あ、気が向いたらHなの上げるかも(予定
それは、魔を滅ぼすものなり撃、爆音=黒煙、灼熱×烈風。
「覇ァァァァァっ」
「
青銅の偃月刀と、オリハルコンの剣がぶつかり合い、火花を散らして弾けあう。
ぶつけ合った魔力が互いを削り、貪り、犯し、その攻防が世界を灼く閃光を生み、衝撃が空間を割き、摩擦した魔力が爆発を起こし、黒煙に呑まれる身体を互いの附与した熱に焼かれ風に切り刻まれる。
逸速く持ち直したのは覇道鋼造であった。その手には銀色に輝くリボルバーが握られている。ネロの魔銃には敵わないが、それでも使い込まれた年忌と刻まれた術式が強力な魔術武装――呪法兵装として完成させている。
「イア・イタクァ!!」
覇道鋼造はリボルバーの弾倉にある6発すべての弾丸を撃ち放つ。弾丸は真っ直ぐには飛ばず、ひとつひとつが意思を持っているかの様に物理法則を無視し、直角に曲がったり、斜めにジグザグに曲がりながら、向かってくる。
「この俺を相手に風の魔術を使ってくれるか。愚かしい!!」
知っているはずだ、識っているはずだ。知らぬとは言わせない。識らぬとは言わせないぞ!!
ディスカッターの一閃によって6発の弾丸は切り裂かれた。
元々俺は、風の魔術に高い適性を持つ魔術師だった。
それは無限螺旋の最中で洗礼され、尖鋭され、先進され、あの盲目の賢者に迫る風使いの魔術師である自負がある。
そんな俺にイタクァの風術など通用するはずがない。
術式を一目で看破し、解析し、軌道を算出、迎撃まで一拍もなく可能だ。
そんな俺でも手強く抵抗する盲目の賢者とハヅキのコンビはやっぱり頭おかしい。クトゥルフ神話本家の主人公の一人だけはある。
そんな盲目の賢者とも同等の魔術師ではある覇道鋼造であっても、風の領域で遅れを取るつもりはない。
「風とは、こういう物だ!!」
風を身に纏い、大地を蹴り抜き、空気の壁を突き抜けて魔法剣を振るう。
「ディスカッター、霞斬り!」
文字通り風となり眼にも止まらぬ
「っ、ニトクリスの鏡か!」
アンチクロスさえ欺き騙す現実と虚像の境界を曖昧とする魔術は、ほんの一瞬であろうとクロウリードを騙し仰せた。
「神獣形態!」
見れば空に浮かぶ覇道鋼造が、二挺のリボルバーをこちらに向け、その中央に魔方陣を何重にも展開していた。その魔方陣の中心、遥か彼方の宇宙、ヒアデス星団にあるフォマルハウト星に棲まう邪神の唸り聲が聴こえてくる。
「老骨に鞭を打って、中々楽しませてくれるっ」
魔法剣を地面に突き刺し、足下に魔方陣が展開する。
魔方陣を切っ先に展開したまま、魔法剣の柄を握り切っ先を覇道鋼造へ向けて振り上げれば、切っ先に展開する魔方陣もまた、覇道鋼造へ向けて広げられる。
中空に展開する魔方陣へ、引き抜いた魔法剣を引き絞りつつ突入する。
「我が宿敵の
魔方陣を突き抜けたクロウリードは、焔の鳥を身に纏い、覇道鋼造の居る空へと駆け羽撃く。
「イア、クトゥグア!!」
「アァァカシック・バスタァァァァァ!!」
覇道鋼造から撃ち放たれた灼熱の獅子がその超高温の牙を剥く。その咆吼を耳にした者は須らく焼き尽くされるのは必至の一撃。
それもプラズマ弾を撃ち出す様な生易しい物ではない。魔術という術式で身体を構成し、術者の魔力によってその力を振るうとはいえ、あれは神性の分霊である。
並大抵の術者では制御仕切れるものではなく、並大抵の術者ならば眼前にしただけで成す術なく身体や魂さえひとりでに発火してしまうだろう。
そんな炎の神性の分霊に真正面からぶつかっていくのは、錬金学の随意を結集した機神の放つ必殺技。相手の存在を運命から消し去る術式を熱素の鳥を共に纏い体当たりする。魔術と術理の奥義をぶつける技。
「おおおおおーーッ」
『GaAaaaaaaaaa――――!!!!』
雄叫びと共に、灼熱の獅子に激突したクロウリードは、その身に纏う焔ごと呑み込まれた。
逆巻き、渦巻き、塒を巻き、荒れ狂う炎の激流の最中でクロウリードはその身と魂を焦がしながらも突き進む勢いに衰えはなかった。
「っ、フフフ、ふははははははは」
炎の竜巻の中から少年の笑い声が漏れ出す。
「あっはははははははははははははははは!!!!」
術衣もクトゥグアの炎に必死に抵抗しているが、人の身で分霊とはいえ神性の力を防ぎ切れるわけもなく、服は焼け、髪をサイドに纏めていたゴム紐も焼け、髪の毛が炎の中に広がっていく。
身を灼き焦がす炎の中にあっても、鈴の音を転がす様な哄笑だけが響いてくる。
それは底冷えする微笑みでも、嘲笑う嘲笑でもなく。
その声に込められているのはただひとつの讚美。
そして炎は内側から膨張する様に広がっていき、膨れ上がった風船が破裂する様に、内側から炎の竜巻は喰い破られた。
『マスター!!』
クロハの切羽詰まった声が、クロウリードにだけは聞こえていた。
煤と焼け焦げて炭化した肌が剥がれ尾を引きながら墜ちていくクロウリード。
「…そ、うか……そういうこと、か…」
肺の中の空気までも焼き尽くされたクロウリードの言葉は、一体化しているクロハにしか聞こえることはなかった。
幾重にも保護術と治癒術の術式が、クロウリードの身体を包み、護り、癒し、その身をそっと地面に横たわらせた。
再生された肺に空気を取り込む時にむせるが、それでもクロウリードは笑う事を辞めなかった。
「…………………」
その様子を覇道鋼造は空から見下ろしながら、視線は哀しさを浮かべていた。
覇道鋼造は識る。クロウリードという黒き王、囚われた呪いの牢獄から解き放たれる時を待ち侘びて幾星霜。那由多の悠久を闘い続ける哀しき代役者の罪と運命、そして絶望を。
『追撃を推奨する。マスター』
「……ああ」
自身の生んだ魔導書の精の言葉に、覇道鋼造は半世紀越しの闘志に火をつける。
例え本人が望むものではないとしても、そうするしかないとしても、成された悪徳に世界のどれ程の人々が涙を流し、血を流したか。
「斬るのはお前ではない」
バルザイの偃月刀を鍛え上げる。八本のバルザイの偃月刀を鍛え、呪力を受けた青銅の魔刃はクロウリードへと殺到する。
「
次々と偃月刀が突き刺さるが、それらはすべて防禦陣によって阻まれていた。
自らの主に迫る脅刃を必死に防ぐその防禦陣を展開するのは、黒き王の傍らに在り続ける少女。ナコト写本の精霊。姿は見えずとも、今も主人の身体の中でその全身全霊を賭して攻撃を受け止めているのだろう。
長い永い、久く続く終わりのない闘い。その戦を支え続ける健気な少女と漆黒の少年の在り方は、かつての自身を――
同情はする。偶々居合わせてしまった不幸から始まった悪徳への路。或いは自身のように他の魔導書に助けられていれば、或いは此処に立っていたのは彼だったのかもしれない。
外道の知識を行使しながらも、魔術の邪悪に染まらぬその尊い魂の在り方は、邪悪を憎悪し、理不尽を認められず、その魂は刃金となりて闇を――『魔』を断つ己達の側の『人間』足り得たはずだ。
だが、それも詮無いことだ。自分にも守らなければならない物が沢山ある。
愛する家族。安穏とする日常を。最も信頼できる相棒は傍らには居ない。しかしそれでも守ると誓った世界の為に、覇道鋼造は必滅の術式を宿した剣を手に、漆黒の少年の素っ首にその断頭の刃を降り下ろしにかかる。
「残念だけど、お前には無理だ――
「ぐううっ」
『っっ!!』
背筋を駆け巡る悪寒を感じた時、身体が衝撃に吹き飛ばされていた。
体勢を立て直し、未だ横たわる漆黒の少年を見下ろす。
夕暮れの真紅の陽射しの中、血の様に紅く、逢魔ヶ刻を告げる太陽に照らされながらも、影を作るその
「――
少年の躰から発せられた雷の閃光が結界に突き刺さるバルザイの偃月刀を撃ち抜く。
いとも容易く爆裂四散する偃月刀。
爆発は偃月刀を制御する魔術回路を伝播し、次の偃月刀に連鎖。
爆裂し爆裂し爆裂し爆裂し爆裂し爆裂し爆裂し爆裂し爆裂して、咄嗟に手離した覇道鋼造の握っていた偃月刀も含めて全ての魔刃が破壊される。
治癒が済んだのか。ユラリと立ち上がる漆黒の少年は身体をふらつかせながらも覇道鋼造を見上げ、その燃える眼光をぶつけてくる。
「門を越え、黒き王に喰いつき、激闘の果てにしかし
『機神召喚!!』
パラパラと少年の躰から紙が溢れ出てくる。魔術師ならば見抜けるその紙の正体は魔導書の頁だ。
円環を作り、二重螺旋を描き、魔方陣を敷かれた上に立つ少年と、寄り添う漆黒の少女が謳い上げた。
「我は黒き王。我は悪徳を敷く者なり」
「我は黒き鳥。我は黒き天使なり」
世界へと響く声は心地よく、そしてその存在を誇示する様に力強かった。
「罪深き黒き風よ。因果地平を吹き荒れろ」
「罪深き黒き天使よ。共にこの永劫を駆け抜けよう」
その言葉はとても悲しみに満ち溢れた。界を呪う呪怨だった。
「虚空の空より来たれ、我が半身!」
「永劫の刹那を冒せ、我が翼!」
黒い風が魔方陣から吹き荒れ、その姿を顕そうと機械の手が魔方陣の中から現れ、這い出る様に魔方陣の縁を掴んでいた。
『絶望の空に舞い降りよ――シュロウガ!』
二つの声が重なり、その名を詠んだ時。黒い旋風と共にその機神は翡翠の光を背中の翼から放ちながら姿を顕した。
黒く細い四肢。肩や頭には金色の装飾が施さ れ、背中には一対の翼。身体に走る紅い線はまるで血管の様だった。
黒き王、世界に仇成す大敵、漆黒の獣、クロウリードとその魔導書ナコト写本の精霊クロハが召喚する罪に塗れた邪悪な翼シュロウガ。
三位一体の黒き風がその威容を顕した。
その罪で世界を冒し、その宿命で世界を呪い、その絶望で世界を破壊する漆黒の
「我は……渇いたり」
「我は……飢えたり」
少年と少女の声が世界に響き渡り、シュロウガから放たれた漆黒の瘴気が周囲の木々や大地を粉砕し、その真紅の魔術回路を発光させる。まるで血液が廻る様に、術者という命と魔導書という頭脳を得て、鋼鉄の躰は今か今かとその闘争に向けて力を滾らせていた。
その紅く輝く双眼と、額の水晶の放つ光が、
冥い闇を瘴気と共に撒き散らし、沈み行く太陽の光を隠し、黒夜を呼び込む。
その暗闇の中で翠色の翼を広げ、黒夜を照らす天使はされど天の御使いなどという生易しいものではない。
「シュロウガ……ッ」
最高位の魔導書が召喚できるまさに神に等しい力を持った鋼鉄の巨人。
シュロウガは鬼械神としては小柄な方ではあるが、そのパワーもスピードも一線を画す性能を持ち、この世でその猛威に対抗できる鬼械神はほぼ存在していないだろう。
かつて覇道鋼造はこの鬼械神に幾度も挑み、喰らいつき、殺意と闘志と憎悪をぶつけ合ったが。
終に勝つことは叶わなかった。
暗黒の破壊者。漆黒の堕天使。黒き獄鳥。
度々世界の裏の歴史に現れては、その力ですべてを蹂躙する絶対者を前にして――覇道鋼造のその刃金の意志を携えた眸に揺らぎはなかった。
「
《イエス、マスター。
覇道鋼造は唱えた。かつて幾度も唱えた破邪の誓い。邪悪を討ち祓う聖なる祝詞。人々の為にその権威を振るう刃金の機神を呼び寄せる呪文を。
「憎悪の空より来たりて、正しき怒りを胸に、
書を通じ、無線電信となった覇道鋼造の召喚呪文は、覇道邸の地下で幾度もなく破邪の機神を送り出してきた召喚装置を活性化させ、その機能を起動させる。
そして、破邪の機神の心臓に火を灯す。
「汝、無垢なる刃――デモンベイン!」
そしてそれは顕れた。
デモンベイン、魔を断つ剣、外なる神の天敵、神殺しの刃――。
しかしその形状はクロウリードが記憶するどのデモンベインとも異なる姿だった。特徴的なビームの鬣を発する角はなく、左腕も本来の太い鋼鉄の右腕の半分程度の細さしかない。両足の特徴的な巨大な盾も、その名残のある小さなパーツが両腰にあるだけ。そしてその顔は鋼鉄の
だがそんな、クロウリードの記憶にない機神であろうと、その機械の眸は正しく邪悪に対する憎悪を滾らせ、シュロウガを射貫いていた。
「く、ククク、くはっ、ははははははは――」
その眼光に貫かれ、クロウリードは、漆黒の少年は、黒き獣は、黒夜の魔王は全身の血液が、神経が、魂が燃焼した。
なんだこれは。なんなんだこれは。こんなのは
「あはははははははははははははははは!!」
それは歓喜と讚美に満ち溢れた哄笑だった。
人の執念、此処に見たり。
「だから人間は素晴らしい!! 人間賛歌を歌わせてくれよ、声が涸れ果てる程に!」
その魔を断つ剣は、今最も新しき剣であることをクロウリードは感じ取った。
デモンベイン――それは魔を断つ剣、機械神の名を指すものではない。
魔を断つ意志、それこそが魔を断つ者の、デモンベインという存在の総称なのだ。
姿も形も時間も時空も次元も関係無い。魔を断つ意志を持つのならば、邪悪に対する憎悪を持つのならば、理不尽に泣く無垢なる怒りを持つのならば――。
それ皆等しく、
to be continued…