◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
ピトーとカイトの戦いは、珱嗄の時とは違ってマジバトルだった。圧倒的な実力を持つピトーに対して、カイトがやった事と言えば、ピトーの顔に若干の掠り傷を付けた事くらいだ。本当の本当に、何も出来なかった。何も出来ない内に、カイトは死んだ。首を落とされて、死んだ。呆気ないくらいあっさりと、死んでしまった。
本来なら、ネフェルピトーという怪物は本当に関わってはいけない程の凶悪な実力を持った蟻だ。出会って、戦えば、大抵が死ぬ。その爪の一閃で四肢は切り取られ、その牙の牙突で内臓が食い破られる。並大抵の、いや……高位の実力者であっても、彼女の前に立てば良くて重傷、最悪戦うことすら出来ないだろう。
だが、このネフェルピトーであっても、まだ女王直属の護衛軍。そう、トップではないのだ。女王の産むであろう蟻の王こそが、このキメラアントという種の頂点。実力的にも、カリスマ的にも、凶悪さ的にも、トップに立つ王様。おそらく、珱嗄とだって互角かそれ以上に戦えるだろう。
これが今世界を恐怖に陥れようとしているキメラアントだ。カイトはその最初の犠牲者とも言えるだろう。
「うーん、楽しかった」
カイトの生首、それを抱き抱えながら座るピトーは、そう言った。爪は血に汚れており、猫の様ににんまりと口元を歪めている。本当に本当に、楽しそうだ。
「さて……帰ろう。オウカの奴一回噛みついてやらないといけないしね」
生首と、バラバラの肉体を抱えて、拠点へ戻るピトー。さて、まずは何故珱嗄と共に拠点へ戻った筈のピトーが此処にやってきたのかを話すとしよう。
◇ ◇ ◇
まず、珱嗄とピトーは普通に飄々とした様子で塔へとやってきた。他のキメラアントは随分と眼を丸くしていた。何故なら、自分たちよりも上だと分かるキメラアントであるネフェルピトーを、更に圧倒的な圧力で上回る人間が引き摺ってやってきたのだから。
そして、やってきた珱嗄の手を振り払ったピトーは、少しばかり食い掛かった。
「放して! 全く、少し扱いが雑なんじゃないかな?」
「ははは、猫がほざきおる」
「ピトーって言ってるよね? 聞こえてるよね? その耳は飾りなのかな?」
「何言ってんのお前?」
「にゃああああああ!!」
珱嗄が飄々と受け流すので、地団駄を踏むピトーの姿は、他のキメラアントからすれば恐ろしいものだった。ちょっとしたことでその苛立ちが自分に向いてしまうのが怖かったからだ。
そして、珱嗄はそんなピトーを放ってとりあえず周囲を見渡す。見え隠れする数十のキメラアント達、彼らが怖がっているのを察した。その原因が、自分たちである事も。
「………ああ、そういうことか」
「にゃ?」
「おいネコー、周囲を見渡してみろ。皆お前を怖がってるじゃないか。浮いてんぞお前」
「いやいやいやいや、明らかにちげーだろ。あとピトーだよ」
ピトーの言葉に、周囲の全員が内心で頷いた。いや、間違ってはいないのだが、一部間違っているのだ。
『(お前もだよ!!)』
さてさて、そんな彼らの心境に気付かない珱嗄は、ピトーが全ての原因だと決めつけて、ピトーを抱え上げた。訳も分からない内に、ピトーは、
空中にいた
「―――――え?」
具体的に言うと、塔から投げ飛ばされていた。超高速で飛んで行く自分に気付いた時、驚愕する前に迫る地面に着地するべく体勢を立て直す。そして、ズガン! と隕石を思わせる様な音を立てて地面に着地する。その際、何かもぎ取った様な感覚があったが、まぁ気にしない。
で、珱嗄はというと、ピトーを投げ飛ばした先にカイト達がいるのに気付いて、やっちったと舌を出した。
「さて、と。ほらお前ら、これで怖くない」
『(なわけねーだろ!!!)』
「臆病だな……ほらおいで、怖くない」
珱嗄はとりあえず『風の谷の○ウシカ』の様に、指を差し出して優しい声でそう言った。だが、その指に噛み付いてくる者がいる筈が無い。ナウシカ作戦失敗。あ、言っちゃった。
「んじゃ……取り敢えずかいさーん」
珱嗄は不満気な顔をした後、どこから取り出したのか、蟲笛をひゅんひゅんと振り回しながらそう言った。すると、キメラアント達は、頭を抱えて
「「「「うわあああああ!!」」」」
と叫びながら散り散りに去って行った。その様子に、珱嗄は驚愕する。手元にある蟲笛と散って行った蟻達の方向を交互に見て、戦慄した様に小さくこう言った。
「蟲笛………! 最強か……!?」
案外、蟲笛はキメラアントの天敵なのかもしれない。