた仲間がいたからこその勝利だ。

 この想いは、大事にしなければ。

 これからも、仲間と共に戦っていけば……どんな戦いにも勝つ事ができる。

 

「何……?」

「………?」

 

 ソーマの、珍しい驚きを含んだ声で、我に返った。

 

「なっ――」

 

 そして、カズキも目の前に居る人達を見て驚いた。

 そこにいたのは――別ミッションに行っているはずのリンドウとアリサ。

 

「どうして、同一区画に2つのチームが……!?」

 

 どうして、とサクヤは内心で自問自答をする。

 神機使いの数は少ない、その為同一区画に2つのチームが一緒に居るのは有り得ないはずだ。

 

(どうして……情報の行き違い? それにしたって、こんな事今まで無かったのに……)

「とりあえず、さっさと終わらせて帰るぞ。俺達は中を調べるから、お前達は外を見ていてくれ」

 

 指示を出し、リンドウはアリサを連れ荒廃した教会の中に入っていく。

 カズキ達は言われた通りに外を警戒しつつ、同じように周囲に視線を送っているソーマに問いかけた。

 

「ソーマ、こんな事有り得るの?」

「……さあな、少なくともオレはこんな経験はねえよ」

「……胸騒ぎがするんだ、気のせいだといいんだけど……」

 

 先程から、胸を締め付けるような胸騒ぎが頭から離れない。

 そんなカズキの様子を見て、ソーマは前から気になっていた事を問いかける。

 

「おい」

「あ……何?」

「前から気になっていたんだが、お前――」

 

――そこまで言いかけた瞬間。

 

「グオォォォンッ!!」

 教会の中から、獣の雄叫びが響き渡った。

 

「今のは……!?」

 

 教会の中に向かおうとする4人、しかし……。

 

「うわぁっ!?」

 

 悲鳴を上げるコウタ、見ると――見たことがないアラガミが次々とカズキ達の前に現れる。

 身体はヴァジュラとまったく同じ、だが身体の色は白と水色。

 顔は女神像のような彫刻めいたもので、おもわず後退ってしまうほどに不気味な容姿だ。

 

「こいつは……何だ!?」

「ヴァジュラ……? けど、こんなタイプ見たことが……」

 

 困惑する一同、更に。

 

「いやぁぁぁぁっ、やめてぇぇぇぇっ!!!」

「っ、アリサちゃん!!」

 

 今度は講堂からアリサの悲鳴と瓦礫が崩れるような音が聞こえ、カズキとサクヤは中へと入る。

 

「なっ―――!?」

「アリサ、あなた一体何を……!?」

 

 驚愕の声を上げるカズキとサクヤ。

 何故なら――アリサの目の前の通路が瓦礫によって完全に塞がっており――中からは、戦いの音が聞こえているからだ

 何故こうなったかは知らない、だが……退路を防いだのは間違いなくアリサだ。

 

(リンドウさん、中で戦ってるのか……!?)

 

 拙い、瓦礫によって通路を塞がれた今のリンドウに、退路はない。

 カズキはすぐさま銃撃で瓦礫を破壊しようとするが、大きな塊が幾重にも重なっている為、粉砕できない。

 

「うわぁっ!?」

 

 外から響く、コウタの声。

 振り向くと、先程のヴァジュラもどきがコウタごと中に侵入を―――

 

「し―――!」

 

 カズキとサクヤが動いたのは、ほぼ同時だった。

 サクヤはヴァジュラもどきの顔面に銃撃を三度当て、怯んだ隙にカズキが渾身の斬撃を繰り出す。

 

「リンドウさん!!」

「サクヤ、アリサを連れてアナグラに戻れ!!」

「で、でも……!」

「聞こえないのか!! アリサを連れてアナグラに戻れ!!」

 

 まだ、中の戦いは続いている。

 すなわち、リンドウは自分を置いて逃げろと言っているのだ―――!

 

「サクヤは全員を統率、ソーマは退路を開け!!」

「わたしも残って戦うわ!!」

「これは命令だサクヤ、必ず生きて帰れ!!」

「嫌よ!!」

 

 駄々をこねるように首を振るサクヤ。

 置いていく事などできるわけがない、サクヤにとってリンドウは――

 

「サクヤさん行こう、このままじゃ全滅するよ!!」

「早くしろ、囲まれるぞ!!」

 

 ソーマはいまだ外でヴァジュラもどきと対峙、コウタはサクヤの腕を掴み退却しようとしている。

 嫌だ、離れたくない、置いていく事なんてできない、そう思っているサクヤは動こうとしない。

 

「………くっ!!」

 

 アリサを背中におぶり、コウタと一緒にサクヤを引っ張るカズキ。

 それを確認したソーマは、懐に持っていたスタングレネードを投げつける。

 閃光が走り、ヴァジュラもどき達は苦しげな声を上げ怯んだ。

 その隙に、カズキ達は一気に離脱。振り返る事なく走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ……」

 

 走って走って――気がついたらカズキ達は市街地エリアの入口まで戻っていた。

 

「た、助かった……」

 

 先程のヴァジュラもどき達は追いかけてこない、しゃがみ込み安堵のため息を吐きだすコウタ。

 

―――本当に、よかったのか?

 

「――――」

 

 内なる自分が、カズキを責めるように問いかける。

 

―――また、守れないのか?

 

 幼き頃と同じ、守られるだけで守る事ができない自分。

 もう、あの時のような現実を繰り返させないために、ゴッドイーターになったのに。

 これでは――妹を守れなかった時と、まるで変わっていない。

 助けたい、救いたい。

 想いが、願いが内側から溢れ出しそうだ。

 

――救わなければ。

 

「……そうだ……」

 

 助けたいと願った、救いたいと思った。

 ならば、自分がやらねばならない事はたった一つだけ。

 今度こそ守る、絶対に死なせたりしない。

 

「…………」

「カズキ……?」

 

 様子がおかしいカズキに、コウタが首を傾げ声を掛けると。

 

「――みんな、アリサちゃんをお願い」

 そう言って、気絶しているアリサを優しく降ろした。

 

「……おい、テメェまさか」

「―――ごめん」

 

 謝罪の言葉を口にして、カズキは全速力でその場から離れていった。

 向かう先は――旧市街地エリア。

 

「カズキ……!?」

 

 そこでようやく、彼等はカズキの意図を理解する。

 彼は、このまま戻ってリンドウを救おうとしている。

 それが、どれだけ無謀な事だと理解しながら。

 

「……おい、すぐアナグラに戻るぞ」

 

 アリサをおぶり、ソーマは歩を進める。

 

「お前、カズキを見捨てるのかよ!?」

「馬鹿かテメェは、アリサもサクヤもこんな調子で戻った所で、何の意味がある?

 だったら一刻も早くアナグラに戻って、捜索部隊を派遣した方が早いだろうが!!」

 

 激しい感情を乗せた、ソーマの怒声。

 初めて聞いたそれを、コウタは身体をビクリと震わせた。

 

「………悪い」

 

 冷静になれ、コイツの言ってる事は正しいんだ。

 暴走しようとしている感情を、懸命に理性で落ち着かせていく。

 急ぐぞ、そう告げてソーマが再び歩を進めたので、コウタもすっかり衰弱したサクヤを連れて、アナグラへと一秒でも早く着けるように、歩くスピードを早めたのだった。

 

 

(カズキ……リンドウさん……無事で居てくれよ……!)

 

 

 

 

To.Be.Continued...


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