◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
「ぶっ殺してやる、人間!」
「元気良いな、将来有望な顔して」
プフが生まれてから、数週間が経ち、6月上旬。珱嗄と対峙して殺気を放っているのは、珱嗄よりも強大な体格を持ったキメラアント。そのオーラ量はピトーやプフを上回り、珱嗄に追随するモノがあった。そして、ピトー達に負けず劣らずの禍々しさは、暗に彼の実力が高い事を示していた。
抜き身の刀、『陽桜』を肩に担ぐ珱嗄と、両手を開いて野生の獣の様に構えるキメラアント。互いにオーラをその身の内から
それを眺めるピトーとプフもまた、その圧倒的な殺意に顔を歪めている。介入出来るかと言われれば、出来るだろうが、それでもこの二人の間に入るのは憚られた。
一触即発、どう考えても、止められない戦いが此処にあった。
「オオオオオオオオァアアアアアア!!」
「来いよ、赤ん坊。お兄ちゃんが少しあやしてやろう」
こうなったのは、少し時間を遡らなくてはならない。
◇ ◇ ◇
いつもの様に、珱嗄とプフとピトーが取り敢えず仲良くやっていたのだが、この日、遂に三人目が生まれた。女王直属護衛軍の三人目、その名もモントゥトゥユピー、見た目で言えば、人間+蟻+魔獣といった造りらしい。
だが、珱嗄からすれば、人間+蟻+後退型ハゲだった。ぶっちゃけそれはもう人間(ハゲ)+蟻だと思われる。だが、確かに見てみればかなりおでこが広かった。ついでに言えば鼻も低い。下半身は獣の様に毛に覆われているので、魔獣要素はあるのだが、やはりというか、珱嗄はそんなモノ気にしなかった。
そして、ピトーとプフの二人が予期していた会話が繰り広げられる。
「俺の名前はモントゥトゥユピーだ……人間野郎」
「よろしくハゲ」
「オイコラ名前は無視か?」
「猫、うるさい」
「ピトー、だっ、つっ、てんっ、じゃん!!!」
「すっかりキレの良い動きになりましたね………ピトー」
最早珱嗄は名前を言おうともせず貶した。ユピーはそんな珱嗄に普通に突っ込んだ。そしてピトーはキレキレの動きで5回転ターンを決めながら名前を修正する。プフはもうピトーに圧されて冷静になった。
「俺の名前はモントゥツ゛ッ……ユピーだ」
「噛んだな」
「うるせぇ、言いにくいんだよ文句あるかコラ」
「生憎と俺はお前に文句言うだけの興味はないんだよハゲ」
「よーし分かった表に出やがれクソ野郎」
「誰がお前の言う事を聞くか。一生にお前に反抗して生きてやるざまーみろ」
「オォォォイ!! プフ! ピトォォ! なんだコイツはめんどくせぇぞ!!!」
ピトーは珱嗄の言動に匙を投げた。ピトーとプフは、最早名前の原型がない呼び方に同情の視線を送った。目を逸らしてユピーを更に傷付ける。二人が味方しないという現実に、ユピーは若干のショックを受けたが、それならばと珱嗄に向かい合う。
「決めた、ぶち殺す!」
「なんだコイツめんどくせぇな」
「「お前が言うな」」
ということで、最初に戻る。マジバトルというよりは、ギャグバトルの展開である。
◇ ◇ ◇
「よし、掛かって来いよ。俺に勝てたら正式名称で呼んでやろう」
「ブッコロォォォォス!!」
ユピーが地面を蹴った。その速度は、珱嗄との距離を一気に詰める程。その長く鞭の様にしなる腕を高速で振り、珱嗄の顔を狙う。
だが、珱嗄はその腕の軌道に『陽桜』を置いた。ユピーの腕が陽桜を通り抜け、珱嗄を傷付けずに通り抜ける。そして、その腕を引いた瞬間、ユピーの腕は途中から先が消えていた。ユピーはその事に歯を食いしばって吃驚するも、攻撃の手を止めない。次の手と、もう片方の腕を突き出す。だが、珱嗄はその腕をくるりと躱してその勢いのままユピーの懐に入った。
「っ!」
「シッ!」
「グバッ!?」
珱嗄は陽桜の柄でユピーの鳩尾を打った。しかも、御丁寧に衝撃透しを使っている。少しの衝撃でも、一点集中で弱点を打たれれば、それなりにダメージを貰う。ユピーは痛みに耐えながら珱嗄から距離を取る。
「次は俺の番だ」
「!」
「喰らえ!」
珱嗄がそう言って取り出したのは――――
「ギャアアアアアアア!!!?」
蟲笛であった。ユピーは隣から聞こえて来たプフの叫び声に拍子抜けした様な顔で視線を向けた。そこでは、プフが無様に転がっている。なんだあれはと意味が分からなくなるが、どうやら珱嗄の回している蟲笛がプフを虐めているらしいという事は分かった。そして珱嗄はユピーにも蟲笛が効かないことが分かって頷いた。
「まだやる?」
「……もういいや」
「だよねー」
プフの姿に珱嗄とユピーは脱力し、戦意を失っていた。興が削がれたのだ。ユピーはその場に座り込み、仏頂面になる。珱嗄は蟲笛を仕舞って、プフは立ち上がり、ピトーは空気だった。
「ていうか王様はまだ?」
「生まれてもオウカにだけは会わせちゃいけないのは皆が理解してるよ?」
「ですね」
「アア」
「何それ、イジメ?」
珱嗄と女王直属護衛軍は、いつもの様に話しだす。この関係が進むに連れて、近い未来、戦いが起こった時に、その胸の内にとある感情が生まれることを知らずに。