Fate/Zero フィオ・エクス・マキナ(完結)   作:ファルメール

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第01話 マスターな店長

 

 11月某日、14時30分頃。

 

 冬木市の一角にあるイタリアンレストラン「虹色の脚」に、二人の来客があった。

 

 一人はダークスーツに身を包んだ絶世の美少年……ではなく、男装の麗人。

 

 もう一人は、髪や肌の色から装いまで全て白一色で統一した絶世の美女。年齢は二十代半ばといった所であろうか。

 

 外国人居住者も多い冬木市であるが、この二人は明らかに旅行者であると分かる。理由は簡単。これほど人目を引く者達がそのどちらか一方でも今までこの町に住んでいたのであれば、町の人々がそれを見逃している訳がない。それほどに容姿端麗な二人だった。

 

 スーツの女性の手にはパンフレットが握られている。そこには、この「虹色の脚」の紹介記事も書かれていた。店の規模は大きくはなく雰囲気も庶民的ではあるが、一度食べたら病み付きになるような絶品料理を振る舞う冬木市のグルメスポットだと。

 

 しかしそんな人気店も、ランチタイムを大きく過ぎているこの時間では流石に客もまばらであり空席が目立つ。

 

 と、来客に気付いたウェイトレスがぱたぱたと店の奥から駆けてきた。快活そうな印象を受ける、褐色の肌の少女だ。

 

「いらっしゃいませ!! 二名様です……か……?」

 

「あら?」

 

「どうか、しましたか?」

 

 その少女は入ってきた二人を見た途端、何やら怪訝な表情を見せる。決して敵意や猜疑心といった負の感情の籠もったものではないが……

 

 しかし初対面の筈の相手から妙な視線を向けられて不思議に思ったのか、白の女性は首を傾げ、スーツの少女は穏やかに疑問を投げかける。

 

 そして、次にそのウェイトレスの発した言葉に、二人はその表情を引き攣らせる事になる。

 

 彼女はこう言ったのだ。

 

「ライダーさん、どうしたんですか? その格好……それに、その人は……?」

 

「「!!」」

 

 ”ライダー”。ウェイトレスの口から出たその単語。それはこの二人にとって特別な意味を持っていた。

 

 次の瞬間には、スーツの少女が女性を庇うように前に出る。

 

 だが、次に起こった事はより二人を驚愕させる事になる。

 

「どうしたのだ、シャーレイ? 余はここだぞ?」

 

 店の奥から、今度は赤の衣装を纏った少女が姿を見せた。そうして店内を見渡して、ダークスーツの少女と目が合い……

 

「ぬ?」

 

「なっ!?」

 

 ほぼ同時に、二人とも驚きの声を上げた。

 

 それも無理からぬ所である。何故ならスーツの少女と今現れた赤の少女。この二人の顔は、まるで鏡に映したかのようにそっくりであったのだ。

 

「モードレッド……? いや、違う……?」

 

「おおっ!! サーヴァントらしいが、まるで余の生き写しではないか!! 余も自分は美しいと自負しておるが……こうして目の前に同じ顔があると、それを再認識させられるというものよ」

 

 動揺した様子のスーツの少女とは対照的に、赤の少女は楽しそうな笑みを浮かべて対面の相手をしげしげと観察している。

 

「どれ、もう少し間近で……」

 

 笑いながら、あまりにも堂々とした歩みで同じ顔の他人へと近付いていく赤の少女。

 

「セイバー……!!」

 

「アイリスフィール、下がって!!」

 

 不安げな声を上げるアイリスフィールと呼ばれた白の女性に、セイバーと呼ばれたスーツの少女は叫ぶ。その声に、店内にいる数名の客が注目して視線を向ける。

 

 それとほぼ同時に、セイバーの周囲に魔力を乗せた風が集まり初め……

 

「ぬ」

 

 ライダーと呼ばれていた赤の少女も瞳を大きく開き、歩みを止め、身構える。さっと振った彼女の手には赤い光の粒子が集まり初め、僅かな時間で収束して棒状に固まっていく。そしてその光が形を成そうとして、

 

「そこまで」

 

 まるで館内放送のように店中に、良く通る甘ったるい声が響き、セイバーとライダーは動きを止めた。

 

 続いてパチンと指を弾く音が鳴ったかと思うと、立ち上がっていた客達は何事も無かったように再び席に戻る。それを見たアイリスフィールは感心と驚愕が重なった表情を見せた。

 

 暗示の魔術、それもかなりの手練れだ。

 

 そうして、今度は厨房からコックコートに身を包んだ女性がぬっと顔を出した。

 

「店長!!」

 

「奏者か」

 

 彼女を見たシャーレイとライダーが声を上げる。

 

「聖杯戦争で戦うのは夜よ? こんな所で始められたら、私は聖杯に自分の店の修理を願う事になってしまうわ」

 

 そうして彼女達の前に出てくると、全体像が見えてくる。

 

 身長は女性にしてはとても高く、180センチは軽く越えているだろう。光に染め抜いたような金色のロングヘアを持った白人で、同じ色の瞳が度の強い近眼用メガネ越しにセイバーとアイリスフィールを見据えていた。総合的な印象としては、二人の客のいずれにも劣らぬ美女だと言える。

 

 料理人の格好をしているがしかし隠し切れぬ教養の高さや高貴さを感じさせる振る舞いを以て、「店長」「奏者」と呼ばれた彼女はアイリスフィールへと声を掛ける。

 

「初めまして。その容姿から判断して……あなたはアインツベルンのマスターかしら? 私はフィオ。フィオ・レンティーナ・グランベル。今回の聖杯戦争では、ライダーのマスターを務めさせてもらっているわ」

 

「グランベル……!?」

 

 その家名を聞いて、アイリスフィールはそこに畏敬の念が籠もっているかのような驚いた声を上げ、思わず口元に手を当てた。

 

「ちなみに17歳よ」

 

「嘘ですね」

 

「嘘でしょ?」

 

「嘘でしょう、店長……」

 

「うむ、嘘だな」

 

 取り囲む4人の女性から、一斉にツッコミが入った。

 


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