◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄とピトーの目の前に現れた、二人目の女王直属護衛軍、シャウアプフ。彼は生まれながらにして念能力を知っているかのように使えているようだ。見た限り、きちんと纏が為されているようだし。
彼の容姿を説明するのなら、美男子というべきだろう。細身で長身の金髪美男子が、あたかも貴族見たいな服装を着て、その頭と背中からそれぞれ蝶を思わせる触角と大きな羽を生やしている。ピトーを人と蟻と猫を混ぜたキメラアントと表現するのなら、彼は人と蟻と蝶を混ぜたキメラアントと言えるだろう。
そんな彼は、ピトーをしっかり自分と同様の護衛軍と認識していた。だが、何故人間である珱嗄が此処にいるのか、さっぱり分からない様子だ。また、念能力を念能力と認識も出来ていない様子でもある。つまり、念能力に関して言うのなら、生まれつき波紋の呼吸が出来たジョセフ的な感じなのだろう。
「それで、貴方は一体何なのでしょうか? 人間風情が何故我々の拠点に?」
「猫の次は蝶、か……ん? 蝶と、猫?」
珱嗄はシャウアプフの容姿を見て、ピトーが猫、彼が蝶という現実を考える。そして、取り出したのは先程も鳴らした蟲笛。シャウアプフは紐でぶら下げられた筒らしきものを見て、怪訝な表情を浮かべる。それはピトーも同じだ。というか、ピトーですらソレが何か分かっていないのだ。
珱嗄はピトーにやった様にひゅんひゅんと蟲笛を振り回した。ピトーはその音の耳障りさに少し顔をしかめる。先程もやった通り、ピトーには蟲笛がそう効かない様だ。
だが、
「ぐあああああああ!!? ぐふっ、ぎゅふ!? ぎゃああああ!!」
目の前で雄叫びを上げるシャウアプフは違った。叫び声を上げながら、口から飛び出る唾を抑えようともせず、無様に地面を転がるばかりだ。だがどうしてピトーには効かなかった蟲笛の音が、同じ女王直属護衛軍のシャウアプフには絶大な効果を及ぼすのだろうか?
「ふ、やはりな……ネコソン君」
「ピトーだって言ってんだろ」
珱嗄はありもしない髭を撫でる仕草をし、ありもしない煙管を吹かしながら、妙にキリッとした態度で話し始めた。どこの探偵だ。
「君にこの蟲笛が効かなかったのは、君の容姿に虫の要素が少なかったからだ。対して、彼は蝶という虫同然の要素がかなり多い。つまり、蟲笛の効果は虫の要素が多いほど上がるという事だ!」
「何それ……」
「だが、目の前の無様なこの姿こそ、その証拠であろう」
「否定できないのが何とも言えないなぁ……」
そう、つまり、蟲笛が効く効かないは実力の高さでは決まらない。どれだけ虫の要素を身体に持っているかいないかで決まるのだ。つまり、どれだけ実力を持っていようがシャウアプフはあくまで蝶と蟻という要素がかなり虫らしいのだ。故に、蟲笛が効果を発揮した訳だ。
「で、この転がってるイケメンは何て名前?」
「知らない。多分女王に直接名前を貰ってる筈だよ」
「く………はぁ……はぁ……忌々しい音でした………」
「なぁイケメン、お前の名前は?」
「………私の名はシャウアプフです」
「シャウア……シャッ……………シャランラ」
「どこの擬音ですかそれは」
「字面は似てんだろうが!」
「発音は違うんですがぁ!?」
ピトーは少し既視感を感じた。あ、これ見たことあるー、と遠い眼をする。というか、現在進行形で自分が衝突している壁の一つである。なんというか、シャウアプフとは仲良くなれそうだと思った。
「呼びにくいならプフで良いですよ……」
「ぷふっ……」
「おいなんで今笑った」
「名前を呼んだだけだ」
「嘘吐かないでください、今貴方は絶対笑いました」
「何言ってんだコイツ」
「清々しいまでにシラを切る貴方には怒りを通り越して殺意すら覚えますよ……」
ピトーはまた、これ見たことあるー、と遠い目をした。というか瞳が死んでいる。もしかして直属護衛軍は全員こんなやり取りをする破目になるのではないだろうかとさえ思えて来た。
そして、プフはプフで絶対ちゃんとした名前を呼ばせてやろうと心に決めた。知らぬうちにピトーと同じ考えに至った。
「……それで、貴方の様な人間が何故此処にいるのですか?」
「実はこのネコーと友達になってね、しばらく此処に厄介になってんだよ」
「ネコー? ああ、貴方の名前はネコーというのですか。同じ護衛軍として、よろしくお願いします」
「ボクの名前はネフェルピトーだ、二度とその名で呼ぶな。でないとボクは君の事をシャランラと呼ぶことになる」
「すいませんでしたネフェルピトー」
ピトーの反応にプフは彼女と珱嗄の間に何があったのかを即座に察した。そして一瞬で直角に頭を下げた。今のは自分に非があることが分かったのだ。
そして、頭を下げた彼を見て、ピトーとプフは会ってまもない内に心が通じ合った気がした。
「ピトーで良いよ。こっちもプフって呼ぶし……君もだよ分かってる?」
「ネコー! ネコーネコー…ネコー……」
「殺すよ割と本気で!」
「無駄にエコーが掛かっている所がそこはかとなく苛立ちを誘いますね……!」
珱嗄は何処まで言っても珱嗄だった。護衛軍二人を目の前にしても、全く物怖じした様子が無い。どうやらこの二人を相手にしても、余裕ということなのだろう。不知火の連撃を完成させた珱嗄からすれば、どうとでも出来るのだ。
「まぁなにはともあれだ、そういうわけで俺とネコーは友達なのだ。どうする? シャランラも入る?」
「シャウアプフです。入りませんよ別に」
「………」
「な、なんですかピトー……その眼は……」
プフの腕をギリギリと力強く掴んで放さないピトーが、血涙すら流す勢いでプフを睨んでいた。そして、喉の奥から絞り出す様な、怨念とも言える響きの声で、さながらホラー映画の様に、こう言った。
―――ボクを一人にするな………!!
その言葉を聞いて、蝶の蟻にして女王直属護衛軍の一人、シャウアプフは、肩を落としながら珱嗄の友達となる道を選んだのだった。