◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄が地球を斬った頃、王達は東ゴルドー共和国の宮殿を襲撃し、乗っ取っていた。新たな新拠点を手に入れたのだ。そして、その事実はハンター協会側にも知れ渡っている。
珱嗄、キメラアントとは別の、第三勢力であるハンター協会だが、主にゴンやキルア、それに二人と共にこの拠点へと乗り込む算段を付けている協会側の人物、体格が良く、サングラスを掛けているモラウという男やゴンとキルアに修行を付けた不良姿のナックル、着物姿のシュートが主力だ。
王の誕生以前にピトーを遠目に見て恐怖した人間は、少なくない。正直言って、勝算はかなり低い。今この瞬間にも自身のオーラを練っているネテロが来れば、少しはまともな戦いになるだろうものの、今は自分たちだけでどうにかしなければならない。
またそれとは別に、珱嗄の事を気にかけているゴンとキルア。彼がいれば、王はまだしも護衛軍三人位簡単に倒してくれるのではないかと思っていた。
「だがよー、そのオウカって奴はあの女王の死体があった拠点にはいなかったんだろ? しかも、あそこには人間の骨が腐るほどあったんだ……だったら、そいつは……」
「…………」
「ゴン………ああ、分かってるよナックル……俺達もオウカが生きてるとは思ってない。もし生きてたとしても、助けに来てくれるなんて期待はしてない……」
「……なら良いけどよ」
それでも、キルアは珱嗄が死んだという可能性の大きさを、受け入れられないでいた。生きている可能性を望んでいた。生きていて、欲しいと。
「話は終わったか?」
「ああ、悪ぃな。モラウ」
「ならいい。そろそろ目的地だ」
「カイト、本当に大丈夫なの?」
ゴン達はカイトの下へ向かっていた。実の所、カイトは既に死んでいるのだが、珱嗄と過ごしていたピトーが時間の合間を縫って蘇生させたのだ。いや、蘇生は出来なかったのだ。精々、首と身体をくっつけて、操り人形の様にしただけだ。そして、その人形と化したカイトを外へと放った。結果、ハンター協会側が拘束した、という訳だ。
だが、ゴン達はそれを操られているだけでカイトは生きていると判断したのだ。
「……大丈夫、というには少し異常事態だな」
「どういうこと?」
「カイトは今……敵の術中にある」
「!?」
モラウが扉を開け、そしてその先にいたのは、キルアの修行を付けたシュート。純和風な姿着をしている。そのシュートの後ろには大きな小さな檻があった。
「………?」
「この檻の中に、カイトはいる」
「!?」
「気をつけろ、この先にいるのは……カイトではない、別の生き物だ」
ナックルがそう言う。そして、シュートは檻を開けた。その中から出て来たのは――――
満身創痍で光を失った眼をした、カイトだった。
◇ ◇ ◇
時間は少し遡る。まだ、プフやユピーが生まれて無かった頃の事だ。珱嗄とピトーは名前のやり取りで中々上手くやっていたのだが、ある時ふと珱嗄がカイトの死体に気が付いた。
「あれどうすんの?」
「にゃー……生き返んないかなぁって捨てられず……」
「何故?」
「オウカと違って手頃に強かったから、もう一回戦いたいなぁって思って」
「手頃に強いって新しい言い回しだな。今度俺も使ってみよ」
そんな会話をする二人だが、これがきっかけでカイトを生き返らせる話になった。とはいえ、特に思い付かないのがこの話の問題を大きいものだと認識させる。
「とりあえず寝てる奴を起こすみたいなやってみようぜ。コイツは死んでいないんだよきっと」
「そうだね、死んでない死んでない」
珱嗄はとりあえずカイトの生首を胴体に無理矢理ひっつけることにした。その辺にあった木の棒を切断面に突き刺し、仮縫い的にひっつけた。
「よしまずはお決まりの顔に落書きだな」
「うん」
「とりあえずでこに肉って書こう!」
「ほっぺたに猫の髭書くよ!」
「じゃあ俺鼻の下にちょび髭書くし!!」
「じゃあボク瞼に目を書くよ!!」
わいのわいのと顔に落書きしていく珱嗄とピトー。最終的にカイトの顔は凄まじい程に馬鹿げたものになった。
◇ ◇ ◇
ゴン達はカイトの顔を見て戦慄する。そこには酷い落書きがあった。
「カイトの顔……なんであんな風に!?」
「俺達があった頃はもうあんな風だった……きっと、キメラアントの奴らがやったんだろ……!」
「ひでぇ……戦えないカイトをあんなふうに弄んだのかよ……!」
◇ ◇ ◇
「さて、次はどうするかな」
「ゆすり起こしてみる?」
「そうだな、転がすか」
珱嗄とピトーはそう言ってカイトを起こし始める。まずはピトーがカイトの胸に手を置いて揺すった。だが、それでは起きない。当然だ。
すると、珱嗄は立ち上がり、ピトーをどかした。疑問の顔を浮かべるピトーを尻目に、珱嗄は自信満々な表情を浮かべていた。
「あの顔……何か良い策があるんだね……!」
「そんなんじゃコイツは起きない。なら、もっと強い力で起こしてやるんだ」
「なるほど………つまり!」
「こうするんだ!」
ゲシゲシ! と珱嗄はカイトの身体を蹴り飛ばした。転がる身体、追いかけるのはピトーだ。カイトの身体に追い付いたピトーはカイトの足を掴んで振り回し、地面に叩き付けた。
「オラッ!」
そして地面に叩きつけられて一瞬空中に跳ねたカイトの身体を珱嗄が再度蹴った。その辺りからメキメキと嫌な音がしていた気がする。
それから、おおよそ1時間ほど珱嗄とピトーによる
◇ ◇ ◇
そして、ゴン達は落書きされた顔からカイト全体を見る。そこには、酷い打撃痕や変な方向に折れ曲がった腕が見えており、まさしく重傷の身体があった。
「カイトは戦えなくなってからかなり蹂躙されたようだな……酷い傷だ……おそらく、死んだ後も攻撃され続けたのだろう……」
「ここまでやるのか……! キメラアントって奴はよぉ!!」
「カイト………!」
ゴン達が悲痛な声を上げる。カイトの健闘とその後の扱いに、沸々と怒りを感じた。
◇ ◇ ◇
そして、一通り殴ったり蹴ったりした後。珱嗄達はそれでは起きないことに気が付いた。
「これだけやってもだめか……!」
「どうするの?」
「んー……ああ、目を開いた状態で固定すれば起きるんじゃね? ほら、目がカッサカサになるから」
「ああ、まばたき出来なかったら不快感で起きるかも」
珱嗄とピトーはカイトの瞼をこじ開け、固定した。ぎょろっと剥き出しになるカイトの眼球。死んだ瞳が珱嗄とピトーを見ていた。若干気持ち悪いモノを見た風な反応をする珱嗄とピトー。
「起きないな」
「起きないね」
少し待ってもカイトは起きない。そりゃそうだろう。死んでいるのだから。この死人に鞭打つ作業は何処まで続くのだ。
「……もう念能力でそういう能力創れば良いんじゃね?」
「あ……そうだね」
珱嗄の提案で、ピトーは今気付いたという風に頬を掻いた。そして、そういう能力を創る。傷を癒し、怪我を修復する能力を。
そうして出来上がったのが、『
「とりあえずこれで首を繋げちゃうね」
「おう」
そして、その人形は直ぐにカイトの首を身体にひっつけた。そして治し終わった後に気付く。
「あ……木の棒入れっぱなし」
「あ」
カイトの首を辛うじてくっつけていた木の棒が胴体と首に埋まったまま繋がってしまった。少しの沈黙と気まずい雰囲気が場に流れる。
だがしかし、
「ま、いっか」
「だな」
二人は特に気にしなかった。その後、この能力では人の蘇生は不可能だと察した二人は、結局死体を操るという結論で妥協することにしたのだった。
◇ ◇ ◇
そして、ゴン達はカイトの首の不自然な膨らみに気付く。まるで何かが埋まっている様な感覚だった。
「あの首、何か埋まっているな……もしかしたらそれがカイトの身体を操作している原因かもしれないな」
「棒みたいなものかな?」
「ああ、少なくとも首の付け根から顎下の辺りまでの長さだ」
「それを取り出せれば」
「カイトは助けられる!」
ゴン達はそうして、決意の表情を浮かべ、カイトに向かい合う。そして、カイトに戦いを挑むのだった。