◇1 HUNTER×HUNTERにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
ピトーが結局泣く泣く珱嗄に引き摺られながら、塔に戻って行く頃。兎のキメラアントとゴン達の戦闘も、終わりを迎えていた。
結局、念による実力差は埋められず、兎のキメラアントは仲間に助けられる形で撤退していった。そして、ゴンとキルア、カイトの三人は、実力を認めあった上で、先に進んでいく。三人は先程珱嗄が進んで行った方向に、とても嫌なオーラを持つ生物が高速で降り立った事に気が付いていた。一瞬だけ膨れ上がった二つの大きなオーラの奔流は、兎の蟻を含めて全員が一瞬硬直してしまうほどだった。
勝負が終わった後、カイトはゴン達を連れて進むべきか迷った。本来ならば、実力的にはまだまだ未熟なゴンとキルアを連れて、あんな怪物のいる先へ進むべきでは無かった。なのだが、ゴンとキルアの後押しで結局進む破目になった。理由を聞いた所、『オウカが先にいるから』だそうだ。二人とも珱嗄が味方であると思っているので、多少進んだ所で危険はそうそうないと考えているのだ。
「だが、ゴン。奴は一体何者だ? この俺も奴の様な存在は知らないぞ」
「うん、あの人はオウカっていって、すっごく強いんだ!」
「多分カイトよりも強いんじゃないかな?」
「ふむ……確かにあの威圧感、只者では無かったな……」
「まぁオウカなら早々負けやしないって!」
「そう言うのなら良いが……」
キルアの珱嗄推しが強い。珱嗄との付き合いでいえば、誰よりも早く出会っている彼だから、そう思うのは仕方ないのだが。
「だが、それでも奴に追随するような化け物が向こう側にいるのも事実。気を引き締めろ」
「分かってる」
「おう」
三人はかくして進む。一応バレない様に絶を行なっているが、視認は出来るのだから木々に隠れつつの移動だ。
「それにしても、オウカはなんで此処に来たんだろ? アイツはまだキメラアントの事を知らない筈だろ?」
「おそらく、勘付いた、というのが正しいだろうな。まだ表面しか知らないが、奴の実力であればキメラアントの存在になんとなく気付く事もあり得るだろう。あの円の広さからして、感知能力や危険察知は得意だろうからな」
「そんなことできるの?」
「野生の勘、と言えば分かりにくいが、風の噂や虫の知らせといった不確かな物を感じ取ることに長けた実力者というのは、中々少なくないものだ」
「じゃあカイトも?」
「俺は……どうだろうな。感じた事はまだない。まだまだ未熟ということだろう」
カイトの言葉に、ゴン達は少しだけ驚く。カイトの実力がどのような物であれ、自分達より遥かに上にいる事は分かるのだ。そんなカイトでも、まだ未熟。それは珱嗄がどれほど高みに登っているのかを示唆していた。珱嗄という男が、どれ程の人間なのかを理解して、息を呑んだ。
しばらく進んで、塔が段々と近づいて来た頃。ゴン達は珱嗄とピトーが衝突した場所に辿り着いた。見れば、衝突した場所を中心に木の葉が円状に吹き飛んでおり、地面にも微妙な歪みがあった。相当強い力でぶつかったことが分かる。
「どうやら此処で戦闘があった様だな……しかし、血痕や更なる争いの痕跡がないことから、衝突から戦闘には発展しなかった様だな……オウカが衝突で気絶させられて連れ去られたか……はたまた珱嗄が相手を倒して連れて行ったか……か?」
「やばい……なぁゴン、俺珱嗄が相手をのして連れて行ったようにしか思えない」
「あ、あはは……俺もだよ」
「とりあえず、もう此処には情報はないようだ……先に進も――――二人とも下がれ!!」
「「!?」」
カイトが叫ぶと同時、二人は大きく後ろに飛び跳ねた。そして、二人が後方、地面へとその足を届かせ、着地した瞬間。その時だった、瞬きの間に黒いしなやかな影がカイトの横を通り抜け、ゴン達との間に四本足で着地した。
その口には、ある物が咥えられていた。
カイトの――――――腕だ
その影はすっと立ち上がると、咥えた腕を放して自分の手で掴んだ。
三人はその姿に視線を送る。その者は、白い髪に、猫耳を生やしており、お尻には尻尾、猫の様な吊り目と口元に見える八重歯が何処となく純粋な恐怖を抱かせた。
「う、うわ、あああああああ!!!」
「っ!!」
「逃げろ!二人とも!」
特攻しようとしたゴンをキルアが攻撃し、気絶させた。そして、そのまま担いで逃げていく。カイトは二人にとにかく逃げろと指示して足止めに徹する事を即座に判断する。
「……っ」
「――――にゃん」
「くそ……オウカという奴は殺されたのか……?」
「オウカ……帰ったら噛みついてやる……!」
その影、ネフェルピトーは少し不満気になりながら手に持ったカイトの片腕を地面に落とした。そして、去ろうとする。カイトには眼もくれない。
「ま、待て!」
「にゃん?」
「お前は……此処で殺す!」
「――――ああ、そう。オウカがアレだったから忘れてたよ……ボクは女王を守る為に生まれて来たんだった」
「………ッ!」
「ボクの名前はネフェルピトー、いいかい? ネフェルピトーだよ。呼びにくいようならピトーと呼んでも良い。間違っても猫だのネコーだの妙な名前で呼ばない様にね」
「……もし呼んだら?」
「勿論ころ――――(待てよ? オウカがこう言う時にはこう言った方が良いって言ってたような……?)」
ネフェルピトーが口籠ったので、少し怪訝な表情を浮かべるカイト。だが、ピトーは直ぐに口を開いた。
「もし呼んだら死にたくなる位に辱める」
「絶対呼ばない」
「おお! 本当だった……!」
ピトーは説得できたことで、少しだけ珱嗄を信用した。だが、名前の件はいつか絶対修正する。
「それじゃあ、ボクはボクのやることをしないとね」
「殺る気か……」
「うん、やっぱりこうでないとね……最初に会ったのがオウカだったのは、生まれて初めての不運だったよ」
ネフェルピトーは、そう言って殺意を振りまくのだった。