◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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クロゼ×遺恨

 王が生まれ、ボク達は拠点を後にした。向かう先は、特に決めていないけれど、王が王であれる広い拠点を手に入れるつもりだ。その道中で、幾つか人間を殺した。王が満足する様な美味い人間には出会えなかったけど、王の放つオーラに少しだけ活力が加わったから、脆弱な人間でも王の糧になったみたいだ。

 それは喜ばしいことだ。だけど、なんでだろうか、少しだけ前の拠点の方が気になっている自分がいる。いや、多分違う。オウカのことが気になっているんじゃないかな。プフもユピーも、それは同じみたいだ。さっきからちょくちょく来た方へ視線を送っている。

 なんでこんなにオウカが気になるんだろう。考えても分からないけど……まさか寂しいのかな、ボクやプフ、ユピーは。……いや、そんなわけない。たかが人間にそこまで感情移入してしまう筈が無い。どうせ、名前を最後まで修正出来なかったことが悔やまれているのだろう。きっとそうに違いない。

 

 王が何れ殺すと言っていたけれど、それでも今はまだ生きているのだ。生きているのなら、また会えるだろう。その時、ボクは彼が殺されるのを黙って受け入れられるかは、考えないことにした。

 

「よう、王様」

 

 そうして考えていると、目の前に黒髪に黒いコートを着た人間が立ち塞がった。オーラを見なくても分かる、この人間は――――美味い(レアモノ)

 それはボクだけじゃなく、王やプフ達も分かったらしく、薄く笑みを浮かべている。オウカほどではないけれど、この人間を食べれば大幅に強くなれるだろう。

 

「ふむ、貴様は何をしに余の前に立つか?」

「悪いね、唯の野次馬根性だ。王様、此処で死んでくれ」

「ほぉ……言うではないか、人間の癖に粋がるな」

「ハッ、そういう性分なんでな。さて……」

 

 人間は手に持っていた布に巻かれた棒状の何かを地面に突き立てて、拳を合わせた。オーラの量は少ないけれど、拳の中で循環し続けるオーラがその拳を強化し続けているのが分かった。時間を掛ければ掛けるほど、その威力は格段に上がると思う。とんでもないオーラの精密操作能力だ。

 

「楽しもうぜ」

「ふん、まぁいいだろう。折角のレアモノだ、余が自ら料理してやろう」

 

 王が前に出る。その際、ボク達の方を見て、言外に手を出すなと伝えて来た。ボク達はその命令に従うべく、少し後ろへ下がる。確かに時間が長引けばあの拳は王やボク達の身体を貫く威力になるかもしれないけれど、王がそんな事態になるまで時間を掛けるとは思えない。王の勝利は確定的だった。

 

「では行くぞ」

「―――チッ!」

「ハハ、遅いな」

 

 人間に急速接近した王は、一瞬でその距離を詰めた。人間の方は速度の速い動きに慣れてでもいるのか、一瞬遅れて反応した。王の拳を身体を回転させて躱す。だが、

 

「ガッ!?」

「貴様達人間とは身体の造りが違う」

 

 王はその尻尾を使って自身の横に移動した人間の腹を打った。転がる様に吹き飛ぶ人間は、すぐさま体勢を立て直した。ダメージを負って尚乱れない拳のオーラ操作は、正直驚愕だ。

 

「む……?」

 

 王の怪訝な顔。見れば、尻尾から血が出ていた。あの打ち飛ばされる一瞬で、尻尾を殴ったのか? だとすれば、その喰らい付きの強さは、死に物狂いともいえるだけの全力さが感じ取れる。

 

「こんどはこっちだ!」

「フン、特に痛くも痒くもない」

「おおおおおお!!」

「!?」

 

 王に接近する人間の姿が、一瞬にして掻き消える。何処に行ったかと探すと、既に人間は王の背後へと入っていた。そして、その拳を王の背中に叩き付ける。鈍い音が鳴り響くが、あの程度の強化では王へダメージを与えることは出来ない。はずだった。

 

「ガッ……はぁあ!?」

 

 王が血を吐いた。驚愕に目を見開く。そこまで威力があったというのだろうか? あの拳には、オーラや筋力といった要素以外の何かがある。

 

「ゴホッ………なるほど、その技術……見上げたモノだな……」

「一撃で見抜くかよ。とんだ化け物だな、本当に」

「貴様が弱いだけだ。時間は掛けられない、そろそろ終わらせて貰うぞ」

「は?」

 

 王が口元の血を拭って笑う。オーラが身体から膨れ上がり、その身体を極限まで強化した。おそらく、ボク達護衛軍三人の総力をもってしても届かない程の大きなオーラの奔流。そんな量のオーラで強化された王は、その状態のまま口を開いた。

 

「貴様、名は何と言う?」

「………クロゼ、お前らがここ数日一緒にいたオウカの友人にして一番弟子だよ」

「ほぅ……なるほど、奴のか……どおりで」

「本当は逃げるつもりだったんだけどな………俺ってばオウカに憧れちゃってるからさ。動かずにはいられねーんだよ」

 

 クロゼ。それはオウカがボクに最初に会った時に口にしていた名前だ。確かに、彼はオウカの友人なのだろう。だとすれば、此処で彼を殺せばオウカが怒るかもしれない。怒れば、王以外対抗する事は出来ないだろう。あの紅い輝きを放つ刀の切っ先が、ボク達を射抜くことになる。

 

「……ま、此処で俺が勝てるとは思ってない」

「ならば何故此処に来た?」

「面白そうだから、それだけだ」

 

 オウカなら、きっとそう言うだろう。それはボク達護衛軍は直ぐに思い立った。それでも此処に来た、というのなら、正真正銘、頭がおかしい。オウカにどこまでもそっくりで、どこまでもかけ離れている。

 

「ああ、そこのネコー」

「ピトーだ。なにかな?」

「あそこに立てた棒きれだが……俺が死んだ場合、オウカの馬鹿に渡してやってくれねーか?」

「……なんでボクがそんなことしないといけないのかな」

「わはは、お前が一番オウカと付き合いの長いキメラアントだからかね。ま、気が向いたら頼むわ」

 

 クロゼと名乗った人間は、そう言ってカカッと笑った。本当に楽しそうに、此方の事を見通している様な瞳で、穏やかに笑った。

 

「さて、行くぜ王様。いや、なめこ」

「ああ、掛かって来い。貴様の血肉を余の糧として、あの男を殺してやろう」

 

 クロゼと王が腰を落とした。見れば、クロゼの拳で循環していたオーラが急速にその循環速度を上げた。その威力が急激に上昇する。そのオーラから考えられる威力は、おそらく王に届き得る牙。

 対して王は膨れ上がったオーラを更に増大させて強化を施した。

 

 両者が構え、呼吸を読み合う。

 

 

 まだ。クロゼの頬を汗が流れる。

 

 

 まだだ。王が息をふーっと吐く。

 

 

 そして、段々と二人の呼吸が合わさっていき、

 

 

 

 今!

 

 

 

 両者は地面を蹴った。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「はあああああああああ!!!」

 

 クロゼはその拳を振り絞り、王に向かって振り抜く。その目指す先は、心臓。だが、その拳は当たらない。王はその拳を軽く打ち払い、クロゼの首にその爪を立てた。ぶちぶちと、音を立てて皮が千切れた。そして次に筋肉が、神経が、骨が、順番に引き裂かれ、断たれ、砕かれた。そして、音がしなくなったその時、真っ赤な液体が、地面を紅く染め上げた。

 

 どちゃ、と倒れる肉塊。クロゼという人間だったモノ。その首から上は、千切れてなくなっていた。

 

「―――幾ら拳の威力を上げようと、その拳を繰り出す腕の筋力は貧弱な人間のモノだ。故に、余に当たる訳が無い。貴様の敗因は、負けると分かっていながら余に戦いを挑んだことと、種の力の差を理解していなかったことだ」

 

 王が負けた人間の敗因を、人知れず言葉として漏らす。その手にはクロゼの生首が掴まれていた。

 

「残念だったな人間。面白い、というだけでは貴様はあの男にはなれない」

 

 王はそう言ってクロゼの頭にその歯を立てて、その血肉を喰らった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 クロゼside

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「はあああああああああ!!!」

 

 ぶっちゃけると、俺はオウカの様になれない事を、ちゃんと分かっていた。王に挑んだのは、ただの強がりだ。意味のない人真似。オウカが知ったら、多分馬鹿じゃないのと吐き捨てるだろうか。

 

 俺の拳が打ち払われた。やっぱりか。勝てないなぁ、この化け物め。これで俺の人生終了かよ。

 

 俺は自身の首に王の爪が食い込んでくるのを感じながら、思い出す。オウカとの思い出を、短かった人生を、最後に残したかった想いを。

 生まれて思い知った自分の弱さ。死に物狂いで手に入れた衝撃透しというたった一つの武器。オウカとの出会い。天空闘技場での念能力の習得。グリードアイランドでのカード集め。それからのオウカとの旅。楽しかった。悔いが無い、と言えば嘘になる。まだまだやりたい事はある。オウカと楽しい事を探して旅をして、もっともっとオウカみたいな強さに近づきたかった。

 

 でも、これで終わり。ああ、ちくしょう……悔しいなぁ……なんで逃げなかったんだろうなぁ……くそ、全部オウカのせいだ。全く、お前に会ってから俺の人生狂いっぱなしだ。

 

 ちくしょう、楽しかったなぁ、面白かったなぁ、もっと、生きていてぇなぁ……

 

 視界に移る、突き立てた布に巻かれた棒状のモノ。俺がオーラの全てをつぎ込んで具現化したもの。アレは、俺の死によって、完成する。オウカの奴にあれが渡れば、もっともっと強くなるだろう。アイツの強さの一部になれるというのなら、それも悪くない。

 

 気が付けば、俺の視界はぶれて、紅い色に染め上げられた。少しづつ紅い色が黒くなっていく。自分の意識が薄れていく。これが死か……全く、全然面白くねぇな。だがそれでも、こういうのも、悪くない。

 

 

 


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