黒き悪徳を為す王として   作:望夢

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Gジェネやら艦これやらで時間が取れん。そして長くなりそうだから中途半端ながら区切ったよ。


とあるフォトジャーナリスト・リポート 中章2

 

「はぁ……どうしよう」

 

 昨日、私は確かに命の危機よりも自身の探求心に従った。

 

 私だけなら、今頃爪に引き裂かれて、牙に喰いちぎられていただろう。

 

 でもそんな死の脅威から守ってくれる人が居たから、私は動じずにカメラのシャッターを切れた。

 

 思い出しても恐怖が込み上げてきて脚が震える瞬間を納めた写真。でも編集長のお気に召さず、やっぱりデモンベインじゃないとだめらしい。

 

 どこからともなく現れる鋼鉄の巨人。だれもその正体を知らない。謎に包まれた正義の味方。

 

「怪しいのは……」

 

 覇道財閥。この街に本拠を置く世界的にも有名な大財閥。

 

 聴き込みの中でわかってきたのは、デモンベインは常勝の巨人じゃないことだった。

 

 治安警察でも歯が立たないブラックロッジの破壊ロボを倒せる巨人。

 

 でもデモンベインは負けた事がある。その時に駆け回っていたのが覇道財閥。まるでデモンベインの存在を庇護するかの様に。箝口令も敷かれていた。つまりはその事実を秘匿したかった。

 

 覇道財閥はデモンベインと何らかの関係があるのは明らかで。それでも決定的な証拠がない。

 

「その様子だと、振るわなかったらしいね」

 

「あなた……」

 

 会社から出ると、バイクに背を預けている彼が居た。

 

 まだ子供なのにバイクに背を預けている姿は、子供が親を待って待ち惚けている姿にも見える。

 

 特に約束した覚えもないのに待っていたのだろうか。 

 

「どうして」

 

「どうしてと言われると、特に何でもない。ただの暇潰しに近いかな?」

 

 暇潰しと言われたら、私にはなにも言い返せない。たぶん彼が善意で私の前に現れてくれているなら、素直に厚意に甘えるのが正しいのだろう。デモンベインの調査はともかく、またあんな目にあった時に自分の力だけじゃどうにもならないのはわかっているから。

 

「そういえばまだ自己紹介してなかったわね。私はリリィ・ブリッジ。よろしくね」

 

 名前を名乗りながら手を差し出す。何度か助けて貰ったのに名前を名乗っていなかったのは大人としてはダメよね。

 

「よろしく。俺はクロウリード」

 

 そう名乗って私の手と握手を交わしてくれるクロウリード。

 

 クロウリードど聞いて思い出したのは、昨日出逢った食いしん坊探偵。……デモンベインの事を何か隠していた様だったけれど聞き出せなかった。それだけの情報に関して20$程の出費は少し痛すぎた。

 

「どうかしたの?」

 

「うえ? い、いや、なんでもないわ」

 

 手を握ったままコテンと首を傾げるクロウリードは、普通に可愛らしい子供だった。

 

 夕陽を背に、あんな悪魔だか魔王の様に言葉を紡いでいた様子とは全く別人だった。

 

「と、とりあえず、向かって欲しいというか。案内して欲しいところがあるんだけど」

 

「あ、それはお安いご用さ。この街なら庭みたいなものだから」

 

 サイドカーの座席からヘルメットを取り出して手渡して来たクロウリードからそれを受け取って被りつつ、座席に座る。

 

「それで場所は? 何処に行きたい?」

 

「そうね。先ずは――」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 リリィ・ブリッジ。フリーのフォトジャーナリスト。

 

 この街、アーカムシティでデモンベインと出逢い、その正体を追うことになる女性。

 

 俺が知るのはそれくらいの事だ。だが、デモンベインの事を知りたいというその情熱は俺好みの輝きを感じ取れるには充分合格ラインだった。

 

 双子の卑猥なるもの。ロイガーとツァールを前にしても臆さなかった度胸も素晴らしい。

 

 今まで関わりは持たなかった。いや、偶々偶然今回、彼女の縁が大十字 九郎ではなく、俺と絡み合っただけだった。

 

 それが思わぬ掘り出し物だったのは重畳。故に俺は彼女と行動を共にする路を選択する。そのジャーナリスト魂が、俺に魅せてくれる輝きを期待しながら。

 

「やっぱりダメねぇ。みんな喋ってくれるのは当たり障りのないことだらけ。噂とかそんなのと同じ」

 

 少し遅めの昼食で蒸しパンをかじりながらリリィがぶうたれていた。それも仕方がない。箝口令が敷かれたとはいっても、誰もデモンベインの本質など知らないのだから。

 

 虚数展開カタパルトで召喚されるデモンベイン。引き上げる時は避難が終了して人払いされた区画のリフトで回収されている。その様子は治安警察だって知らない。

 

 それどころかアンダーグラウンドに生きる情報屋だって多分知らない。なにしろ彼らだって命が惜しい。だから覇道財閥の避難勧告には従うからだ。

 

 これが幹也くんならそれでも真実に辿り着けるのだろう。彼はその手の天才――を通り越した稀代の才を持つ人間だからなぁ。

 

 流し目でチラリと此方を見てくるリリィ。それもそうだ。なにしろ隣にデモンベインの事を知っていると豪語した人間が居るのだ。聞き出したくて仕方がないはず。でもそれをしないのは俺が喋る気がないのを察しているからだ。

 

 序盤から攻略本とネタバレを用意されたRPGなんてつまらないでしょ?

 

「次は何処に向かう?」

 

「そうねぇ……」

 

 地図を広げてにらめっこするリリィ。地図にはデモンベインが戦った場所が記されている。つい先日の戦場以外はほぼ復興は終わっている為、今更調べようと物的証拠が出てくるはずもなし。それでも聞き込みはしているものの核心に迫る物はなにもなし。それでもまだ彼女の探求心は小揺るぎもしていないが。

 

「やっぱり、昨日の場所に行ってみるしかなさそうね」

 

 そう言う彼女の声はあまり気の進みのしないものだった。それも無理はない。普通の感性の人間なら、恐い思いをした場所に進んで行きたがるわけもない。

 

「まぁ、アレが出てきてもまた逃げればよし。虎穴に入らずんば虎児を得ずだよ」

 

 ロイガーとツァール程度、正面から挑めば敵じゃない。ないのだけれど、今はリリィが主人公であり、自分はそのお着きの助手だ。物理的な脅威程度の露払いはするが、真実に辿り着くのは彼女の努力に任せるつもりだ。

 

「そうね。……その時はまた、世話になるわ」

 

 とは言いつつ、本人はあまり気乗りしていなかった。何やら負い目を感じているという表情だった。

 

 まぁ、見てくれは年下の子供に身の安全を任せるしかない大人の良心の叱咤だろう。そういう一般常識的に負い目を感じている点も実に人間らしい。

 

 これで守られるのは当たり前だとかと思う恩知らずな高慢ちきな人間だったら、そもそも俺が力を貸したりはしないが。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「さ、着いたよ」

 

 そう言いながら彼がバイクを停めたのは、先日デモンベインが戦って、今は封鎖されている区画だった。

 

 瓦礫の山はそこで激しい戦闘があった事を物語っていた。

 

 今日一日の最後の締め括りとしてやって来た封鎖区画は、朱の夕陽に染め上げられ、不気味な影を落としている。ふと、隣の彼を見てみれば、特になにもなく自然体で佇んでいた。拳銃の弾倉を引き抜いて、別の弾倉に入れ換えているのに違和感を持たないのは、その銃が彼の雰囲気に馴染むほどに使い込まれているからだろうか。

 

 バイクのサイドカーから一振りの棒――初めて会った夜に振るった剣を取り出して腰に挿す姿は堂に入っている。

 

 いったい、彼ほどの子供が何をしたらそんな凶器を身に付けている事が普通だなんて思える雰囲気を持てるのだろうか。

 

 怪しくて、妖しくて、謎ばかりのクロウリード。

 

 なのにどうしてか信じられた。信じても良いと思える。本当に魔王だとか悪魔であっても、他人を気遣える優しさは嘘偽りない彼の気持ちだと思うから。

 

「なにか手掛かりになる様なものでも見つけられれば」

 

 他の戦闘があった区画はもう復興が済んでしまっている。なにかあるとしたら未だ手付かずのここしかない。

 

 昨日の出来事が頭を過る。眼前にまで迫った大きく開かれた口。そこに並ぶギラギラとした牙。その光景のフラッシュバックに、一瞬身体が戦いて震える。

 

「……っ」

 

 そんな私の肩を、彼が叩いてくる。

 

「その感情は正しい。怖いものを恐いと思えている内はまだ、常識が残っている証拠だよ」

 

 思わせ振りな言葉を紡ぐ彼。そんな彼には微塵の恐怖も見当たらない。まるで慣れ親しんでいるかの様に普通だった。

 

「その心を持ったまま、前に進め。怖さを知るからこそ、その恐怖に立ち向かえる。それが人間(ヒト)の強さだ」

 

 胸を張って讃える様に、私に向かって言葉を紡ぐ彼。その瞳は、なにかを期待している色が見える。

 

 どうして彼は、私を助けてくれるのだろう。ただの写真を撮るジャーナリストの私を。

 

 暇潰しで一歩間違えたら死んでしまうかもしれない事柄に首を突っ込めるのだろうか?

 

「さぁ、お宝探しでもしましょうか?」

 

「お宝って……」

 

 無邪気な子供の様に振る舞う彼に苦笑い。デモンベインに関する手掛かりがお宝なのかしら?

 

 うーん、確かに私からすれば喉から手が出る程に欲しい物だけど。お宝……なのかしら。

 

 立ち入り禁止の看板と、鉄線を越えて、瓦礫の街並みに脚を踏み入れた。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「ったく、アルのやつどこ行きやがったんだ?」

 

 それはいつも通りにアルの断片探しに街をふらついていた時だった。

 

『妾の断片の気配がする。行くぞ九郎!』

 

 なぁんて言いながらマスター置いてけぼりで行っちまいやがった高慢ちきな古本娘もとい相棒のアル・アジフ。

 

 まぁ、この間のインスマウスからこっち、互いに微妙に気まずさがあって距離を測りかねているからだろう。

 

 ……もとはといえば、俺の不注意だしなぁ。

 

 毒にやられて危うくアイツを……。

 

「やめだやめだ。過ぎた事を気にしてもしゃぁない」

 

 頭の中に思い出した光景を振り払う。俺はロリコンじゃねぇ。至ってノーマルだ。てかそんな光景になったらライカさんにあらぬ誤解を植えつけて少なくともアリスンから遠ざけられるのが目に浮かぶ。

 

 ……ホント、どうしちまったんだろうなぁ。俺。

 

「ダウジングに反応なし。ホントにあるのか? ここに」

 

 人指し指から垂らした振り子のダウジングはまったく反応しない。覇道の爺さんから魔術に関して色々と習っていく内に、一応は初歩的な魔術はアル()の助けなしでも行使出来る様にはなった。まぁ、探偵家業のなかでもダウジングは拙いなりにやっていたからというのもあるかもしれないがな。

 

 振り子に注意を向けながら歩く九郎の居る場所は、先日破壊ロボを倒した区画だ。戦闘の影響でまるで戦場跡の廃墟になってしまった。復興まで封鎖されるこの区画の中に、アル・アジフが自らの断片の気配を感じたと言い調査に乗り出して二日。今までの断片は事件を起こしていたのにも関わらず、今回はかなり大人しい。いや、それが一番なのだと九郎は思った。確かに目印にはなるが、その所為で誰かの日常が壊されてしまうと思うと、九郎は胸がキリキリと痛む思いだった。

 

 誰にだって、日常を壊されて良い理屈なんてありはしない。邪悪が世界を侵して良い理屈なんてありはしない。

 

 ただ、戦いの度に壊れた街を目にすると思い出してしまう。自分を嘲笑うあの笑い声。

 

 夕陽の中に佇むあの漆黒の化生の姿を。

 

 そう、今もまた、沈み行く夕陽を背に笑っている目の前の紅い瞳の少年を。

 

 

 

 

to be continued…

 


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