神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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極東支部での戦いは、続いていく。

さて、今回の物語は………。


第3部捕喰97 ~フィアとギルとハルオミ~

―――どうしてお前は死なないんだ!?

 

―――死んでしまえば、楽になるのに

 

―――どうしてお前だけが……生き残るんだ!!

 

―――フィアは、強いね

 

―――お前は素晴らしい素材だよフィア、もっと…化物に近づいておくれ

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「―――ギル? ギルじゃねえか!」

「えっ………?」

 

極東支部のエントランスロビーにて、ギルは誰かに名を呼ばれそちらへと振り向く。

そこに居たのは長身の男性、そして……ギルのよく知る人物であった。

 

「ハルさん!?」

「久しぶりだなギル、極東に来てたんなら言ってくれりゃよかったのによ」

「ハルさんが極東に居たなんて知らなかったんですよ!」

「あー……まあそりゃそうか、色んな支部を渡り歩いてたからなあ。

 しかしホントに久しぶりだな、グラスゴー支部以来か?」

「………そっすね」

 

グラスゴー、その単語を聞いてギルの表情が曇る。

その理由を察知した男性――真壁ハルオミもまた、次に掛ける言葉が見つからず押し黙った。

そんな中、この空気に気づかない第三者がギルに話しかける。

 

「ギルー、ちょっとお願いがあるんだけど」

「フィア………」

「んー? なっ―――!!?」

「………?」

 

第三者の正体はフィアであった。

そして、何気なく視線をそちらへと向けたハルオミはフィアを見た瞬間、目を見開いて表情が驚愕の色に包まれた。

一方、どうして自分を見て彼が驚いているのかわからないフィアはハルオミを見て首を傾げる。

 

「………ケイト?」

「ケイト?」

「っ、あ、ああ……悪い、お前さんが知り合いに似てたもんでな。えっと……」

「ボクはフィア・エグフィード、ブラッドの副隊長だ」

「ブラッド……そうか、じゃあギルの新しい仲間だな?」

「ギルの知り合い?」

「俺は真壁ハルオミ、極東支部第三部隊の隊長だ。ギルとはグラスゴー支部で一緒にチームを組んでいたんだ」

「グラスゴー支部………」

 

その単語には聞き覚えがあった。

前にジュリウスから聞いたギルの過去、そこに出てきた支部の名前だ。

そして……ケイトという名前の事も思い出す。

 

「ハルさーん、サカキ博士への報告に行きますよー!」

「うーっす! じゃあギル、それとフィア…だったか? 悪いがまた今度な?」

「あ、はい……今度一緒に飲みましょう」

「おお、そん時を楽しみにしてる」

 

笑顔でそう告げ、ハルオミは同じ部隊の隊員であるカノンに呼ばれ、行ってしまった。

その場に残るフィアとギル、けれどその空気は少し淀んでいるようにフィアには思えた。

 

「……フィア、俺に頼みがあるんじゃなかったのか?」

「あ、うん……でも、大丈夫?」

「何がだ?」

「なんだか今のギル……久しぶりに知り合いと会えたみたいだけど、元気がないよ?」

「………大丈夫だ。心配するな」

 

そう返すギルであったが、いつもより声のトーンが低く聞こえた。

しかしフィアはそれ以上なにか言うつもりはなかった、言った所で無駄だからだ。

 

「それで、どんな用事だったんだ?」

「ミッション、付き合ってくれる?」

「付き合うのはいいが……あまりなんでもかんでもミッションを引き受けるなよ?」

「相変わらずギルは過保護だなあ、でもありがとう。無茶はしないから」

「……………」

 

今言った自分の言葉に、ギルは少しだけ後悔した。

気がつくと、自分はフィアに対して説教のような事を言ってしまう。

厭味でも皮肉でもない、本心から心配だからこそ出る言葉だが……少々度が過ぎていると自分でも思ってしまうほどだ。

……最近はそれも少しは収まってきたが、ハルオミに会った影響かまた言ってしまった。

 

 

…………。

 

 

「――悪いなー、ブラッドの面々にこんな事頼んじまって」

「気にしなくていいですよ、ここで活動する以上はやるべき事はするつもりです」

「そうそう。ブラッドとかそんなの関係ないから、遠慮なく頼ってよ」

「助かるなあ、カズキやアリサみたいな実力者達はクレイドル等の他の活動でいなくなる事が多くなったからさ。あんた達みたいな実力者が防衛任務に就いてくれるとこっちも安心できる」

 

そう言いながら好感の持てる笑みを浮かべるのは、極東支部第二部隊の隊長である大森タツミである。

極東支部周囲の防衛任務を主としている第二部隊の隊長として、長年戦い続けているベテランの神機使いだ。

ベテランとしての確かな実力だけでなく、おおらかで懐の広い人格故に他の神機使いからの人望も厚い好人物なのだが……オペレーターである武田ヒバリにご執心であり毎回玉砕しているのは余談である。

とはいえ三年前から変わらない態度のせいか、それともただ単に根負けしただけなのか、最近ではヒバリも食事ならばと前向きな態度で接しているらしい。(それが原因で一時期ウザイくらいテンションが高かった為、他の神機使いから煙たがられていた)

本日は、そんな彼と共に外部居住区近くに出現したアラガミの討伐及び防衛任務に赴く事になったフィアとギル、現在アラガミが発見された地点まで車で移動中だ。

 

「そういえば、タツミに対してギルは敬語なんだね」

「お前は敬語を使え、年上だぞ?」

「ははは、別にいいって。俺は気にしてないからさ」

「……なんか、すみません」

「いいってば。それにしてもフィアはその歳でたいしたもんだよなあ」

「そんな事無いよ。むしろボクの場合はこれぐらいできないと困る」

「へっ? それはどういう―――」

「――――――見えた」

 

タツミの言葉を遮って、フィアは呟きを放つ。

その一瞬後にタツミ達も遠くに見えるアラガミの姿に気づき、車を止めた。

ここからは徒歩で移動する、戦闘に巻き込まれて車が大破しては困るからだ。

 

「ウコンバサラにボルグ・カムラン……それにガルムか。

 調査班の報告通りだが、戦闘に気づいてアラガミが近づいてくるとも限らないな」

 

望遠鏡で周囲を探りつつ、タツミは2人にアラガミの種類を伝える。

 

「大型アラガミか……耐久力が高そうで助かるよ」

「? どういう意味だ?」

「ちょっと試してみたいブラッドアーツがあるんだ。CC(チャージクラッシュ)の発展型なんだけど」

「おっ、それってブラッドだけが使える必殺技だろ? いいよなあ、俺達もそういうの使ってみたいなー」

「ボクと一緒にアラガミと戦っていたら、タツミ達でも使えるようになるかもしれないよ?」

「マジで!?」

「詳しい原理はよくわからないけど、ボクの血の力である“喚起”能力でブラッドじゃなくてもブラッドアーツを習得できるかもしれないって、ラケルとサカキ博士が言ってた」

「――そろそろ、開始するぞ?」

 

ギルの言葉を聞いて、2人は会話を止める。

さっさと討伐対象を殲滅させて終わりにしよう、3人は戦闘態勢に入った。

 

「ガルムはボクが」

「よっしゃ任せた、頼むぞ?」

「了解」

 

タツミに告げると同時に――フィアは走った。

2人も彼に続き、瞬く間にアラガミ達との距離を詰めていく。

アラガミ達もフィア達に気づき、威嚇するように雄叫びを上げた。

それを無視しつつ、フィアは真正面からガルムに向かいつつ……ブラッドアーツを発動。

刹那、彼が持つバスタータイプの神機である“クロガネ大剣乃断”の刀身に、禍々しいオーラが出現する。

バスタータイプの神機が使えるチャージクラッシュのオーラだ、しかし…今フィアが使用しているのは、通常のチャージクラッシュとは違っていた。

チャージクラッシュは、一撃必殺の溜め攻撃である。

凄まじい破壊力を持っているが、反面チャージが必要な上にその間はその場で立ち止まっていなければならない。

 

「ガアアアアアアアッ!!」

「……………」

 

先手はガルムから、その逞しい豪腕を振るう。

当たれば吹き飛ばされるばかりか引き千切られてもおかしくはない一撃を、フィアは防御…ではなくオーラを纏ったままの神機で真っ向から受け止めた。

その結果――攻撃を仕掛けたガルムの右前脚から鮮血が舞う。

チャージ状態の刀身と真っ向からぶつかったのだ、それは自ら斬られに行ったに等しい。

まだ刀身のオーラは消えていない、フィアはそのまま次の一撃に入った。

 

「――――はっ!!」

「っ、ガッ………!?」

 

繰り出した一撃は、跳躍してからの上段による振り下ろし。

無論チャージクラッシュのオーラを纏ったままの一撃だ、それは容易くガルムの頭部を切り裂いた。

痛みと衝撃がガルムを襲い、聞くに堪えない金切り声を上げた。

僅かに不快感を表情に出しつつも、フィアは着地と同時に大きく踏み込みながら横薙ぎの一撃を放つ。

ガッという鈍い音が響き、刀身がガルムの右前脚に半分近く沈み込む。

溜まらずダウンするガルム、そしてその隙を逃すフィアではない。

再びチャージを行い、刀身を上段に構えるフィア。

ガルムはまだ起き上がれない、先程のダメージが思っている以上に大きいからだ。

そして――限界までチャージされた渾身の一撃が、迷う事無くガルムの身体へと叩き込まれる!!

 

「……………」

「カッ……ッ………」

 

痙攣しながら、くぐもった小さな悲鳴を上げるガルム。

……今の一撃ではさすがに倒しきれなかったようだ、刀身を抜き取ってもガルムはまだ生きていた。

しかしこれだけのダメージを負ってはもう助かるまい、戦う力もないと判断したフィアはもうガルムにも目もくれずタツミ達の援護に回った。

 

「おっと! そんな攻撃じゃ当たんねえな!」

 

ウコンバサラの噛み付き、または電撃攻撃を回避しつつタツミは確実な戦いを繰り広げていた。

彼が用いるショートタイプの刀身は、攻撃力という点で他の刀身パーツに劣る。

だが彼はショートタイプの利点である、素早い攻撃による立ち回りの良さをフルに発揮していた。

長年アラガミと戦ってきた戦闘経験も発揮させ、彼は“負けない戦い”を展開している。

防衛班の隊長に相応しい堅実で確実な戦闘方法である、現に彼はまだ一度もダメージを受けてないどころか掠りもしていない。

彼は大丈夫そうだ、そう判断したフィアは神機を銃形態にしながらギルの援護に入る。

カムランの真横に移動しつつ、フィアが用意したのは……シエル特製のブラッドバレット。

ブラスト用に作られたそのバレットは、相手に着弾すると同時に爆発を複数回引き起こす威力重視のバレットだ。(本来は一発につき一回の爆発だが、ブラッドアーツに昇華した結果複数回の爆発が起こるようになったらしい)

しかしまだブラッドバレットの解析が進んでおらず、言わば彼女から受け取ったこのバレットは実戦には向かない試作用である。

だがシエルが得意とする銃身はスナイパー、だからフィアはそれ以外の銃身パーツのブラッドバレットのテスターを申し出たのだ。

 

(おっと、忘れてた)

 

いざ発射…と言いたい所だったが、フィアはバックパックから“Oアンプル”を取り出す。

この液体状のアイテムは、バレットを発射するのに必要なOPと呼ばれるオラクル細胞を供給する薬品だ。

この戦闘では特にOPを消費していないフィアであったが、今から試すブラッドバレットはOP消費が他のバレットの比ではないのだ。

リザーブと呼ばれるOPを溜め込む作業を行わなければ、発射すらできないのである。

なのでフィアは複数のOアンプルを摂取しつつリザーブを二回行い…ようやく発射態勢が整った。

 

(取り回しが悪すぎるなあ……)

 

ブラストタイプの銃身は、威力が高い代わりにOP消費が大きいというバレットが多い。

しかしこのブラッドバレットはその比ではないと思いつつ…フィアはその時を待つ。

ギルとカムランとの距離が近い場合、範囲が広いこのバレットを無闇に使えば巻き添えにしかねない。

 

「うおおおおっ!!」

「ギシャアアアアアアッ!!」

「っ、チィ―――!」

 

ギルのチャージグライドによる一撃を、カムランは両前脚を構えて楯状の部位を翳す。

それとぶつかり合い弾かれるギル、舌打ちをしつつ体勢を立て直している内に――フィアはバレットを発射した。

 

「あ」

「うおっ!?」

 

フィアの銃撃は見事カムランの身体に命中した。

……のだが、着弾した瞬間につんざくような爆音が連続で響いたので、おもわず身体をビクッと震わせてしまう2人。

しかもその轟音に相応しい破壊力を見せ、強固な鎧のようなカムランの皮膚を容易く砕き中の肉まで抉り飛ばしてしまった。

断末魔の叫びを上げるカムラン、かなりのダメージは見込めたが致命傷にはならなかったようだ。

 

(………とりあえず、検証はできた)

 

なので、残りは剣で戦おうと神機を剣形態へと戻すフィア。

というより、このブラッドバレットはもうこの戦闘では使えない、前述したようにOP消費が激しいからだ。

 

――その後、フィア達は特に被害を出さずにアラガミを殲滅させ極東支部へと帰還した

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「―――あ、おかえりフィアー!」

「ナナ?」

 

帰還し、整備班に神機を預けたフィアへと、元気よく手を振りながらナナがやってきた。

 

「どうしたの?」

「うん、任務で疲れたでしょ?」

「んー……まあ、疲れたといえば疲れたかな」

 

今回試したブラッドアーツは確かに強力だったが、同時にスタミナの消耗も激しかった。

それにブラッドバレットの事もある、フィアの身体には確かに疲れが溜まっている。

そんな彼に、ナナはにこっと笑みを浮かべながら……彼にあるものを手渡す。

手渡されたものは小さな紙袋、中からは僅かに香ばしい香りが漂っている。

 

「……これ、何?」

「クッキーだよ。疲れた時には甘いものでしょ?」

「……ナナだけで作ったの?」

「カノンさんにも手伝ってもらった」

「なら大丈夫だね」

「むっ、それどういう意味?」

「だってナナって博打みたいなお菓子作るんだもん」

「そんな事無いよ、いいから食べてみて!」

「……………」

 

不安はあるが、ここで食べないと面倒な事になりそうだ。

そう思ったので、フィアは袋の中からクッキーを1つ取り出して口に含む。

租借していくフィアを、ナナは少しだけ緊張した面持ちで見つめていた。

 

「………うん、美味しい」

「ホントに!?」

「うん、嘘なんかつかないよ」

「えへへ……そっかそっか、うん」

 

本当に嬉しそうに、ナナははにかむ。

……確かにこのクッキーは、カノンに協力してもらった。

しかし協力と言っても作り方を教わっただけ、このクッキーはナナ1人で作ったものであった。

それを美味しいと言ってくれた、その事実に彼女は喜びを隠せない。

 

「ねえねえフィア、また作ったら……食べてくれる?」

「……博打要素が入ってないなら」

「い、入れないよ失礼だなー!」

「なら食べる、作ってくれるなら」

「………うん、絶対また作るから」

 

そしてまた美味しいと言ってほしい、言葉には出さずにナナはそう願った。

その後も自分の作ったクッキーを食べてくれるフィアを、ナナはニコニコとした表情で見つめている。

 

 

――心に、暖かな気持ちを抱きながら

 

 

 

 

 

 

To.Be.Continued...




オリジナルブラッドアーツ【CC・アマルティア】

使用者はフィア、バスターブレード系統のブラッドアーツ。
チャージクラッシュの攻撃力とオーラを纏ったまま、通常攻撃を繰り出せるという威力と射程距離を伸ばしたブラッドアーツ。
しかし展開中はスタミナを消耗し続け、攻撃速度も通常より遅くなる。

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