灰と幻想のグリムガル――の冒険譚   作:小説はどうでしょう

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No2----Let's party!!

 

 

 

「それじゃあ、みんな。七日後に」

「了解」

「ほいなぁ」

「……うん」

「わかったよ」

 マナトの言葉に皆で決意を新たに旅立ちの時を迎えたのはこっちに来た翌日の今日だ。

 俺も、また同様に旅立つ事になっているのだがな。

「今度会う時が楽しみだよ。じゃな」

 

 

 さてさて、俺達六人がバラバラに行動を始めたのには勿論訳がある。

 マナトが合流して六人になった俺達は早々に見習い用の超格安の宿舎に身を落ち着けたのだが、そこでマナトとハルヒロが俺達に情報をいろいろと与えてくれた。

 実は結構ハルヒロも頼りになるんじゃないかと俺は思っている。俺が頼れる人間は一人でも、たとえ猫の手でも居た方がいい。絶対良い!

 で、この世界の硬貨や街の様子、そして義勇兵の何たるかを俺達は知る事になった訳だが……正直、途方にくれそうだ。

 俺達は本当に何も無いところから始めなければならないと云う事をつくづく実感したね。いや、まったく面倒この上ない。忌々しいったらありゃしないっ!

 しかし泣き言ばかりも言ってられないからな。とりあえず見習い義勇兵として取るべき形は取らなきゃらなんし、まぁやるべき事もやらにゃあなるまい。

 

「とりあえず俺達はそれぞれギルドに入るべきだと思うんだ」

「ギルド、か」

「ふむふむ。ユメもギルポンには入った方がえぇよなぁ」

 ユメの言うギルポンには俺も是非とも加盟したいが、まぁそれはもう少し生活が安定してから考えるとして、まず俺達に必要なのは俺達のパーティーにおける役割を決めなければならないという至極現実的な話であり、その役割をこなす為に必要なのがそれぞれの職種のギルドに所属し教えを請わなければならないという、これまた現実的な話であった。それが有料な所までしっかりと現実的だ。

「とりあえず最前線の戦士と治癒者(ヒーラー)の神官は必須だからこれだけは確実に埋めておきたいんだけど」

「そうなんだ。でも戦士っていうと……」

 ハルヒロの呟きに自然と皆がある人物を見た。見てしまった……てか別にイジメとかそういう事じゃないんだが、やはり戦士という響きには体力と膂力を体格を容易く想像させる一種独特の響きがあり、それが俺達六人の中で一番しっくり来るのはどう考えてもモグゾーだった。

 どうやらそんなイメージに彼自身もはまってしまう様で「それ、僕がやってもいいけど」と手を上げてくれたのだからこの問題は平和的に解決したと言ってもいいだろう。

 もっともだからと言って他の職業で揉めた訳ではまったく無い。

「じゃあ俺が神官をやるよ」

「う~ん……マナトから聞いた限りだと盗賊って結構必要な気がするんだよなぁ。戦士がモグゾーやってくれるんなら俺は盗賊にしとこうかな。真正面の戦いとか無理っぽいし」

「ユメはその狼犬欲しいなぁ~。なぁんか可愛いそうやんか~。だから狩人になるよぉ」

「私……魔法使いでいい……剣とか無理だし、血も、ちょっと苦手で」

 という具合にとんとん拍子でそれぞれの役割が決まっていったのだが……あれ? これ俺要らなくね?

 いやいやいやいやいやいやそんな事は無い! 無い筈だ! 無いといってくれ頼むからっ!

 戦士は二人は多いか?

 盗賊は……どうやら一つのパーティーに一人と決まっているらしい。

 魔法使いは夢がありそうなんだけど、流石に後衛過多のパーティーはバランスも悪かろう。

 じゃあいっそ神官が二人で回復しまくりで命を大事にっ! って作戦も……つか戦う気がそもそも無いかの様な編成ではあるな。

 狩人になって二人で狼犬を飼って……って一軒家で庭で飼うわけじゃないんだから無いだろ普通に考えて。

 

 …………まぁ、前衛職かなぁ、普通に考えて。

「だったらランザはさ――」

 

 そしてマナトが考えてくれた俺の職業には皆も賛成し、俺自身もなるほどと手を叩いたのがこの目の前のギルドと言う訳だ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 俺が入る事にしたのは【剣士】のギルドだ。

 戦士と同様に前衛職の盾役なのだが、鎧と大剣で重武装する戦士と違い軽装で剣を振るう職。

 まぁパワーの戦士に対してスピードの剣士と言ったところか。

 

「で? 貴様が我が門下に入りたいって小僧か」

「まぁ小僧って歳かどうかは俺にも分かってな「黙れ」いぃけ? はい?」

 門をくぐって用件を伝えてみれば何とも厳しい爺さんが俺の前に立ち見下ろしていらっしゃる。

 ちょっと怖いぞ爺さん。

「わしに対する答えは【ハイ】か【分かりました】のどちらかだ。それ以外の返答など必要ない」

「いやそれってどっちも」

「分かったのか理解したのかどっちだ小僧っ」

「わっ! 分かりましたぁあああ!」

「ふん!」

 銀貨七枚払ってこの仕打ちとはこれ如何に。

 ちょっと入るギルドを間違えたとしか思えん。他のギルドにすればよかったか? いやもしかしたらギルドなんてどこもこんなもんじゃないんだろうか? うん。そう思う。思おう。思わなけりゃやってられんわ馬鹿馬鹿しい。

 

 それからの七日間。

 それは思い出すのも忌々しい悪夢の七日間だった。

 師匠の教え方はとりあえず実戦実戦の一辺倒だ。 

 毎日毎日立ち会い打ち合い打ちのめされて叩き潰される毎日。

 師匠とサシで剣を交え徹底的にしごかれた。

 修行も五日を過ぎた頃、道場に呼び出された俺に遅れて登場した師匠は

「お前には剣より刀が向いて居る様だな」

「刀、ですか」

 道場で正座する俺の前に師匠が差し出したのは反りの入った細身の剣だ。

 今まで稽古で使っていた剣よりも細くてどうにも心細いのだが

「細いが折れず曲がらず、それでいてなにより鋭利だ。力より業に偏るお前には剣より刀が似合いじゃろう」

「自分に似合いの、ですか」

 もう一度、その刀を眺めて納刀すれば、もうどこか馴染んだ気さえしたから不思議だ。

「指南、よろしくお願い致します」

「うむ」

 正座したまま頭を下げれば満足気な師匠の声が掛かる。

 悪夢の様なギルドの暮らしも、まぁ慣れてしまうのだから人間の順応力というのは侮れんものだ、うん。

 

 修行を始めてみれば確かに師匠の言われたとおり、刀というのは思ったより俺との相性が良かった。

 大剣の斬撃を受けても曲がらず折れず、それでいて剣よりも軽いから素早い取り回しが可能だ。

 それに片刃なのがいい。

 柄でしか支える事の出来ない剣と違って峰で支えて攻撃を凌ぐ事が出来た。これは背の低い俺にとっては非常に都合が良かった。ま、まぁもう少しで170には背も伸びる予定だし、そのうちこの問題は解決する予定だから別にそれほど助かるわけじゃあないんだが、一応その場凌ぎにはなるな、うん。

 

 俺はギルドで予定通り七日間の修行を終え、師匠はギルドからの餞別として一振りの刀と武士としての衣装をくれた。

 どうやら剣士ではなく武士という職業になってしまうらしい俺の装備は殆どただの服だ。装備と言っても肩当と膝当を付ける程度。

 もっとも、速さを重視の俺が重武装でてんこ盛りじゃあ邪魔になって仕方ないわけだが、流石に実戦の世界に繰り出すかと思えば心細くもある。

 まぁ神官や魔法使いはもっと軽装なんだろうし、これでも有るだけましか。

 

「では最後に、わしからの餞別じゃ」

「はい」

 いつもの様に木刀を構える師匠に俺は貰ったばかりを刀を抜き構える。

 最後に、師匠は師匠の真剣を、弟子の俺に見せてくれるのだ。

 しかし、まぁ俺もそこそこ使える様にはなってるんだぜ? いっその事師匠から一本でも取って弾みを付けて出発しようか! 

 

 なんて、夢だった。

 

「っ!!!!」

 

 言葉にならない。

 ただ立ち会っているだけだ。刃を交えた訳でも動いた訳でもないのに――俺は斬られた。

 殺気でも威圧でも剣気でも魔法でもない。無いが確かに、そこには圧倒的な存在感と威圧感が存在し恐怖と絶望が在る。

 袈裟に、横薙ぎに、唐竹に、切り上げて突かれた――――と魂に刻み込まれる。

 

「…………どうした?」

「!!!」

 

 これは未来で、これが高みだ。

 穏やかな表情のままの師匠が餞別としてくれたのは、俺の道の先にある頂の提示だった。

 いつか――ここまで――と。

 

 だがおかしい。

 不思議だ。

 なぜか師匠の顔から穏やかさが消え、険しい視線が俺を射る。

 

 

「……ランザよ……なぜ笑う」

「…………ぇ?」

 

 言ってる意味が分からない。

 俺は笑ってない。

 こんな状況で笑える訳は無い。

 自分がなます切りにされ続ける地獄を前にして――昂笑(わら)う訳がないじゃないか。

 

「…………そうかよ」

 師匠は木刀を腰に戻して構えを解くと、深い目で俺を見据えてくる。

「喰われるなよランザ」

「? 自分が、何にでありますか?」

 俺には本当に――――

 

「己が身に()む、鬼によ」

「師匠?」

 

――――言っている意味が、分からなかったんだ。

 

 

 


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