◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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終わり×と×始まり

 倒れ伏すピトーの前に、珱嗄とゴンは対峙していた。ピトーは珱嗄をよく見ると、所々に傷があるのが分かった。どうやら、誰かと戦った後に此処に来たらしい。

 

 

 誰と?

 

 

 そんなのは決まりきっている。珱嗄の実力は知っている、この男に傷を付けられる存在など、ピトーは一人しか知らない。王だ。ということは、珱嗄は王を倒して此処に来たということになる。

 王はどうなった? 疑問が生まれるものの、それを問おうとは思わなかった。

 

「………オウカ」

「よおゴン。しばらく見ない内に……その、なんだ……逞しくなったね」

「………うん」

 

 気付けば気まずい雰囲気が流れていたからだ。ピトーを全力で殴ったゴンは、幾らか気が晴れたのかかなり理性的になっていた。そもそも珱嗄が邪魔しなければ勝っていたのだ。実質、復讐は済まされたと見ても良い。

 だから、珱嗄が逞しくなったと言ったのを聞いて、ゴンは自分の身体を見た。確かに逞しくなってしまっている。少しの沈黙の後、ただ頷く事しか出来なかった。

 

「……えーと、まぁなんだ……気持ち悪いな」

「ソレ言っちゃいけない奴だよオウカ」

「元に戻れよ」

「やってみる……えーと……こう、かな?」

 

 ゴンのオーラが収縮し、元に戻った。そして、ドサッと座り込む。どうやらかなりの負荷があったようだ。大量に噴き出す汗が、それを物語っている。

 

「………さて、後の事はハンター協会に任せようかね」

「ぐ………お、オウカ……王は……?」

「……王、メルエムは……俺と戦って、死んだ。最後は笑って死んでったぜ」

「……あ……そう……うん、分かった……ありがとう、オウカ……王を、笑ったまま死なせてくれて」

「まぁ、結構いっぱいいっぱいだったけどな……強かったぜ、お前の王様は」

 

 珱嗄が苦笑してそう言うと、ピトーは悲しさを感じさせる笑顔を浮かべた。王は死んだ。だが、不思議と清々しい気分だった。おそらく、珱嗄が来た時にプフはやられ、ユピーも潰され、そして王が殺された。真正面からこうも堂々とやられてしまうと、もうぐうの音も出ない。満足だ。

 

「ボクも、殺すの?」

「いや、実の所死んだのは王様だけだ。プフもユピーも一応拘束という形を取ってる……まぁ王が死んだのを知れば自害しそうだけど」

「ボク達はどうなるの?」

「さぁね……協会の判断だからなぁ………まぁ最悪殺処分だろうな」

「………そっか」

 

 ピトーは珱嗄の言葉を聞いて、自嘲気味に笑った。だがまぁ、最後に友人と会えたのだから、それもまた良いだろう。最早死すらも恐れないすっきりとした精神状態にあった。

 

 だが、

 

「馬鹿言うなよピトー」

「え?」

「もう友達が死ぬのはクロゼだけで十分なんだ。よっと……」

「にゃ!?」

「ここから逃げるぞ」

「え? どういうこと?」

「これから俺とお前で協会から逃げる。面倒な事情聴取とか、お前の処刑とか、七面倒臭いあれこれはだるいからな。それに、クロゼが死んで、連れがいないんだ。ちょっと付き合えよ」

 

 珱嗄の言葉に、お姫様だっこで抱え上げられたピトーは眼をパチパチとまばたきさせた後、その意味を理解した。

 つまり、友人としてこれからの旅に付き合ってくれという意味だ。友人として、殺させる訳にはいかない。という珱嗄の考えの結果がこの提案なのだ。

 

「俺と一緒に、世界を見て回ろうぜ。面白そうだろ? ピトー」

 

 珱嗄はゆらりと笑った。そして、ピトーはそんな珱嗄の笑みに、思わず吹き出してしまった。満身創痍の傷に響いて痛いが、それでも笑わずにはいられなかった。

 なんというか、本当に自由な人間だと思った。だが、このやり取りが懐かしかった。心地良いこの感じ。だからピトーは傷の痛みを堪えながら、笑い過ぎと傷の痛みに涙を浮かべて答えた。

 

「良いよ、キミと一緒に世界を見たい。ボクを連れて逃げてよ」

 

 珱嗄はそれを待っていたとばかりに、地面を蹴った。実は、此処に来る前にプフとユピーに王が死んだことを伝えてあった。そして、二人は王が死んだならばと自分達も死ぬ事を選んだ。呆れるほどの忠誠心。珱嗄はその答えに笑って蟲笛を回した。プフがのた打ち回ると、自然と珱嗄もユピーも笑顔になった。キルア達が見てる中で、まるで友人の様に笑い合った。プフも、頭を抑えながら最後は笑っていた。

 そして、最後に二人はこう言った。

 

『もしもピトーが貴方と生きていくのを選んだのなら、是非とも……よろしくおねがいします』

『なんだかんだでアイツは良い奴だからよ……よろしく頼むぜ』

 

 王だけを見ているかと思ったら、存外ピトーの事を大切に想っていた様だ。珱嗄はそんな二人に約束した。ピトーと楽しみながら精々旅するよ、と。それを聞いた二人は、とても安心したような笑みを浮かべた。そうして、珱嗄はピトーの下へ駆けつけたのだ。

 

「―――まるで囚われのお姫様みたいな台詞だな」

 

 珱嗄は二人の笑顔を思い出しながら、苦笑気味にそう言う。ピトーはそんな珱嗄の腕の中で、そうだね、と笑った。

 

 珱嗄は思った。数々の出会いがあって、別れがあって、戦いがあって、その末にこうした結末を迎えることが出来た。クロゼが死んで、王も死んだ。だからきっと、珱嗄とピトーにとって、ハッピーエンドとは言えないだろうが、それでも二人にとって納得出来る結末を迎えられた。

 

 だから、こう言うのだろう。

 

 

「だが、こういうのも面白い」

 

 

 ゆらりと笑って、珱嗄は駆けていくのだった。

 

 

  

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 それから、二年が経った。キメラアントによる事件は終息を迎え、今の所はまだ平和な日々を送れている。ゴンも、キルアも、その他の者も、キメラアント事件による禍根は全て解消された。たったひとつの事柄を除けば。

 そんな中、一つの喫茶店でとある二人が向かい合って座っていた。

 

「お、なぁピトー。お前の賞金額また上がってるぜ」

「え、本当? ……あ、本当だ」

 

 片方は珱嗄、片方はピトーだ。あれから二年、珱嗄とピトーの消息をハンター協会は追っていた。何せ、王を殺した男と、キメラアントの王直属護衛軍の一人だ。それは追わざるを得ないだろう。

 つまり、キメラアント事件の後遺症とも呼べる要因が、ピトーという存在なのだ。ピトーの首には賞金が掛かり、珱嗄も追われている。二人の追われている理由は対照的だ。

 

 ピトーは処刑の為に、珱嗄は感謝の意を伝える為に、それぞれ追われているのだ。

 だが、ピトーは今キメラアントという事を隠す為に帽子と裾の長いコートを着ている。見た目的には人間とあまり変わりない。だからか、この二年間ずっと逃げ果せているのだ。

 

「さて、それじゃあそろそろ行こうか」

「にゃ、次は何処行くの?」

「そうだなぁ……気ままに歩いて行こうぜ。歩いていれば何処かしらに辿り着くでしょ」

「適当だね~……まぁいつも通りだけどさ」

 

 珱嗄とピトーは喫茶店を出ていく。そして、思うままに歩いていく。世界を見て回るという珱嗄とピトーの旅は、かなり適当な匙加減で今までやってきた。

 そして、それはこれからもずっと続いていくのだろう。

 

 

 二人は楽しそうに鼻歌を歌いながら、歩き続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ――――HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生   完

 

 




完結までお付き合い頂きありがとうございます!

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