前回の投稿で『圧倒的文字数』とか散々書いてましたが、確認してみると意外と1万文字超えの話ありますね。
前回の話からボリュームの差が激しいですが、お楽しみください。
今日は待ちに待った職場見学だ(嘘)。
どのへんが嘘かと言うと、僕の希望行先であるジャンプ編集部には行けないとわかった時点で期待もクソも無い。
結局職場見学の行先は葉山君が決めた電子機器メーカーとなった。
午前の授業が終わり、昼休みに入ると生徒たちはそれぞれの職場見学場所へと向かう。
僕たちが向かうのは海浜幕張駅。
その近くに目的の見学場所があるらしい。
僕のグループは、彩加ちゃんと葉山君との三人グループだったはずなのだが、なぜか他のグループも巻き込んでの大所帯になってしまっている。
葉山君はいつものようにわらわらといる人だかりの中心にいて、全員に笑顔を振りまいていた。
ていうか葉山君グループの男子三人もいるじゃん。
どうやらチェーンメール騒動は発端から解決に至るまでの全てが無意味で無駄だったようだ。
よく見ると彩加ちゃんも別のところで女子に囲まれてる。
きゃーきゃーと騒ぐ女子の中心でおろおろしていた。
何も知らない人が見ると虐めている風にも見えるね。
他には知り合いはいないようだ。
川崎ちゃんは別グループか。
ちなみに川崎ちゃんの依頼を解決した次の日、彼女は僕のところに来て、お金を受け取る旨を伝えに来た。
ただし、あくまで『借りる』ことにするらしい。
川崎ちゃん曰く『あんたに恩を作るより借りを作った方がマシ』なのだそうだ。
ということで、無利子無期限でお金を貸す形で落ち着いた。
というわけで、僕は5グループくらいで形成された集団の最後尾で一人寂しく見学先へと向かう。
今日行くという電子機器メーカーは社屋と研究施設だけではなく、近隣に開放されたミュージアムもあり、ちょっとしたアミューズメント施設のようなものらしい。
葉山君は彼のグループ内で相談でもしたのだろうか。
彼と一緒のグループなのは僕のはずなのだが。
考え事をしながら歩いていたら、いつの間にやら目的地に到着。
マイペースに歩いていたためか、気が付いたらすでに先頭集団はいなくなっていた。
まあいいや。僕は一人で展示でも見て時間を潰そう。
「球磨川、ここに来ていたのか」
よくわからない展示を流し見ていると、後ろから平塚先生に声をかけられた。
平塚先生は珍しく白衣を脱いでいた。
ここの研究員とかと紛らわしいからかな。
「『見回りですか?』」
「まあ、そんなところだ」
と、言っている平塚先生の目に映っているのは生徒ではなく、メカメカしい展示物だった。
「ふう……。日本の技術力はすごいな。私が生きているうちにガンダム作られるかなあ」
「『作られるとしたら戦争中か、そうじゃなかったらそれが原因で戦争が起こるでしょうね』」
「君は人の夢を冷ますのが本当に上手いな……。そうだ球磨川。例の勝負なんだが……」
「『勝負?』」
ああ、あの雪乃ちゃんとどちらがより奉仕できるかってやつか。
すっかり忘れてた。
「『あれがどうしたんです?』」
「不確定要素の介入が大きすぎてな。今の枠組みでは対処できない。よって、仕様を一部変更することにした」
「『そうですか。まあ別にいいですよ。雪乃ちゃんもどうせ忘れてるでしょうし。僕も言われるまで覚えてませんでした。正直どうでもいいですしね』」
「ど、どうでもいいとはなんだ!」
「『いや、勝負受けた時は景品に釣られて乗ってしまいましたけど、もともと僕判定が曖昧な勝負って好きじゃないんですよね。勝っても勝った気がしないし、負けても悔しくない。そんなのを勝負とは言えませんよ。もっとわかりやすく、生徒会長になれたら勝ちとかにしてくれたらいいんですけど』」
「とにかく! 新たな仕様が決まったら改めて連絡する! それまで待っていてくれ」
平塚先生はそう言って強引に話を切り、スタスタと進んでいってしまった。
うーん、面倒なことになりそうだな。
そんなこんなでもう夕方。日が落ち始めて空が真っ赤に染まっている。
平塚先生と話し過ぎてしまったせいなのか、あれから葉山君たちに追いつくことはできなかったが、もとから1人みたいなものなのでその後も気にせずゆっくりとミュージアムを周っていた。
見学後は現地解散ということだったので、誰かを待つということはせずそのまま帰ろうとミュージアムを出ると、出入り口近くの縁石にぽつんと座っている結衣ちゃんを見つけた。
「『あれ、結衣ちゃん? こんなとこで一人でなにしてるの?』」
僕が声をかけると結衣ちゃんはさっきまで弄っていた携帯から顔を上げ、こちらに気付いた。
「クマー遅いよ! めっちゃ待ったんだけど!!」
「『いや、別に君と待ち合わせなんてしてないし、そんなに怒られる謂れはないんだけど。僕は悪くない』」
立ち上がって詰め寄ってくる結衣ちゃんをどうどうと制し、詰め寄られた分だけ離れる。
「『それより葉山君たちはどうしたの?』」
「みんなでサイゼ行っちゃったよ」
「『結衣ちゃんは行かなくていいの?』」
「やー……なんていうか、クマー待ってたの。置いてけぼりは可哀想かなーって」
「『おー、結衣ちゃんやっさしー。じゃ、二人で駅の向こう側のガスト行かない? サイゼ行って葉山君たちとかち合っても気まずいし』」
サイゼの方が好きだが、ガストも嫌いではない。中学の時に安心院さんと行ったファミレスも大体ガストだったし。
「……あのさ。クマーって入学式の日のこと、覚えてる?」
僕がガストへ向かおうと歩き出すと、不意にそんなことを聞かれた。
「『んー、僕入学式出てないんだよねえ。その日事故に遭っちゃってさ。幸いかすり傷で済んだから入院とかはしなかったけど』」
入学式の日。月曜だったこともあり、僕はいつもより早く家を出た。僕の家から学校までの間にあるコンビニを目指して歩いていたら、僕の後ろから子犬が車道に向かって飛び出していったのだ。放っておいても良かったのだが、弱きの味方である僕はつい反射的に子犬を追ってしまった。そこにまた間の悪いことに黒塗りの大きなリムジンがちょうど来てしまい、とっさに子犬を庇った結果僕が轢かれた。ちなみにかすり傷と言うのは嘘で、割と重傷だった。しかも即死と言うほどの怪我ではなかったため、『
「『で、入学式がどうしたの? 何か面白いことでもあった?』」
僕が歩き出してしまったせいで若干空いてしまった距離を少し詰めて、僕は結衣ちゃんに聞いた。
当の結衣ちゃんはその後の言葉を口に出し辛そうにうつむいていた。
「あの、さ……。あたし、クマーにちゃんと、言わなきゃいけないことってか……、謝らなきゃいけないことがあってさ……」
「『ふぅん?』」
「入学式の日に、クマーが助けたっていう子犬はさ、うちの犬なんだよね……。あたしがリードから手を離しちゃって、それでサブレが走っていっちゃって……。クマーが助けてくれたおかげで、サブレは無事だったけど、代わりにクマーが事故に遭っちゃって……」
頭の中で整理しきれていないのか、結衣ちゃんの言葉はあまりに不自然なものだった。サブレと言うのは僕が助けた子犬の名前だろうか。
「だから……、クマーが車に轢かれちゃったのは、あたしのせいなの……。ごめんなさい!」
大きく頭を下げる結衣ちゃん。
僕はかけてあげる言葉を考え、口を開いた。
「『顔をあげなよ、結衣ちゃん。別に君が気に病むことじゃない。君がリードを離したのはわざとじゃないし、ましてや君は僕を車道に突き飛ばしたわけでも何でもないんだ。そんな顔して謝られたら困っちゃうぜ』」
顔を上げた結衣ちゃんの目には今にもこぼれだしそうなほど涙が溜まっていた。
その表情からは戸惑いと喜びが見て取れる。
うん、やっぱり結衣ちゃんは笑顔でいるのが一番映える。
「『むしろ事故に遭ったおかげで君は僕を気にかけてくれてたんじゃないか。だとしたらあれは僕にとってラッキーだったとさえ言えるね』」
だって。
「『君と僕との友情はあの事故が無ければ成立しなかったんだ。事故が無ければ君と僕は他人のままで、君は僕のことなんか気にすることなく高校生活を送っていただろう。君と僕との友情は僕の交通事故の上に成り立ったものなんだよ』」
先ほどまで気持ち笑顔を浮かべていた結衣ちゃんの表情はみるみる曇り、僕から目を逸らす。
ねえ、結衣ちゃん。
「『しかしだよ結衣ちゃん。始まりが間違っていたからといっても、僕たちの友情は紛うことなき本物だ! さあ結衣ちゃん、一緒にガストに行って僕たちの友情をさらに深めようじゃないか!』」
くるりと向きを変え、僕はガストへと歩き出す。
その後ろからダッとかいう音が聞こえたが、僕は気にせずガストに向かう。
沈みかけた夕日が照らしているのは僕だけだということを気にも留めずに。
これでめでたく奉仕部が1人になりましたね(白目)
正直、ここからどうやってガハマちゃんと仲直りさせようか全く考えていません。
キャラが構想通り動かなかった場合、次回で奉仕部が廃部という線も濃厚となってきました。
ではまた次回。