◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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全力×全開

 さて、目覚ましの馬鹿でかい音と共に紳士が現れた。彼はこれから開始される一次試験の監督役の様で、一次試験の内容をすらすらと良く通る声で説明し始めた。内容は以下の通り。

 

・第二次試験会場までこれから移動する。

 

・移動経路や時間は一切明かさないので、監督である自分にひたすら着いて来い。

 

・付いて来れなくなった者から失格とし、失格となった者はお引き取り頂く。

 

 簡単に言えばこれだけ。つまりは自分に付いて来れた奴から一次試験合格にしてやるからつべこべ言わずに走れやコラァ!!って意味らしい。紳士の格好をしているくせに案外鬼畜じゃないか。とは良いつつも、試験は既に始まってしまっている訳で…キルアと並走しつつ考えてた訳だ。

 正直言えば、俺の肉体の体力はかなりの物で、10歳の時点で3日間全力で走り続けることが出来た。まして18歳の俺がどこまでの体力を保有しているのかは知らないが、おおよそそれ以上はあるだろうと見ている。とは言っても限界はある訳で、3日間走った後はだんだん疲れて来て最終的には地面に倒れ込んだのだ。それを考えると、体力自体は鍛えれば上がって行くが、限界はあるという事。

 

「はっ……はっ……はっ……」

 

 キルアがスケボで滑っているのが少し羨ましい。とても楽そうだ。まぁ、俺の体力もまだまだ余裕がある訳で、1時間走った現在でも息切れは一切起こしていない。無論汗もかいていない。

 

「オウカ」

「ん?どうしたキルア」

「あそこ見てみて」

 

 キルアの指差した先、そこには俺達よりも少し前を走る主人公の姿。なるほど、いい機会だからここで話し掛けておこうという訳か。

 

「ああ、いいよ。行ってこい」

「?……オウカはいかねぇの?」

「俺は良いよ。用がある訳じゃないし」

 

 ゴン君に関わるのは今じゃなくても良いし、最悪関わらなくても良いだろう。この世界の異能力については別の方法で手に入れればいいんだしね。ま、関わる時になったら関わるさ。

 

「……分かった。じゃあちょっと行ってくる!」

「おー……行ってらっしゃい」

 

 キルアは俺の隣からゴンの下へと参加者の間を潜り抜けながら移動していった。さて……

 

「1人になったな……」

 

 走りながらそう呟く。すると、後ろの方から声が聞こえてきた。ちなみに俺がいるのは最前列という訳じゃない。むしろ後方で走っているのだ。さらに言えば最後尾一歩手前の位置。なんでそこ走ってんのかって?そりゃああれだよ…前世の習性が残ってるんだろう。最初で飛ばしてると後々苦しくなる〜とかいう感じ。

 

「おい!新人、お前はもう駄目だよ!」

「さっさと落ちちまえよ。才能も無いんだからよ!」

 

 聞こえて来たのはそんな声。後ろを振り向いてバック走に切り替える。すると最後尾からさらに後ろ、そこではトンパと同じ様な体系をした坊ちゃん系の男が汗だくになりながら走っていた。その顔は、絶望と挫折の表情。そこに追い打ちを仕掛ける様なあの言葉だ。心が折れてしまうだろう。

 

「……」

 

 俺はそこで立ち止まる。少しだけ、思う所があったのだ。諦めはただの逃げだ。最後の最後まで挑戦して、そこで砕けて初めて終わりなのだから。皆びっくりしたような顔で走り去って行った。俺はそんなのを気にせず、挫折した男の目の前に歩み寄り言葉を掛けた。

 

「お前、その感情は挫折か?それとも悲痛か?後悔か?」

「……全部だ……!!」

「ならそんなつまらないモノ捨てちまえ」 するとバッと彼は顔を上げた。

「お前の才能は小さい。何処にも見当たらない位に小さい。だがそれに甘んじて高をくくっていたのはお前だ。努力に勝る才能は無い」

「……っ」

 

 彼は涙を流す。才能に溺れた奴ほど、挫折した時の感情の起伏が激しい。それこそ自殺する奴だっている位だ。それを思ったら、俺は馬鹿じゃねぇの?って言ってやりたくなる。

 

「じゃあな」

 

 俺はそう言った後、見えなくなった参加者を追う為に踵を返す。

 

「さて……全力を出すのは久々かな」

 

 クラウチングスタートの体勢で舌舐めずりをする。脚力は俺が一番鍛えた最大の武器だ。それに準じて腕力が並ぶ。

 

「せぇ〜……のっ!!!!」

「うわっ!?」

 

 ドン!!という擬音と共に俺の姿がひゅん!と消える。蹴った地面は重い何かが空高くから落ちて来たかのように罅割れ、深く沈んでいた。

 

 

 

 

 

 キルアside

 

 

「オウカ……どこに…?」

 

 俺は今、ゴンと最前列を走りながらオウカを探していた。さっきまではすぐ見える場所にいたのに、オウカの姿が今は見えない。何処に行ったんだ?

 

「まさか…脱落…?」

 

 いや、ありえない。オウカの走る様子を見れば体力はまだまだ有り余っている様に見えたし、足運びや普段の体捌きを見ていればかなりの実力があるのは窺えた。だからこんなに早くに脱落することは無い筈だ。

 

「だったら何処に…」

「どうしたの?キルア?」

 

 ゴンが俺に話し掛けて来た。ゴンは先程話し掛けたら、かなり友好的で、好意を持てる奴だった。今はゴンの友達らしいクラピカやレオリオって奴が後ろの方にいるという事だけ教えてもらっている。実際、さっきゴンが後ろに大声で話し掛けた時、反応があったし、そいつらはまだ脱落して無いんだろう。

 

「いや…俺と一緒に来た連れが見当たらなくて…」

「え?どんな人?」

「着物を着てるからすぐに分かると思うんだけど…」

 

 オウカの特徴は、その着物だ。今回の参加者に着物を着てるのはオウカ位の物だ。他には着物なのかは分からないが、髪の毛を丸刈りにした様な奴がいたな。でも、それくらいだ。

 

「いないね…」

 

 ゴンの嗅覚は異常なほど鋭いらしい。だから視力も鋭いのかと思ったが、その通りだったようだ。でも、オウカは見当たらないらしい。

 

「オウカ…」

 

 ここまで一緒に来たのだから、一緒に合格したい気持ちはある。脱落してしまったのだろうか?

 

「あれ?なんか変な音が…」

「え?」

 

 ゴンがそう言った。変な音? 耳を澄まして聴いて見る。すると、後ろの方から…ォォオオオオ!と音が聞こえてきた。声では無い。音だ。そう、例えるなら空気を何かが引き裂いて進んでいる様な…そんな音。

 

「な、なんだ!?」

 

 すると、その音はすぐ近くに迫り、俺達参加者の頭上を風を巻き起こしながら通り過ぎた。

 

「おおおっとぉ!!?」

 

 目の前で止まる、音。最前列のさらに前に出て止まったそれは、蒼黒い着物に黒い袴、少しクセのある黒い髪がゆらりと揺れた。そいつはくるりと振り返り、走る俺達に合流した。そしてまた振り返り、何事も無かったかのように走り始めた。

 

「ふぅ〜…あ、ただいまキルア」

 

 そいつは、先程まで探していた男。オウカだった。

 

 

 

 

 珱嗄side

 

 

「やっと追いついたぜ」

「いやいや、なんだ今の!?」

「俺の全力全開」

「知らねぇよ!!」

 

 キルアのツッコミが何時になく激しい。まぁ、音速の約5倍位の速度で走り去ったのだ、びっくりするっちゃするか。

 

「まぁ、いいじゃないか。ちょっと野暮用で一旦戻ったんだよ」

「戻ったの!?」

「うん」

 

 キルアはまたびっくりしたような顔をして、その後もう見慣れたあきれ顔を浮かべる。そして

 

「もういいよ…オウカは規格外だな、ほんと」

 

 と言った。

 

「そりゃどうも」

 

 俺は軽く、そう返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「う〜ん…いいね、良い素材だ……100点♡」

 

 だが、そんな珱嗄達とは別に、何処かで道化師がそう呟いた―――…

 

 


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