やっぱり球磨川禊の青春ラブコメはちがっている。   作:灯篭

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連日投稿しましたが、別に毎日連載とかじゃありませんから!
ただ暇だっただけですから!(必死)


感想ありがとうございます。
大嘘憑きなどのスキルは悩んだのですが、やはりあれがあってこその球磨川先輩だと思うのでスキルホルダーということにしました。

大嘘憑きは持っているが却本作りは持っていない、箱庭学園に転入してきたころと思っていただければ結構です。


しかし雪ノ下雪乃は怯まない。

 僕が平塚先生に連れられ、てくてくと向かった先は特別棟だった。特別棟には週に何度かある移動教室の授業で訪れているだけなので、僕にはあまり馴染みがない。入学したての頃に一度、はだしのゲンを読もうと特別棟にある図書館に向かったことがあるが、場所がわからなくて諦めた。そのあと帰り道がわからなくなり、午後の授業に遅刻して大恥をかいたのを覚えている。それ以来、私用で特別棟に行くことはなかった。今では、僕の読書といえば週刊少年ジャンプとなっている。

 

 

「ここだ」

 

 

 先導していた平塚先生が立ち止まり、僕に一声かける。先生が立ち止まった先にあるのはただの教室だった。何の教室かと、かけられているプレートを見たが、何も書かれていない。これはもしや、僕の妄想が珍しく当たったのかな。扉を開けたら屈強な男子生徒や男性教員が半裸で待ち構えていて、僕が部屋に入った瞬間に襲われるのだろうか。正直、冗談ではない。僕の予想が当たるなんて珍しいし有り難いけど、決してありがたくはない。

 

 

「入るぞ」

 

 

 僕がここからどうやって逃げたものかと思案していると、平塚先生は教室の扉をからりと開けて中に入っていった。仕方がない、腹をくくろう。結局どうやったところで平塚先生から逃げ切る自信がなかったので、僕は意を決して平塚先生の後に続いた。まぁ、僕の予想が当たるなんて、ありえないだろ。

 

 

 教室の中は、なんというか殺風景だった。特別棟にあるくらいだから、一つくらいは何か特別なものがあるかと思っていたのだが。いわゆる使われていない空き教室、といったところか。その教室にいたのは、見覚えのある美少女だった。その美少女は窓から容赦なく入ってくる西日を背に、読書をしていた。読んでいる本の大きさから言って、週刊少年ジャンプではないことは間違いなさそうだ。

 

 

「平塚先生。入るときにはノックを、とお願いしていたはずですが」

 

 

 彼女は読んでいた本にしおりを挟み、心底迷惑そうに顔をあげた。

 

 

「ノックをしても君は返事をしたためしがないじゃないか」

 

 

「返事をする間もなく、先生が入ってくるんですよ。それで、そのヘラヘラした気持ちの悪い人は?」

 

 

 初対面で気持ち悪いって言われた。

しかし、そのくらいで傷つくような僕じゃない。そのくらいのことはもう言われ慣れている。しばらくクラスメイトと会話なんてしていないのでよく思い出せないが、1年の夏頃くらいまでは言われていた気がする。だから初対面の美少女に外見からの第一印象で気持ち悪いと断定されても僕の心には少しも響かない。

あれ、何か目の前が霞んできたぞ。

 

 

「彼は球磨川。入部希望者だ」

 

 

「『こんにちは! 僕の名前は球磨川禊! 趣味はジャンプ鑑賞、特技は女子のパンツ当て! もっとも、まだ一度も答え合わせをしたことがないんだけどね』」

 

 

 言い終えた途端、頭の側面に強い衝撃を受けて僕は倒れた。薄れゆく意識の中、僕の頭があったであろう位置を見ると、平塚先生が右拳を振りぬいていた。なるほど、僕は先生に殴られたらしい。何か嫌なことでもあったのだろうか。もちろん、八つ当たりをされたくらいで人を憎むほど僕は器の小さな人間ではない。この恨みはなるべく平塚先生に関係のない誰かに何かをして晴らすことにしよう。

 そこまで考えたところで、僕は意識を手放した。

 

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 目が覚めると、見たこともない部屋で僕は両手両足を縛られていた。

 

 

 なんてことはあるはずもなく、先ほど訪れた教室の床に僕は横たわっていた。

 どうしてこんなところで寝てるんだっけ。あぁ、そうだ。平塚先生から渾身の右ストレートを貰ったんだった。どうやら平塚先生もあの美少女も、僕を保健室に運んだりはしてくれなかったらしい。

 

 

「目が覚めたようね」

 

 

 起き上がって声がした方を見てみると、そこには例の美少女が先ほどと同じ位置にいた。声をかけてくれたようだが、視線は本に落とされている。僕のことを見ようともしない。

 

 

「『うぅ……いきなり殴るなんてなんてひどいんだ。こうなったら、やられたらやりかえす、倍返しだ!』」

 

 

 ん? 何か肝心なことを忘れてる気がする。ま、忘れるんならその程度のことなんだよね。

 いつまでも床に座っているのもあれなので、適当に椅子を持ってきて座る。放置されてるだけあって冷たい。

 

 

「『ところで、まだ君の名前を聞いてないよ。あと何でここに呼ばれたのかとか』」

 

 

 僕が質問すると、彼女は大きくため息を吐いて読んでいる本を閉じ、僕を睨み付ける。何か僕と喋ってるとみんなため息吐くよなぁ。

 

 

「私の名前は雪ノ下雪乃。聞いたことくらいあるでしょう?」

 

 

 雪ノ下雪乃ちゃんか。確かに噂で聞いたことがある。国際教養科に所属している才色兼備の有名人。成績は常に学年トップ。さらに類稀なる優れた容姿を持っているので、羨望と妬みの対象になっている。言うなればエリートが多く通うこの進学校の中でもさらにエリート。常に最底辺に這いつくばっている過負荷(マイナス)である僕の天敵だ。

 でもそんなこと言っても始まらない。雪乃ちゃんはもしかしたら僕の人生で初の彼女になってくれる人かもしれない。彼女いない歴=年齢という魔法使いまっしぐらな僕の救世主かもしれないのだ。だから、なるべく嫌われないように当たり障りのないことを言っておこう。

 

 

「『雪ノ下雪乃? なんだか適当の極みみたいな名前だね。5秒で思いつきそうだ。大丈夫かい?ちゃんと親から愛されてる?』」

 

 

 瞬間、空気が凍ったのを感じた。雪乃ちゃんはなんだかピクピクと今にも怒り出しそうな顔をしている。かわいい子はどんな表情でもかわいいんだね。

 

 

「……そんなことあなたには関係ないでしょう」

 

 

「『うん、まあ、そうだね。雪乃ちゃんが愛されてようが虐待されてようが、確かにどうでもいいかな。それで? 僕の2つ目の質問に答えてくれない? 僕はなぜ、ここに連行されたんだい?』」

 

 

「っ……そうね、ではゲームをしましょうか。あなたはさっき平塚先生が『入部』という言葉を使ったのを聞いていたわよね? その言葉が指す通り、ここは部活なのだけれど、あなたにはここが何部かを当ててもらいましょう」

 

 

「『この僕にゲームを挑むと言うのかい。ふふふ、片腹痛いぜ雪乃ちゃん。僕がかつて『常敗無勝の球磨川禊』と呼ばれていたのを知らないのかい?』」

 

 

「知らないし、常敗無勝ってあなた負けてばかりなんじゃない。あと雪乃ちゃんと呼ぶのをやめなさい。寒気と悪寒が止まらないわ」

 

 

「『勝つとわかってるゲームなんかして楽しいのかいと聞いてるんだぜ僕は。だがしかし、そんなゲームであろうとも僕は受けて立つさ! 勝利の可能性が1%でも残っている限り、僕はあきらめない!』」

 

 

 僕は拳を握りしめ、高らかに天へと突き挙げる。僕の頭上にあるのは天じゃなくて天井だけど。

 

 

「『まず雪乃ちゃんに聞きたいんだけど、他に部員はいないのかい?』」

 

 

「雪乃ちゃんと呼ぶのをやめる気はないようね……いないわよ。部員は私1人」

 

 

 それって部として存続できるのかな。よくある部活物の学園漫画では、たいていの廃部原因が部員の人数不足だけど。

 んー……ヒントが少なすぎるなぁ。この部室を観察しようにも見るべきところが全くと言っていいほど無い。唯一目を引くものがあるとすれば雪乃ちゃんぐらいだ。

 

 

「『……文芸部?』」

 

 

「その心は?」

 

 

「『いや、部員がいなくてもいいし、部室に何も無くてもいいし、部活中にずっと読書しててもいい部活なんて文芸部しか思いつかなくて。当たり?』」

 

 

「ふっ……はずれよ」

 

 

 めちゃくちゃ見下したような感じで笑われた。どうやら品行方正という噂はガセだったようだ。

 しかし、文芸部ではないとするといよいよもってわからない。

 

 

「『ごめん、降参。ここは何部なのか教えてくれないかな』」

 

 

 僕の降参発言に、雪乃ちゃんは満足そうに頷く。この子、かなりの負けず嫌いっぽいな。

 

 

「持つ者が持たざる者に慈悲の心をもってこれを与える。人はそれをボランティアと呼ぶの。途上国にはODAを、ホームレスには炊き出しを、モテない男子には女子との会話を。困っている人に救いの手を差し伸べる。それがこの部の活動よ」

 

 

 雪乃ちゃんはそこで立ち上がり、まさしく僕を見下すように見下ろした。

 

 

「ようこそ奉仕部へ、球磨川禊君。歓迎するわ」

 

 

 その目は確かに、ボランティアを行う人間の目をしていた。持つ者が持たざる者を見る目。優等生が劣等生を見る目。幸せ者が不幸者を見る目。強者(プラス)弱者(マイナス)を見る目。慈愛という名の優越感と正義という名の圧力を以て、過負荷(ぼく)たちに差し出される手だ。

 

 

「『……で、ここが何部かはわかったけど、どうして僕はここに連れてこられたんだい? 確かに僕は持たざる者の代名詞と言っても過言ではないけど、ここに持ち込むような悩みは今のところ無いんだけど』」

 

 

「あなたが悩みを持ち込むのではないわ。あなた自身が持ち込まれた悩みなのよ」

 

 

 ……えー。何とも予想の斜め下を行く回答だった。

 

 

「平塚先生からの依頼で、『球磨川の破たんした性格を更生させてくれ』だそうよ。そのためにあなたには奉仕部に入部してもらうことになったわ。言っておくけど拒否権なんてないわよ。あれば私が使っているもの」

 

 

「『随分と嫌われたものだね。でも僕はこの性格を更生してほしいなんて思ってないよ。これでも人気者でね。あっちこっち引っ張りだこさ。具体的に言うと、主人公を抑えて2回連続で人気投票1位を獲得しちゃうくらい人気かな』」

 

 

「あなたの頭の中での出来事なんて興味ないわ。それにあなたは変わらないと社会的に問題よ?」

 

 

「『社会的に問題なのは社会に問題があるからだよ。どんな性格も欠点も弱点も個性だろ?個性は大切にしないと』」

 

 

「個性が大事という点は一理あると思うけど、社会では個性よりも協調性が求められるのよ。学校は社会に出られるように生徒を育てる場所なの」

 

 

 なんか学校は個性を画一的にする、みたいな感じの内容の風刺画を思い出した。ていうか雪乃ちゃんは確実に協調性がないと思う。たぶん無能な上司に我慢できず爆発するタイプだ。

 

 

「雪ノ下、邪魔するぞ」

 

 

 言い争いが激しくなっていく中、突然扉が荒々しく開かれ、平塚先生が入ってきた。扉壊れてない? 僕をパンチ一発で気絶させるような人だから、ありえなくはない。

 

 

「ノックを……」

 

 

「悪い悪い」

 

 

 ジト目で睨み付ける雪乃ちゃんを軽くあしらい、先生は僕たちに近い面の壁に寄りかかる。

 

 

「球磨川の更生にてこずってるようだな」

 

 

「本人に自覚が無いせいです」

 

 

「『ひどいなぁ、自覚ならあるよもちろん。自覚したうえで、これは僕の個性だから断固変えたくないんだ』」

 

 

「あなたはただ楽な方に逃げているだけよ。変わるにはそれ相応の努力が必要だけれど、それをしたくないだけなんでしょう。向上心が無いの?」

 

 

「『変わる必要が無いって言ってるんだよ雪乃ちゃん。だって、僕は何も悪くないから。どんなに気持ち悪がられようと、どれだけ人に迷惑をかけようと、僕は悪くない』」

 

 

「あなたねぇ……!」

 

 

 雪乃ちゃんが怒気交じりで僕に詰め寄ろうとしたところで、平塚先生が僕たちの間に割って入った。

 

 

「まあ二人とも、落ち着きたまえ。いやぁ。面白いことになってきたな。私はこういう展開が大好きなんだ」

 

 

 先生はなぜかうきうきしたような声音でそう言う。本気で楽しんでるなこの人。

 ちなみに僕も嫌いじゃない。

 

 

「古来よりお互いの正義がぶつかり合ったときは勝負で雌雄を決するのが少年漫画の習わしだ」

 

 

「『王下七武海の人も言ってましたしね』」

 

 

 あれ、それはちょっと意味違ったっけな。

 

 

「それではこうしよう。これから君たちの下に悩める子羊たちを導く。彼らを君たちなりに救ってみたまえ。そしてお互いの正しさを証明するがいい。どちらが人に奉仕できるか!?ガンダムファイト・レディー・ゴー!!」

 

 

「『別に僕は正しいと思ってるわけじゃないんだけどなぁ……』」

 

 

 ちなみに僕はあまりガンダムには詳しくない。あまりにも有名すぎてなんだか見る気になれないのだ。知らないなりに疑問に思っているのが、なぜガンダムの武器は外付けなのだろう。あれでは武器をはじかれた時などはどうしようもなくなってしまう気がする。まあ、全部が全部そうなのではないのかもしれないけど。

 

 

「『僕はそんな勝負やりたくないですね。お金持ちと貧乏人が所持金を競ってるようなものですよ。本来与えられるべき立場にいる僕が誰かを救えるわけないじゃないですか。それにさっき雪乃ちゃんと簡単な勝負をして負けてますし、これ以上黒星を重ねたくないです』」

 

 

「では、勝った方が負けた方に何でも命令できるということにしてはどうだろうか」

 

 

「『この勝負受けましょう!! 僕は今日この日にこの勝負を受けるために生まれてきたのかもしれない! 久々に本気で勝ちに行きますよ』」

 

 

 雪乃ちゃんとの口喧嘩で下がっていたテンションが一気に最高潮になった。

 どうしようかなー、裸エプロンかなー、手ぶらジーンズかなー、全開パーカーかなー。

 

 

「この男が相手だと貞操の危機を感じるのでお断りします」

 

 

 いつの間にか雪乃ちゃんは、僕から最も遠い隅にまで離れ、自分の体を抱くように守っている。

 まあ、当たらずとも遠からずかな。

 

 

「ほう、あの雪ノ下が成績最下位である球磨川禊に恐れをなすとはな。まぁ、雪ノ下にも怖いものくらいはあるだろう。逃げても私は責めないぞ」

 

 

 うわ、この人本人の目の前で成績最下位とか言ったよ。しかもやっすい挑発の材料にされた。これにはいくらなんでも雪乃ちゃんは引っかからないでしょ……

 

 

「……わかりました、その挑発に乗るのは癪ですが、受けて立ちましょう」

 

 

 ウワー、ユキノチャンッテバマケズギライダナー。

 なんというか、残念な完璧超人って感じだ。セリフに見え隠れする「あなたの意図はお見通しですよ」感がさらに残念さを際立たせてる。

 

 

「勝負の裁定は私が下す。基準はもちろん私の独断と偏見だ。あまり意識せず、適当に、適切にがんばりたまえ」

 

 

 こうして、この僕、「球磨川禊」と「雪ノ下雪乃」のいかにもぐだぐだに終わりそうな、とてつもなくどうでもいい消化試合が始まった。

 

 




前回と比べると圧倒的に長いですね。
倍くらいあるんじゃないでしょうか。

原作に異物を放り込むだけでこうもやりたいことができなくなるんですねえ。

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