◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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決戦×開始

 カイト、クロゼと強力な実力者が死んでから、既に一月が経っていた。それぞれがそれぞれの想いを持って、様々な準備をしていたのだ。

 王達は拠点を手に入れ、人間達という餌を捕食し続け、自身らを強くしていた。王の目的としては、珱嗄を殺すことである。ピトーはとりあえず、クロゼの遺品である布に巻かれた棒状の品を常時持ち歩きつつ、周囲の警戒を担当していた。そんな中で、王は現在進行形で様々なゲームを行っていた。各国に存在する、ゲームの上手い人間を攫い、対決するのだ。そうすることで、王は相手の思考を読む、といった先読みと展開の作成能力を大きく向上していた。

 ハンター協会側は、カイトの救出が未だ不可能と考え、術者であるピトーの打倒や王の打倒を目的として、まずは個々の実力の上昇に務めた。頭脳班は東ゴルドー共和国宮殿に乗り込む方法や、相手の実力、そして攻略方法を練る。全ては、キメラアントの王を倒し、世界に平和を齎す為に。

 そして、彼らは王の下へと向かう。

 

 そして、そんな二つの勢力をおいて、珱嗄という人間は、どうしているかというと、

 

「―――」

 

 ただひたすら、陽桜を振っていた。オーラを放出しては、斬撃に乗せる。自身の限界のその先、最も強力な一撃を打てるように、修行に励んでいた。確実に王を殺せるまでの実力を手に入れる為に。

 

「不知火……!」

 

 また一つ、灼熱のオーラが刀に乗って、空気を断つ。初撃は連撃となり、二連、三連とその攻撃の回数を重ねていく。珱嗄の頬から大量の汗が流れ、動きに合わせて宙に舞った。そして、十連撃目を振り終えた時、珱嗄の手から不知火が落ちた。見れば、手の皮がすりきれて、血が滲んでいる。一ヵ月近くずっと振り続けた結果だ。思えば最後にまともな食事をしたのは何時だったかと思った。クロゼの死を受け入れて、それからずっと振り続けているのだとすれば、一ヵ月近く何も食べていないことになる。そう考えると、珱嗄のオーラの量が膨大なモノだというのが分かった。

 

「チッ……」

 

 珱嗄はとりあえず、陽桜を拾って、手近な岩に座った。着物の袖で汗を拭う。そして、呼吸を整えた。

 

「ふぅ……取り敢えずは十連撃はモノに出来た……何回打っても大丈夫そうだ……だが、これでもまだ王を殺せるかは分からない、『新たな不知火』を考えないとな……せめてもう一本陽桜があれば連撃数も上がるんだけどな……」

 

 ずっと前から考えていた。陽桜の二刀流。この切れ味の刀がもう一本あれば、連撃数はおそらく倍に跳ね上がる。通常の不知火だけで、二連撃の攻撃になるのだ。それだけでかなりの強化となるだろう。

 だが、無い物ねだりをしていても意味が無い。珱嗄はこの陽桜一本で出来る新たな不知火を思考していた。

 

「この連撃の不知火を不知火『連覇』と名付けるなら、今度は一撃に全力を注いだ不知火を……」

 

 珱嗄は考える、更なる強さを。珱嗄は求める、更なる力を。

 

「どうするかな………」

 

 呟いた言葉は、珱嗄の不知火で生み出される灼熱のオーラで高熱となった大気に、溶けて消えた。

 

 

 ――――決戦の時は近い

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 それから、更に二週間程が経った。この日が決戦の日だ。王達はなんとなく、ピリピリした空気を感じていた。

 宮殿の中で、王は一人の少女ととあるゲームを繰り広げていた。恐るべきことに、王はこの少女にだけ勝利する事が出来ないでいた。時刻は既に日を跨ごうとしている。王も少女も、集中している。

 

「………」

「………」

 

 パチ、パチ、と、駒を進める音だけが部屋に響いていた。それを見つめるのは護衛軍の中でも王に最も心酔しているプフだ。ピトーは外への警戒、ユピーもまた同様に宮殿内に侵入者がいないかと見回っていた。

 そんな中、ピトーに視点を向けてみると、ピトーは少しだけ複雑そうな表情を浮かべていた。というより、どこか退屈そうだ。現時点の状況をつまらないと感じている様な表情だった。

 

「あふ………退屈だにゃ~」

 

 珱嗄に一度強要された事もある語尾を使って退屈な欠伸を一つ。そして、人の影すら見えない変わらぬ光景を眺め続ける。ここ最近で広げている円にも、反応はなかった。

 

「…………なんか足りない」

 

 ピトーは、自分の生活に、何かが足りないと思っていた。思えば、珱嗄がいた頃はとても楽しいと感じていた。王が生まれる前の短い期間だったけれど、珱嗄との日々はおそらく、一番刺激的で、一番楽しくて、一番退屈していなかった日々だった。

 だから、今この時、珱嗄が傍にいない時間が、つまらない。例えるなら、携帯を失った現代人の様な気分だった。

 

「……なんであの人間は、あそこまでオウカを想えるんだろう」

 

 気まぐれに、暇潰しで思い出したのは、クロゼの事だった。王にその一撃を届かせた男、そして他ならぬピトーに珱嗄への遺志を託した人間。今もその想いは、ピトーの手の中に残る棒状の品に籠っている。その品に宿る並々ならぬ純粋なオーラの気配が、それを悟っていた。死んだあとにも残るオーラの遺志というものの凄まじさを語っていた。

 

「ボク達の価値観で言う、王が……あの人間にとってのオウカだったのかもしれないね」

 

 ピトーは呟いて、その品を布から取り出す。まるで繊細な芸術品を扱う様に、優しく触る。その感触は、なめらかなで、色は黒く、艶のある漆色。特に装飾は無いが、微妙に反りかえった棒だった。ピトーにはそれが何か分からないが、純粋なオーラの塊故に、珱嗄にはその使い方が分かるのかもしれないと考える。そして、少し魅了された様に眺めた後、布に再度収めた。

 

「それにしても、暇だなぁ……」

 

 呟く。瞳を閉じて、ため息をついた。そして、その瞳をすっと開く――――

 

 

 

 

 瞬間だった

 

 

 

 

 空から、龍が振って来た

 

 

 

 

 

 


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