◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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珱嗄×対×王

 鍔鳴りの音を立てて鞘に陽桜を仕舞った珱嗄は、その場で陽桜を抜き、瞬時に仕舞った。二度目の鍔鳴りの音が空間に響く。ピトーも、ゴンも、紅い煌めきを視認する事が出来なかった。だが、その刃は確実に外界へと抜かれていた。何故ならピトーの横、地面がまっすぐに切り裂かれていたからだ。

 抜刀術、達人が使えば神速とも言われる最速の殺人剣術だ。もしも陽桜を収められる鞘が他にあったとしても、抜刀術を行なわれれば即座に真っ二つになっていただろう。そういう意味でも、クロゼの鞘はぴったりの代物だった。

 

「うん、良い感じ良い感じ。それじゃあこの鞘の名前はクロゼと俺の名前を取って、『黒珱(こくよう)』にしよう」

「なんでそんなまともな名前を考えられるのにボクの名前はネコーなの……」

「まぁいいじゃないか。それに、もうネコーなんて呼ばねぇよ」

「え?」

「これでも感謝してるんだ。ありがとう、ピトー。クロゼの遺志を託されてくれて」

「! ……どういたしまして」

 

 珱嗄はそう言うと、コムギに近づいて打ち抜かれた脇腹に触れた。何をするつもりだと思うピトーだが、珱嗄が触れた場所からコムギの傷がみるみる内に塞がって行く。信じられない治癒速度、圧倒的にピトーの治癒能力を上回っていた。

 

「オウカ……これは!?」

「おいおい、お前俺の陽桜がどれだけ色んなものを切って来たと思ってんだ。それなりにメンテしてやらないと直ぐに錆びて折れるだろ」

「……?」

「だが生憎俺は刀の扱いは詳しくない。だからこれは俺が疲弊した陽桜を治す為に生みだした二つ目の発、自身のオーラを欠けた部分の代替品にして馴染ませることで対象を治す発、『請負う欠陥(リバイバルスカーレット)』」

 

 珱嗄のこの能力は、王を倒す為に修行を重ねていた時に生みだした能力。例えば、陽桜の一部が欠けたとしよう。その部分でオーラを重ね、代用品とし、時間と共にそれを本来の状態へと変化させていくのだ。つまり、重ねたオーラは時間と共に陽桜に溶け込み、欠けた部分を修復する。

 ただ、この能力は無機物には効かない。オーラを持った命あるようなモノでないと通用しないのだ。陽桜はそれ単体でオーラを持った武器故に修復が可能、という訳だ。

 

 だから、これは陽桜の為に生まれた能力だが、本体は生物の怪我や傷に使うべき治療能力なのだ。

 

 珱嗄はこれで自分のオーラを使い、コムギの身体に掛けた部分をオーラで形作り、代用品にする。漏れる血液が形作られたオーラの血管を通って循環し、オーラで形作られた内臓が身体機能の役割を果たす。すると、コムギの表情から苦痛の感情が消え、規則正しい呼吸をするようになった。

 ピトーが自らの治療能力で確認するも、コムギの命にはなんの支障もない。無傷同然の身体となっていた。見た目的にも、脇腹にあった傷が肌で覆われている様に見える。とんでもない治療能力だ。

 

「時間が経てばそのオーラは俺の支配下から離れてその子の本当の血肉に変わる。その子の肉体が元々持っている自己回復機能が俺のオーラと繋がって、欠けた部分を再生するんだ」

「ってことは……」

「まぁ大人しくしてれば1時間ちょいで歩きまわる位は出来るだろうよ。完治までは……まぁ1ヵ月ってとこか」

 

 珱嗄はそう言うと、すっと手を放して首をコキっと鳴らしながら部屋を出て行こうとする。

 

「ああ……その腕はサービスだ。精々感謝しろよ、ピトー」

「え?」

 

 ピトーはそう言えば折った左腕に痛みが無くなっているに気が付いた。見れば、腕が治っていた。いつのまに治療能力を使ったのか認知出来なかったが、触れなくても能力を発動する事が出来るのかもしれない。

 視線をもう一度部屋の入口に向けると、そこには既に珱嗄の姿は無かった。

 

「……ピトー」

「……うん、分かってるよ。ボクが殺したあの人間の仇討ちだよね……」

「ん?」

「え?」

 

 二人の間になにやら思い違いの雰囲気が漂った。

 

「……カイトはお前が操ってるんだろ?」

「……カイトっていうんだね………カイトはボクが殺したよ。あれは死体を操ってるだけに過ぎない」

「………は?」

「………ん?」

 

 勘違いが、今ここに解かれた。

 

「ちょっと一回詳しい話をしようか」

「分かった」

 

 立ち上がったピトーとゴンは、再度地面に座ったのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 珱嗄は、怒りではなく、自分の生き方に従って王の下へと移動していた。距離はそう遠くない、直ぐに付くだろう。近づく毎にぶつかりあう二つのオーラを感じる。だが、既に勝負は終盤の様だ。王とネテロの戦いは、まだ目視していなくても分かった。ネテロが負けている。おそらくは、ネテロ渾身の最後の一撃を放とうとしているのが分かった。

 クロゼが王に挑んだのは、珱嗄だったら面白そう、と言いながらそうしそうだったからだ。実にその通り、珱嗄は王に挑む事が面白いと思った。だから、クロゼを殺した怒りではなく、面白そうという想いに従って挑むのだ。

 

 珱嗄は地面を蹴った。そして、遂に目視する。ネテロの最後の一撃を、ネテロの念能力『百式観音』の最後の一撃、離れている此処からでも分かる、恒星の如き輝きを放つオーラの咆哮。

 

 

 百式の――――『零』を

 

 

 そしてその咆哮が止み、土煙が舞う戦場に、珱嗄は辿り着く。風が土煙を吹き飛ばし、両者の姿を露わにする。攻撃を打った方のネテロは、精魂尽き果てたと言わんばかりの、痩せこけた、吹けば崩れ落ちてしまいそうなほど弱々しい老人となっていた。見れば、王にやられたのか右足と左腕は無かった。

 対して、攻撃を喰らった側―――王は、

 

 

「見事な一撃だったぞ」

 

 

 その態度を崩さず土煙の中から現れた。無傷という訳ではないが、けして重傷という訳ではない。掠り傷が数ヵ所ある位だった。

 ネテロの渾身の一撃、百式の零。必殺にして切り札にして最後の奥義。それでも、王には届かなかった。精一杯手を伸ばしたのに、届かなかった。これが格上の相手、自分よりも武において上の領域にいる存在の実力だ。

 

「零でも……駄目なのかよ……!」

 

 既に満身創痍。身体の内に残るオーラは少なく、身体ももうほとんど動かない。情けなく座り込んでいる位しか出来なかった。

 

「ようクソジジイ、ピンチ?」

 

 そこへ、珱嗄はネテロの背後から近づき、座りこむネテロの隣に立ってそう言った。そうして初めて、ネテロと王は珱嗄の存在に気が付いた。

 

「お、お前……!?」

「お前はあの時の……久しぶりだな」

「ああ、久しぶりだねなめこ」

「………貴様、もう余は知っているぞ。そのなめこという名前の植物のことを。妙な名を付けてくれたものだ」

「あ、知っちゃったの?」

「………わしが教えた」

「馬鹿お前何してんだよ」

「あいてッ!?」

 

 珱嗄はネテロの頭を叩いた。ネテロは軽く叩かれたのに前に倒れ込んで起き上がろうともがく。だが、どうやらその力もない様だ。珱嗄はネテロに若干オーラを譲渡して、遠くに投げ飛ばした。邪魔だったのだ。ネテロは貰ったオーラでどうにか動けたのか、着地し、座りこむ。

 それを見届けた珱嗄は、王を見据えた。

 

「さて……どうやら俺の友人が世話になった様で」

「仇討ち、という訳か?」

「いやいや、そんな訳無いだろう。面白そうだからだ」

「お前もか……」

「ちょっと違うな、俺が本家だ」

 

 珱嗄は鞘に刺さった陽桜の柄を掴んだ。王は少し身構える――――が、

 

 

 王の右肩から腰の左側までが、ばっさりと切り裂かれた。

 

 

「ッ!!」

 

 王はその場を転がって、離れる。見れば、自分の身体はまだ繋がっていた。珱嗄は柄を握って、抜刀術で攻撃しようとしただけ、それだけで王は自分が両断される映像(ビジョン)をイメージしてしまった。咄嗟に転がったから良かったものの、本来ならそうなっていたのだろう。

 自分のいた場所に、大きな刀傷があるのを見れば、容易に理解出来た。

 

「あぁ、避けるかよ。全く、折角その頭のなめこ刈り取ってやろうと思ったのに。残念」

「何が残念だ………本気で余の命を奪い取る気だっただろう、恐ろしい殺意だったぞ……!」

「まぁ、抜刀術とコイツの切れ味はかなり相性が良いからな……お前のその硬い甲殻もばっさり切り裂けるだろうよ。まぁ、抜刀術限定だけど」

 

 珱嗄は陽桜を肩に乗せる。敵がいる状態での抜刀術は初めてなのだ。珱嗄は納刀を行なうことが出来なかった。そして、王が陽桜を再度鞘に入れさせる隙を与える筈もない。つまり、もう抜刀術は使えない。

 

「さて、始めようか王様………俺の足元から俺を見上げて貰うぜ?」

「ふん……まぁ良い。余も貴様を何れ倒すと言ったのだ………今がその時だ、覚悟しろ人間」

 

 珱嗄は下段に陽桜を構え、王は徒手空拳での構えを取った。そして、呼吸を読み合う。王はコムギとのゲームや、ネテロのとの戦いで掴んだことがある。

 

 それは、個には一定の流れの様な物がある。ということ。そこから、癖や好みの手、嫌いな手、それらを読み、次の手を先読みし、対処出来ない攻撃を繰り出す。王の戦い方は、必然的に先読みし、分析し、一手ずつ追い詰める様な物になっていた。

 対して、珱嗄の戦い方は自由と言って良い。自由奔放、軽快に動きまわり、型の無い自然な流れの攻撃を繰り出してくるのだ。故に、一つの攻撃をした後、その攻撃と同じものが再び行われるのはおそらく無いかもしれない。読み合いにおいて最も相性の悪い戦い方だ。

 

「読み切れるもんなら、読み切ってみな」

「ふむ……飛車角落ちと行ったところか……かなり手強いが……まぁやってみるとしよう」

 

 そして風が吹き、音を掻き消す。そして訪れたほんの一瞬の沈黙、その中で、二人は同時に動きだした。地面を蹴り、お互いの間の中心で、刀と拳がぶつかった。地面に衝撃が伝わり、空気が震えた。

 

「おおおおお!!」

「はああああ!!」

 

 陽桜と拳の甲殻が鬩ぎ合い、一瞬火花を散らした。お互いがお互いの攻撃力に後方へ吹き飛ぶ。だが、すぐに体勢を立て直す。視線が交錯した。

 そして次はもっと強い一撃を、と両者譲らずオーラを開放した。王の凶悪な噛みつく様なオーラと珱嗄の灼熱の紅いオーラがぶつかり、削り合う。そして、王の冷たい瞳と珱嗄の青黒い瞳が合った。殺意をぶつけ、鋭い眼光を持ってして自分が上だと言い張った。

 

「―――不知火」

「ッ―――クッ!?」

 

 だが、珱嗄の姿が、視線が、オーラが、一瞬で掻き消えた。珱嗄の姿を見失う王。しかし、自身の首に迫る紅い刃を捉え、上体を反らしてその刃を躱す。

 

「一閃――――続く、弐桜」

「おおおおお!!」

 

 だが、そこではまだ終わらない。王の後ろへ抜けた珱嗄はすぐさま振り返り、流れる様な動きで弐撃目を繰り出す。だが、王はその可能性を考えていたかのように反らした身体をそのまま倒し、ブリッジの要領で両手を地面に着き、飛び跳ねることで弐撃目を躱した。読み合いにおいて、珱嗄を上回ったと思った。

 

 だが、まだ終わらない

 

 

「殺す、『惨殺(ざんさつ)』」

 

 

 飛び跳ねたことで上空に浮かぶ王の身体へ横薙ぎの参撃目が襲い掛かる。これは全く予想していなかった。王は空中故に避けられない。だから、咄嗟に王は自身の尻尾を地面に突き立て、一瞬空中に停止する。そうすることで、ギリギリ参撃目が鼻先を掠めるようにして通り過ぎた。そしてすぐさま地面へ着地し、距離を取ろうとする。まだあるかもしれないと思わせるには十分な連撃。

 

 そしてその予想は当たる。珱嗄は通り過ぎた刃の勢いのまま回転し、下から上へ切り上げる様に四撃目に繋げて見せた。

 

 

「繋ぐ、『四渡(よわたり)』」

 

 

 考えた通り、とばかりに王はその四撃目をバックステップで躱した。躱すと同時に、あの灼熱のオーラが珱嗄の身体から吹き荒れたのを感じた。やばいのが来るかと身構える王。しかし、それは勘違いだった。目を放さないとばかりに、珱嗄の一挙手一投足を観察する。オーラに動きが無いかと集中する。

 

 

 珱嗄の思い通りに王は動いた。

 

 

 そして、最初の様に珱嗄の姿が消えた。オーラが消えた。気配が消えた。王は自分の愚策に気が付く。珱嗄の狙いは自分のオーラ、姿、気配に集中させることだったのだ。そうすることで、初撃の様に姿を見失わせることが目的だったのだ。つまり、

 

 

「輝く、『伍光(ごこう)』」

 

 

 まさしく視線を騙す光。珱嗄は既に王の懐へと入っていた。そして、同時に陽桜も王の腹へと突き出されている。王は初撃と同様辛うじてそれに気が付き、尻尾で地面を叩く事で通常のバックステップよりも後方へと跳んだ。伍撃目が突き切り、王は伍撃目を躱しきった。だが、珱嗄はもう一歩前へ出た。

 

「まだ――――!」

 

 突き切った刃を、王の下まで届かせ、下へと斬り下げる。当たれば腸や跳ねたことで股下から前に出ている尻尾が切り裂かれる。王はどうにかそれを躱そうと頭をフル稼働させる。結果、王は――――

 

 尻尾を犠牲にした。

 

「ぐ、ああああああああ!!」

「咲く、『六花(りっか)』」

 

 尻尾を断ち切る六撃目。王は尻尾を斬りおとされた痛みを歯を食いしばって耐え切り、ようやく地面に付いた足で反撃とばかりに、刀を下に斬り下ろしたことで隙だらけとなった珱嗄の上半身、その首へとその手刀を繰り出した。

 

 だが、この隙すらも珱嗄の狙い。王ならばこの隙を見逃さないと信じて作りあげたこの隙すらも、珱嗄の連撃の為の要素なのだ。

 珱嗄は空中へ跳びながら回転、首を狙った手刀は珱嗄の頬を掠めただけで空振り、逆に―――

 

 

「誘う、『七夜(ななや)』」

 

 

 手刀によって突き出された腕の甲殻を、回転の遠心力と、オーラで強化された陽桜が斬り砕く。腕は斬り落とせなかったが、それでも甲殻の下の腕を少し切り裂くことが出来た。反射的に腕を引く王、珱嗄はその隙に地面へと着地し、勢いよく腕を引き、尻尾を失ったことでバランス感覚を乱し、体勢を崩した王へと飛び込んだ。そして、七撃目に重ねる様に、王が引いた腕を追って、連撃を繰り出した。

 

 

「重ねる、『八重桜(やえざくら)』」

 

 

 八連撃、それによって、若干切り裂いた王の右腕を―――今度こそとばかりに、斬り落とす。

 

「ぐああああああ!!?」

 

 王は、尻尾、右腕と走る激痛と、勢いよく噴き出す血液を視界に捉え、妙に冷静になった。思考が加速しているのか、かなり多くの事を短い時間で考えられた。身体は動かない。おそらく、斬られたことで崩れていた体勢が更に崩れ、地面に倒れようとしているのだろう。尻尾が無い今、倒れれば死ぬといのに、反して体勢を立て直す事は出来なかった。

 そして、煌めく紅い刃が倒れる自分の背中と、地面の間に滑り込んできた。まさか、と思う。

 

 

「拡げる、『九扇(くおうぎ)』」

 

 

 背中が斬られ、無理矢理身体が起こされた。倒れることすら許してくれないのかと、全身に走る痛みに歯を食いしばる。

 だが、起き上がれたというのなら是非もない。王は拳を握り、せめて一矢報いてやるとばかりに、残った左拳に全てのオーラを集めた。ネテロがやった様に、全てのオーラを珱嗄にぶつけようと思ったのだ。そして、珱嗄も自身が出来る最後の連撃、十連目へと陽桜を振るった。ただ、王が伍撃目までを躱したことで、珱嗄の身体には本来以上の負担が掛かっていた。空振る、というのはその攻撃に込められた威力を支える負担を負う、ということだからだ。故に、十撃目を打てるかは、少し分からなかった。

 

 だが、打たなければ死ぬ。それほどのオーラが、王の左拳に込められていた。ならばと、珱嗄は陽桜へと灼熱のオーラを込めた。

 

 

「お………おおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 王が咆哮を上げた。右腕と尻尾を失って尚、空中に自身の血液を振りまきながらも尚、蟻の王たる覇気を持って、その拳に全力を込めていた。

 珱嗄もまた、それに応える様に陽桜へ全てのオーラを込めた。その負担に陽桜が震える。珱嗄のオーラの量と質に耐えられないのだ。

 

 だが、一回で良い。王を倒す為に、今この一撃だけ、持ってくれ。

 

 

「あああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 珱嗄も雄叫びを上げた。珱嗄の不知火の連撃、最後の十撃目――――誇る、『十桜(とうろう)

 そして、この十連撃を総称し、名付けたこの技は、『不知火:連覇』。

 

 王の拳と陽桜がぶつかる。ぎゃりぎゃりと火花を散らし続けながら、拳と刀がお互いを壊そうと凌ぎを削る。ミシミシとどちらが押し負けているのか、押し勝っているのか、分からない音が鳴り響く。拳の甲殻と陽桜は、オーラによって強化されている。故に、より強い強化を行なった方が打ち勝つのだ。

 

 

 

「「おおおおあああああああああああああああ!!!!」」

 

 

 

 混じり合う二人の咆哮が、更にオーラを増幅させた。そして、

 

 

 

 

 ―――――バキィッッ!!

 

 

 

 

 どちらかが、壊れた。壊れた破片が、地面へと落ちる。

 

「ッ……!?」

「あああああああ゛あ゛あ゛!!」

 

 壊れたのは、『陽桜』だった。拳が当たっていた陽桜の中央部から、罅割れ、折れたのだ。珱嗄のオーラによる負荷の打ち負けた要因だったが、元々陽桜の切れ味よりも、王の甲殻の硬度の方が上回っていたのだ。地力の差が、ここでも顕著に出てしまった。

 王の拳が、珱嗄に迫る。王は打ち勝った喜びを胸に、思った。これで―――

 

 

「余の、勝ちだぁぁぁぁ!!!」

 

 

 王の全てが籠った拳が、珱嗄に迫る。このままでは、負ける。いかに珱嗄であろうと、その肉体が神様製であろうと、その一撃は珱嗄の命を奪い取る最強の拳だ。

 

 

 だが、

 

 

 反射的にだった、無意識的にだった。勝手に身体が動いた。この一撃に対抗出来るだけの手を打つ為に、考えもしなかった行動を身体が勝手に取った。拳が珱嗄に当たる。

 しかし、その攻撃の威力が、空中に拡散し、無力化された――――

 

 

「な、んだと………!?」

「これは……!」

 

 

 ――――珱嗄の手に握られた、クロゼの遺品。『黒珱』の鞘によって。

 

 


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