◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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珱嗄×降臨

 ネテロと王は、宮殿から離れた。人のいない、二人が存分に暴れられる場所へと、移動していった。その事は、ゴン達と護衛軍の両陣営に、メリットとデメリットを一つずつ与えた。

 

 ゴン達にとっては、王が離れたことで、護衛軍との戦いに王が介入してくる可能性が無くなったことがメリット。護衛軍にとっては、王が離れたことで、王の事を気にせず全力を出せるというメリット。

 そして、その二つのメリットはお互いにとってデメリットと化す。

 

 戦え、拳を握れ、オーラを振り絞れ、そうすることで、敵に喰らい付き、最後に立っていた者が勝者だ。人間と、蟻。二つの種が衝突し、勝利した方がこの世界において頂に座する王となる。人間が勝てば今まで通りの秩序と安寧と偽りの平和を、蟻が勝てば今まで以上の恐怖と絶望と痛い現実を、生き残った者が味わうことになる。それが、人間であろうと、蟻であろうと、同じこと。

 つまりは戦い続けなければならない。お互いが、滅びるか、お互いが、戦いを止めるまで。

 

 これが種の削り合い、食物連鎖の頂点を奪い合う戦いだ。

 

「ああああああああああ!!!」

「おおおおおおおおおお!!!」

 

 魔獣と蟻の混合種、王直属護衛軍が一角、モントゥトゥユピーと、ハンター協会が用意した刺客、ナックルとシュート、この両陣営の戦いは圧倒的にユピーの優勢だった。それが例え、二対一の戦力的不利な状況であってもだ。

 ナックルの念能力、『天上天下唯我独損(ハコワレ)』の効果は、殴った相手にポットクリンという一種の取り立て屋を取り憑かせ、一定時間毎にナックルのオーラを貸し付けるというもの。そして、その貸し付けていくオーラが貸し付ける相手の許容オーラ量を超えた時、相手を強制的に30日間絶状態にする。ナックルはこの時点で、ユピーにポットクリンを取り憑かせることに成功していた。

 

 だが、

 

 ユピーの許容オーラ量が圧倒的に多過ぎる。未だユピーがポットクリンによる限界オーラ量の貸付けに至る様子は無かった。だからこそ、ナックルとシュートは焦っている。このままではユピーをトばすことなく自分達の方が敗北してしまうからだ。

 

 だが、まだユピーはポットクリンの意味に気が付いていない。気付かせる訳にはいかない。そうなると、まずポットクリンの方をどうにかしようとされるからだ。それだけは回避しなければならない。

 だから、立ち上がる。何度でも、何度でも、ナックルが意識を失わない限り、ポットクリンは消えない。足を奮い立たせろ、拳を握れ、ユピーを睨みつけろ、噛み付く様に、喰らい付け。

 

 両者は咆哮を上げ、お互いの攻撃を繰り出し続ける。

 

「お―――――っらァアアア!!」

「ギャッハハハハハハァァァァァ!!!」

 

 ナックルの拳を受けて、ユピーは笑う。全く堪えていない。だが、その一撃で更にオーラを貸し付ける。ポットクリンが貸付数値を更新した。

 

「ハハハハハ! 随分と拳に力が入ってねーぞ人間! もう限界か!?」

「グ……フ………はぁ……はぁ……ふざけたこと抜かしてんじゃねーぞデカブツ……!」

「アン?」

「まだまだこれからだろうが……! ハハハ……! オラ、続けようぜ」

「ハッ、根性だけは認めてやるよ、じゃあ死ね人間がァァァァァ!!」

「掛かってこいやぁああああああ!!!!」

 

 ナックルとユピーが自身のオーラを開放し、拳と変化する肉体を衝突させる。お互いの命を奪う為に。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 その頃、ゴンはコムギを治療しているピトーの下へとやって来ていた。ピトーは治療している間、念を使えない。だが、王の命令であるコムギの治療は最優先だ。これは、どう見てもピトーの絶望的不利な状況だった。

 

「……俺を覚えているか」

「………君は……」

「俺はゴン! カイトを救いに来た!」

「……!」

 

 ピトーはゴンが怒っていることを理解し、カイトという名前から、自分が殺したあの男の知り合いかと考えた。だが、ピトーはゴンの事を覚えていなかった。あの時は直ぐにゴンはキルアに連れられてその場を去っていったし、ピトー自身珱嗄の事を考えていて周囲を気にかけていなかったからだ。

 

「……そうか、君はあの人間の」

「お前を、殺す……!」

「………君も、誰かを想って此処に来たんだね。王や、これを託してきた人間と同じように」

「……何を言ってるんだ、お前……!?」

 

 ゴンは既に感情が昂ぶっていて、ピトーを倒す事しか頭にない。なのに、ピトーは何時まで経っても戦闘態勢を取ろうともしない。それが余計にゴンの勘に触った。

 

「ボクはこれまで誰かを想う心の強さに触れて来た。死をも恐れないその想いの強さは、自身の死を持ってしても覆らない……」

「だから何を言ってるんだよ!! いいから俺と戦え!!」

 

 ゴンはピトーの言葉に苛立ち、オーラをその身体から噴き出した。そのオーラの強さは、ピトーの言葉を確証付ける様に強く、猛々しい。

 

「……悪いけど、ボクは今君と戦う訳にはいかない」

「!?」

「彼女を治しているんだ。だからせめて、彼女の命が助かる所まで治させて! その為なら、なんだってする!」

「な……な……何を………!」

 

 ピトーはゴンが動揺しているのを見て、自身の言葉を本当だと思って貰う為に、その右手を左腕に添えた。

 そして、

 

 

 ―――バキッ

 

 

 折った。部屋に響くその音が、呆気なく骨が折れた事を伝えた。ゴンは、ピトーの折れ曲がった左腕に、目を見開いて驚く。そして、ピトーがコムギを助けたいという気持ちが本当のモノだという事を、嫌でも思い知らされた。

 だが、それでも納得出来なかった。見たところ、治療されている少女は蟻ではなく人間だ。つまり、蟻が人間を救おうとしているのだ。

 

 

 ならば、何故。何故だ。

 

 

「ならなんでカイトをあんなふうにしたんだよッッッ!!! おかしいだろ!! なんでそいつだけ!!!」

 

 ゴンの表情は崩れていた。あまりの理不尽さに、耐えきれなかった。何故カイトはあんな無残な姿にしたのに、コムギの命は救うのか、理不尽すぎる。

 息が切れる程に、地団駄を踏む。感情が揺れて、情緒不安定になってしまう。

 

「ッ……!」

 

 だが、そんな叫びは直ぐに落ちついた。ゴンの雰囲気が変わる。先程の情緒不安定な様子からは考えられないほど、ゴンは落ちついていた。というよりも、目が据わっていた。

 

「―――その子を治すまで、どれくらい掛かる?」

 

 ゴンの問いに、ピトーは少し戸惑ったが、余裕のある時間を答えた。

 

「……3時間位」

「1時間だ」

「!?」

 

 ピトーはゴンの言葉に目を見開いた。ピトーの治療能力は、かなり成長していた。故に、コムギの治療にかなり早い時間で対処出来る様になっていた。その時間は、良く行って1時間。ゴンはそれを知っていたかのように口に出した。

 

「………っ……分かった……!」

 

 ピトーは頷いて、治療に専念する。ゴンはその場に座って、時が過ぎるのを待った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 時間が過ぎる。ゴンとピトーが沈黙の中、治療をしている時も、ユピーとナックル達が凌ぎを削っている時も、刻一刻と、1秒、また1秒と、時間だけは進んで行く。

 

 

 だが、

 

 

 そんな時、一瞬の戦いの中、その場にいる全員が感じた。ゴンが、キルアが、ナックルが、シュートが、モラウが、ピトーが、ユピーが、プフが、時の流れが遅くなったのを感じた。世界がスローモーションに感じた。空気の流れが遅くなり、宙に浮かぶ塵や埃ですらも視認出来るほど、世界がゆっくりと進んでいる様に感じた。

 

 全員が、自分と周囲の相手の動きが鈍くなったのを自覚した。そして、次の瞬間――――

 

 

 

 ――――全員が地面に押し潰された。

 

 

 

 正確には、全員が得体の知れない重圧に触れて、地面に倒れ込んだのだ。起き上がれないほど濃く、重い威圧感。なんだこれは、意味が分からない。どうなっているのだ。

 

「これは………どういう……ッ!?」

 

 誰かがそう漏らした。その言葉は、その場の全員の思っていること代弁していた。この場の全員が状況の理解を求めていた。

 そして、その原因は直ぐに分かった。宮殿の真上、上空から―――

 

 

 灼熱の大気と共に、

 

 

 紅い煌めきと共に、

 

 

 青黒い瞳に宿る怒りと共に、

 

 

 

 

 ――――泉ヶ仙珱嗄が、隕石の様に降りて来た

 

 

 


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