神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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極東支部へと辿り着いたフィア達。

さて、今回の物語は………。


第3部捕喰96 ~ブラッドバレット~

「――回り込め!!」

「よーし、任せろって!!」

「援護は任せてください!!」

 

廃ビル群の中で、アラガミ――プリティヴィ・マータとの戦闘を繰り広げる神機使い達。

指示を出すジュリウスの声に答えながら銃撃を放つコウタ、誤射しないように気をつけつつ援護に回るカノン。

そして戦場から少し離れたビルの屋上で、うつ伏せになりながら銃口をアラガミに向ける1人の少女が居た。

 

「……………」

 

無言のままスナイパー型の神機をアラガミに向ける少女、名はシエル。

長距離を得意とするスナイパー型で、狙い撃ちしようと彼女はそのチャンスを待っていた。

一撃。一撃で決めようと最大のチャンスをひたすら待ち続け……彼女はこの瞬間だけ、人ではなくなる。

ただアラガミを倒す機械となる、頭に占めるのはただそれだけであり――彼女は引き金を引いた。

 

「―――――っ」

 

貫通力に特化した銃弾、貫く事だけを考えて作られたバレットが放たれる。

風を切り裂き、彼女の放った銃撃は―――見事、マータの頭部を貫く。

それだけに留まらず、銃撃はマータの身体を一直線に貫きその命を奪う。

ビクッ、ビクッ、という痙攣を二、三度繰り返した後……マータはその巨体を地面に沈ませた。

 

「………ふへー」

「見事だな」

「す、凄いです……」

 

シエルの長距離射撃の精度に、コウタとカノンは驚きジュリウスは感心する。

一方、見事アラガミを倒したシエルの表情は……どこか怪訝なものであった。

アラガミを倒した安堵の色は無く、彼女は怪訝な表情を……自分の神機へと向けていた。

 

 

…………。

 

 

「―――フィアさん、ジュリウス、ちょっとよろしいですか?」

「何?」

「どうした?」

「あの……実はですね」

 

極東支部に戻ってから、シエルは神機を預け……休憩していたフィアとジュリウスへと声を掛けた。

そして先程の戦いの際に気づいた違和感を話す。

 

「……バレットの挙動がおかしかった?」

「はい、先程の戦闘で気がついたのですが……」

「? 見た限りでは、特におかしな所などなかったと思うが……」

「あ、いえ。おかしいというより……バレットが、エディット以上の結果を引き出しているんです」

「???」

 

シエルの言葉に、フィアは首を傾げるばかり。

一方、ジュリウスはしっかりと彼女の言葉を耳で聞き入れ問いかける。

 

「エディット以上の結果とは?」

「はい。私がエディットしたバレットを使ったのですが、威力や弾速が向上していたんです。

 それでですね、それをリッカさんに報告して調べてもらったら……バレットが“変異”していたんです」

「変異?」

「バレットの細胞が変異して、エディットができなくなっていたのですが……進化し威力と弾速が向上したようなのです」

「……そんなケースは初めてだな」

「はい。原因は解明できていませんが……ブラッド同士の感応現象、およびブラッドの「血の力」による感応波が影響していると考えられます。

 「ブラッドアーツ」のような存在、名付けるとすれば「ブラッドバレット」と呼べるような存在に進化したのだと……」

「ブラッドバレットかあ……凄いね、シエル!」

「ありがとうございますフィアさん、リッカさんやサカキ博士も喜んでくれて……もしかしたら、バレットの新たな可能性が生まれたかもしれません!!」

 

やや興奮気味のシエル、どうやら彼女も嬉しいらしい。

あれやこれやと考察を口にするシエルに、フィアは律儀にそれを聞き答えている。

その光景を見つつ……ジュリウスはシエルの変化に嬉しさを覚えた。

 

(フィアのおかげで、随分変わってくれたものだな)

 

もう、あの命令だけを忠実に守るような彼女はどこにもいない。

まだ少しぎこちないが、それもいずれ無くなるだろう。

……自分にはできなかった事を、フィアはやってのけてくれた。

それを感謝すると同時に、彼の人を変える才覚をジュリウスは少しだけ嫉妬した。

 

「それでですね、色々とバレットを試してみたいんですが……」

「じゃあ何かミッションを受けようか。ジュリウスも来るよね?」

「………俺も行って構わないのか?」

「? 変なジュリウス、そんなの当たり前じゃないか?」

「……………そう、だったな」

 

ああ、どうしてそんな当たり前の事を自分は疑ったのか。

自分は確かに隊長だ、しかし今ブラッドの中心に居るのは……間違いなくフィアである。

それがわかったせいだろうか、自分でも無意識のうちにどこか皆と距離を取ろうとしてしまうのは。

……自分が必要なのか、疑ってしまうのは。

 

「よーし、じゃあ頑張ろう! おー!!」

「お、おー……」

「……………」

「ジュリウスノリ悪いなー、ほら」

「………………おー」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「――では、ここでバレットを試してみます」

「ここで、か?」

 

旧市街地エリアの高台の一角にて、シエルはバレットの準備を始める。

しかし周囲にアラガミの姿は見られない、何故ここで…と疑問に思ったジュリウスに、シエルは言葉を返す。

 

「今回試すバレットは、超長距離用にエディットしたバレットです。

 なので、ここから……あそこのオウガテイルを迎え撃とうと思います」

 

言いながら、シエルはある方向を指差す。

そちらに視線を向けるフィアとジュリウス、その先には確かにオウガテイルが捕喰している姿が見える。

だが、その距離は遠く軽く見積もっても一キロは離れているだろう。

 

「距離はおよそ1900メートル、通常のエディットなら届かない距離ですが……今から使うバレットもブラッドバレットになっています。

 もしブラッドバレットがエディットしたバレットの性能を向上したものだとしたら、届くかもしれません」

「シエル、頑張って!」

「はい、見ていてくださいフィアさん!」

「……………」

 

うつ伏せになり、銃形態の神機を構えるシエル。

静寂が場を包み始め、ジュリウスは彼女の集中を乱さぬように小声でフィアに話しかけた。

 

「……フィア、届くと思うか?」

「さあ、でも届くんじゃない?」

「何故そう思える?」

「根拠なんてあるわけないよ、でもシエルならきっとできるって信じてるから」

「……………」

「ジュリウスは少し難しく考えすぎなんだよ、まあそれがジュリウスの良い所だけど」

「……やはり、俺は頭が固いな」

 

ユノにも言われた事があると、ジュリウスは苦笑する。

 

「そういえば気になったんだけど、ジュリウスとユノって恋人同士なの?」

「そんなわけないだろう、何故そう思った?」

「みんなそう思ったみたいだよ? 仲良さそうだから」

「仲が悪いとは思わないが、彼女とはそういう間柄じゃないさ。それにユノは最近会って早々小言を言ってくる頻度が増えた」

「……そう言いながらも、楽しそうだね」

「そうか……?」

 

ひそひそと、世間話を楽しむ2人。

しかし、ゴッドイーターの聴力ではその話を耳に入れてしまい、シエルは集中する事ができない。

溜め息をつきながら立ち上がり、シエルは2人を軽く睨む。

 

「……あの、世間話ならミッションを終えてからにしてくれませんか?」

「あ、ああ…すまない」

「まったく……フィアさんならともかく、ジュリウスまで何をしているんですか」

「……シエル、ボクならってどういう意味かな?」

「あ…………」

 

しまった、失言だった。

シエルがそれに気づいた時には、もう遅い。

つかつかとシエルに近づき、フィアは両手で彼女の頬を掴み上げる。

 

「い、いひゃいです……」

「シエルが悪いんだよ?」

「も、もほはといえはフィアふぁんふぁちが……」

「ははは、面白いなー」

「……………」

 

顔を赤くしてもがくシエルに、そんな彼女の反応を見て楽しむフィア。

そのどこか珍妙な光景に、気がついたらジュリウスは声を出して笑ってしまっていた。

それは本当に珍しい姿であり、フィアもシエルも固まったままポカンとしてしまう。

 

……それから暫しして、改めてバレットの実験を再開する一同。

 

幸いにもオウガテイルの動きは変わっておらず、シエルは神機に取り付けたスコープを覗き込み息を整えていく。

二キロ近く離れた対象を撃つ超長距離狙撃、当然ながらここまでの狙撃はシエルも初めてである。

そもそも従来のバレットではたとえスナイパータイプの神機であっても、これだけの飛距離は望めない。

否、撃ち飛ばすだけならそれこそいくらでも飛距離を伸ばせるだろう、しかし狙撃となれば話は別である。

凄まじいまでの技術と集中力、そして忍耐力が無ければ決して成し得ない奇跡の業。

成功する自信などシエルには存在しない、だが不思議と彼女は落ち着いていた。

絶対に外せないという緊張の場面ではないからか、それとも別の理由か……それはわからないが、とにかく今のシエルの心中はとても穏やかであった。

 

(大丈夫……大丈夫………)

 

繰り返す言葉は、ただその一言。

すぅっと意識を奥底へ、ただ標的を撃ち貫こうと彼女はこの瞬間のみ人間という概念を捨て去った。

……オウガテイルが動き出した、これにより狙撃の難易度は格段に上昇する。

それでも彼女は微塵も慌てず……最高の瞬間を見据え、引き金を引いた。

 

――風切り音が響く

 

彼女が放ったバレットは、ゴッドイーターでも視認できぬほどのスピードで発射された。

風を切り裂き、ただ真っ直ぐ愚直なまでに標的へと飛んでいく。

従来のバレットエディットでは決して出せない弾速で、銃弾の牙がオウガテイルに喰らいついた。

 

「……………」

「――――とった」

「ああ」

 

結果は―――見事なものとしか言いようがなかった。

動いている標的をシエルは見事命中させただけでなく、その身体に風穴を開け一撃で標的を絶命させたのだ。

これだけの長距離でありながら、バレットの破壊力は微塵も衰えてはいない。

 

「………凄いです」

「うん、本当に凄いよシエルは」

「そうではなくて……このバレットは飛距離を伸ばした代わりに、威力を犠牲にしていたんです。

 でもブラッドバレットに昇華したこのバレットは、元々あった飛距離だけでなく欠点であった威力すら向上させていて……これほどのバレットを扱ったのは初めてです」

「ブラッドバレット……これは大発見かもしれん」

「はい、これを詳しく解明できれば……きっと新たな力となってくれる筈です!」

「シエル、これからも一緒に頑張っていこうね?」

「えっ……協力してくれるんですか!?」

「勿論、大事な仲間を助けるのは当然じゃないか。ジュリウスもいいよね?」

「ああ、俺にできる事があればなんでも言ってくれ」

「あ……ありがとうございますフィアさん、ジュリウス!」

 

本当に嬉しそうに、シエルは笑う。

それに応えるように、フィアも笑みを返し……。

 

「………フッ」

 

ジュリウスもまた、優しい笑みを浮かべていた―――

 

 

 

 

 

「ところで……このバレットの名前、何にする?」

「そうですね……フィアさんは何か案でもありますか?」

「うーん、どうせならカッコいい名前がいいよね!」

「か、かっこいい、ですか……」

 

「―――――フルーグル、というのはどうだ?」

 

『フルーグル?』

「稲妻、の意味を持つ単語を少し変えてみた。あの一撃はまるで稲妻のような速度で放たれたからな」

「フルーグルかあ……うん、採用!」

「ええっ!? フィアさんが採用するんですか?」

「シエルは嫌なの?」

「そういうわけではありませんけど……」

「せっかくジュリウスが考えてくれたんだから、フルーグルね。それにカッコいいし」

「は、はあ………」

(……こういう所は、子供っぽいんだな)

 

 

 

 

 

 

 

To.Be.Continued...




私の中でのブラッドバレットは、単純に強化されたバレットという認識ですのであしからず。

BB【フルーグル】
稲妻の意味を持つ単語を少し変えただけの名前、全属性対応。
超長距離型のスナイパータイプのバレット、狙撃での有効射程範囲内はおよそ二キロ。
遠距離を重視しているので威力は犠牲にしている…のだが、ブラッドバレットに昇華した結果欠点であった威力の脆弱さは解消されている。

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