新たな仲間であるギルを迎え入れたのだが………。
「―――ギルが過保護過ぎる。なんとかして」
「……………」
フライアにある、ジュリウスの私室。
ブラッドの訓練内容や雑務を行っていたジュリウスの前にいきなりフィアが現れ、上記の言葉を放ってきた。
これにはジュリウスもリアクションに困り、数秒間の沈黙の後……口を開く。
「……とりあえず、詳しい説明をしてくれないか?」
「うん。さっきのミッションの事なんだけどね……」
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「ナナ、左から来るよ!」
「うん、任せて!!」
「ロミオ、支援するよ!!」
「助かる!!」
「……………」
それはミッションの最中、ゴッドイーターとしてアラガミと戦っていた時の事。
すっかり定着した遊撃の役目を果たしながら、フィアは戦っていたのだが……。
「フィア、前に出るな!!」
「えっ?」
ロミオの支援が終わり、次にナナと共に前衛に行こうとしたフィアを…新たにブラッドに入ってくれたギルバート――ギルが呼び止めた。
おもわず立ち止まり、ギルへと視線を向けるフィア。
「ギル、どうして?」
「どうしてもこうしてもあるか、前衛は俺が行くからお前は後方支援に徹してろ!」
「そういうわけにはいかないよ。僕は状況に合わせて前衛も後衛も行う遊撃の役目を担ってるんだから」
「それはそうかもしれないがな……」
「おいコラ! サボってないで戦えっての!!」
「っ、誰がサボってるだと? フィアに支援してもらわなきゃまともに戦えねえくせに偉そうな口を叩くな!」
「なんだとお!?」
「…………はぁ」
恒例化しつつあるロミオとギルの口喧嘩、関係修復を命じられているというのに改善する気がないのだろうか。
とにかく今は2人の事を放っておく事にしよう、そう思いフィアはナナと共に前衛に移動しアラガミを殲滅させた。
――そして、周辺のアラガミを掃討した後
「フィア、大丈夫だったか!?」
「大丈夫だよギル、心配しすぎ」
「戦場では油断が命取りだ、それくらいわかるだろう?」
「それはわかるけど、ギルはボクの心配をし過ぎだと思う……」
「……心配しないわけねえだろ」
「人の心配してる暇があるなら、もっと戦えっての」
「ああ? お前は1人で立ち回れるように腕を磨け」
「なっ!? お前、それは一体どういう意味だよ!!」
「言葉通りの意味だ、それくらいわかれ!!」
「………また始まっちゃったね」
「うん………」
そそくさと口喧嘩をしている2人から離れてから、フィアとナナはため息をつく。
怪我らしい怪我もしていないしアラガミも掃討できた、結果だけを見れば文句の付けようのないものだ。
しかし……内容を見ると酷いの一言に尽きる、というよりよくもまあこんな状態でこれだけの戦果を上げられたものだと思った。
「ロミオ先輩とギル、相性最悪だね……」
「別にそこまで仲が悪いとは思えないんだけど…2人して一言多いから……」
「板ばさみになるフィアと私の身にもなってほしいよね……」
「うん………」
再びため息をつくフィアとナナ。
こうして、迎えが来るまでこんなやりとりが続いたとか何とか……。
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「―――と、いうわけなんだ」
「成る程……まったく、あいつらは」
呆れたような呟きと共にため息を吐き出すジュリウス。
そう簡単に関係改善は望めないとは思っていたものの、予想以上に酷いようだ。
まあそれはこの際おいておくとして……彼のフィアに対する過保護は確かに気になるものだ。
「ボクがまだ新人で、一番年下だからかな?」
「それは少なからずあるかもしれないが、その可能性は低いだろう。
お前の実力は既に新人の域をとうに超えている、ギルもそれぐらいはわかっている筈だ」
「じゃあ……なんでかな?」
首を傾げるフィアに、ジュリウスは考えを巡らせる。
ギルは会ったばかりのフィアに対して、本当に気に掛けている…少しいき過ぎだと思える程にだ。
何かしらの理由があるのは明白だろう、だとして…その理由とは一体何なのか。
暫し思案を巡らせ……ふと、ジュリウスはある事を思い出す。
「そういえばフィア、お前が初めてギルと出会った時…お前を見てひどく驚いていたと言っていたな?」
「うん。なんだかこの世のものとは思えないものを見るみたいな顔だった、ボクそんなにひどい顔してる?」
「してないから安心しろ。しかし……もしかしたら、そこに理由があるのかもしれないな」
「ボクが誰かに似てた、とか?」
「…………………」
「ジュリウス?」
フィアの言葉を聞いて、ジュリウスはフェンリルのデータベース「ノルン」を立ち上げる。
コンソールを動かし彼が閲覧しようとしてる項目は……各支部に所属している神機使いのデータだった。
カーソルを「グラスゴー支部」に合わせるジュリウス、そしてそこに所属しているもしくはしていた神機使いを1人1人確認していくと。
「あっ………!」
「……どうやら、彼がお前に対して過保護になるのは、これが理由のようだな」
ある神機使いの項目を見た瞬間、2人は声を上げた。
その神機使いの名は―――ケイト・ロウリー大尉。
2071年没の、女性神機使いであり……その容姿は、フィアそっくりであった。
「ボクそっくりだ……」
「確かにな。お前をそのまま成長したかのようだ……」
「でもこの人、殉職したって……」
「……おそらくこのロウリー大尉とお前が瓜二つだったから、ギルも色々と気に掛けるのかもしれんな」
「………………」
視線を、ケイトの顔写真に向けるフィア。
見れば見るほど自分に似ている、でも……自分よりずっと優しそうな顔立ちだ。
もしギルが自分に対して色々と気に掛ける原因が彼女だとしたら、彼にとってケイト・ロウリーという人物は本当に大切な存在であったのだろう。
……だとしたら、それを失った時の痛みは一体どれほどのものだったのか。
「……だがかといってこれで足枷になっては元も子もない。ギルには俺から言っておこう」
「うん……お願い、ジュリウス」
「フィアは今まで通りの立ち回りで戦っていけ。お前が遊撃を行う事でチーム内の戦闘バランスが向上する」
「わかってる。……でも、ジュリウス」
「なんだ?」
「ギルを注意するのはわかるけど……あまり怒らないであげてね?」
「…………」
「ギルは確かにボクをいき過ぎなほど心配してるけど、その理由がわかった今は…仕方ないって思うんだ。
それだけ大切な人だったんだよ、ギルにとってケイトって人は。だから……そっくりなボクを心配し過ぎてしまうのは、きっと仕方がない事だ」
自分にはよくわからないが、それが人の感情というものなのだろう。
そう思ったからこそ、フィアはジュリウスにそう言ったのだ。
自分には大切な存在など居ないけど、気持ちだけは…なんとなく理解できたから。
「……わかっているよフィア、心配するな」
「ごめんねジュリウス、勝手な事言って……」
「そんな事はない。……お前はただ優しいだけだ」
そう言って、ジュリウスはフィアの頭を優しく撫でる。
ゆっくりと慈愛を込めて、彼の頭を撫でてあげた。
くすぐったそうにするフィアだったが、その表情は嬉しそうだ。
それを見ていると…ジュリウスも自然と笑みを浮かべてしまっていた。
(弟、か……ユノが言っていた事も、あながち間違いではないかもしれないな)
フィアが嬉しそうにしていると、自然と心に優しい想いが生まれてくる。
まるで弟を大切にする兄のような気分なのかもしれないと、ジュリウスは自己分析していた。
……守っていかなくては、たとえ戦う力があったとしてもフィアはまだ13の子供なのだ。
できる限り支えていかなくてはと、ジュリウスは自然とそんな誓いを胸の内に建てていた………。
―――数日後
「―――フィア」
「? ギル、どうかしたの?」
「もうすぐミッションだが、準備はできたのか?」
「大丈夫だよ。バックパックの中身も点検したし、ギルは?」
「俺は大丈夫だ。……それと、今まで色々と悪かったな」
「何が?」
「ジュリウスに「お前は過保護過ぎる」と言われてな。さすがに少し反省したんだ」
ばつの悪そうに視線を逸らし、帽子を深く被り直すギル。
どうやらジュリウスの言葉はなかなか効果的だったらしい、一体どんな言い方をしたのだろう。
「別に謝る必要なんかないよ。それにね……ギルがボクを心配してくれるその気持ちは、本当に嬉しかったから」
「フィア………」
「ありがとう。ギルは優しいね」
微笑み、感謝の言葉を口にするフィア。
それを見て、ギルはどこかハッとしたような表情を浮かべて。
「…………ケイトさん」
そんな呟きを、零した。
それをしっかりと聞き取ったフィアであったが、聞き返すような真似はしない。
ジュリウスからも言われたのだが、あまり詮索したくないとフィア自身そう思っているからだ。
たとえ仲間であっても無闇に過去を訊こうとはしない、それが最低限の礼儀というものだ。
――それに、自分だって訊かれたくない事だってある
「そういえばギル、今回のミッションはチャージスピアで行くつもりなんだけど、立ち回りを見て変な所があったら教えてくれる?」
「ああ、任せろ。だが無闇やたらと踏み込んでいくなよ? お前の実力はわかってるが……」
「ギル、ジュリウスに言われたばかりでしょ?」
「…………すまん」
あははと笑うフィア、それを見てギルも苦笑を浮かべた。
そして2人は、ミッションが始まる時間まで会話を楽しんだのであった………。
「フィア、踏み込みすぎだ!!」
「うん、わかった!!」
「……なんかフィアとギル、前より仲良くなってるね」
「……………」
「ジュリウス、なんでしかめっ面になってんの?」
「………なんでもない」
To.Be.Continued...
ジュリウス万能説浮上、他のメンバーの出番増やしたいのに……。