◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
東ゴルドー共和国宮殿に降って来たのは、大きな龍だった。最初に気が付いたのはピトー、そしてその龍は拡散し、大量の小さな龍となって、あたかも流星群の様に降り注いできた。
だが、ピトーはその一つ一つを対処出来るだけの能力を保有してはいない。故に、その龍に混じって降ってくる、老練の戦士を見つけ、最大の危険の排除に務めた。
龍に混じっていたのは、ネテロだった。ハンター最強とまで言わしめた、まさしく老練の戦士だ。あのハンター試験で初めて会った頃の珱嗄と戦えば、おそらく負けることは無いだろうという程に、強い。全盛期の勘を取り戻した姿が、そこにあった。
ピトーはその脚力を最大限にまで活用し、飛び上がる。ネテロの間合いにまで一瞬で飛び込んだ。
だが、ネテロとピトーが肉薄するまでのほんの一瞬、一刹那の間に、聞こえた。
「そりゃ悪手だろ、蟻ん子」
瞬間、ピトーは空中で何かに吹き飛ばされた。強烈な一撃の下、吹き飛ばされた。このままでは数㎞先へと飛んでいくのではないかと思う程に、強烈で強力な一撃。だが、そんな遠くまで飛んで行く訳にはいかに。ピトーはカイトの死体弄りに使った『
だが、そんな事をしている内にネテロは王のいる宮殿へと落ちていく。ピトーはこれは不味いと焦った。王が負けるとは考えないが、それでも危険と感じるほどにはネテロという人間が強いと思ったからだ。
「――――んにゃあッッ!!」
取り出した人形を蹴って、すぐさま能力を解除する。その勢いでネテロに追い付いたピトーは、背後からネテロに爪を立てた。
しかし、ネテロもそれに気付いている。奇襲というには、程遠い。
「喰らい付いてきたのは見事、じゃが――――」
「ッ!?」
「まだまだ、青いな」
ネテロはピトーの腕を掴みとり、そのまま背負い投げの要領で自分の下へと位置を変える。必然的にネテロを見上げる形となったピトーは、その時に一瞬だけ見た。
「とりあえず転がっとけ」
その言葉と同時に繰り出された、大きな『掌』を――――
轟音と共に、ピトーは再度吹き飛ばされた。その際、先程より衝撃を感じなかったのには疑問を抱いたが、地面に向かって吹き飛ばされるのを感じたピトーは、すぐさま体勢を立て直そうとする。
しかし、その速度はあまりに速く、着地体勢を取る前に地面に衝突した。
「ぐ………うぅ………!」
この時のネテロの誤算としては、ピトーの意識を完全に削り取るつもりの一撃だったのに、その考えに反してピトーの意識がまだあったことだ。
その理由としては、ネテロの『掌』による攻撃を、あるものが防いでいたことが大きい。
「……っ痛~……でも、さっきよりは痛くない……なんで……って……コレ……?」
ピトーは頭を擦りながら起き上がり、浮かんだ疑問を考える。すると、自分の手に何かが握られていた。それは、クロゼの遺品。黒い棒状の品だった。あの一瞬、ピトーはがむしゃらにこれを掴み、掌と自分の間に挟んだのだ。そのことで、おそらくこれが掌を防御したのだろう。
その証拠に、今ピトーが感じているのは地面への衝突によるダメージだけだ。あの強烈な一撃を防御し切るその耐久力、ピトーはこの品の凄まじさを思い知った。
「あの人間の遺品、か……人間の感情って凄いね……」
ピトーは立ち上がり、その遺品を大切に持ちながら宮殿に走る。少しばかり距離のある場所へと落とされてしまったが、この距離なら直ぐに駆け付けられる。ピトーは出来る限りの速度で、宮殿へと走りだした。
◇ ◇ ◇
流星群と同時刻、ゴン達もまた宮殿内に侵入していた。ゴン達の仲間の一人に、空間と空間を移動する事が出来る念能力者がいるのだ、それで宮殿内へと侵入したのだが、
「!」
そこには運悪く、ユピーがいた。即時戦闘になるのは必至、両者とも、お互いの遭遇に一瞬硬直した、だが、
ゴンとユピーだけが、敵を見ていた。
「ああああああ!!」
「ハッハアアアアアアア!!!」
ゴンがユピーの攻撃を抜けて、後方へと抜ける。それを見て、他のメンバーも我に返った。ゴンに攻撃が向かない様に、ナックルとシュートが足止めとなる。キルアもその隙にゴンを追った。
向かうは王のいる部屋、だが、ゴンの敵はあくまでもピトーだ。カイトを殺した張本人で、ゴンにとってはカイトを救う為に倒すべき相手、キルアはそんなゴンに少しだけ心配を抱きながら、ゴンの後ろを走り続けた。
◇ ◇ ◇
王はそんな戦闘が起きながらも、少女……コムギとゲームを続けていた。のだが、コムギが流星群によって負傷した。ゲームは強制的に中断される破目になったのだ。
そして、そこへネテロと流星群を降らしたゼノが入って来る。この二人がハンター協会の用意した王に対抗出来る最高の人材だ。片や最強の殺し屋、片や最強のハンター……これ以上ない組み合わせだ。
「……これが王か……」
「……成程、中々手強そうじゃわい」
その言葉に、王は答えない。倒れたコムギを抱き抱えながら、得体のしれない怒りを感じていた。自身の勝てない相手、ゲーム……軍議と名のついたゲームにおいて、未だ勝てない少女が、こんなにも簡単に息絶えようとしている。自身が勝てないまま、自身より上のまま、死のうとしている。
そんなのは、許さない。その怒りは、入ってきたネテロとゼノに向けられた。
「「!?」」
「王!」
「……ピトーか」
そんな部屋に、一足遅れてやってきたのは、ピトー。そしてピトーは部屋の状況を見て、すぐに状況を理解した。
「ピトー、コムギを治せ。頼んだぞ」
「! ………はい!」
ピトーは王のコムギへの慈愛の念を感じた。その表情の一切に曇りは無く、純粋にコムギを想う王の姿があった。そして、その姿を見たピトーは人知れず涙を流した。これが、これが誰かを想う心か! と、鳥肌が立った。故に、すぐさまコムギに近づき、治療を開始する。幸い、まだ怪我を負って時間は経っていない。頑張ればどうにか命を繋ぎとめることが出来そうだった。
「……さて、貴様ら……ここでは戦いづらいだろう。場所を移すか」
王はそう言って、二人の間を歩いて抜けた。ネテロとゼノは、気付けなかった、王が自分の横を当然の様に通り過ぎた事を。そして、背後に抜けた後に、気が付いた。純粋に、実力の差を感じた。これがキメラアントの王。世界に脅威を齎す蟻の王にして、最強の怪物だ。
だが、しかし
「アイツに比べれば……屁でも無いのォ」
「ゼノ? アイツとは誰じゃ?」
「ふん、お前も知っとる男じゃ。奴め、わしに随分と深い傷を残して行ってくれたわい……治るまでの3ヵ月ちょい、動く事も出来んかったわ」
カカッと笑うゼノに、ネテロは思い出す。ハンター試験の時に会ったあの男の事を。珱嗄の事を。あのゆらりと笑う、最高の原石の事を。アレから半年以上経っている、ゼノを倒す程に強くなったとしたら、それはかなり大きな希望となるだろう。
「わはは、それはまた……緊張感を和らげるには最適の文句じゃったな」
ネテロも笑い、そして歩きだす。王に付いていくように、歩きだす。これから起こるのは、ネテロと王の一騎打ちだ。ゼノはここで護衛軍やキメラアントと戦うのだ。
ここに、ハンター協会の切り札とキメラアントの王の決戦が、始まろうとしていた。
泉ヶ仙珱嗄は、まだ現れない