西住みほの恋物語   作:葦束良日

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西住みほの恋物語・劇場版3

 

 俊作とアズミの出会いは、ある講義を通してのものであった。

 

 たまたま同じ講義を取っており、席で隣り合ったのだ。その際、講義内でわからない事があったらしいアズミが、隣の俊作に質問してきたのが交流の切っ掛けであった。

 それから講義で会うたびに会話をするようになり、それが縁で昼休みを共に過ごすこともあり、やがて二人は友人と呼べる関係になっていたのだった。

 その友人関係は俊作が大学在学中はもとより、卒業してからも継続しており、ときおりメールなどで連絡を取ることもあった。

 

 とはいえ、俊作が本格的に学園艦整備士として働き出してからは余裕も少なくなり、連絡することもあまりなくなっていたのだが。

 俊作は整備士を目指して。アズミは戦車道の選手として上を目指して。そうして互いに目標に向かって進んでいた当時を、彼女の顔を見たことで少し懐かしく思い出す俊作であった。

 

「それで、一体どうしたんです? 確かに近いうちに会えたらいいなと連絡をしましたけど、こんなに早く叶うとは思いませんでしたよ」

「ん、まぁ……」

 

 疑問符を浮かべた顔で問われた当然の質問に、俊作はどう言葉にするべきか少し口の中で吟味する。

 言い淀む俊作に首をかしげるアズミを見て、俊作は本題は置いておいて世間話としてまずは口を開くことにした。

 

「……そういえば、大学選抜チーム凄いみたいじゃないか」

 

 一瞬虚を突かれたような顔になるアズミだったが、それが賞賛の言葉だったからだろう。嬉しそうに笑って答えた。

 

「はい。さすがは愛里寿隊長ですよ。まさか社会人チームに勝てるだなんて。私とメグミとルミだけだったらきっと無理でしたから」

 

 そう、彼女たち戦車道の大学選抜チームは、社会人で構成された大人のチームに勝利を収めたのだ。これはアマチュアがプロを破ったと言い換えてもいいほどの事であり、まさに快挙と言ってよかった。

 そのチームにおいて、アズミは彼女の姉妹でもあるメグミとルミと共に中隊長を務めているのだ。それを率いているのが、隊長である島田愛里寿。飛び級で大学に在籍している弱冠十三歳の天才少女である。

 俊作としては、おどおどしている小さな子というイメージが強いためそこまで凄く思えないのだが……と考え、それはみほも同じだったかと苦笑する。みほもまた、あまり強そうなイメージを持たれない方だからだ。

 そんなことを考えつつ、俊作は大学選抜チームの大金星を生んだ試合について思い返す。

 

「隊長車はセンチュリオンだったっけ。あの戦車も凄かったよなぁ。MBT(主力戦車)の概念を生み出したってのは伊達じゃないんだなって思ったよ。ああ、もちろん愛里寿ちゃんやアズミたちの戦術ありきなんだけど」

「……え、ええ」

「忍者戦術、とも言われてるんだっけ? 確かに相手が動くたびに即時対応、って感じで先を読んでるみたいに動いていたもんな。これまでは実感がなかったけど、愛里寿ちゃんが天才って言われるのがよくわかったよ」

 

 うんうんと頷く俊作に、アズミは目を丸くして驚いていた。

 

「は、はい。……えーっと、先輩?」

「え、なに?」

「……先輩、そんなに戦車道に興味持ってましたっけ? 私たちが話している時、いつも聞き流していた気がするんですけど」

「あー……いや、今更ながらあの頃は悪かったよ。ただ今は、ちょっと切っ掛けがあって戦車道にハマっちゃってね」

 

 俊作が頭を掻きながら言うと、アズミは「あら!」とばかりに口に手を当てて驚いてみせた。

 

「ふふ、それはいいですね、隊長も喜びますよ! もちろん、私もですけど」

 

 本当に嬉しそうに言うアズミに、俊作の中で張りつめていた気持ちも僅かに緩む。

 今なら気負うこともなく話せそうだと考えた俊作は、心内でよしと呟いてから、携帯をポケットから取り出して開いた。

 

「ところで、戦車道といえばだけどさ、アズミはこの記事は知ってる?」

「記事?」

 

 訝しげな顔になるアズミに、携帯で検索したニュース記事を見せる。それはもちろん、戦車道ニュースWEBで取り上げられていた大洗女子学園の廃校に関するものである。

 その記事を見た途端、アズミの整った眉が僅かに顰められた。

 

「……知っていますよ。これ、ひどいですよね。うちのメンバーの中でも少し話題になっていましたから」

「そうか……」

 

 やはり、戦車道に携わる者にとっては思うところがあるのだろう。アズミは当事者ではないが、それであっても快く思っていないのが伝わってくる表情だった。

 そんな彼女は、「この記事がどうかしたんですか?」と俊作に尋ねてくる。突然見せられたからには、何か理由があると思うのは当然だ。

 そんな当たり前の質問を受けて、俊作は少しだけ言うべき言葉を考える間を置いてから、目の前に座る後輩の顔を真っ直ぐ見た。

 

「アズミ」

「はい、なんですか?」

「今日の話というのは、他でもない。この記事のことに関してなんだ」

「まぁ、そう思いましたけど……一体どうしたんですか?」

 

 次の瞬間。俊作はテーブルに手をついて、頭を下げた。

 

「ちょ、先輩!?」

「僕は、この大洗の子たちを助けたい。けど、そのために何が出来るのか、わからないんだ。正直、見当もついていない。だから、何でもいい。もし何か思いつくことがあれば、教えてほしいんだ。僕でも力になれる方法があれば、何か」

 

 普段クールな彼女には珍しい慌てた声を上げるアズミに、しかし俊作はただ頭を下げて言葉を紡いだ。

 言ったように、皆目見通しが立っていない今、俊作は本当に藁にも縋る思いでいるのだ。であるから、これはそんな俊作の焦燥感に似た必死さが表れた結果であった。

 

「切っ掛けでもいい。小さなことでも。その相談に乗ってもらいたくて、今日は連絡をしたんだ」

「わ、わかりました! わかりましたから、ひとまず頭を上げてください!」

 

 その必死さゆえに頭を下げたままでいる俊作に、アズミは取り乱した声で頭を上げるように要求する。

 それに従って俊作が一度頭を上げてアズミを見ると、彼女はなんとも居心地が悪そうに手で顔を仰いでいた。火照った顔を冷ますような仕草だが、なぜ今? と俊作が疑問に思っていると、アズミはジト目で俊作を見て周囲を見るよう促した。

 見れば、ちらほらとこちらを見ている視線。そういえば、ここは人も多いサロンの一角だった。そのことを思い出した俊作は、自分のとった行動が悪目立ちするものであったことを自覚する。

 今度は頭を下げることを避けて「ごめん」と言った俊作に、アズミは「別にいいですよ」と溜め息をこぼした。思わず、申し訳なさが募る俊作であった。

 

「……ひょっとして、先輩が戦車道に興味を持った原因って、この大洗女子学園ですか?」

 

 先ほどの発言から、俊作が大洗女子学園に何かしらの思い入れがあることは察せられる。その事から想像してアズミが問えば、俊作はすぐに頷いてその疑問を肯定した。

 それを受けて、アズミは、はーと長い息を吐く。

 

「私たちがいくら話しても、興味を示してくれなかったあの先輩が……ですかぁ」

 

 若干責めるような色を持たせて俊作を見れば、俊作は「うっ」と短く呻いて首をすくめた。

 実際、去年は彼女や愛里寿に色々と聞きながらも、最後まで俊作は戦車道に触れることはなかった。

 だというのに、今はこれである。アズミが思わず責めたくなるのも、俊作がバツが悪く感じるのも、無理ない事であった。

 

「まぁ、先輩は学園艦の整備士ですものね。大洗で生活する中で交流して、他人事ではなくなったってところでしょう?」

 

 アズミは俊作の職業を考えて、大洗女子学園を助けたいと言ったその理由を推測する。

 俊作がかなりのお人好しで優しい性格であることは、大学生活の中で充分にアズミは理解していた。それゆえ、その言葉には確信の響きさえ籠っていたのである。

 

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

 

 しかし、俊作はそれをバッサリと否定する。

 そのことに、アズミは驚きを露わにした。まさか推測が間違っているとは思わなかったのだ。

 

「じゃあ、どういうわけです? まさか女子高生の色香に惑わされたとは言いませんよね?」

 

 思わず俊作は何と言っていいものか迷い、言葉に詰まる。

 それはある意味では、あながち正解から遠いとも言えない答えだったからだ。

 しかしながら、その「さもその通りです」と言わんばかりの反応はアズミに衝撃をもたらした。先程以上に、アズミの顔が驚き一色に染め上げられた。

 

「え、うそ、まさか先輩、本当に!?」

「ち、ちがう! その言い方は語弊があるぞ!」

「じゃあ、何なんですか!?」

 

 バシン、とテーブルを叩いて迫るアズミに、「なんで半ギレなんだ!?」と思いながらも、俊作はこちらが頼みごとをする側である以上は誤魔化すことなく伝えるべきだろうと考える。

 それが誠意というものだと思った俊作は、少しだけ迫る後輩から顔を逸らしつつ、ぶっきらぼうに口を開いた。

 

「……単に、僕の彼女が大洗にいるから。その子が悲しんでいるから、許せないだけだよ」

 

 そう告げられると、アズミの顔は鳩が豆鉄砲を食らったように、ぽかんとしたものになった。

 

「……え……彼女、ですか?」

「うん」

 

 なぜだか茫洋した様子で言うアズミに、俊作はすぐにその通りだと返す。

 しかし、それでもアズミの様子は回復しなかった。

 

「え、本当に? 嘘じゃないですよね?」

「僕に彼女がいるのが、そんなに変か?」

「い、いえそういうわけじゃないですけど……いえ、でも……そうですかぁ……」

 

 要領を得ない反応をしつつ、大きな溜め息が彼女の口から漏れる。そして、これ隊長に何て言おうかしら……という呟きも。

 一応俊作も釘を刺しておく。あくまでアズミ個人に話したことなので、あまり他言しないでほしいと。相手が高校生であることを考えれば、アズミとしても俊作の考えはわかるため、了解の意味で首肯する。

 ただ、その間もアズミはどこか戸惑っているような雰囲気を漂わせていた。

 

「……アズミ。それで、どうだろう。相談に乗ってくれないか?」

「……はぁ。わかりました。他ならない先輩の頼みですし、お力になります」

 

 そんな状態であるアズミであったが、真剣に頼んでくる俊作を見て、無碍にはできないと思ったのだろう。協力することを了承すれば、俊作の表情に明るさが灯った。

 

「ありがとう……! 助かるよ!」

「ただし、私は戦車道には明るいですが、それだけです。明確なアドバイスなんて、たぶんできませんよ?」

 

 しかし、一応はそう付け足しておく。あくまでアズミは戦車道の選手であり、それ以上でも以下でもない。何かしら特別な要素を持っているわけではなく、俊作よりも少しは戦車道やその内部事情に詳しいが、それだけだ。

 あまり期待されても応えることはできない。そのことは間違いないので、申し訳ないがあらかじめそう言っておかなければならなかった。

 しかし、それは俊作としても理解していたのだろう。すぐに構わないと頷いた。

 

「それでも、一人で頭を悩ませるより、何倍もマシだよ」

 

 俊作がそう言うと、アズミは諦めたようにわかりましたと返して居住まいを正す。

 そうしていよいよ今日の本題である話し合いが始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、相談兼話し合いが始まって小一時間。

 二人は現在、難しい顔をして口を閉ざしていた。

 

「――……色々話しましたけど、やっぱりいち学生と一般人には厳しいですね」

「そう、だな……」

 

 二人の顔は暗い。

 最初こそ、文科省ならばここに聞いてはどうか、戦車道連盟ではどうか、ああしよう、こうしよう、と案は出ていた。快調な滑り出しで俊作の相談は始まったといえるだろう。

 しかし、出てきた案について話していくにつれ、二人の顔は曇っていく。理由は簡単、どの案にも現実性がなかったからだ。

 

 文科省に乗り込んだところで相手にしてくれるはずもなく、しかるべき場所を通そうにも、一般人である俊作では素通りとはいかないだろう。つまり、時間が足りない。

 戦車道連盟であれば多少はと思わなくもないが、やはり一個人の感情的な理由で動いてくれるかといわれれば、甚だ疑問であった。それは文科省も同じことだ。

 結局のところ、個人で出来ることには限りがあるということだ。まして、何も彼らの興味を引くものを持っていない俊作であれば、尚のことである。

 

「政府、もしくは戦車道の上に伝手があれば話は別なんでしょうけど。けど、それにしたって政府の思惑に逆らった行動を、何の見返りもなく行ってくれるとは思えませんし……」

 

 アズミは重い息と共に、厳しい事実を吐き出す。俊作の気持ちは立派だと思う。大洗の子達もかわいそうだと思う。けれど、そう思ったところで、実際に事を成せるかと言われれば、とてもではないが展望がない。

 これは、そんなどうしようもなく現実的な話だった。

 

「………………」

「先輩……」

 

 黙って厳しい顔をする俊作を、アズミが気遣わしげに見る。

 その視線に気づいて、俊作は後輩に気を遣わせまいと、意図的に表情を崩して苦笑した。

 

「いや、もともとわかっていたことだから。無茶な話だってことは……」

「それは……」

 

 それは、アズミにもわかっていた。何とかなる、なんて言って行動に移せるほど、俊作は楽天家ではない。だから、事前に考えて彼の中でも結論は出ていたはずなのだ。

 とてもではないが、無理だ、と。

 しかし、それなら何故俊作は諦めなかったのか。わかっていても、誰かに相談して知恵を借りようと思ったのか。

 そのことを疑問に感じて、アズミは問う。

 

「どうして、わかっていても諦めないんですか?」と。

 

 それに対する返答は、力のない笑みと迷いのない言葉だった。

 

「それでも……何か力になってあげたかったんだ。あの子の力に……」

 

 あの子、というのは大洗にいるという恋人のことだろう。

 そのことが容易に察せられて、アズミはなんだか胸が痛んだ。その理由に思い当たって気持ちが沈む。しかし、それでも顔を俯かせてはならないと意地で顔を上げた。

 すると、目に飛び込んでくるのは、自然と自分の前に座っている男となる。言葉とは裏腹にどこか諦念を漂わせた俊作の姿だ。

 そんな姿を見たアズミの心は大いにイラついた。それこそ、怒りすら湧き上がるほどに。

 

 その気持ちを言葉にするならば、そう。「勝手に彼女なんて作ったくせに幸せそうにしていないなんて、ふざけるな」であった。

 

「……っああ、もう! あげたかった、なんて過去形にしてどうするんですか!」

「あ、アズミ?」

 

 内心に生まれた激しい感情のまま、いささか声を荒げて噛み付いたアズミに、俊作は目を白黒させる。

 しかし、そんな俊作の様子には構わず、とにかく言いたいことを言ってしまおうとアズミは言葉を続ける。

 

「先輩にとって、その子は大切な人なんでしょう!? だったら、諦めちゃ駄目じゃないですか! そんなに物分かりがいいのは、先輩の柄じゃないでしょう!」

 

 優しくて、思いやりがあって、相手の立場に立って考えることが出来る人。それでいて、友人や仲間のためなら歯を食いしばって頑張れる人。それがアズミにとっての俊作であった。

 大学生活でも、プライベートでも。友人として過ごす中で、そんな俊作の人となりを知っていったからこそ言える。今の俊作は、らしくないと。

 少なくとも、アズミたちが知る俊作なら友人のためとなれば、諦めたりはしないはずだった。それが大切な人ともなれば、尚更である。

 

「絶対に、何かある筈ですよ。先輩だからこそ出来ることが。だから、女の子より先に諦めちゃ駄目です。いつだって男の子に助けられるのを夢見るのが、女の子なんですからね」

 

 確かに俊作に出来ることは少ないだろう。もしかしたら、頑張ったところで大洗の子達を救うには足りないかもしれない。

 それでも、決してマイナスになることはないはずだった。自分だったら、俊作が自分のために何かしてくれたのなら、それだけで嬉しいだろう。そう思うからこその言葉だった。

 そしてその言葉は、俊作の顔を上げさせるには十分であった。

 

「……そう、だよな。本当にそうだ。……僕が先に諦めて、どうするんだ」

 

 みほはきっと、今も苦しみながらも諦めてはいないはずだ。きっと心のどこかに希望を持っているはずだった。

 だというのに、当人ではない自分がこんなことでどうするのか。アズミに言われ、俊作はそんな自分を省みた。ぐっと腹に力をこめて背筋を正す。

 

「ありがとう。もう少しで僕は、情けない男になるところだった」

「まったくですよ。いつだって、カッコよくいてください。あなたは、私の……先輩なんですから」

 

 微笑んで、しかし言葉の最後は微かに言い淀み、アズミはそう答えた。

 そんな後輩に、俊作もまた笑みを返す。

 

「そうだな。ちゃんと、後輩にとって恥ずかしくない先輩でいないとな」

「ええ。そうですよ」

「本当にいい後輩を持ったよ、僕は。ありがとう、アズミ」

 

 心からの感謝をこめた顔を向けられたアズミは、変わらず笑みを湛えたままだった。しかし、その笑顔はどこか寂しげであった。

 

 

 

 

「……はぁ。やっぱり私は、いい後輩どまりなのよね」

 

 それからも幾つか話し、改めて考えてみると言った俊作を見送って二人は別れた。

 ありがとうと感謝を素直に表す先輩の姿を脳裏に浮かべ、アズミの心に走った小さな痛みは、きっと彼女が彼のことを先輩後輩とは違った意味でも見ていたからだった。

 

「私はともかく、隊長にはショックが大きすぎるかぁ。……暫くこのことは言えないわね」

 

 なぜか殊のほか彼に懐いていた小さな己の上司を思い出して、アズミは溜め息をもう一つ。

 まったくもって、やれやれだった。久しぶりに会えると喜んで来てみれば、その内容は思い人の彼女を助けるための相談ときた。根気よく付き合った自分は褒められてもいいと思うアズミであった。

 しかし、誰かとくっついたのならちゃんと幸せになっていてもらいたいものだ。そうでなければ、こちらとしても綺麗に気持ちにケリをつけられない。諦め甲斐がないではないか、と。

 そう考えるからこそ、アズミは先ほど俊作に怒ったのだった。まぁ、あちらはこちらの気持ちを知らないのだから、そのあたりを慮れというのは無茶な話なのだが。

 

「まったくもう……頑張ってくださいね、先輩」

 

 そう俊作の後姿を思い浮かべてエールを送るアズミだったが……彼女は知らない。

 これから少し先、自身こそが大洗女子学園の前に立ちはだかる敵の一人となることを。

 その時、一人の戦車道選手として私情を挟むことなくチームの勝利を目指して奮闘したアズミだが……よりにもよって自分が乗り越えるべき壁となった現実に、少しばかり頭を抱えてしまったのは、まぁ仕方がないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてアズミと別れて帰路についた俊作は、彼女から言われたことについて思い返していた。

 

「僕にしか出来ないこと、か……」

 

 果たしてこの問題に対して、そんなことがあるのだろうか。俊作には、今回のことに関してあまりに力がない。だからこそ、俊作は悔しさに身を震わせていたのだから。

 けれど、アズミに改めて自分にしか出来ないことはないのかと問われて、俊作はもう一度頭を絞り始めた。

 もしかしたら、何かあるのかもしれない。まだ気づいていないだけで。自分にも何か、みほのために出来ることが……。

 

 そう考えていった時、ふと俊作の頭に思い付いたことがあった。

 それは、今日のことでもわかるように自分だけの力などたかが知れているということだった。

 

「だったら……」

 

 俊作は早足になって家路を急いだ。そして家に着くや否や、深呼吸をして居住まいを正す。

 そして俊作は、神妙な面持ちで目の前にある受話器を手に取るのだった。

 

 

 

 

 




みぽりんが出てこない……。
まぁ、みぽりんは今は力を溜めているだけだから(震え声)

今回は俊作のお話となりました。
アズミとの付き合いは、内容にもあるように講義を通してのものです。
ちなみに愛里寿や他の姉妹とも一応面識がある設定です。

そして、大学生活の中でなんやかんやあって、本編のような感じになったわけです。

ともあれ、悩む時間はとりあえず終わりました。
あとはどのように劇場版と絡めていくか……頑張っていきます。

早くみぽりん書きたい(本音)

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