灰と幻想のグリムガル――の冒険譚   作:小説はどうでしょう

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No3----終わったよ! 全員集合!

 

 ギルドを出て集合場所に向かってみると……

「俺が一番かい」

 誰も居ない。

 なんだか自分が一番ウキウチしているみたいでなんだが恥ずかしいんだが、でもまぁこの世界でたった六人の仲間だし。

「やっぱ、寂しかったのかねぇ、俺は」

 取り敢えず傍にある串肉屋で串を買ってみんなを待つ事にしてると

「あれ~、ランザやねんかぁ。てっきりユメが一番かと思うとったのに~」

「ん?」

 見ればユメが笑顔で立っていた。

 

 ちょっと変わった言葉遣いのお下げ髪の女の子。それがユメだ。

 どっかおっとりしているというかのんびりしているというか、まぁ危機感ってやつとは無縁みたいな子だと思う。ほんとのところは分からないが表には見え難い。

 彼女はギルドを選ぶ際にマナトから聞いた、【狩人は狼犬を相棒として連れ歩く事が出来る】という特性に引かれて狩人を選択した。それでいいのか? 人生。

 もうちょっと悩んでも良さそうな気もしないではないが、まぁ本人がそれでいいのならば良しとしようさ。

 

「なんだ、様になってるじゃないさ」

「ん~? そうなん? ユメよく分からんけど。それよりユメにも一本ちょうだいな」

「ほいよ」

「おおきになぁ」

 俺から串肉を一本貰って咥えるユメは満足そうだ。

 なによりなにより。

「それ、ギルドから?」

「ほふ?」

 串を咥えたまま振り返ったユメは俺が指差した先を見て嬉しそうに頷いた。

「そや。ユメのお師匠がユメに~ってくれたんや。使い古しの弓やけどな。あとこんなんもくれたんよ」

 そういって腰に下げた剣鉈とポンと叩くユメ。

 どうやら俺と違ってギルドでは結構大事にされていたのかも知れない。

 かわいい女の子は得だなぁ。

「もう立派な狩人だな」

「ん~、でもなぁ」

「ん?」

 どこか悩ましげなユメだが……ん? 違うのか?

「ユメなぁ、矢ぁ射るのあんま上手ないねんよ。役に立つか不安でなぁ」

「あぁ、そういう」

 いきなり自信満々な初心者ほど恐い物もなかろうに。

「始めから達人の狩人も居なかったんじゃないか。最初はそんなものだろ」

「せやろか」

「せやせや」

「あはは。なんやそれ、ユメの真似しいなや」

「そりゃ失敬、ん? あっ! ユメちゃん」

「なに?」

 俺が促した方にユメも視線を送れば、そこにはこっちに手を振って近付いてくる人影が一つ。

「ハルくんやんか」

「あぁ! おーいっ」

「ランザ! ユメさん!」

 少し足早に駆け寄ってくるハルヒロは多分ギルドから貰ったであろう装備を身につけていた。

 うん。なかなか立派な盗賊じゃないか。ん? 盗賊が立派って、どうなんだろう?

 あれ? 別に盗賊が悪い職業って訳じゃないのに、なんでそう考えたんだ? う~ん……思い出せない。また、だ。

「久しぶり! 二人とも元気だった?」

「ギリギリな」

「ユメは元気だったよぉ」

「そっか」

 

 この少し眠そうな眼つきがデフォルトの男子はハルヒロ。

 パーティーの為にと盗賊を志願した我らが勇者だ。つか、俺の勇者だ。

 こんな訳の分からない状況で人の為とか仲間の為とかに行動出来る人間を俺は尊敬する事にしている。それはひいては俺の為にも行動してくれる事に他ならないからである。本当にありがたい。

 まぁ自分から率先して動くタイプじゃあ無いみたいだけれど、誰かの為になら彼は動くタイプだろう。実際、最初に街に下りて情報を仕入れてきてくれたのもハルヒロだ。彼と出会えた事は幸運だと思う。

 

「どうだった? 盗賊ギルドは」

「それが、先生は凄く美人なんだけど滅茶苦茶厳しい人でさぁ」

「おーー。美人なんや」

「ハルヒロ君。そこは美人のところだけ想い出に取っておこうよ」

「いや、想い出って」

 何が不満だというんだっ!

 彼が良い人間だというのは俺の誤解だったのか? いいじゃないか美人ならっ! 俺なんか棺おけに片足突っ込んだ爺さんだぞっ!

 同じ厳しい修行であるなばしごかれる相手は選びたい! 否! 是非選ばせてくださいっ!

 これからでも盗賊ギルドに入り直したい気分になってくるなド畜生。

「ハル君のそれもギルドから貰ったん?」

「ん? そうだけど……変、かな」

「ん~……ユメはいいと思うよ」

「ありがと。ユメさん」

 いや、こっちを見るなよハルヒロ。

「もちろんだよハルヒロ君。それが美人から貰った物ならたとえ緑地に黄色の水玉と赤紫色の花柄模様のワンピースを着せられようとも俺は君に最高に似合うと断言してあげよう」

「いやそこは止めてよ」

「ですよね~だが断る」

「なでだよ」

「なんでだろね~ユメちゃん」

「なんでやろな~ランザ」

「お前らな」

 俺達が笑い合っていると「……あの」と背後から声が聞こえ

「っと失れっ! あ、シホルちゃん。何時の間に」

「その、少し前から……声、掛けにくくて…………ごめんなさい」

「え~、と……べつに謝んなくても」

「ご……ごめんなさぃ」

「あぁ……うん」

 

 このとってもとっても大人しい女の子はシホル。

 三角帽子をしっかりと被っている御伽噺から飛び出してきたような魔法使いちゃんだ。

 グリムガルに来た時から一番脅えていたのは彼女だったかもしれない。まぁ脅えまくっていた姿しか記憶に無い。しかしまぁ、太陽指差して行くぜ野朗共っ! などと叫ぶシホルなど見たくもないがな。

 早々にユメに抱きつかれてくちゃくちゃにされている様は見ていてほっとする……ユメ様そこ替わってください土下座します靴舐めればいいんですか何だったら…………いや、微笑ましい光景だ、うん。

 

「シホルちゃんはすっかり魔法使いになったみたいだけど、修行は順調だったのかな?」

「ん、と……まだ、上手くはないけど…………影魔法(ダーシュマジック)を、少し」

「おぉー、なんかいいね、魔法使いっぽくて」

「なんだよ魔法使いっぽいって」

「ん~? どっかダークな感じで良いじゃない。響きが良いよ響きが」

「そんな恐ろしいものじゃなくて……わたし」

 いや、そんなに慌てなくてもいいんだけどなぁ。

「今度ユメにも見せてやぁ、シホルちゃんの魔法」

「私、まだ……うまくないし……」

「いや、そのうち嫌でも見るんだし、シホルさん困ってるじゃん」

「え~? ユメ困らせたん? 堪忍なぁシホルちゃん。ユメあかんなぁ」

「あ! 別に困ってないから! その……ごめん」

「う~ん……」

 どうでもいいんだがこの子は

「ちょっと謝りすぎだよ、シホルちゃんはさ」

 ひょい、と帽子を取り上げる。多分彼女は

「あ、ごめ」

「それ!」

 やっぱり謝る。なんだろうなぁしかし。

「シホルちゃん。こういう時はね、謝るんじゃなく「返しいやっ!」でえっがっっ!」

 シホルじゃなくて横合いからユメの拳が飛んできた。いやいやユメさん分かるけど!

「ってしなあかんよシホルちゃん。って言いたいんよね? ランザ」

……そですね

「ごめっ……ありがと、ユメちゃん」

「えぇよ」

 ユメに帽子をかぶせて貰ったシホルは嬉しそうに笑っている。

 多少は強くならないとこの世界で生きていくのは大変だと思うんだけど、まぁ仕方ないか。個人のパーソナリティというこのはそう簡単には変われないのであろう、うんうん。

 そんな視線の向こうからは流石に分かりやすい大きな彼が目に留まる。

 

「来た来た。モグゾー君こっちこっちっ!」

「っ! お、遅れてごめん!」

「遅れておらんよ~」

 重武装でドタドタとはしってきたのはモグゾーだ。

 クズオカとかいう胡散臭い義勇兵に連れて行かれそうになっていたのを引き止めた手前、彼と一緒にパーティを組めたのは嬉しい限りだ。

 どうせだったら楽しくやりたいもんな。

 

 モグゾーは180を超える長身でがっしりした体格だ。まさに戦士って感じだな。

 それでいて気性が荒い訳でもなくて、でも別にオドオドしてるって訳でもない。流されてる様でどこか自分を持ってるって気がした。

 モグゾーはリーダーシップをとって引っ張っていくってタイプじゃないんだけど、いざという時には頼りになる! そんな男。

 まぁそうそうそんな時が来られても困るんだけどな。うん、平和が一番。

 

「ほぇ~、モグゾー君、でっかい剣やなぁ」

「まさに戦士って感じだよね」

「……うん、いい……」

「そ、そうかな」

 どこか照れてるモグゾーだけど満更でもなさそう。少しだけ胸を張った様にも見えるぞ。

「盾は無しなんだ」

「うん。僕には両手持ちの大剣がいいだろうって先生が」

「ま、こんなデカイ剣なら剣にも盾にもなるよな」

「僕もそう思うよ」

 低身長の俺には絶対無理な事を……いや、悔しくは無いよ? 別に気にしてなんて「なぁ、これってランザよりもおっきない?」………………繊細な問題なんだよお嬢さんっ!!

 

「ねぇよっ!」

「え~? 比べてみいひん?」

「だだだだったらシホルちゃんだって小さい」

「私は……女子だし」

「俺だって男子だよ!」

「いやランザ。それってどうよ」

「ちょ! ハルヒロ君、男同士って言葉が有るでしょうにっ!」

「どんなだよそれ」

 どうやら世界は170以下の男子には残酷に出来ているらしい。爆ぜればいいのにこんな世界。

 

 俺が世界が爆ぜる為に必要な呪いの言葉を30程を心の中であげつらっていると「や! 俺が最後みたいだね」っ! 最後の一人、マナトが到着した。

 

「オツトメご苦労さん、マナト君」

「ランザも。皆も久しぶり。元気そうでなによりだよ」

「それ、昨日までの俺を見てたら言えないと思うよ。マナトはどうだったの? 俺は散々だったんだけど」

「俺もだよ。いかついおじさんに怒られ続けた。実際キツかったよ」

「へ~、マナト君でも怒られる事あるんやね~」

「あるさそりゃ」

 

 マナトは俺達のリーダーだ。だれがどう決めた訳じゃないがリーダーだ。これはもう決定事項と言っても良いね。

 多分、この中でマナトだけは()()じゃなくても生きていけるんだと思う。この、俺達みたいなあぶれ者のパーティじゃなくてもな。

 どこのパーティにだって入っていけるんだろうし、やってもいけるんだと思う。

 それでもこいつは俺達の下に戻り、残り、一緒に組もうと言ってくれた。

 神官を選んだのだってそうだろう。

 別に神官じゃなくたってマナトはうまくやれる筈なんだ。でもそれでもそれを選んだのはパーティ全体を考えての事だって皆分かってる。だからこその、リーダーだ。

 

「ユメさんやシホルさんは? 辛くなかった?」

「あ~……なんかなぁ」

「ん?」

 お? ユメの苦労話でも始まるのか? 

 それはそれで楽しみだ。今の俺は他人の苦労話が大好物だ。ぜひとも俺より苦労していて欲しいものだが。

「その【さん】とか【ちゃん】とか止めへんかなぁ。せっかくのパーティなんやし、なんか他人行儀やんか。ねぇシホルちゃん、ってユメもか」

「うん。私も……シホルでいいから」

「そうか。分かった、じゃあシホル、ユメ。これからもよろしく」

「ユメもよろしくなぁ、マナト。ランザもモグゾーもハル君もよろしくなぁ」

「ってなんで俺だけ君付けなんだよ」

「知らんねぇ。なんか言いやすいだけやんか。なぁシホル」

「私は、ハルヒロ君もランザ君もモグゾー君も、呼び方は変わらないけど。あ……マナト、も」

 ? いや、一人だけ違うんだが……いや、これはこれで面白いか。うけけ……いや、初々しいという意味で、だ。うん。

 さて、それはともかく。

「さてさて、これでパーティ全員が揃ったわけだけどマナト」

「ん? なに? ランザ」

 おぉ! なんか仲間っぽいっ! やっぱ呼び方一つで変わるなぁ。ナイス! ユメ!

 それにしてもいい笑顔を向けるねぇ、このイケメンは。

「どうする? これから」

「う~ん……そうだなぁ」

 少しだけ考えたマナトは皆を見渡して

「早速だけど軽く森に入ってみないか?」

 そう切り出した。

 

「ちょ! マナトそんないきなり」

「でも何時かは入らなきゃいけない訳だしさ。取り敢えず様子見って感じでどうかな。ユメやシホルは?」

「ん~……ユメはどっちでもえぇけどな」

「少し……怖いけど、いい……かも」

 あらら。ハルヒロよりも女子の方が積極的だとは。

「うん。モグゾーとランザも、いいかな」

「俺は別にいいけど」

「僕も、うん。行くよ」

 俺はまぁ問題ない。寧ろそうしたいとも思ってたし。皆がどんだけ力を付けているのかは知らなければならない。

 でもモグゾーは意外だった。反対すると思ったんだけど。

「いいかな? ハルヒロ」

「分かったよマナト。でもやばくなったら撤退な」

「俺のその積もりだよ」

 ハルヒロが了解すれば満場一致だ。

 

 どうやら俺達のパーティーは慎重派なパーティらしい。

 ま、イケイケで突っ込んで直ぐに全滅するパーティよりかは全然ましだと思うね俺は。命を大事に、だ。

 

「それじゃあ、行こうか」

「よっしゃ!」

「あぁ」

「うん」

「はいよぉ」

「がんば、ろ……」

 

 

 そうして俺達の、初めての冒険が幕を開けた。

 

 

 


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