神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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ブラッド隊員、フィアの物語は続く。

さて、今回の物語は………。


第3部捕喰86 ~フィアとジュリウスとユノ~

――フライアの庭園エリア

 

そこは今は失われていきつつある自然溢れるエリアであり、ここの局員達の憩いの場でもある。

その一角、大木に背中を預けながら読書に耽っている1人の少年――フィアは、誰かが近寄ってきた事に気づき顔を上げた。

 

「やっほー」

「ナナ、どうしたの?」

 

来訪者――ナナの姿を確認して、フィアは一度読書をやめた。

そんな彼の隣に座り込み、ナナは持っていた袋の中からおでんパンを取り出し頬張る。

 

「ナナ、ここでは飲食物の持ち込みは禁止だよ?」

「んぐっ……あれ? そうだったけ?」

「怒られてもいいなら、ボクは一向に構わないけど……」

「まあまあ、フィアが黙っててくれるなら大丈夫大丈夫」

「……一つだけにしておきなよ? 見つかっちゃうから」

 

はーい、と元気よく返事をしてから、ナナの意識はおでんパンへ。

そんな姿を苦笑しながらも、フィアは優しい笑みを浮かべて見つめていた。

 

「………ねえ、フィア」

「なに?」

「あのね……この間は、本当にありがとう」

「? この間って?」

「ほら、ヴァルキリー…だっけ? そんな名前のアラガミから庇ってくれて……」

「ああ……別にお礼なんかいらないよ。それにナナのおかげでヴァルキリーにダメージを与える事ができて、撤退するチャンスに繋がったんだからむしろ感謝するのはボクの方だよ」

「………そう、ならいいんだけど」

 

やはり、フィアのこの言葉にナナは寒気を覚える。

死ぬ可能性だって十二分に考えられる状況だった、むしろその可能性の方が高い筈だった。

こう言ってはなんだが、あの状況で1人も欠ける事無く撤退できたのは運が良いだけだ。

それなのに、フィアはナナに対して恨み言一つ言わないばかりか感謝するなど……普通ならばありえない。

まだまだ付き合いが長いとは言えないが、ナナはフィアが何か大切なものを無くしているような気がしてならなかった。

尤も、それが何なのかまではわからないが……放ってはおけない。

 

「フィア、何か困った事があったり辛い事があったら何でも言ってね? 絶対に力になるから」

「うん……ありがとうナナ、ナナは優しいね」

「………そんな事、ないよ」

 

たとえどこかおかしいと思えたとしても、フィアは大切な仲間だとナナの中ではそう認識している。

失いたくない大切な仲間なのだ、心配するのは当然だし力になりたいと思うのもまた当然だ。

……でも、それ以上にフィアはどこか放っておけない危うさを秘めているとナナは思った。

 

「―――ナナ、ここに居たのか」

「あっ……ジュリウス隊長」

「もうすぐ訓練の時間ではないのか?」

「ああっ!? いっけなーい!!」

 

慌てて立ち上がり、すぐさま訓練室のエレベーターへと向かっていくナナ。

その途中で、彼女は立ち止まり座っているフィアへと視線を向け。

 

「フィア、絶対に無理しちゃダメだからね?」

 

そう言ってから、今度こそナナはエレベーターに乗って訓練室へと向かったのだった。

 

「………話の邪魔をしてしまったか?」

「ううん。大丈夫だよジュリウス」

「そうか。………隣、座ってもいいか?」

「もちろん」

 

ありがとう、そう告げてからジュリウスはフィアの隣に腰掛ける。

それから暫し沈黙が続き……先に口を開いたのは、ジュリウス。

 

「――フィアは、“葦原ユノ”を知っているか?」

「葦原ユノ? 知らない、誰それ?」

「フフッ……やはり知らないか、お前はそういうのが疎そうだからな。

 彼女は今極東近辺で大人気の歌手でな、本部も慰安コンサートを開催してほしいと頼む程の人物なんだ」

「へえ……それで、その人がどうかしたの?」

「今このフライアに居てな、どうやらグレム長官が呼んだらしいんだが……」

「グレム長官?」

「このフライアや“神機兵”に出資してくれている本部の重役だ。……というより、ブラッドの隊員ならば知っておいた方がいいぞ?」

 

だって興味ないもん、バッサリと切り捨てるフィアはジュリウスは苦笑する。

今の言葉をグレム長官が聞いたらどうなるのか、少しだけ見てみたい気もした。

 

「じゃあ、ロミオとか凄くはしゃいでなかった?」

「ああ。興奮した面持ちでいつも以上に落ち着きがなかったよ、あいつもフィアの冷静さをもう少し真似してほしいものだ」

「それがロミオの良い所だよ。えっと………ニギヤカ担当?」

「………そうかもしれないな」

 

笑みを浮かべるジュリウスに、フィアも笑みを返す。

その笑みはただ純粋で歳相応の子供らしく……だからこそジュリウスは、前に垣間見た彼の異常性を思い出してしまう。

彼自身が危険な人物というわけではない、だが……あの時の異常性は決して無視できないものだ。

 

(グリード・エグフィード……博士の話によるとフェンリル本部直属のオラクル研究者だったようだが……)

 

彼の父の事をラケルに訊いたジュリウスだったが、結局得られた情報はそれだけだった。

ある日突然フェンリルから姿を消し、研究材料を持ち去ったために本部の人間達から追われる事になったそうだが……。

 

「ジュリウス、どうかしたの?」

「っ……いや、なんでもない。それより…お前に話さなければならない事があったんだ」

「何?」

「これはまだ先の話だが、近々ブラッドに新しい隊員が来るんだ。それも2人も」

「そうなんだ、それでどんな人?」

「1人は“ギルバート・マクレイン”、グラスゴー支部所属で神機使いを5年続けているベテランだ。

 だが彼は「フラッギング・ギル」……通称“上官殺しのギル”と呼ばれている」

「上官殺し?」

「グラスコー支部でアラガミ化を陥りそうになった上官を介錯して査問会に呼ばれた事があるそうだ、しかし勘違いしないでほしいが彼自身に何ら不備などはなかったし事実査問会でも不問にされた。

 だがその事実が一人歩きをしてな……一部の者からはそんな不名誉な呼ばれ方をしているそうだ。フィア、お前はそんな風に呼ばないであげてほしい」

「もちろん。というより……なんでそのギルバートって人はまったく悪くないのに、そう呼ばれるの?」

「………お前のように、物分りのいい連中ばかりではないという事さ」

 

皮肉を込めた口調で、ジュリウスはそう返した。

 

「もう1人は“シエル・アランソン”といってな、俺やナナ達と同じくマグノリア・コンパス出身の少女だ。

 軍人の生まれでな、戦略や訓練技術といったものは高い評価を見せるんだが……俺が言えることではないかもしれんが、少しばかり社交的な面が不足しているんだ」

「ふーん………」

「柔軟な考えができない子でな。戦術面では頼りになるがその点だけが少し不安なんだ。

 だからフィア、シエルがブラッドに来たら色々と気に掛けてくれないか? もちろん俺も何もしないわけではないが、頼む」

「それはいいけど……どうしてボクなの? ナナやロミオには言わないの?」

「お前は皆を支え纏め上げる力がある、今までの実戦で俺はそう感じた。

 だから色々と頼りにしてしまうが……頼らせてはくれないか?」

「頼るのは別に構わないよ。だってジュリウスもナナもロミオも大切な仲間だから!」

「………………ありがとう」

 

優しく、あやすようにフィアの頭を撫でるジュリウス。

……やはりこの子は優しい子だ、しかし同時に危うい面も持ち合わせている。

けれどフィアならばこのブラッドを支えてくれる存在になってくれるだろう、ジュリウスにはそう思えた。

そして、彼と自分がブラッドを支えていけば、アラガミなんかには負けない最強の部隊が出来上がる筈だ。

 

「―――珍しい顔になってるねジュリウス、いつもは仏頂面なのに」

「…………仏頂面は生まれつきだ」

 

突如として話しかけられたが、ジュリウスは声の主を瞬時に特定しばつの悪そうな表情を見せる。

フィアが声の主の方へと視線を向ける、そこに居たのは――1人の少女。

白いワンピースに身を包んだ、長いライトブラウンの髪を持つ美少女だ。

先程の言動からしてジュリウスの知り合いらしいが……。

 

「ジュリウス、この人誰?」

「彼女が葦原ユノだ。――すまないユノ、気を悪くしないでくれ」

「ううん、大丈夫。はじめまして、フィア・エグフィードくん」

「……なんでボクの名前を?」

「ジュリウスから色々聞いてたから、期待の新人なんだって褒めてたよ?」

「………ユノ、そういう事はいちいち言わなくていい」

 

咎めるような口調のジュリウスだが、視線は完全に合わせないようにしている。

どうやら珍しく恥ずかしがっているようだ、その姿にユノはくすくすと笑みを零した。

 

「ジュリウスとユノって、知り合いなの?」

「ああ。俺は時折彼女の護衛を頼まれていてな」

「他にもフェンリルやその傘下が主催する立食パーティーとかでも会ったりしてね、仲良くなったの」

「へえ………付き合ってるの?」

「そんなわけないだろうに……まさかお前からそんな質問が来るとは思わなかった」

「あはは、ジュリウスは大切な友達だけどそういうロマンチックな関係じゃないよ!」

 

そう告げるユノだが、フィアには2人の間には確かな絆が見えているように感じられた。

でも口には出さない、どうせ否定されるだけだろうから。

 

「それでユノ、一体何の用だ? 確かもう極東支部の方へ向かう筈だが……」

「うん。ジュリウスが言っていたフィアくんを見てみたいっていうのが1つと…グレム長官がね、ジュリウスに私の護衛を命ずるつもりみたいだから」

「……そうか」

「もう少ししたら呼ばれると思うから、その時は宜しくね?」

「もちろんだ、わかっている」

 

と、ちょうどジュリウスの通信機が鳴り響き――内容は今話した通りのものであった。

了解しましたと返事を返し通信を切った後、ジュリウスは立ち上がりフィアへと視線を向ける。

 

「フィア、聞いていたと思うが俺はユノ達の護衛のために少しフライアを離れる。

 おそらく二日程度で戻ってこれるとは思うが…俺がいない間、ブラッドの運用はお前に一任するぞ?」

「………ボクに?」

「さっきも言ったがお前を頼りにしたいんだ。いいか?」

「うん。ジュリウスも気をつけてね?」

「わかっているよフィア、ありがとう」

 

もう一度フィアの頭を撫でてから、ジュリウスはユノと共に庭園を後にした。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「―――まるで、仲の良い兄弟みたいだったわよ?」

「兄弟? 俺とフィアがか?」

 

極東支部へと向かうヘリの中で、ジュリウスはユノからそんな言葉を聞いた。

 

「うん。なんだかジュリウス……とても優しいお兄さんって感じだった」

「……………」

 

そう言われても、ジュリウスとしては何も言えない。

兄弟など持った事などないからだ、マグノリア・コンパスで育った者はある意味で兄弟と呼べるかもしれないが……。

しかし、フィアの事を色々と気に掛けてやりたいと思っているのは事実だ。

 

「貴方が誰かに色々と気に掛けている姿を見るのは初めてだったし、随分と心を許しているようにも見えたわよ?」

「そうか……確かにそうかもしれないな」

「なんだがジュリウス、前よりも優しくなった気がするわ」

「…………だとするなら、フィアのおかげかもしれないな」

「でも……なんだかあの子、すごく儚くも見えたけど……どうしてかしら?」

「……………」

 

大丈夫だ、彼ならきっと。

どこか自分自身に言い聞かせるようにしながら、ジュリウスはユノの呟きを受け流す。

 

 

 

――それから、二日後

 

 

 

「いってえええええっ!?」

「………?」

 

フライアのロビーで、ロミオの悲鳴が聞こえてきた。

何事かと思い、フィアがすぐさまその場へと赴くと……そこには、見慣れない男性が居た。

背はかなり高く、ジュリウスよりも高いかもしれない。

そんな男性が右手で拳を作り上げ、彼のすぐ傍には左の頬を手で押さえ倒れているロミオの姿が。

 

「ロミオ、どうしたの?」

「どうしたもこうしたもねえよ! こいつがいきなり殴りかかってきて…まあ、俺の聞き方もちょっとしつこかったかもしれないけどさ………いきなり殴る事ないだろ!?」

「なんだ、隊長様の登場―――――っ!!!?」

「…………?」

 

振り向き、フィアの姿を見た瞬間……男性は何故か目を見開いて驚きの表情を彼に見せてきた。

一体どうしたというのか、この驚き方からして相当のものだが…それが何故自分を見ての事なのかフィアにはわからない。

と、騒ぎを聞きつけたのか帰還したばかりのジュリウスが場の中に入ってくる。

 

「………これは、一体何の騒ぎだ?」

「おかえり、ジュリウス」

「ああ、ただいまフィア。……ギルバート・マクレイン少尉、状況を説明しろ」

「ギルバート……」

 

どうやら、目の前に立っているこの男性が新しくブラッドとして来たギルバートのようだ。

ジュリウスの問いに、ギルバートはようやく我に返ったのかハッとした表情を浮かべてから…ジュリウスに視線を向ける。

 

「あんたがここの隊長か?」

「ああ。ジュリウス・ヴィスコンティという」

「ギルバート・マクレイン、グラスゴー支部所属の神機使い……まあその辺りは知っているか。

 こいつの質問がウザッたいから殴った、ただそれだけだ。除隊でも厳罰でも好きにしてくれ……」

 

一方的にそう言い放ち、ギルバートはその場を去っていく。

それを追いかけようとはせず、ジュリウスは今度はロミオへと問いかけた。

 

「……一体どんな質問をしたんだ」

「べ、別に変な事は訊いてないって! ただ今までの所とか色々と訊いて……普通殴るかよ!?」

「とにかく、今回の事は不問にするが…早急に関係を修復しろ。彼は俺達と同じ戦場で戦う仲間なのだからな」

「げっ……そんなの無理だっての! なあ?」

「いやー……確かに殴るのはよくないけど、ロミオ先輩の訊き方も悪かったと思うよ?」

「ぐっ………」

 

「………ねえジュリウス、もしかしてギルバートが怒ったのって…グラスコー支部の事を訊かれたからかな?」

「かもしれないな。いくら仕方のない状況下とはいえ上官を介錯して何も感じないような人間には見えなかった、俺も詳しくは知らないから憶測でしかないが…彼も色々と思う所があるのかもしれん」

「…………前途は多難だね、ジュリウス」

「他人事みたいに言うな、だがまあ……確かにそうかもしれないな」

 

はぁっと、その場でため息を吐くフィアとジュリウス。

新たな仲間、ギルバートとの出会いは……あまり良いスタートを切る事ができなかったようだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To.Be.Continued...




補足説明、ここのジュリウスさんとユノさんは結構仲良しさんです。

劇中でもありましたが、歌姫として活躍するユノとお近づきになりたい連中が主催した立食パーティーであったり、グレム長官から個人的にユノの護衛を任命したりしているうちに仲良くなった…という設定があります。

なのでお互いにタメ口で呼び捨てなのは仕様です、ご了承ください。

ああそれと、第3部は導入編から半年後という設定があると説明するのを忘れてました。

何故半年間経たせたのかというと、前述のようにジュリウスとユノの関係を結ぶ時間がほしかったのと、後々サテライト居住区を登場させたいので建設できているように時間がほしかったからです。

導入編からすぐの話だと、まだサテライト居住区が建築されていないでしょうし(この物語、本編と時間軸が微妙にずれちゃってますので)

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