神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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「ブラッド」の新人隊員、フィア・エグフィードの物語が始まる。

果たして、彼の物語は一体何を生み出し齎していくのか……。


第3部 ~交差する二つの物語~
第3部捕喰83 ~早過ぎる初陣~


「………凄いものだな」

 

フライアの一角、花や緑が溢れる庭園エリアにて青年の呟きが零れる。

声の主の名はジュリウス、フライアにて結成された「ブラッド」の隊長である。

そんな彼の手には、複数枚の書類が握られていた。

そこに書かれているのは、「ブラッド」に配属された二名の新人神機使いに対する考察なのだが……その内の一名の訓練データにジュリウスは驚きを隠せないでいた。

 

(各種パーツの運用評価はどれもSS、銃形態は不得手なのかAだが……それでも十二分に高評価だ)

 

因みに最高評価がSSSなので、この評価が如何に優れているのかすぐにわかる。

そしてこの評価を受けているのが……4日前に適合試験をパスしたばかりのフィア・エグフィードのものだというのだから、彼の驚きは同然と言えた。

僅か4日、それだけの短い期間でこれだけの評価を得る神機使いなど、今まで存在していない。

少なくとも自分では到底到達できなかった、もはや彼は既に新兵のレベルをとうに超えてしまっている。

今すぐに実戦投入してもいいくらいだ、だが同時に不可解であった。

 

(これだけの実力、それにアラガミに対する知識……どこで手に入れた?)

 

一朝一夕で得られるものではない、彼はここに来る前にアラガミに対する知識を深めているのは明白。

無論不可能というわけではない、一般人でもアラガミに対する知識や生体などを知る事だって可能だ。

しかし彼の知識は一般のそれとは大きく異なっている、だからこそジュリウスにとって彼の実力には疑問が残る。

 

――だが、たとえ何であったとしても強いに越した事はない

 

自らにそう告げて、ジュリウスは考えるのをやめた。

たとえ何だとしても、彼は自分の部下であり「ブラッド」の隊員である事には変わりないのだ。

それにいくら訓練で高評価を受けたとしても実戦とは違う、隊長である自分が導いてやらねばならない。

そして絶対に死なせないと、彼は己に誓いを建て立ち上がり、庭園を後にした……。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「―――あ、おーい!」

「…………?」

 

フライアのロビーを歩いていたフィアに、声を掛ける少女が。

そちらへと視線を向けるフィア、そこには1人の少女の姿があった。

露出の多い服装で、右手には不思議なパンを手に持っている。

 

「ねえねえ、君もブラッドの新人さんだよね?」

「君も?」

「うん。私はナナ、えっと……」

「ボクはフィア、フィア・エグフィード。よろしくね?」

「うん、よろしくー!」

 

ニコッと微笑むナナ、フィアもそれに返すように微笑みを返した。

……と、彼の視線がナナの持っている物体に向けられる。

 

「ん? あ、もしかして欲しいの?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」

「ちゃんとお近づきの印にあげるから心配しなくていいよー、お母さん直伝のナナ特製おでんパン!」

「………おでんパン」

 

ナナからやや強引に受け取ったそれを見て、成る程確かにおでんパンだとフィアは納得する。

コッペパンの真ん中辺りに切り込みを入れ、その中にコンニャクやちくわといったおでんの具が挟まれている。

はっきり言ってこんなパンは見た事がない…というより、パンという認識を抱いていいのだろうか?

そう思いつつも、フィアはそれを迷う事無く口に含んで食べ始める。

 

「おっ………」

「………美味しいね、これ」

「ホントに!? やったあ!!」

 

満面の笑みを浮かべるナナ。

だが確かに美味しい、意外にもおでんとパンが合っているのだ。

 

「もう一つ、食べる?」

「うん」

「………えへへ」

「? どうしたの?」

「ううん。ただ……優しい人でよかったなあって、おでんパンを食べて素直に美味しいって言ってくれたの…フィアが初めてだったから、嬉しいんだ」

「美味しいから美味しいって言っただけだよ?」

 

なんだかよくわからないと、フィアは首を傾げる。

 

「ところでさ……フィアって…女の子?」

「ううん、男だよ」

「あ、ごめん……」

「別に謝る必要なんかないよ。けど女の子に見える?」

「うん、その……ごめん」

 

失礼な事を訊ねてしまったと思いつつも、ナナは改めてフィアの姿を見て再確認する。

色素の薄い栗色の髪を背中まで伸ばし、黒斑の眼鏡を掛けたまだあどけなさが多く残る容姿。

少女と間違えても仕方がないと思ってしまう、しかも……可愛いではないかとも思った。

 

「あー…えっと……そ、そういえばフィアって凄いよね! 訓練担当の職員さんに訊いたんだけど、今まで見た事がないくらい優秀な成績だっていう話らしいし!!」

「そんな事ないよ。それに訓練でいくら成績を残しても、実戦に出れば簡単に死んじゃうかもしれないよ?」

「……ねえフィア、冗談でもそういう事言わないで」

「冗談なんかじゃないよ。そういう世界だから、いつだって死ぬ覚悟を持ってないと」

「……………」

 

おもわず、ナナはフィアを見ながら息を呑んだ。

なんという達観した考え方なのだろう、もしかしたら彼は見た目に反して自分より凄く年上なのでは……。

 

「フィアって、何歳?」

「今年で14になるから、まだ13歳」

「13!?」

 

凄い年上どころか年下であった、しかもまだ子供だ。

二重の驚きを見せるナナに、フィアは再び首を傾げる。

そんな2人に、1人の青年が近づき声を掛けてきた。

 

「少し、いいか?」

「えっ―――あっ!!」

「………ジュリウス」

 

青年――ジュリウスの登場にナナは慌てて立ち上がり敬礼する。

しかしフィアは彼を見つめるだけであり、それに気づいたナナがすぐさま彼を立たせた。

 

「別に畏まらなくていい。それより2人とも、訓練は一通り終わらせられたようだな」

「うん。それで何か用なの?」

「ちょ、ちょっとフィア……」

「構わない。……少し早いかもしれんが、お前達なら大丈夫だと判断しよう」

「………?」

 

一体何を言っているのだろう、2人がわけもわからず首を傾げていると……。

 

 

 

 

「―――すぐに出撃できる準備を整えろ。今から実地訓練を行う」

ジュリウスは、2人に向かって真剣な声でそう言った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――見ろ。あれが俺達人類の敵である“アラガミ”だ」

「えっと……あの、隊長?」

「何だ?」

「実地訓練って……実戦ですか?」

 

控えめなナナの声が、場に響く。

しかし彼女の疑問も尤もであった、何故なら現在フィアとナナとジュリウスの3人はフライアから離れ、アラガミが闊歩する戦場へと赴いている。

フィアとナナが訓練を始めて僅か4日で実戦など、本来ならばありえない事でありなにより事前連絡が無いとは一体どういう事なのか。

 

「そうだ。だが俺はお前達ならば小型アラガミ程度ならば問題なく対処できると判断したからこそ、お前達を戦場に連れてきた。

 お前達の訓練内容に対するレポートと考察を見せてもらったが……新兵とは思えない高いポテンシャルを秘めている、だからこそ早く実戦経験を積んでもらいたいと思ったんだ」

「で、でも……大丈夫かな……」

「言った筈だ、お前達ならば問題ないと。そして一刻も早く経験を積み……俺達「ブラッド」のみが使用する事を許されている「血の力」に目覚めて欲しい」

『血の力?』

「強大で強固な「人の意志」によって生まれる新たな力、神を喰らう者である「ゴッドイーター」を超越する可能性を秘めた存在……それが俺達「ブラッド」であり「血の力」なんだ。

 ――だが今はアラガミを倒し生き残る事だけを考えればいい、俺がサポートに回るから訓練で培った技術を最大限に発揮して戦ってみせろ」

「………うーん」

 

少々強引なジュリウスに、ナナは少しだけ顔をしかめる。

彼の言い分は理解した、だがそれでも自分達は充分に訓練を励んだとは思えない。

しかし、そんな彼女とは対照的に……フィアは神機を持つ手に力を込め、一足先に戦場へと降り立った。

 

「あっ、フィア!?」

「覚悟ができたらナナも来て。けど絶対に無理はしないでね?」

 

優しい言葉を投げかけながら、フィアは走る。

ジュリウスもそれに続き、その場に1人残されたナナは……。

 

「………もう、フィアってばもう少し躊躇うとかすればいいのにぃ!!」

結局、その場に残されるのが嫌だったので、文句を言いながらも2人の後に続いた。

 

 

…………。

 

 

アラガミに向かって、フィアは一直線に駆け抜ける。

ターゲットは小型アラガミに分類されるオウガテイル、数は四体。

手にした「クロガネ大剣型」を携え、一気に間合いを詰めた。

フィアの存在に気づき彼へと振り向くオウガテイルの群れ、だが先に彼の初撃が繰り出された。

放たれたのは大振りの横薙ぎの一撃、刀身が迷うことなくオウガテイルの頭部へと命中し、その顔面を抉り砕きながら吹き飛ばした。

血溜まりが地面を赤く汚す、それには構わずフィアは続いて神機を天に掲げる。

続いて放ったのは上段からの一撃、二体目のオウガテイルの胴へ深々とくい込み鮮血が舞った。

 

「ギャアアアアアアアアッ!!!」

 

だがまだ倒れない、大きなダメージを与えたがオウガテイルはまだ生きている。

尻尾を振り回しそこから鋭利な棘を射出しフィアへと攻撃しようとするが…その前に彼が動く。

鈍い打撃音、彼の華奢な腕からは想像もできない重く早い肘鉄が叩き込まれ、オウガテイルの身体がブレ攻撃が中断される。

すかさずフィアは刀身をオウガテイルの身体から抜き取り、今度は相手の眼球目掛けて刀身をめり込ませた。

再び鮮血が舞い、ビクンとオウガテイルの身体が大きく跳ね……そのまま地面へと倒れこむ。

 

「……………」

(速い……それに的確にアラガミの脆い部位を狙うか)

 

援護の必要などまるで感じさせない戦い方に、ジュリウスは頼もしく思う反面やはり不可解だと思った。

彼はどこかで高度な訓練を受けていた、そう思えずにはいられないほどに洗練された動きを見せているのだから。

 

「ふえ~……凄い……」

「ナナ、もう覚悟はできたの?」

「できてないけど、あそこで見てるよりは一緒に戦った方がいいに決まっているよ。

 それにしてもキミってば度胸があるというか思い切りが良いというか……色々と凄いね」

「ありがとう。じゃあ一緒に頑張ろう?」

「りょーかい!!」

「ではフィアは右から、ナナは左から攻め立てるんだ!!」

 

後方からジュリウスの指示が飛び、2人は頷きを返しながら同時に動いた。

指示通りフィアは右から、そしてナナは左からオウガテイルに向かっていった……。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「――あなたにしては、随分と強引でしたね?」

「あの2人なら問題ないと判断した結果だ。しかし確かに性急だったかもしれん」

 

ラケルの言葉に反論を返しながら、自分の行動を反省するジュリウス。

……フィアとナナ、2人の初陣は問題なく終了し怪我人も出る事は無かった。

ジュリウスの考え通り2人のポテンシャルは十二分に実戦に通用するレベルに達している。

これならば今後実戦で経験を積めば、「血の力」に目覚める日はそう遠くないだろう。

 

「特にフィアは随分と高い潜在能力を秘めているようだ、近い内に…抜かされるかもしれんな」

「あら。あなたらしくもない事を言うのですね、でも確かに…あの子の力は新人のそれを大きく超えている。

 フフフ……本当に頼もしい事です、きっと素晴らしい「血の力」に目覚めて新たなる神話の語り手となるでしょう」

「……………」

 

珍しく、どこか興奮した面持ちのラケルに、ジュリウスは内心少しだけ驚いた。

彼女はいつも淡々としているため、今のように感情を露にしているのは(尤も、見た目ではわかりにくいのだが)本当に珍しい。

フィアの才能の大きさ故か、それとも……。

 

「ジュリウス、どうかあの子を導いてくださいね?」

「……ああ、わかっている」

「フフフ……ああ、あの子の成長が楽しみです………」

「……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To.Be.Continued...




祝、第3部開始!!

少しでも楽しんでいただければ幸いです。

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