神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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――運命がまた1つ、動きを見せる

それはフィアにとって、幸運な事か…それとも………。


第3部捕喰89 ~血の覚醒………?~

―――駆け抜ける戦士

 

アラガミを駆逐する神機をしっかりと握りしめ、フィアは吶喊していく。

群れがフィア達の存在に気づき、一番初めに行動に移ったのは――グボロ・グボロ。

頭部の砲塔から、四発の大型の水弾をフィアに向けて撃ち込んだ。

視線だけをそちらに向けつつ、フィアはその場で大きく跳躍して水弾を回避。

そのままグボロ・グボロへと落ちていきながら、チャージスピアの切っ先を砲塔へと向けて突き刺した。

血を噴出し、苦悶の唸り声を上げるグボロ・グボロ。

フィアは神機を持ち直し、そのまま力任せに神機を引くように振るい――砲塔を左右二つに分けた。

 

「ガアァァァァァァッ!!」

「ウオォォォォォォン!!」

 

フィアが地面に着地すると同時に、彼へと向かっていく二体のアラガミ。

その正体はヴァジュラとガルム、フィアという存在を危険視し真っ先に食い殺そうと襲い掛かったのだ。

しかしアラガミの攻撃は彼には届かず、ガルムの身体には複数の銃撃、ヴァジュラの身体には鈍重なハンマーが叩き込まれた。

ガルムは怯み、ヴァジュラはその巨体を地面に滑らせながら吹き飛んでいく。

 

「フィア、だから1人で先行しないでってば!!」

「グボロは任せたよ、フィア!!」

 

それぞれフィアにそう告げてから、ローザはガルムに、ナナはヴァジュラへと向かっていく。

援護を感謝しつつ、フィアの意識は改めてグボロ・グボロへと向けられた。

砲塔を天に掲げるグボロ・グボロ、どうやらナナかローザに遠距離攻撃を仕掛けるつもりらしい。

だがその行動は明らかに悪手だ、目の前に倒すべき相手が居るというのに無視するとは……。

 

「―――そんなに、喰われたいんだ」

 

冷たく呟きを零し、フィアは一気に加速して間合いを詰めた。

下段から掬い上げるかのような一撃、それは真っ直ぐ迷う事無くグボロ・グボロの口内へと吸い込まれていく。

固く鈍い感触を神機から感じながら、フィアは相手の口内にスピアの切っ先が突き刺さった事を理解する。

 

「―――っっっ」

 

両足に力を込め、奥歯を噛みながら全身を使って神機を持ち上げるフィア。

すると、切っ先に突き刺さっているグボロ・グボロごとフィアは持ち上げてしまった。

ゴッドイーターとしての剛力を十二分に発揮させ、フィアは力任せに神機を振るい……グボロ・グボロの身体を近くの壁に叩きつける。

すかさず追撃……するのではなく、自分に襲い掛かろうとしている小型アラガミ、ザイゴートに対し神機を捕喰形態へ。

怪物の口を思わせる捕喰形態の神機を叩き込み、ザイゴートの身体を文字通り抉り喰ってしまった。

ザイゴートの死体が地面に落ちると同時に、フィアは体内のオラクル細胞を活性化させ「バースト」状態に移行。

更に素早くなった踏み込みでグボロ・グボロとの間合いを詰め、まずは相手の目に向かって突きを放つ。

一撃、二撃、三撃、四撃………!

バースト状態によって活性化された肉体を存分に振るい、必殺の速度と威力を持ったスピアの突きがアラガミの身体を貫いていく。

 

「終わり」

 

トドメとばかりに、フィアは神機を銃形態に。

そのまま何故か接近し――なんと、彼は銃口をグボロ・グボロの口内へと突っ込んでしまった。

そのまま零距離で弾丸を連続発射、撃つ度にグボロ・グボロの身体がビクン…と震え、やがて動かなくなった……。

 

「…………」

 

それを無表情のまま、暫し見つめているフィア。

彼は気づかない、アラガミの死体を見て……口元に歪んだ笑みを浮べている事に。

 

 

 

……………。

 

 

「―――どっせい!!」

「ゴアァ………!?」

 

ナナの振るったブーストハンマーが、ヴァジュラの肉体に突き刺さる。

ミシミシという軋んだ音を響かせながら、ヴァジュラはその巨体を壁へと叩きつける。

 

「グ―――ゴアアッ!!」

 

更に踏み込んでくるナナに、ヴァジュラはマント状の器官から雷球を生成。

合わせて五つの雷球が、一斉にナナへと向かって放たれた。

 

「やああああああっ!!!」

 

それを見てナナは防御…ではなく、なんとそのまま吶喊。

ハンマーを振るい迫る雷球を強引に粉砕するが、その内の1つが彼女の身体に直撃してしまう。

苦悶の表情を浮かべるナナ、しかしそれすら構わぬとばかりに足を止める事はなかった。

間合いはほぼ零距離、ヴァジュラは雷球を放ったばかりで動けない。

その無防備な身体に、ナナは十二分に力を込めたブーストハンマーの一撃を叩き込む―――!

爆撃めいた音が響き渡り……ズンッとヴァジュラはその巨体を地面に沈ませ動かなくなった。

 

「ふう………いてて」

「―――ナナさん、大丈夫?」

「あれ? ローザさん?」

 

自分に駆け寄るローザを見て、ナナは首を傾げる。

彼女はガルムの相手をしていた筈だ、だというのに何故……と思っていたが、向こうで横たわったガルムの姿を確認できナナは理解する。

たった一人で大型アラガミであるガルムをこの短時間で討伐したのだ、やはり凄まじい力だとナナは思う。

 

「2人とも、大丈夫だった?」

「フィアこそ大丈夫だったの?」

「うん。ナナ……怪我してる」

「えっ、あ、大丈夫大丈夫。今回復錠飲むから」

 

バックパックから回復錠を取り出し、口に含んで呑み込むナナ。

体内のオラクル細胞が傷を修復していき、先程のダメージが無くなった。

 

「ナナ、無理しないでって言った君が無理してる……」

「うっ……で、でもフィアに比べればこんなの無理した範疇に入らないよ!」

「ボクは身体が頑丈だから」

「私だってゴッドイーターだから頑丈だよ!」

「……ボクは、そう簡単に“死ねない”から大丈夫」

「えっ…………」

 

そう簡単に死ねない、死なないではなく死ねないと彼は言った。

それは一体どういう意味なのか、問いかけようとして……フランの通信が入った。

 

『緊急連絡! データベースにないアラガミが接近しています!!』

「新種………?」

(やっぱり、ローザ達の方に来ちゃったか……)

 

予想はしていたものの、この状況には舌打ちをしたくなる。

感じた事のない偏食場が近くに居る事を、ローザは既に感知していた。

だから増援の事に対して驚きは無いが……同時に、別の違和感が拭えない。

 

(この感覚は…何? どす黒くて……気持ち悪い)

 

先程フランが言った新種とは違う所から感じ取れるこの感覚。

アラガミ故か、それとも単純に生物の第六感が働いているからか…その理由はわからないが、とにかく危険だと警鐘を鳴らしていた。

しかし逃げるという選択肢は選べない、新種のアラガミから不用意に逃げればジュリウス達やフライアに向かってしまいかねない。

 

『フィア、無事か!?』

「ジュリウス? うん、ナナもローザも大丈夫。これから向かってくるアラガミを迎撃する」

『こちらも援護に回りたいが、急に活性化したアラガミ達が現れてな……救援には時間が掛かりそうだ!!』

「わかった。とにかくこっちで何とか―――」

「っ、フィア、来たよ!!」

「……………」

 

ジュリウスとの通信を切り、フィアは神機を構えながら――新種のアラガミへと視線を向けた。

ガルムに似た発達した前足、身体は全体的に白く頭には触手のようなものが生えている。

そんな新種アラガミの前には、二体のヴァジュラが付き従うようにおり……新種アラガミが大きく吼えた。

 

「っ」

「えっ………!?」

「拙い………!」

 

新種アラガミが吼えた瞬間――二体のヴァジュラが一気に活性化へと陥った。

あのアラガミの特殊能力なのか、とにかく厄介な事になったと三人は唇をかみ締める。

 

「とにかく数を減らす………!」

「あ、フィア!!」

 

地を蹴り、新種アラガミへと向かっていくフィア。

ナナの静止も聞かず、吶喊した彼にヴァジュラが迫った。

 

「もう……フィアのバカ!!」

「チャージ!!」

 

フィアに迫るヴァジュラ、それをナナとローザがそれぞれ押さえ込む。

その隙に新種アラガミへと向かい、まずは突きの一撃を放った。

避けられる、巨体のくせにその動きは速くガルム以上だ。

ならばとフィアはチャージを開始、神機が展開され力が溜まっていく。

それを見て脅威と思ったのか、新種アラガミは吼え前脚に高熱を帯びていった。

大きく前脚を振り上げ、フィアを押し潰そうとそのまま振り下ろす新種アラガミ。

それをギリギリまで引き付けてから――フィアは大きく跳躍。

 

「熱………!」

 

高熱の余波で肌が焼け、僅かに顔をしかめながらもフィアは神機を大きく振り上げた。

狙うは新種アラガミの頭部、しっかりと狙いを定め……貫こうと振り下ろす!!

 

「っ、な―――!?」

 

驚愕の声は、フィアの口から放たれる。

完璧なタイミング、相手も攻撃をしたばかりなので隙が生まれていた。

そう、確かにその通りであり攻撃が決まらない道理はなかった筈だというのに。

新種アラガミは、動かせる後脚だけで自らの巨体を動かし紙一重でフィアの攻撃を回避する。

スピアの切っ先が勢いよく地面に突き刺さり、彼の身体に隙が生まれた。

それを逃すアラガミではなく、すかさず行動に移り逞しい前脚でフィアの身体を殴り飛ばす―――!

 

「っ、ご、ぁ………!?」

 

骨が軋む音を聞きながら、凄まじい衝撃が身体全体に襲い掛かりフィアは吹き飛んでいく。

吹き飛ぶ自分の身体をコントロールする事は叶わず、数回地面にバウンドしてから……壁に叩きつけられた。

 

「が、ぶ………―――!」

 

口からポンプのように吐血し、ズルズルと地面に座り込むフィア。

まともに受けてしまった、いくらゴッドイーターの身体でも大ダメージを負っているのは誰の目を見ても明らかであった。

再び吐血し、ブラッドの制服を赤黒く汚しながらも、フィアは壁に手を付けながら立ち上がる。

 

「はー…はー…はー………」

 

目が霞む、上手く思考を巡らせる事ができない。

少しでも気を抜けば気絶してしまう、そう思ったからこそフィアは必死に意識を繋ぎ止めようとしていた。

 

「フィア!?」

「いけない………!」

 

それに気づいたナナとローザだが、自分達の前に立ち塞がるヴァジュラ達が彼の救出を許さない。

血を吐き出し、苦悶の表情を浮かべるフィアを見て……ナナはキッとヴァジュラを睨みつけ。

 

「邪魔―――しないでっ!!!!」

 

普段からは考えられない程の怒声が、ナナの口から放たれた。

瞳には震え上がる程に恐ろしい怒りの色を宿し、ナナは一息でヴァジュラとの間合いを詰める。

横殴りによる一撃をヴァジュラの頭部へと叩き込み――その凄まじいパワーによって、文字通りヴァジュラの頭部が抉り飛ばされた。

 

「フィアーーーーーーーッ!!!」

 

ヴァジュラの死体には目もくれず、フィアを呼びながら彼の元に駆け寄っていくナナ。

しかし、ナナがフィアの元へと駆け寄る前に………。

 

「―――――――!!!!」

 

新種のアラガミが、声にならない咆哮を上げ。

周囲の場が――ある変化へと陥った。

 

「―――――えっ?」

「な、ん………!?」

「っ、これは………!?」

 

場の空気が変わった事に気づくナナ。

ローザもまた、ヴァジュラを前にして攻撃をやめてしまう。

それと同時に彼女は、この現象が何なのかを理解した。

 

(あのアラガミ………“感応種”!?)

 

―――感応種

新たに発見された新種のアラガミであり、特殊な偏食場を生成する事によって神機使いを戦えなくする力を持った驚異的なアラガミの総称である。

対処法はまだ見つかっておらず、現状として戦えるのはアラガミ化したカズキとローザ、そして異なる偏食因子を持つソーマの3人のみ。

 

「でも、感応種だからって!!」

 

ブラッドである自分ならば、感応種の特殊能力にも対抗できる。

とにかく彼を連れてこの場を離れなければ、それだけを考えナナはフィアの元へと向かい―――

 

――あるものを見て、再び足を止め硬直した

 

目を見開き、ガチガチと歯を鳴らしながらナナは身体を奮わせる。

一体どうしたのか、彼女の変化に驚愕しながらローザは視線をフィアへと向けて。

 

「―――――」

 

彼女と同じように、瞳を見開かせ硬直してしまった。

アラガミに恐怖したわけではない、否……彼女らにとってアラガミの方が可愛いものだったかもしれない。

彼女達の視線の向こうには――うずくまったフィアの姿が。

彼がどんな表情をしているかはわからない、うずくまったまま動かずこのままではアラガミに捕喰されてしまう。

それがわかっているというのに、彼女達は彼を助けるという選択肢を頭の中から消し去り、ただ傍観するのみ。

だって、仕方ないではないか。

 

――半ば当たり前のように、理解してしまった

 

――今、この場で一番恐ろしいのはアラガミなんかではなく

 

――あそこでうずくまっているフィアなのだと、思ってしまったのだから

 

「―――守らなきゃ」

 

呟く言葉は、ただ冷たい。

無機質で、恐ろしくて、人間のものとは思えない。

フィアの声のはずなのに、彼の声とは認識できなかった。

 

「守らなきゃ、守らなきゃ……みんな、守らないと…死ぬのはダメだ、死んだら終わりなんだ……死んだらもう……」

 

まるで呪詛のように呟きを続け、フィアはゆっくりと立ち上がった。

その瞳は……背筋が凍りつくかのように冷たく、ナナはおもわず小さく悲鳴を上げた。

ローザは悲鳴を上げなかったものの、フィアの異常性を全身から感じ取っていた。

 

(どうして……フィアに一体何が起きたの………!?)

 

わからない、わかろうとしても思考が追いつかない。

ただ自分達を守ろうとしてくれているのは分かる、それはわかるのに……。

 

「―――ウオォォォォォォォォォン!!」

 

どこか恐れを含んだ新種アラガミの咆哮が、場に響き渡る。

だがフィアは微塵も恐れる事無く、無言のまま神機を構えた。

 

「えっ………?」

「ナナさん、どうかしたの!?」

「この感じ……なんだろう、前にジュリウス隊長から感じた力と同じ………」

「力………?」

「………もしかして、フィア」

 

「―――みんな、無事か!?」

 

場に響く男性の声。

視線をそちらに向けると、合流してきたジュリウス達の姿を視界に捉えた。

2人の無事を確認してから、ジュリウスはアラガミと対峙しているフィアへと視線を向け――驚愕する。

 

「まさか……もう“目覚める”のか!?」

「目覚める……?」

「………俺達ブラッドだけが持つ特別な力、“血の力”にフィアが目覚めようとしているんだ」

「やっぱり、じゃあフィアは………」

「ああ。……だが、なんだこれは? ただの“血の力”とはまた違う………?」

 

違和感はジュリウスを襲い、しかし彼ではその正体を理解する事はできなかった。

フィアは“血の力”に目覚めた、それは間違いないと断言できるが……。

何かが違う、ジュリウスにはそう思えてならなかった。

 

「―――守るんだ。みんな…みんな、守らなきゃ…だからお前は邪魔だ、消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ頼むからこの場から消えるんだ今すぐそうしないとボクはボクはボクはボクは!!!」

「お、おい……フィアのヤツ、なんだか様子が」

「オオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

雄叫びを上げながら、アラガミがフィアに向かっていく。

ヴァジュラ二体もまた、フィアを確実に捕食しようと同時に襲い掛かり―――

 

 

「―――みんなを傷つけるヤツは、ボクがみんなタベテヤル」

 

 

狂気を孕んだ、誰にも聞こえない呟きを零してから。

 

 

 

フィアは、無造作に神機を振るった―――

 

 

 

 

 

 

To.Be.Continued...




うーん……フィアのキャラが定まらない。

最終的に彼は何処へ行くのでしょうか……作者の私にもわかりません。

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