やっぱり球磨川禊の青春ラブコメはちがっている。   作:灯篭

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今これを書いている現在午前3時55分。
深夜テンションで書ききりました。

止め時を見失いまして......


俺ガイル一巻やっと読み切りました。
執筆に合わせてなんども読み返していたので買ってから結構遅くなってしまいました。

あとがきで作者さんが青春を友達と過ごしていたと知ってもう僕は何も信じられません。


つまり世の中は才能が全て。

「『で、僕の正体だっけ?』」

 

 

 夕暮れの奉仕部室。

 僕たちは互いにいつも使っている椅子を向き合わせて座っていた。

 

 

 雪乃ちゃんは手を膝に置いてピシッと座っている。まるで面接を受けているかのようだ。

 一方僕もそんなに砕けた座り方をしているわけじゃない。背もたれに体重をかけてはいるが、きちんと座っている。

 

 

「『まずなんでそれについて知りたいと思ったのか聞かせてよ。まさか会う人会う人に『貴様、何者だ!?』って質問してるわけじゃないでしょ?』」

 

 

 よく体育でペアになる恰幅のいい男子じゃあるまいし。

 

 

「えぇ、もちろん。相手の正体なんて馬鹿げた質問をしたのは、存在自体が馬鹿げているあなたが初めてよ」

 

 

 僕も嫌われたものだ。

 あ、いつも通りか。

 

 

「言うまでもないわ。あなたが奉仕部に入部して三日目。由比ヶ浜さんが初めてこの部室に訪れた時の『ありえないこと』が理由よ」

 

 

「『ありえないこと?』」

 

 

「……あなたが窓から、飛び降りたでしょう」

 

 

「『はてさて、記憶にないね。校舎の3階から飛び降りなんてしたら、死なないまでも全治1、2ヶ月の大怪我をしているはずだろう? でも僕はこの通りピンピンしてるぜ。夢の話を引っ張り出されても困っちゃうな』」

 

 

「あまり私を舐めないでもらいたいものね。確かに私はリアリストよ。幽霊なんて非科学的なものは信じてない。私はこの目で見たものしか信じない。だから、この目で見たものは何があろうと信じるのよ」

 

 

 ふぅん、さすがだな、雪乃ちゃんは。

 

 

 現実主義者というのは、自分の中にある現実しか信じない者と、自分の前にある現実しか信じない者の2種類がいる。

 世の中のたいていの現実主義者は前者だ。理想論者と同じくらいタチが悪い。ま、例を挙げるとするなら、ガリレオ・ガリレイの地動説を頑なに信じようとしなかった当時の法王とかだろう。

 しかし後者は、見間違いなどによって左右される不安定さがありながらも、自分の許容量を大幅に超える現実に直面しても、柔軟に思考することができる。

 簡単そうに言っているが、これは結構難しい。わかりやすく説明するなら、結衣ちゃんを思い出してほしい。『自分が見た、窓から飛び降りた球磨川禊』と『自分が見た、教室で五体満足に過ごしてる球磨川禊』。これらを結びつけるために、本来ありえない『窓から飛び降りた現実』を自分の中で『夢だった』と処理し、なかったことにした。

 これが普通だ。別に恥ずべきことじゃない。

 さっき僕は雪乃ちゃんをさすがだと言ったが、より直接的に言うなら『雪乃ちゃんは頭がおかしい』。これが正解だ。

 

 

 だけど、僕から情報を引きずり出そうっていうなら頭がおかしくなくちゃ始まらない。

 

 

「『仮に飛び降りたのが真実だったとしても、茂みがクッションになったのかもしれないぜ? それなら無傷で済む可能性もあるだろう?』」

 

 

「本気で言ってるのかしら? 私は飛び降りて血だまりの中に倒れていた球磨川君をはっきりと見た。そして、その後この部室に入ってきた、制服に汚れなんて1つもない球磨川君も見たのよ。さらに球磨川君が転落した特別棟の裏も調べたわ。そこには血痕なんてなかったし、掃除された形跡もない。学校を休んでいる間に通販で買ったルミノール試薬を使った検査も行ったわ。結果は反応なし。まるで球磨川君が窓から飛び降りたという事実そのものがなかったことになったかのようね」

 

 

 マジかよ。この子ちょっとガチすぎない?

 特別棟裏を見てみるのはわかるが、ルミノールなんて一般市民が買えるものなの?

 

 

「今の時代、ネット通販で買えない物はないのよ?」

 

 

 雪乃ちゃんが勝ち誇ったような冷笑を浮かべる。

 

 

 心読まれたー!

 怖えー! 雪乃ちゃんも今の時代も怖えー!!

 

 

 っと、キャラ崩れた。

 

 

「『……ふぅ、分かったよ。認めよう。確かに僕には君たちが知らない設定がある。君たちの常識を覆すような設定がね』」

 

 

 雪乃ちゃんは一仕事終えた、みたいな顔をする。

 

 

「『が』」

 

 

 甘いなー、雪乃ちゃんは。

 推理小説じゃないんだから、論破された程度で降参なんかするかよ。

 

 

「『君には教えない。教えるつもりもない。教える義理だってない。教える義務さえもない』」

 

 

 論破されるなんて日常茶飯事、そんな程度では負けは認められない。

 

 

 僕の名前は球磨川禊。

 負け戦なら百戦錬磨だ。

 

 

「『だって別にそれで僕が故意に君に迷惑をかけたわけじゃないから。僕は悪くないから。君が勝手にショックを受けただけだから。僕は悪くないから。君が悪いから』」

 

 

 こんなのは子供のいいわけだ。普通なら取り合う必要はない。

 

 

 だがこの状況に限ってはそうはいかない。

 

 

 雪乃ちゃんが今しようとしていることは『僕がやったことが論理的にありえないことだと証明し、そのタネを聞き出すこと』だ。

 つまり、僕に自主的にタネについて話させなければいけない。

 

 

 しかし、子供のいいわけに大人の論理は通用しない。

 したがって、論理で僕を説得しようとしている雪乃ちゃんはこれ以上僕から何も聞き出すことはできない。

 

 

 僕の勝ちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とでも思っているのかしらね」

 

 

 僕が心の中で高笑いをしていると、雪乃ちゃんがぼそっと呟いた。

 

 

 ちょっと待て、今なんて言った……?

 

 

「認めるわ、球磨川君。確かにあなたは異常で、特異で、私程度が理解できるような人間ではないのでしょう。あなたは私にはおよびもつかないほどに最低だわ。でもね、球磨川君」

 

 

 雪乃ちゃんは席を立ち、僕を見下すように見下ろす。

 

 

「私があなたよりも『優秀』である。これはどんなことがあろうと覆らない事実なのよ」

 

 

 意味が分からない。

 

 

 何を言っているんだ彼女は。

 

 

 そんなことは当然じゃないか。

 

 

 だからこそ、僕には勝てないはずだ。

 

 

「論点をすり替えようとしても無駄よ。それとも本当にそっちが『私が聞きだしたいこと』だとでも思ったのかしら。だとしたら滑稽ね。今まで何度も私の心を折り、螺子伏せてきたあなたが、私の手のひらで踊っていたことになるんだもの」

 

 

 僕は得意げにつらつらと語る雪乃ちゃんを直視できなかった。

 この感覚は知っている。覚えている。身に沁みついている。

 

 

 僕がこれまでの人生でずっと抱き続けていた感覚。

 

 

 

 

 

 

圧倒的な敗北感

 

 

 

 

 

「私が知りたいのは『あなたが何者であるか』。そこにあなたの生還トリックが含まれていないわけではない。だけど、その中核と言うわけでもないのよ」

 

 

 雪乃ちゃんはまた僕の正面の椅子に座る。

 しかし、状況は彼女が立ち上がる直前とはまるで違った。

 

 

 逆転された。

 

 

「私が真に知りたいこと。それはあなたの精神性よ」

 

 

「『精神性だって……?』」

 

 

「そう。校舎の3階から飛び降りる。これをあなたは何の躊躇いもなく、何の葛藤もなく、まるで自分の部屋に入るかのような気軽さでやってのけた。異常としか言えないわ。どんなに安全なトリックがあったとしても、それが失敗する可能性というのは否定できない。命がけの脱出ショーを行うプロのマジシャンだって、もし失敗したらという恐怖を抑えてマジックを行っているのでしょう。そんなあなたが、飛び降りたにも関わらず無傷であったこと以上に『ありえない』のよ」

 

 

 そう、彼女ははっきりと、僕を見据えていった。

 

 

「もう一度聞くわ。球磨川君、あなたは一体何者なの?」

 

 

 ……ふぅ、ここまで、か。

 

 

「『また勝てなかった』」

 

 

「え?」

 

 

「『いや、こっちの話。わかった、降参だ。僕の負けを認めよう。あーあ、なんで僕はこう勝てないんだろうなぁ』」

 

 

 本当、心底悔しい。

 

 

 こんなに悔しいのはめだかちゃんに負けて箱舟中学を追い出された時以来かもしれない。

 

 

「じゃあ、あなたの正体を教えてくれるわね?」

 

 

 その問いに僕はニヤリと笑う。

 

 

「『ふっ、たかが一回勝ったくらいで調子に乗っちゃ駄目だぜ。僕程度の雑魚を倒した程度で欲しい情報が手に入るほど世の中はイージーモードじゃないんだよ?』」

 

 

 あ、今雪乃ちゃん拳を出そうとしたな。

 早めに切り上げて変えるのが得策かもしれない。

 

 

「『まぁでも、勝者には何かご褒美があってしかるべきだね。ということで、僕の正体についてのヒントをあげよう』」

 

 

 ヒント、と聞いて雪乃ちゃんの目つきが変わる。

 ひゅーっ、目ざといねぇ。

 

 

「『世の中の人間を才能で分類すると、4種類に分けられるのを知っているかい?』」

 

 

「4種類?」

 

 

「『そう。まず普通であることの普通(ノーマル)。結衣ちゃんみたいな世の中にいる大抵の人はこれに分類される。言っちゃ悪いが、何の才能もない凡人だ』」

 

 

 雪乃ちゃんが険しい表情になる。

 大方、昔自分をいじめていた同級生を思い出したのだろう。

 

 

「『次に、特別であることの特別(スペシャル)。これは雪乃ちゃんみたいな人のことだね。世間一般で言う『天才』ってやつだ。この高校にも数人くらいはいるんじゃないかな。知らないけど』」

 

 

 雪乃ちゃんは引き続き怖い顔。

 あ、これトラウマを思い出したんじゃない。才能の話が気に食わないだけだな。

 

 

「『次からは滅多にいないね。異常であることの異常(アブノーマル)。もはや天才と言う枠にすら収まらない例外。もちろんこの高校にはいないと思うよ』」

 

 

「あなたを除いて、かしら?」

 

 

「『残念ながら僕は異常(アブノーマル)じゃないんだ。4つ目の分類に当てはまる。その名も過負荷(マイナス)』」

 

 

過負荷(マイナス)……」

 

 

「『異常(アブノーマル)が並外れた利点を持つ者というなら、過負荷(マイナス)はその逆。並外れた欠点を持つ者たちのことだ。これは他の3つとは違って先天的な才能ではなく、後天的な環境の影響だと考えられているね。そのせいで歪んだ性格と特性を持つと言われている』」

 

 

 我ながら他人事のように話すなぁ……。

 

 

「あなたがそんな気持ちの悪い性格なのは、育った環境が悪かったというの?」

 

 

「『さあ。覚えてないや』」

 

 

 これは本当。

 物心ついてから今まで、特に変わったとか思うことはない。

 

 

「『僕の正体についてのヒントはここまでだ。かなりの大ヒントだったと思うから、あとは自分で調べてくれたまえよ』」

 

 

 そう言って、僕はカバンを持って立ち上がる。

 今日はふて寝をしよう。

 

 

「『あ、そうそう。優秀な雪乃ちゃんに劣悪な僕から、ご褒美とはまた別に一つ忠告しといてあげるぜ』」

 

 

「あなた割と根に持つ方なのね……」

 

 

 そりゃもちろん。

 事実をあんなに豪快に叩きつけられちゃ不機嫌にもなる。

 

 

「『世の中には知らなくていいことと、知らない方がいいことの2種類しかないんだよ』」

 

 

「あなたの正体が、その知らない方がいいことだとでも言うの?」

 

 

「『さて、それは知ってみてからのお楽しみさ』」

 

 

 そんな感じで、僕と雪乃ちゃんの初めての勝負は、大方の予想通り、僕の大金星とはならず、天才、雪ノ下雪乃が順当に勝利を収めた。

 

 

 




ということで、球磨川禊v.s.雪ノ下雪乃はどうでしたでしょうか。

深夜テンションで書ききったものなので、起きてからこれを読んで『うわああああ』とならなければいいのですが......

タイピングもミスが多くなってきたので寝ます。

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