Fate/Zero フィオ・エクス・マキナ(完結)   作:ファルメール

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第04話 英雄達の戦場

 

 第四次聖杯戦争の二戦目たる、セイバーとランサーとの死闘。

 

 傍らで見守るアイリスフィールにはさながら神話の再現の如く見えた火の出るような打ち合いは、全く予期しない事態を以て一時中断となる。

 

 倉庫街の一角から鳴り響いてきた銃声・爆音。それがきっかけとなって、今まさにどちらかあるいは双方が倒れかねない乾坤一擲の一撃を放とうとしていた二人の英霊は、共に動きを止めてしまう。

 

 何事かとしばらくは様子を伺うように爆音のした方向を睨んでいた三者であったが、不意に凄まじい魔力の波動が感じられ、そして、

 

「「「なっ!?」」」

 

 夜が昼になった。

 

 否、違う。空中に突如として、太陽と錯覚する程の光量を持った”何か”が出現したのだ。

 

 その光の中から、何かがこちらに向かって飛んでくる。

 

「あれは……!?」

 

 本物の太陽を見る時のように、目を痛めぬよう手で庇いながらそれでもセイバーがその正体を把握しようと視線を向ける。

 

 嘶きが聞こえる。馬蹄の音も。

 

「馬……? 神獣、ライダークラスか?」

 

 ランサーが警戒しつつ身構える。見れば、炎を纏う四頭の馬がそれぞれ並んで空間を踏み締め、宙を駆けて向かってくる。

 

 馬達は、何かを牽いている。あれは……

 

「御者台……!? 戦車!?」

 

 身構えたアイリは、その戦車が着陸した局地地震の如き衝撃に何とか耐えた。

 

 そうして神馬らが纏う炎が治まり、御者台に立っている二人の姿が把握出来るようになる。

 

「あれは……ライダーと、ロード・レンティーナ……!!」

 

 昼間にレストランで出会った二人組が、他より一段高い御者台に立ちつつ二騎のサーヴァントと、一人のホムンクルスを王者の威厳と共に見下ろしていた。

 

 この炎の馬に牽かれる戦車こそがライダーの宝具に違いない。そして、最初は呆然としていたセイバーも合点が行ったという表情を見せた。

 

「そうか……彼の大英雄に倣って獅子を絞め落としたという逸話、オリンピアの聖火……そこからいずれローマかギリシャの英霊だと思っていたが、これではっきりとした」

 

 たった今自分達の前に出現した、まるで太陽と見紛うが如き熱と光を放つこの戦車。そんな物を御せる英霊。

 

 これらで線引きを行えば、残る者は一人。

 

「太陽神ソルに匹敵する戦車御者、ローマ帝国5代皇帝ネロ・クラウディウス。此度の聖杯戦争、これほどの英霊が参加しているとは……」

 

 セイバーの声は、同じ英雄としての敬意の中にどこか苦々しさを含んでいる。アイリスフィールはすぐにその理由を察する事が出来た。セイバー、アーサー王はキリスト教を信仰していた事でも有名だ。目の前にそれを迫害した事でも有名な暴君が居たとあっては、あまり良い気分ではいられないだろう。

 

 一方でランサーは英霊同士、純粋に敬意を払っているのかペコリと一礼していた。

 

「うむ。余もフィアナ騎士団最強の戦士である輝く貌のディルムッド、そして少女の身でありながらそれと五分に打ち合う程の騎士に出会えるとは思わなんだ。セイバー、そしてランサーよ。そなたらの武勇に、皇帝として賛辞を贈ろう」

 

 真名を看破されたと言うのに、ライダーはそれを些末な問題とさえ感じてはいないようだった。これには肩を並べて御者台に立つフィオも苦笑いする他は無い。

 

「そなたらの誇り高き騎士の戦を妨げた事は許せよ。この決闘を汚そうとする暗殺者の姿が見えたでな。そやつを成敗した際に起こった事だ」

 

 ライダーの説明が終わると同時に、フィオは先程回収していた二つに割れたコンテンダーの残骸を、ぽいと投げ落とした。

 

 それを見て、明らかに大きな動揺を見せた者が一人。アイリだ。見て分かる程に大きく息を呑み、口元に手を当てる。

 

 分かり易い。

 

 ライダーにあらかじめ「あの魔術使いのマスターを殺した」という意味にも取れる言い回しで先程のドンパチを説明するよう伝えていたが、こうも上手く行くとは。フィオはもう一度苦笑した。

 

 少なくとも、このホムンクルスがあの魔術使いと何かしらの関係がある事は確定した。彼がセイバーのマスターで、彼女が囮の偽マスターとなっているのか、それともあの男はこの場には来ていないキャスター辺りのマスターで、彼女と同盟を組んでいるのか。

 

 ここは、もう一押し。

 

「成る程、さっきの彼はセイバーのマスターだったのね」

 

 カマをかけられると、アイリスフィールの表情に再び動揺が走る。

 

 フィオは今度は心中で苦笑する。

 

 昼間の店での会話で彼女が聡明な人物である事は間違いなかったが、恐らくまだ見た目通りの鋳造年数ではないのだろう。咄嗟の感情の動きを、隠し切れていていない。

 

 どのサーヴァントのマスターか、本人から聞き出す事は出来なかったがこれで確定だ。

 

 つまりあの魔術使いはアイリスフィールを代理マスターとして偽装し、自分は陰働きに徹してマスターを狙撃するという戦法を執っていたのだ。これならたとえ聖杯戦争の常套戦術の一つである「マスター狙い」でアイリが殺されたとしても、セイバーが消滅する事はない。上手い手だ。

 

 だがこうして手口が分かった以上は、もう自分達には通用しない。

 

 そしてこのセイバーの気性、その堂々たる振る舞いから考えて、あのマスターもまたサーヴァントと同じで”自分達が第一に倒すべき敵ではない”と判明した。

 

「ま……まさか、切嗣を……!!」

 

「心配しなくても、無事よ。まんまと逃げられたわ」

 

 笑いながらのフィオの言葉に、アイリはほっと胸を撫で下ろす。冷静に考えればセイバーの現界に支障が生じていないのだからハッタリと看破出来る内容だったが、続けて煽ってみたので流石に心の揺れを御せなかったのだろう。そんな代理マスターを見て、フィオは「若いな」という印象を持った。彼女が鋳造されてからの年数は、思いの外最近かも知れない。あるいは10才にもならないかも。

 

 ……と、マスターの言葉が終わった時を見計らってライダーが再び口を開いた。

 

「重ねて言うが、二人の騎士よ。そなたらの戦い振り、誠に見事であった。あれほどの戦いを見せられては、居ても立ってもいられず余もこうして『日輪の戦車』(ヘリオス・チャリオット)を駆って参陣した次第だが……」

 

 彼女はそこで一度言葉を切ると、ぐるりと周囲を見渡す。そして、

 

「奏者、そなたの力、一時借り受けるぞ」

 

 自らのスキルを発動させる。

 

 ライダーのスキルの一つ、ランクEX:皇帝特権。これは本来彼女が持ち得ないスキルを、本人の強硬な主張によって短期間においてのみ獲得するものである。該当するスキルは軍略やカリスマなど多岐に渡るが、今回は先程切嗣を追跡する際にフィオが使用した力、”共感覚”を取得した。

 

 人間であるフィオのそれは音を見て、光を聴き、ただ一つの感覚から得られるものより遥かに膨大な情報を得るというものだが、サーヴァントであり霊体への知覚さえ持つライダーがこれを得た場合は、それに留まらない。

 

 繋がった五感は単純にサーヴァントの気配を感じるといった領域を遥かに超えて、自分達を見る二つの視線の存在とその主の居場所を正確に捉えていた。その姿までも、克明に。

 

 一つはアサシン。そしてもう一つは……

 

「そこの金ぴか!! そなたも己が一廉の英霊だと自負しておるのなら、霊体化してこそこそ覗き見などせず、姿を現したらどうだ!!」

 

 誰も居ない街灯のすぐ上の空間へと『原初の火』の切っ先を向けて、ライダーが叫ぶ。

 

 ややあって、黄金の光がそこに集まり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 脱落した”事になっている”アサシンのマスター・言峰綺礼はクレーンの上から状況を偵察しているアサシンとの知覚共有によって得られた情報を、魔術による通信機越しに彼の師、遠坂時臣へと報告していた。

 

 すると、通信機からは冷静ではあるものの普段の師と比べて少しトーンの落ちた声が聞こえてくる。

 

「これは……拙いな……”あの”ロード・レンティーナが相手では、如何な英雄王とて万一があるかも知れん……情報の少ない今は、何とかして無理押しは避けてもらわねば……」

 

 本日正午の事だ。教会に最後に召喚されたサーヴァント、ライダーのマスターが登録に訪れた。父・璃正からその名前を聞かされた時には、自分もきっと、見えないが今の時臣師と同じような顔をしていたのだろうと、綺礼は思う。

 

 それを伝えた時には「常に余裕を持って優雅たれ」を家訓とする彼も通信機越しでもはっきりと分かる程に動揺していた。

 

 「ゆゆゆ優雅たれ」と自己暗示でも掛けていたかのような呟きが五分も続いていたのを、綺礼は覚えている。

 

 フィオ・レンティーナ・グランベル。

 

 現・魔導元帥ロード・バルトメロイが第一魔法の具現者以外では唯一人敬意を持って接し、数年前に封印指定を受けるまでは、どうしても失敗出来ない任務を行う前に決まって彼女が呼ばれ、クロンの大隊の訓練を任されていたというプロ中のプロ。架空元素も含む7つの属性全てを備え、『』に接続しているとさえ言われる超一流の魔術師。

 

 かつて彼女は「ルーチェ」と呼ばれていた。ルーチェとは光の事だ。ピカリと光ったのが分かった時には、そいつは死んでいる事から付いた異名だった。睨まれたら絶対に逃げられない。

 

 彼女の名前を聞いただけで、間違いなく最強のサーヴァントである人類最古の英雄王・ギルガメッシュの召喚に成功して必勝を期していた筈の時臣師の戦略が、酷く頼りないものに感じてしまった。

 

 例えるなら、石橋どころか崩れるなど想像する事すら出来ない鉄筋コンクリートの橋が、いきなりたった一本のロープに変わってしまったかのような、そんな感覚を。

 

 目的達成の為には、そんな綱渡りを行わねばならない。

 

 フィオの参戦は、今度こそ遠坂家の悲願に至ろうとしていた時臣とそのサポートを任されていた綺礼にとって、それほどの衝撃であった。

 

「「何故彼女程の魔術師が、人数合わせのマスターとしてこの聖杯戦争に招かれたのだ……!!」」

 

 そんな二人の心中など全く知らない英雄王は今この時、倉庫街に姿を現していた。

 

 

 

 

 

 

 

「我(オレ)を差し置いて王を称する不埒者が、一夜に二匹も湧くとはな」

 

 現れた黄金のサーヴァントは街灯の上からセイバー達3騎と、アイリとフィオを傲然と見下ろしている。

 

 その名乗りを受けて、しかしライダーは「ほほう」と笑うと、こう言い返した。

 

「成る程金ぴか、そなたもまた王たる英霊か。しかし、ならば余の勝ちだな。余はその上を行く皇帝ぞ!!」

 

 胸を張るライダー。この挑発は、さほど高くはなさそうな”金ぴか”の沸点を振り切るには十分だったようだ。目に見えて表情が不機嫌になり、同時に背後の空間が歪曲する。

 

「天上天下に唯一無二の英雄たる我に向けてその物言い……貴様はそれほどに早死にしたいらしいな、バビロンの妖婦!!」

 

 空間の歪みの中心からは、一目見ただけで超一級の宝具であると理解出来るような威容と光輝を持つ剣と槍が顔を出した。

 

「むう……あれが奴の宝具か……!!」

 

 いつでも戦車を発進させて飛んでくる宝具を回避出来るよう手綱を握り締めつつ、ライダーは油断無く”金ぴか”アーチャーを睨む。ランサーも同じように警戒心を高め、セイバーはアイリを護衛すべくその傍まで駆け寄る。

 

 そして先込め式銃の弾丸のように空間へと”装填”されたアーチャーの宝具が、彼の思念を引き金として射出されようとしていた、まさにその時だった。アーチャーの立つ街灯からほど近い場所に黒い霧のような魔力が渦を巻き、やがて実体を持って、霞を纏った漆黒の騎士が姿を表す。

 

 ここには三騎士とライダーが揃い、アサシンは脱落したと見せかけているのでこうもおおっぴらに姿を現す事はない。そしてあの屈強な鎧姿はどう見てもキャスターのそれではない。つまり……

 

「バーサーカーか!!」

 

「ふむ……奏者よ、奴はどれほどのサーヴァントだ?」

 

 ライダーがこの場で唯一の正規マスターであるフィオに尋ねるが、彼女のマスターは渋い顔だ。

 

「それが……見えないのよ。ステータスもスキルも、全く……恐らく、正体を隠蔽するタイプのスキルか呪い、あるいは宝具を持っているのね」

 

 サーヴァントにそう説明しつつも、フィオの頭脳は回転を続けている。

 

 解せない。バーサーカーのマスターは、何故にこんな戦略も何も無い混沌の真っ直中にサーヴァントを解き放ったのか。正常な判断の出来るマスターであれば、こんな愚行は犯すまいが……

 

 と、アーチャーに動きがあった。背後に出現した宝剣宝槍の切っ先が、ライダーからバーサーカーへと動く。

 

「誰の許しを得て我を見ておる……? 狂犬めが。せめて散り様で我を興じさせよ、雑種!!」

 

 嘲るようなその言葉と共に二挺の宝具が発射され、バーサーカーに向かっていき、着弾、爆発が起こる。

 

 同時に、アーチャーを除くサーヴァントとそれにフィオは驚愕を露わにした。あの宝具の威力も凄まじいが、それ以上に驚愕すべきは。

 

「奴め、本当にバーサーカーか!?」

 

「奏者よ、見たか?」

 

「見た!!」

 

 バーサーカーは先に飛んできた剣を難無く掴み取ると、次に飛んできた槍を打ち払ったのだ。言葉にすれば簡単だが、その全行程が完了したのは一秒にも満たない刹那の間でしかない。神業という言葉すら霞む絶技だと言える。

 

「狂化によって理性を無くしているにも関わらずあの動き……あれは、生前に余程の武勇を誇った英霊と見て、間違いはないでしょう」

 

 ランサーに向けるものとはまた違った敬意を払うように、アイリを背に庇ったセイバーが厳しい顔で言った。

 

「その穢れた手で我が宝物に触れるとは……!!」

 

 必殺の一撃が必殺とならなかったアーチャーが、再び動く。

 

「それほどまでに死に急ぐか、狗!!」

 

 激昂と共に先程とは比べ物にならぬ規模で空間が歪み、十を上回る数の武器群が顔を出す。驚くべきはそれらのどれもが、先程の剣・槍と同じ”宝具”である事だ。

 

 サーヴァントの宝具は原則一つか二つ。大英雄クラスであっても多くて4つ。あれほどの数の宝具を持つ英霊など……悪い冗談とか思えない。

 

「その小癪な手癖の悪さで以て、どこまで凌ぎ切れるか……さあ、見せてみよ!!」

 

 その言葉を引き金として、空間という弓に番えられていた”矢”である宝具群は、一斉にバーサーカーへと殺到する。

 

 しかし、そのどれ一つとて漆黒の狂戦士にダメージを与える事は出来なかった。

 

 バーサーカーは美しさすら感じさせるような無駄の無い動きで迫り来る”凶弾”を掴み取り、奪い、手足のように完璧に操り、回し、続く攻撃を打ち払い、更には飛来する中により”格”の高い宝具があると見るや間髪入れずにそれに持ち替え、空爆のようなアーチャーの攻撃を凌ぎきってしまった。どころか、あまつさえ奪い取った宝具を投げ返して反撃までしてみせる。

 

 アーチャーは素早く跳躍して攻撃を避けたが、彼の立っていた街灯はそうも行かず三つに切断されてしまった。

 

 難無く着地したアーチャーであったが、その体は隠そうともしない怒りによってぶるぶると震え、面貌も憤怒によって歪んでいる。

 

「痴れ者がっ……!! 天に仰ぎ見るべきこの我を、同じ大地に立たせるか!!」

 

 三度空間が、二度目よりも更に大きく歪んで再び宝具群が顔を出す。数は、30を越えている。いよいよこのサーヴァントも本気になったのか、それともまだ上があるのか。

 

 いずれにせよ、恐るべき敵である事には間違いはない。フィオは大きく息を吐き、奴の手の内を見極めようと目を凝らす。

 

「この不敬は万死に値する!! そこな雑種よ!! 最早肉片一つも残さぬぞ!!」

 

 激情に任せて吼えるアーチャーの意志によって、雨のような宝具が発射される。

 

 かに、見えたが。

 

 

 

 

 

 

 

「ギルガメッシュは本気です。更に『王の財宝』(ゲートオブバビロン)を、解き放つ気でいます」

 

 通信機から綺礼の報告を受けて、時臣はいよいよ表情を歪ませた。

 

 まずい、絶対にまずい。

 

 今はまだ、綺礼のアサシン群による諜報に徹するべきなのだ。それをギルガメッシュは、あろう事か必殺宝具を繰り返し衆目に晒し、ましてやあんな得体の知れないバーサーカーへの全力投球など、断じて見過ごせるものではない。

 

 しかもあの場には、ロード・レンティーナが居る。

 

 他の誰にもまして、彼女に多くの情報を与えるのはまずい。早急にギルガメッシュを退かせなくては。

 

 だがあの英雄王にはマスターを尊重する気など申し訳程度にしかないようだ。ならば……

 

 魔術師の視線が、右手の令呪へと動く。

 

 目的の都合上、三画の令呪は彼にとっては二画分の意味しかないが、しかしそれを使う事を時臣は躊躇わなかった。今すぐこれを使わなくては、近い未来に自分は敗北する。彼女の手によって。

 

 そんな根拠の無い悪寒が、彼の中に走っていた。

 

「令呪を以て奉る。英雄王よ、怒りを鎮め撤退を」

 

 

 

 

 

 

 

 その絶対命令は、空間を越えて間髪入れずにアーチャーへと届く。

 

「貴様如きの諫言で、王たる我に退けと? 大きく出たな、時臣」

 

 憎々しげに言うが、しかし如何な大英雄だろうと令呪の強制には逆らえない。アーチャーはさっと手を一振りして発射寸前の宝具群を収納、先程の攻撃で地面に突き立った物も回収すると、

 

「命拾いしたな? 狂犬……雑種共、次に会うまでに有象無象を間引いておけ!! 我と見えるのは、真の英雄のみでよい!!」

 

 その言葉を最後に、現れた時と同じ金色の光と共に霊体化し、消えていった。

 

「ふむ……どうやらアーチャーのマスターは、サーヴァント程には剛毅ではなかったらしいな、奏者よ」

 

「慎重なのよ。セオリー通りだけど、でもやっかいな敵だわ」

 

 ライダーの評にそう返すフィオだが、いつまでもこんな呑気に会話していられるほど、危険は十全には除かれていない。

 

 前門の虎は去った。しかしまだ、後門の狼が残っている。

 

 標的を見失ったバーサーカーであったが、不意にその視線がセイバーへと動く。

 

「!!」

 

 表情を厳しくして、剣を構え直すセイバー。

 

「…………」

 

 と、バーサーカーの視線が今度はすぐ隣で戦車に乗っているライダーへと動いた。

 

「む……!!」

 

 狂戦士がいつ飛びかかって来ても対応出来るよう、ライダーは手綱を握り直す。

 

「…………?」

 

 バーサーカーはまだ動かない。その動きは少し戸惑っているようにも見える。

 

「…………!!」

 

 と、その目線が少しだけ下がって、もう一度セイバーへ動き、

 

「………」

 

「何だと言うのだ、一体……!?」

 

 今度はライダーに。

 

「………」

 

「理性を失っていても、余の美貌は分かるらしいな?」

 

 軽口には付き合わず、

 

「…………!!」

 

 再びバーサーカーの視線がセイバーに動く。と、同時に。

 

「A------urrrrrrrrッ!!!!」

 

 咆哮。

 

 そしてさながら暴風の如き速度とパワーを纏って、蒼の騎士へと突進した。

 


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