◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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それぞれの×想い

 私の子、それはもう私の下にはいないけれど、無事に生まれてくれた。良かった。でも、まだ不完全な状態だったかもしれない、早かったかもしれない。それが、この先あの子の障害になるのではないかと思うと、私は不安になる。

 護衛軍の三人、ネフェルピトー、シャウアプフ、モントゥトゥユピー、しっかり、あの子の事を支えてあげて下さい。あの子が全ての種の王になるその日まで、そして王となったその後も、あの子の進む道が明るく、勇ましいものになる様に、常に傍にいて、支えてあげて下さい。

 私はもう生きられない。あの子のことを見守っては上げられない。邪魔者は潔くこの世を去りましょう、だって、私はあの子を産む事が出来ただけで、十分幸せなのですから。

 

 

 ああ、私の子。貴方の名前は『メルエム』

 

 

 ああ、なんて幸せなのだろう。さぁ、そろそろ眠くなってきた。最後に願うのならば、この名前をあの子に伝えて欲しい。誰でもいい、この想いだけでいいから、伝えて欲しい。

 

「―――ああ、任せろ。おやすみなさい、蟻の母よ」

 

 声が聞こえた。少なくとも私の子の気配ではない。多分、ネフェルピトーを産んだ日に此処へやってきた人間の声だ。そして、あの子達は気が付いていないだろうけれど、護衛軍……特にネフェルピトーの友人となった人間。でも、もう貴方でも良い。どうか……どうかよろしくお願いしますよ………キメラアントの友人。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 蟻の女王。初めて対面したが、死ぬ寸前だった。珱嗄は王と護衛軍がこの拠点から去っていくのを見送った後に、此処へやって来たのだ。随分と蟻を大きくした様な、キメラアントという名前に相応しい、アリみたいな蟻だった。腹部の破損、おそらくは王が出て来た場所。そこには、まだ生命の波動が感じられた。おそらくは王と同じ様にして命を与えられた蟻の子がいるのだろう。つまりは、王の双子の弟というわけだが、珱嗄はそれを取り出さない。此処へやってくるキメラアントや、近づいて来ているハンター協会の人間達が、きっと見つけるだろう。

 踵を返して、蟻の母に背を向ける。久方ぶりに、母の想いに触れた。この世界に来てから、親なんてものは無かったから、仕方ないと言えばそうなのだが、それでも命を賭して子を愛するというのは、どこの世界、どこの種でも同じらしい。

 

「メルエム、ね。なめこの癖に随分と良い名前を貰ったもんだ」

 

 陽桜を肩に担いで、歩きだす。向かうは王の居場所。王が強くなる前に、王とケリを付けよう。此処で倒せないようならば、此処から先、王を打倒出来るものはいないだろう。それほど強い相手なのだから。

 

「さて、ちょっとだけ真面目に行こうか。まずはクロゼと合流かな」

 

 珱嗄はそう呟いた後、拠点を後にするのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 クロゼは、王の誕生を察知していた。珱嗄と感覚を共有していたから元々王の誕生は分かっていたのだが、それ以外にも自分の肌を突き刺す様な邪悪なオーラを感知していたのだ。そして理解する。こいつには勝てないと。珱嗄と同等、またはそれ以上の実力を感じた。普通なら逃げるんだろう。この相手と戦うのを避ける為に、どうあろうと逃げ去るのだろう。

 

「……けど、そう出来ないんだよなぁ……全く、困ったもんだ」

 

 珱嗄と出会ったから、出会ってしまったから、関わってしまったから、一緒に居続けてしまったから、話してしまったから、何より珱嗄の生き方に、触れてしまったから。

 

「娯楽主義、なんともまぁ……俺も染められちまったもんだ」

 

 珱嗄の生き方を、羨ましいと思ってしまう程には、クロゼは珱嗄を尊敬していた。羨望の眼差しを向けてしまう程には、クロゼは珱嗄を眩しく見ていた。

 余りにも自分に正直で、余りにも自分中心的で、余りにも自由な、その生き方が、羨ましい。どこまでも楽しそうなその表情が、羨ましかったのだ。

 

「じゃ、行きますか。王様の所に」

 

 クロゼは自分自身に呆れた様な表情を浮かべて、嘲笑しながらこう言った。

 

「さぁ、楽しみに行こうか」

 

 娯楽主義、それは珱嗄だけの生き方だ。だがそれでも、それに惹かれた者は、少しでもその生き方に近づきたいと考える。クロゼの様に。自分に正直に、楽しく生きる為に行動する。だから、珱嗄ならこうするだろう、という考えの下に動くクロゼは、娯楽主義者というには落第だ。

 だが、ここで自分の命を投げ出せる程に珱嗄の生き方をなぞれるクロゼは、限りなく娯楽主義者に近い者なのだろう。

 

「それに、『これ』も届けないとな」

 

 クロゼの手には、袋に巻かれた細長い何かが握られていた。

 

 


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